第43話 お隣さんと、招かれざるお茶会
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
念願のマイホームを手に入れ、折れた剣も『切ない剣』へと生まれ変わったリトル・リンク。
これでようやく落ち着いて冒険に出かけられる……と思いきや、そうは問屋が卸しません。
引越しの片付けも終わらぬうちに、新居の扉を叩く影。
そこに現れたのは、リフェルナの街に長く住む、ちょっと「癖」の強いお隣さんでした。
リトル・リンク、初めてのご近所トラブル(?)に挑みます!
. 鳴り響くノッカー
「……ふわぁ。……昨日の鍛冶、疲れた。……血が、足りない……」
新居での二日目の朝。
ミルが、ケットル特製の「遮光カーテン」に包まりながら、リビングのソファでだらしなく伸びていました。
キッチンでは、セインが昨日買ったばかりの銅鍋を使い、論理的かつ正確な温度管理でコーヒーを淹れています。
そんな穏やかな時間を破ったのは、玄関のドアノッカーが激しく打ち鳴らされる音でした。
――コン、コンコンコン! ガンガンガン!!
「ひえっ!? 借金取り!? ……じゃないよね、ここ新築(中古)だし!」
カノンが反射的にソファの後ろに隠れます。
「朝っぱらから威勢がいいねぇ。……アタシが出るよ」
ケットルが弾き弓を背負い直してドアを開けると、そこには一人の老婦人が立っていました。
背筋をピンと伸ばし、いかにも高級そうな、けれど時代がかったドレスを着た老婆。彼女は手にした日傘で、ずいのいとケットルの鼻先を指しました。
「……あら。ドワーフに、吸血鬼に、そっちは……不健康そうな娘ね。……ここを借りたのは、あなたたち?」
2. 自称・リフェルナの管理人
老婆の名前はマーガレットさん。
この家に以前住んでいた魔道具師の「師匠の、そのまた知り合い」を自称する、この界隈の古株でした。
「いい? この家はね、見た目以上にデリケートなの。特に地下の換気扇! そこを無理に回すと、隣の私の庭に煤が飛んでくるんだから。……さっき、変な煙が出てたわよ?」
「げっ。……昨日の、ミスリル精錬の煙か……」
ケットルが気まずそうに目を逸らします。
「論理的に言って、排気は大気中に十分に拡散される設計のはずですが……」
セインが割って入ろうとしますが、マーガレットさんは止まりません。
「論理? 屁理屈なんていらないわ。……それより、挨拶に来るなら手ぶらじゃないでしょうね? この街の冒険者は、みんな礼儀がなっていないんだから」
リーダーのクレアは、慌ててキッチンから「引越し祝いで余っていた高級レバー(の端切れ)」と、市場で買った安物の焼き菓子を差し出しました。
3. 思わぬ「合格点」
マーガレットさんは、差し出された菓子をじろじろと観察し、一つ摘んで口に運びました。
「……ふん。味は平凡ね。でも、保存料を使っていないのは評価してあげるわ」
彼女は毒気を抜かれたように、ふぅと息をつきました。
そして、意外なことに、持っていた籠をクレアに手渡したのです。中には、採れたての新鮮なハーブと、リフェルナ名産の大きな魚が入っていました。
「これは、引越し祝いよ。……あなたたちみたいな頼りない娘たちが、この『呪われた(元)魔道具師の家』でいつまで持つか見物させてもらうわ」
「……えっ。今、さらっと『呪われた』って言わなかった?」
カノンが耳を疑います。
「気にしなくていいわ。ただ、地下室の『隠し扉』だけは開けないことね。……じゃあ、私は忙しいから!」
嵐のような勢いで、マーガレットさんは去っていきました。
4. 繋がりは、戦場以外にも
「……な、なんだったんだ、今の」
クレアが魚の入った籠を持ったまま、呆然と立ち尽くします。
「典型的な『お節介焼きの隣人』というカテゴリーですね。……ただ、彼女の指摘した排気の問題は、将来的なトラブルを避けるために再計算の必要があります」
セインは既に手帳を開き、地下室の改善案を書き留めています。
「……呪われた、家。……ワクワクする。……隠し扉、……どこにあるのかな」
ミルが少しだけ元気を取り戻し、目を輝かせました。
「ガハハ! 面白い婆さんじゃないか。……あの魚、今夜のメシにしようぜ! アタシが最高の焼き加減にしてやるよ!」
ケットルが笑いながら魚を受け取ります。
新居での生活は、魔物との戦いよりも複雑で、けれどどこか温かい「繋がり」で溢れていました。
リトル・リンク、今日も(ご近所付き合いでも)ちょっとだけ成長中。
第43話をお読みいただき、ありがとうございました。
水都リフェルナでの最初のご近所さん、マーガレットさんが登場しました!
彼女の口から出た「呪われた家」や「隠し扉」という不穏な単語。
これはただの脅しなのか、それとも……?
拠点を手に入れたことで、物語の舞台は「家の中」にも広がっていきます。
次回は、マーガレットさんが言っていた**「地下の隠し扉」をこっそり探してみる……? あるいは、「頂いた魚で豪華な夕食会」**か。
彼女たちの好奇心(と、セインの論理性)が、家の中に眠る秘密を暴いてしまうかもしれません。
引き続き、応援よろしくお願いします!




