魔法薬
スカイは、階段を1階から早足で駆けあがり
4階へと一気に上る
そして今日から住む事になる、工房兼住居の前に立ち
木製のドアの鍵穴に、鍵を差し込み
ドアの取っ手を掴み
ゆっくりと、ドアを開けた
スカイは今日から、工房兼自宅となった
部屋全体を見渡す
中央には、大きな作業台があり
その上には、木の矢が束になって鎮座している
(本当に、もう置いてあるんだな
なんか催促されてるみたいだな、組合に
まあ、早速作るとしよう
1セット作れば、文句は言われないだろうしな)
スカイは、作業台の上から
手元にあった一本の、木の矢を掴み
目を瞑り、自身の魔力に集中して存在を確かる
そして、体全体に意識を伸ばし
ゆっくりと魔力を、指先へと集中させ
少しずつ慎重に、注意をしながら
木の矢全体にゆっくりと
指でなぞる動きを、繰り返しながら魔力で覆い尽くす
氷属性を持つ、木の矢が完成する
僅かに、冷気が放出され
スカイの、手には氷の結晶が付着する
(う~ん少しずつ、魔力を放出するのは緊張するし
凄い疲れるし、力が抜ける感覚だな、
お~でも上手く、木の矢全体を包み込むように
コーティング出来たな、良い感じだ
1セットが、1ダースだから残り11本か
材料でもある、1ダースの木の矢は
1階の工房で、銅400枚で購入して
魔術師、魔道師組合の販売などの手数料が銅50枚
売り上げ利益は、販売額が銅900枚で
材料代と手数料を引くと銅50枚か~
まだ、見習いの様な立場なんだから
しょうがないさ、大した物はまだ作れないんだから)
スカイは、木の矢を手に取り作業を続けた
慎重に、12本目の木の矢を魔力で覆う
作業を終えて、木の矢1ダースを丁寧に纏め
作業台の上にある、特殊なルーンが施された
組合の紋章が、描かれた漆黒の箱を開け
丁寧に、1本ずつ木の矢を枠に収める
それが終わると、ドアを開け玄関前の
完成品専用の台の上へ
箱の中身が、揺れないように丁寧に置く
そして、もう一度振り返り確認をする
(これで良し、これからメインの作業をしよう)
スカイは、工房に戻り
備え付けの、棚から大きな鍋を取り出した
水を入れ、火にかけ沸騰させ
鍋に熱湯消毒を施し、大鍋を作業台の上の枠に固定させる
スカイは作業台の上にある、
漆黒な箱を開け、組合の敷地内から
湧き出る、硬度の高い水が入った瓶を3本取り出し
大鍋に、こぼれない様に注ぎこむ
スカイは、目を瞑り全身から魔力を
指先へと集中させ、鍋へ魔力を少しずつ慎重に注いだ
長時間一定の割り合いの、魔力を注ぎこみながら
スカイは、眠気に耐えながら作業を続ける
(え~と確か、白く濁り鍋の底が
見えなくなる程度に
あ~また魔力を注ぎこむのか
まあ俺は、これしか出来ないし
魔力制御の訓練にもなるしな
これで、回復薬が出来るんだ
金になるし、人助けにもなるし
地味な作業が続くが
こういう地道な作業も大事な事だ、そう考えよう
回復薬を服用する、誰かの為になるんだし)
スカイは全身の、神経を集中し体の節々から魔力を
纏め上げる
スカイは、水の色の変化を確認しようと
大鍋を覗き、鍋の底を見た
(薄いよな~まだ、少し濁っただけだし
時間かかるな~、これは今日中に終わらないな)
夜も更け、午前三時になっても工房の明かりは消えず
スカイは、作業を続けていた
そして漸く、鍋の底の色が白く濁り
見えない状態になる
スカイは、水分を飛ばす為に
指先から、青色の炎を出現させ
スカイが大鍋に、触れると直ぐに沸騰しだす
(うお~燃えろ火力は弱めで)
炎を辛抱ずよく、徐々に小さくし一定に保ち続け
煮続けた
そして水分が蒸発すると、大鍋には白い結晶が残る
スカイは、刷毛で鍋に残る白い結晶を
集め、小瓶に詰める
(お~塩にソックりだな、白さといい
砂のようにサラサラだ、
やべえやべえ立ちながら
寝れるとは、新たなスキルを身に付けてしまったぜ)
スカイは、完成した魔法薬が入った小瓶を
玄関前に置くと、疲れた体を引きずりながら
倒れ込むように、工房の奥にある
ベッドに、寝転んだ
朝の早い時間に、組合の職員が
スカイが、作成したアイテムを
スカイの工房前の台から、二つの完成品を、
木製の台車に丁寧に乗せて
回収して行く
1階に有る、事務所前に台車を止め
トーマス主任に声をかけた
「トーマス主任、昨日来られたスカイさんの作品です
確認お願いします」
トーマスは、声をかけられ
作業していた、手を止めスカイの作品を確認する
トーマス主任は、スカイ作製の木の矢を
漆黒の箱を慣れた様子で、さっと開け確認した
トーマスは、ほ~と声を出し
頷く
(これはこれは、良いな
これなら銅2000枚で売り出せる
木の矢全体を、包む冷気と氷の結晶
儀礼用としても、使用できそうだ)
トーマスは近くにいた、職員を呼び止め
使用法に儀式、祭儀にも使用できると書き込むことを、
指示した
そして、次に魔法薬が入った小瓶を手に取り
注意深く瓶の中身の、魔法薬を見分する
(この白さは、かなり濃縮されてるはず
火加減も、旨く出来てるみたいだ
ミドルクラスの魔法薬だな、この出来だと
銀100枚で売り出せる)
昼は過ぎ、日が陰りはじめた頃に、
漸くスカイは、工房のベッドで目を覚ました
口元を手で押さえ、壁にかけてある鏡の正面に立ち
身支度を整える
(あ~、なんか食べないと吐きそうだな
胃酸の出過ぎだな、2階の食堂に行って
お腹に何か入れないと、不味いな
それにしても、目の下に隈が出来てるな
顔色悪いかな?これは)
スカイは、階段を下り2階の食堂へ向かった
長いテーブルが幾つか並んでいるが、ランチの時間が過ぎており
組合の職員が、2~3人雑談しているだけだ
スカイは、食堂を見回しメニューが掲示してある
カウンターを見つけ、向かう
(広いな、何処行けばいいんだ?
あそこか)
スカイは、注文の為にカウンターへ近ずく
「あの~何か残ってますか」
食堂の職員が、奥から姿を現す
スカイの姿を、暫く興味深く眺める
「あ~スカイさんですよね、昨日来たんでしょ
頑張ってくださいよ
それにしても酷い顔してますよ、しっかり寝て下さいよ
倒れないでくださいよ、後味悪いし
あ~そうでしたね、失礼しました
どうぞ、こちらを食べてくださいよ、自信作なんですよ」
スカイの、目の前には蒸かしたイモが
載った大皿が置かれる
「どうぞ、お食べください
皮ごと食べて下さいね、栄養満点ですよ
イモ類の親戚一同纏めて、蒸かしましたからね
素材に、こだわってるんですよ
そうそう、みなさん研究に熱心なのは分かりますが
食堂に顔出してくださいよ、工房にも注文があればお持ちしますから」
「分かりました、善処しますよ、では失礼します」
スカイは、イモが大量に乗った
お皿を手に取り、テーブルに向かった
テーブル備え付きの、蜂蜜を皿に垂らす、
早速イモをナイフで切り分け
蜂蜜を絡めて、一口ゆっくりと味わいながら
口へ運ぶ
(イモですね、意外に旨いな~
腹へってるからかな
普通に甘いなこれ、蜂蜜いらないかもな
今度は、揚げてもらおう
薄くスライスして)
スカイが、食事をしていると
トーマス主任が、スカイの目の前に座る
(昨日、色々説明してくれた人だよな~この人は
何か失敗したか?俺)
「昨日は色々と、有難うございました」
スカイは、イモを細かく切り分けていた
ナイフを皿に置き
立ちあがり、頭を下げた
トーマスは、恐縮したように同じように頭を下げる
「いえ、こちらこそ有難うございます
お食事中、申し訳ありません
実は、今朝スカイ様の作品を確認しまして
丁寧で癖の無い出来上がりに、感服しまして
こうして此方に足を運んだ訳です
素晴らしい出来でしたので、販売価格の変更をしましたので
その報告に参りました
私どもが考える正当な値段を、設定させていただきました
木の矢が銅2000枚、魔法薬が銀100枚です」
(すげーな、嬉しいけど値段上げて売れるのかよ?)
「トーマスさん、その値段で売れるんですか」
「はい、私が自信を持ってつけた値段ですし
スカイ様の商品は、それだけの価値が御座いますよ
そう言えばスカイ様は、回復魔法などに興味が
あると聞いております
ですから、魔法薬を中心に作業を進めてみてはいかがでしょうか
組合としても、高額での販売が見込めますので」
「ま~そうですよね
そうします」
「しかし御自分のペースで、やっていただいて構いませんよ
昨日は、御無理をされた様子ですのでスカイ様
今朝の、魔法薬だけでも十分ですので
気分転換が必要でしたら、外での植物採集や大商人の護衛など有りますので
申しつけください」
「へ~色々有るんですね、機会があればお願いします
体調には、十分気を使うようにしますよ」
「お任せ下さい、では失礼いたしますスカイ様」
スカイは、食事を終えて工房へと
戻ると、早速魔法薬を製作する
作業台の箱の中から、瓶を3本取り出し
大鍋に注ぎ込むと、スカイは手を翳し
魔力を、注ぎこむ
暫くし、スカイは大鍋の様子を見る
僅かに、液体が濁る
(休憩、休憩
確か、地下に修練出来る施設が
在るって、トーマスさんが教えてくれたな
体を、動かしておくか)
スカイは、1階の事務所に行き
地下修練場の、使用申請書を書き込んだ
職員から、十分注意し使用するようにと
説明を受ける
スカイは、うす暗い階段を下り
地下1階にある、一番奥の部屋に向かった
そしてドアを、開け放つ
部屋に入ると、室内と思えないほどの広さの
空間が、四方に広がる
そして、目の前には球体が浮かんでおり
異質な存在を、醸し出している
(嫌だな~、モドキが出て来る訳か~
折角来たんだし、叩き潰してやるよ)
スカイは、雄たけびをあげ球体に手を触れた
スカイにそっくりなモドキが現れる
スカイは、魔力を左手に集めながら
モドキに、突進した
モドキが、魔力で長剣を瞬時に構成し
スカイに対し、上段から切りかかる
スカイは、体を右に捻りモドキの死角から
氷塊を、放つ
モドキは、長剣の軌道を変え
氷塊を裂きそのまま
スカイに追撃した
(ありえね~動きしやがるな~)
スカイは、咄嗟にモドキの足元へ滑り込み
右の足首を掴み、引き倒そうとするが
モドキの、手から火炎が飛び出す
スカイは、素早く横へ転がり火炎をやり過ごした
尚も、モドキの追撃は続き長剣を
横へ転がる、スカイに向け投げ飛ばす
スカイは、モドキが長剣を投げると同時に
床に手を付き、床を蹴り上げ
モドキの後ろへと回り込み
モドキの両脇を、両手で動きが取れないように抑え込み
そのまま両手から、破壊力だけに集中し
魔力を全力で放出する
モドキの体を、両手で挟み込むように押しつぶし
モドキの姿が、光を放ち消え去った
(グロイ倒し方だよな、マジで今のは
軽蔑されそうな、最後だったな
まあ今後の課題としておこう
反省点としては、思いつきで動くと
ロクな事にならないけど、相手がいると
焦って冷静には動けないし、まだまだ先は長い)
スカイの本音日記抜粋
俺がこの世界に来て、数日が過ぎ
記憶が薄れないうちに、俺はこれまでの事を日記に記す事にした
もちろん、俺だけが分る日本語で
そうじゃなきゃ本音が書け無いし
恥ずかしくて
最初の記憶は、良い匂いを鼻がキャッチして目が覚め
銀髪の美人さんが、俺の顔を覗き込んでいたのだ
俺の様子を伝えに直ぐ出て行ったけど
なんやかんやで、死にかけの俺を
魔法使いのミラさんと弟子のルナさんが
助けてくれたらしいが、
所でミラさんは髪が真っ白で
腰まで長く伸ばしている、スレンダー美人で
ルナさんは、銀髪で体の凸凹がなぜかローブを着ても
分かってしまった、良くローブを捲り上げているから
そして当時の俺は混乱し、もとの世界に戻れないと言われ
情けないが涙を、流したわけだが
その時に、ルナさんが様子を見に来たので
意地で涙を堪えて、部屋を元気に出たのだが
少し後悔してしまった、あのままなら
間違い無く、ルナさんが抱きしめて励ましてくれたのでは無いか
という考えが、頭に浮かぶ
しょうがないさ、煩悩は消えないのだから
そして、目を腫らした俺に気を使い
ミラさんが弟子にしてやると言って
弟子だからと、届けものを頼まれて
町の様子を見て、無意味にテンション上げたりして
魔法学院に荷物を届けると、何故かミカエルさに
魔法を教わり、俺才能あるんじゃんと思ったら
ミカエルさんの、長い足でボロボロに蹴られたり
落ち込んで、椅子蹴ったりして
八つ当たりした自分の行動に、自己嫌悪したり
ミカエルさんが、俺を励ます為に用意された
自分のコピーと戦って死にそうになったり
少し、強くなったと思ったら
大会に出たりして、騎士見習いがイケメンだから
本気でブチ倒したり
治療師のミリアムさんを倒す時
若干近ずいたときに、良い匂いがして手先が狂ったり
因みに、ミリアムさんは殆ど肌を見せていないわけだが
動作や、匂いで美人と判断できるし
後ろ姿からも、分ってしまう俺
人間本気になると、超能力で透視が出来るらしい
決勝の第一王女アイリスさんを、倒した時は
少し、見とれたわけだが
あんな、美人さんなんだから見とれても
良いじゃないか、因みにアイリスさんは俺よりも
身長が軽く10センチは、大きく
上から睨まれて、ドキッとしたのは俺の秘密だ
それで大会で優勝したんだから、三人いる王女と仲良く
出来るかなと、期待したり
第2女王は、とにかく優しそうで胸に視線が行き
外すのに苦労し
第3女王は、幼すぎて最初から眼中に入らなかったが
将来は確実に、美人さんになると予言できる逸材だ
そして何故か、ミカエルさんは俺に賭けてクジでボロ儲けしたりして
俺は、魔術師、魔道師組合で魔法薬を製作する日々
何時も、魔法薬を回収に来る
ラミアさんが、俺に関心があると勘違いしたり
だって、笑いかけたりベタベタ俺に触るし
勘違いしても、良いじゃないか
ラミアさんは、小柄で愛嬌があり
何か何時も上目使いだし
で良いところを見せようと、魔法薬製作のスキルが名人級に上がったり
トーマスさんが、心配して様子を見にきたりして
なんやかんやで、ラミアさんとは友達関係になったり
工房を掃除してくれたり、良いんだこれでと納得したり
そろそろ、森にでも採集に行こうかなと思う
今日この頃です、つづく
有難うございます