第8話 「減っている荷物と、増えない記憶」
いつもお読みいただきありがとうございます!
高額報酬に釣られて引き受けた「荷物消失」の調査依頼。第5話となる今回は、その不可解な現象がいよいよ5人の目の前で牙を剥きます。
「見張っていれば大丈夫」
そんな当たり前の理屈が通用しない、異常なほどに静まり返った森。
数字が「4」から「3」へ……。ただの数え間違いでは済まされない**「消失の瞬間」**に、最弱パーティはどう立ち向かうのでしょうか。
五感の鋭いカノンや、魔力に敏感なミルが感じ取る「ズレ」の正体とは。
静かな森に響く荷車の音とともに、不気味なミステリーの幕開けをお楽しみください。
1. 異常なほどの「静寂」
「……今のところ、平和そのものだね」
クレアが自分を元気づけるように言った。
「それが一番怖いの。ギャンブルなら、一番負けが込む前の静けさだよ」
カノンが即座に毒を吐く。
荷車はガタゴトと順調に進んでいた。
積まれている木箱は全部で四つ。出発の時から、その数は変わっていない。
「一応、再確認しておきましょう。手遅れになってからでは遅いですから」
セインが冷静に促す。
「縁起でもないこと言わないでよ」
クレアは苦笑いしつつ、指を折って数えた。
「いち、に、さん、し……。よし、ちゃんと四つある。合格!」
「合ってますね」
セインが頷き、全員が一度ホッと胸をなでおろす。
……けれど、最後尾を歩くミルだけが、じっと荷台を見つめていた。
「どうしたの、ミル?」
「……ううん。なんでもない、かな……」
小さく首を振るミル。
何かを言いかけて飲み込んだ彼女の瞳には、言葉にできない**「ズレ」**が映っていた。
2. 消えた鳥のさえずり
森は、不自然なほどに静かだった。
風の音も、木の葉が擦れる音もしない。
「……ねえ。鳥、一羽もいないね」
ミルの呟きに、全員が足を止めた。
「不自然ですね。これほど深い森なら、何かしら生き物の気配があるはずですが」
セインが周囲を見渡すが、動くものは何もない。
「やめてよ、そういうの! 怖くなるじゃない!」
クレアが肩をすくめる。
「もう十分怖いけどねぇ。アタシの酒の味まで薄く感じるよ」
ケットルが大きな酒瓶を煽りながら笑うが、その手はしっかりと斧の柄を握っていた。
その時だ。
ガタン!
「おっと!」
道に落ちていた石に乗り上げ、荷車が大きく揺れた。
「道が悪いわね。みんな、大丈夫?」
ケットルがどっこいしょ、と力任せに荷車を支える。
「問題ないよ。さあ、先を急ごう」
3. 「四」が「三」になる瞬間
しばらく進んだところで、休憩を取ることになった。
「ここで一旦止まりましょう。水分補給と、もう一度確認を」
セインの言葉に、全員が荷車の周りに集まる。
「はいはい、数えるよー」
クレアが軽い調子で、木箱を指差した。
「いち、に、に、さ……」
指先が、空中で止まる。
「……え?」
「どうしました?」
「……三つしかない。」
一瞬、空気が凍りついた。
「いやいや、さっき数えたばっかりじゃん! 見間違いだよ」
カノンが慌てて前に出て、自分でも数える。
「……三つ。……本当に、三つしかない」
軽い口調だったカノンの顔から、サッと血の気が引いた。
「ちょっと待って! どこかで落とした!? 戻って探そう!」
クレアが焦って叫ぶが、セインが首を横に振った。
「道はずっと一直線でした。あれほど大きな木箱が落ちれば、音で気づくはずです。……それに、ケットルさんがずっと後ろで支えていましたよね?」
「ああ。さっき揺れた時も、確かに四つあったはずなんだがねぇ……」
ケットルが眉間に皺を寄せる。
「……見た、気がする」
ミルが消え入りそうな声で言った。
「箱が……透けて、消えたみたいな……気がしたの……」
4. 対策不能の「怪異」
「いつ減ったのか」が、誰にもわからない。
五人の記憶は、まるで霧がかかったように曖昧になっていた。
「……やだね、これ。一番嫌いなタイプだよ」
カノンが忌々しげに吐き捨てる。
「戻って確認しますか?」
クレアの問いに、セインは冷静に答えた。
「いえ。おそらく戻っても何も見つかりません。**『いつ』**消えたかが分からない以上、追うことは不可能です」
「……なんなのよ、一体」
クレアは残された三つの箱を睨みつけた。
「次は絶対、減らさない。……いい? 全員で、交互に、一秒も目を離さないで見るよ!」
「それで防げるならいいけどね」
カノンが肩をすくめるが、その目は笑っていない。
五人は再び歩き出す。
今度は、誰も瞬きすら惜しむほどに箱を見つめ続けた。
それでも。
彼女たちの背後で、森の沈黙は深まっていく。
「四つ」あったはずの荷物は、今や「三つ」。
次に消えるのは、箱なのか、それとも……。
最弱パーティ、今日もちょっとだけ成長中。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
……い、いつの間に消えたんでしょうか。
あれほど注意深く確認し、力自慢のケットルが支え、冷静なセインが目を光らせていたはずなのに。気づいた時には手遅れという、一番タチの悪いパターンに陥ってしまいました。
特に印象的なのは、ミルの「透けて消えた」という違和感です。
これまでの特訓で魔力のコントロールを学んできた彼女だからこそ気づけた、微かな世界の「揺らぎ」。これがこの謎を解く鍵になるのかもしれません。
「次は絶対、減らさない」と息巻くクレアですが、果たして気合だけで防げる相手なのか。
荷物が消えるだけならまだしも、カノンの言う通り「次に消えるのは誰か」という最悪の想像が頭をよぎります。
最弱パーティ最大の危機(とお財布の危機!)、一体どうなってしまうのでしょうか。
次回の更新も、どうぞお見逃しなく!




