過去を切り捨てた臆病な冒険者は前へ進む
「・・・その歳で薬草探し?貴方の経歴とスキルをお聞きしたいですわ・・・犯罪者ではありませんよね」
「はい、薬草探しのドメルです」
剣は上手く使えないから持っていない。ナイフ程度、魔法を少々、引く力が弱い短弓を使う。
元々は貴公子だったのだぜ。
地方の伯爵家だった。剣技もその地域では一番だった。学問だって王子と会話出来るくらいは博識だった。将来を嘱望されていた。
だが、身を持ち崩して今は冒険者になったのさ。
その理由は・・・
「また、自称元貴族ね。それはいいから森を案内して下さるのかしら?」
「はい、もちろん」
俺は冒険者ドメル、今年で33歳か?30を超えたらあっと言う間を目の当たりだ。
本日、令嬢に道案内を請われた。
姫騎士様のご一行だ。メイドが1人いる。
「お父様とご家来衆が森で遭難されましたの・・・ですから隠密に助けたいですわ」
甘いな。
「この森はルーキーの森と言われておりますの。ですから・・・・」
「遭難したら恥ずかしいってか?」
まあ、良い。金貨の袋に魅せられてOKをした。
ご令嬢の名は・・・
「匿名でお願いしますわ」
だそうだ。ルーキーの森で遭難することは恥ずかしいらしいが・・・・
だが、条件を出した
「俺をリーダーとして認めろ。俺が戦えと言ったら戦え。逃げろと言ったら逃げろな?」
「・・・分かりましたわ。最年長のルーキー様」
嫌みで返された。
女騎士だと思っていたが、湯浴みとかしたがらないから助かる。
三日目だろうか?
ゴブリンの死体を見つけた。手には書類を持っている。
「まあ、ゴブリン?書類を確認しましょう」
「やめよ。あれは偽死だ。人族の興味を持ちそうなものを手にして近づいたら中隊レベルで出てくる・・」
「では、どうするのかしら」
「ああ、そこのメイドさん。俺が合図したら、この聖なる豆をまけ」
高価な聖水を含ませた土で育てた豆だ。ゴブリンは嫌う傾向がある。
俺は短弓でゴブリンを射て・・・
「ギャア!」
やっぱり生きていやがった。
「メイド。ばらまけ!」
「はい!」
聖なる豆をまけばゴブリンは出てこない。理屈は分かるが敵も律儀に出てこない。
更に三日進んだ。
森の奥から声が響いてきた。
「ヒィ、たぁすけてぇ~、たぁすけてぇ~」
「ドメル様、助けに参りましょう」
「やめなさい。あれは猫女だ。声色を真似て人族をおびき寄せて木の上からガブリだ」
「そうなのですか?」
「ああ、狩りは100回に1回成功すれば良い方だ。だけどやる根性だけは認めてやる」
何だか、森の魔物達を信頼するようになった。
奴らは決して諦めない。人族を捕るためなら何だってやる。
そこは裏切らない。
「木の上に特化した猫獣人です。放って置けば追ってきません」
それから三日、遂に令嬢のお父様がいるらしい場所を発見した。
ゴブリンたちに囲まれている・・・
森中のゴブリンが集まっているかのようだ。
「「「「ギャ、ギャ、ギャ」」」」
「はあ、はあ、はあ」
馬は喰われたのだろう。馬具が散乱している。岩山の中腹に洞窟があって、その前を痩せこけた騎士が守っていた。その奥に令嬢のお父様がいるのか?
「た、助けましょう」
「黙れ。小声だ」
ゴブリンは女の声に反応する。
「皆さん。俺が小便をかけます。これで女の匂いを消せます」
「そ、そんな・・」
「横一列に並べ」
「・・・気にするな。俺もかけられたことがある」
☆☆☆回想
俺は貴公子だった。父上は早逝し。俺が当主になるものだと思い一生懸命に研鑽を重ねた。
『お兄様、遠乗りにつれて行って下さい』
『ドメル様、なら私がランチボックスを作りますわ』
『まあ、皆様、気をつけるのですよ』
『母上、大丈夫です』
妹、婚約者いた。
母上も若く見えて後妻の話がひっきりなしだった。
婚約者と妹を連れ遠乗りに行ったら森に黒髪族が現われた。
髪は黒、瞳も真っ黒、肌の色は濃い。
文献でしか知らなかった。
『君、大丈夫か?』
『はい、ここはどこですか?』
異界渡りをしてきた民族だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ドメル様・・・上手く行かなかったら貴方様を法廷に引き出しますわ」
「ああ、そうしろ。上手く行かなかったら骨までしゃぶられているけどな」
それから、空を見る。
空気の湿り気を確認する。
俺は観察することを覚えた・・・
☆☆☆
黒髪族の名をユウキと言った。
とんでもない奴だった。
妹や母上が着替えをしているときに間違ってドアを開ける。
婚約者ともぶつかってあられもない体勢になったこともある。
『ユウキ殿、気をつけて下さい!』
『ドメルさん。すみません』
初めはしおらしかったが、そのうち頭角を現すようになった。
剣や魔法で皆を圧倒する。
知らない知識で領民からも慕われるようになった。
『これをポンプというんだよ』
『有難うございます。これで井戸の水くみが楽になりました』
ああ、噂になったよ。俺とユウキ、どちらが強いのか。優秀なのか・・・
それはどうでも良い事だ。俺には王都に行き優秀な成績を修め王宮で役職をもらう夢があった。
だが・・・
『ユウキ様、珍しい数式を教えて下さいませ』
『ユウキ様、遠乗りにつれて行って下さい』
『ユウキ様、服を作って差し上げますわ。寸法を測らせて下さいませ』
妹、母上、それに婚約者までユウキに夢中になった。
『皆、どうかしている!のぞかれて気味悪がっていたじゃないか?』
『お兄様、最低!ユウキ様はこの国の作法をしらなかったのよ』
『そうよ。私達が教えてあげているだけよ』
『ドメル・・・異邦人に親切にするのも貴族の義務よ』
そして、決闘を申し込んだ。
圧倒された。
素手の格闘で・・・腕を折られ。
『柔術だよ!おっと、腕をもらうよ。よぉっと、これで技あり一本だね』
『ギャア!』
奇妙な技だった。腕を折られても負けた気はしなかった。
『はあ、はあ、次は、剣だ!』
『あいよ。真剣がいいな』
『もとより!』
これも圧倒的だった。射程の外から風の刃を飛ばされた。
『剣だから片手で大丈夫だと思ったけども・・・全然弱いね。これで技あり二本』
『はあ、はあ、はあ、負けていない。次は全力で』
『もう、いいや』
俺はうつ伏せに寝かされてまたがれて上から小便をかけられたよ・・・
『これで合わせて一ポォオオオン!』
『クスクスクス~』
『お兄様、みっともないわ』
『ドメル、外で水浴びをしてきなさい。夕食は今日から別よ』
その日、俺は屋敷を出て行った。その後のことは知らない。
奇妙な戦法に不覚を取ったのだ。
観察すれば・・・勝てた・・・
だが、利き腕は上手く動かない。詮無きことだ。
・・・・・・・・・・・・
気休めになるのだと思って過去の話をしたが。
「・・・そんなことがあったのだ」
「・・・・・・・・・」
令嬢は黙ったままだった。
それから三日経過した。
今が機会だ。
「令嬢、魔法を使えますか?」
「ええ・・」
「炎系の魔法もぶち込んで下さい」
「え、森ですわ。火事になりますわ・・」
「いいから!」
「ファイヤーボール!」
「ファイヤーアロー!」
令嬢の無数の炎の玉がゴブリン達をおそう。
俺は上から炎の矢を雨のように降らした。
「「「ギャアアアーーーー」」」
ゴブリン達は熱さで騒ぎ出し散らばった。
「今です。突撃して下さい」
「でも、炎の海ですわ」
「雨が降ります!この湿気、肌で感じました」
突入と同時に雨が降り。
令嬢のお父様との再会に成功した。
寝ている足が一本ないのだ。
「はあ、はあ、はあ、エスラルダ・・・何故来た」
「お父様!」
「感動の再会は後で!それよりも担架で運びましょう」
残った家来の騎士たちも・・・
「小生、10日食べておりません・・」
「そうだろうな・・・」
速さは歩くよりも遅い。
後ろから追っ手が迫って来た。
かなり興奮している。
「そろそろ小便の効果が薄れてきましたね・・」
「はあ、はあ、もう一度かけて下さいませ」
「いや、一度女として認識したから無駄でしょうね」
「あのドメル様、あの聖なる豆は?」
「メイドさん。貧乏冒険者だ。もうないよ」
「ミリアと申しますわ!」
そして、周りを見渡す。
「あの森に逃げましょう。あそこには・・・」
「ヒィ、たぁすけてぇ~、たぁすけてぇ~」
猫女の声が聞こえてきた。
「ギャア!?」
「「「「ギャー!ギャー!」」」」
ゴブリン達は森に向かった。
ゴブリンは女の助けを求める声に反応する。
その言葉だけは認識するそうだ。
勝手に戦え。
その後、令嬢の実家が騎士団と合流できた。
「お嬢様、勝手をしないで下さい!」
「そうです。ゴブリンに不覚を取ることよりももみ消すことが恥ずかしいです」
「我らがそんなことで侯爵閣下を見限るとお思いですか?」
「はい・・・」
令嬢は叱られてやんの。
いい気味だ。
さて、料金分の仕事をしたから帰るか・・・
「待て、そこの冒険者よ。責任を取ってもらわねばな」
「はい?」
侯爵に呼び止められて、今、俺は侯爵邸にいる。
「フン、仕方ないのですからね・・・」
ご令嬢と結婚が決まった。
小便をかけたから結婚をしろとのことだ。
1人じゃない。メイドもだ。
「王国の法ならやむを得ない事情があればハーレムが認められるぞ」
「ミリヤと申します。私の友人ですから大事にして下さいませ」
メイドは恥ずかしそうにコクコク頷いているだけだ。
「いや、だから・・・不可抗力でしょう。過去は過去と切り捨てて生きて行けば良いでしょう?」
「うむ。なら言うがユウキは死んだぞ・・・」
「えっ」
話を聞くと呆気ない理由だった。
冒険者ギルドに行ったらガラの悪い冒険者にからまれた。
そして、決闘になって腕を一本折ったが・・・
☆☆☆
『ハハハ、技ありだね!』
『ガアア-!』
『おい、何こいつ寝転んでいるの?』
『蹴れ!叩きまくれ!』
『え、これ寝技だよ!僕の勝ちだよ!』
周りの冒険者にボコボコにされて死んだ・・・
俺が感じた違和感はこれだ。確かに一対一に対して強い戦法だけど・・
「過去を切り捨てられていないのは俺だったのかもな・・・」
俺は侯爵家の正式な家族になった。侯爵閣下、その長子の補佐だ。
「フフフフ、男の子が2人欲しかったけど、随分年長な弟だこと・・」
侯爵夫人は若い。
そして、義妹も。
「ドメル様!そのような装いだとお姉様に愛想尽かされますわ!フン!」
姉を取られたせいか俺に構う。
そうそう奇妙な女が3人訪ねて来る・・・老齢のマダムと令嬢と言うには歳がいっているが、まだ、独身の令嬢のドレスを着ている奇妙な令嬢を含めて3人だ。
「ドメルに会わせて、母ですよ」
「わ。私は騙されて・・まだ、結婚もしていませんわ」
「お兄様!ユウキの作った道具はみんな壊れたわ・・・」
「すまない。元家族だとは思うが・・・思い出せない」
「「「そんな」」」
「帰って来て・・」
「君らも前に進みなさい」
それしか言えなかった。
顔と名が思い出せない。
どうやら過去を完全に切り捨てたようだ。
これで良いか分からないが進むしかないだろう。
家族と一緒だと遠くに行ける気がする。
最後までお読み頂き有難うございました。




