第40話 宿屋の朝と、重すぎる袋
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激闘の遺跡攻略を終え、ボロボロになりながらも帰還したリトル・リンク。
彼女たちの手には、約束の報酬に色をつけた「金貨120枚」という、かつてない重みの革袋がありました。
普通の冒険者なら、一晩のどんちゃん騒ぎで使い果たしてしまうような大金。
しかし、超・理論派の女性僧侶セインが、そんな「非論理的」な浪費を許すはずもありません。
リトル・リンク、ついに「マイホーム」を買う。
彼女たちの新しい活動拠点となる、少し古くて、最高に愛おしい「城」への引っ越し物語をお届けします。
1. 宿屋の朝と、重すぎる袋
「……ねえ。これ、本物だよね? 夢じゃないよね?」
昨夜の熱狂が嘘のように静まり返った、朝の宿屋。
リーダーのクレアは、半分閉じた眠そうな眼で、枕元に置かれた革袋を指先でツンツンと突っついた。
指先に伝わるのは、ずっしりとした、硬くて冷たい金属の確かな感触。
「本物だよぉ。……あたしの指先が、今すぐカジノに行って一山当てようぜって、ピクピク踊ってるもん」
隣のベッドで、カノンがよだれを拭いながら袋を奪おうと手を伸ばす。
だが、その欲望に満ちた手を無慈悲に阻んだのは、既に完璧な身支度を整えたセインの銀色の槌だった。
ゴツッ。
「……静かになさい。これはパーティの共有財産です。カジノの軍資金ではありません」
セインは冷徹な眼差しでカノンを黙らせると、眼鏡をクイと押し上げた。
「今日こそ、私たちの『リトル』な生活を根本から脱却するための、中長期的な出口戦略を立てますよ。無計画な消費は、破滅への最短ルートですから」
2. 水都リフェルナと、セインの「論理的」家計簿
彼女たちが拠点としている街、『水都リフェルナ』。
豊かな湖に隣接し、網の目のように張り巡らされた運河が美しいこの街は、多くの冒険者が集う要衝でもある。
かつてはこの街の片隅にある安宿を転々としていた彼女たちだったが、セインがテーブルに広げた一枚の羊皮紙には、そんな生活の終焉を告げる緻密な計算が並んでいた。
「まず、全員のボロボロになった武器と防具の徹底メンテナンス費用。そして、ミルのための高品質な鉄分補給食……最高級レバーも含みます。それから、これまでの宿代と酒代の未払い分を一括で清算します」
「……うっ。……耳が痛い」
クレアが申し訳なさそうに身を縮める。
「これらをすべて差し引いても、手元には金貨90枚以上が残ります。……そこで提案です。いつまでも不安定な宿屋暮らしを続けるのは、資産効率が非常に悪い。……拠点を購入しましょう」
「拠点を!? ……それって、うちらの『家』ってこと!?」
「ええ。リフェルナの不動産価格は現在安定しています。固定の拠点を構えることで、ケットルの本格的な工房や、ミルの魔力充填室も確保できる。……何より、帰る場所があるということは、精神的な安定に寄与します」
3. 「リトル・リンク」の城
五人はセインに引き連れられ、街の北端にある古い物件を訪れた。
かつては高名な魔道具師が住んでいたという、蔦が絡まる二階建ての石造りの家。
少しだけ右に傾いていて、外壁にはあちこちにひび割れがあるけれど、庭には冷たい水が湧き出る小さな井戸もあった。
「……ここ、いい。……すごく、静か。……二階の奥、私の部屋にしていいの? 暗くて、落ち着きそう」
吸血鬼少女のミルが、キラキラとした瞳で建物を見上げる。
「ガハハ! この地下室なら、思いっきり金槌を振るっても近所迷惑にならないねぇ! 壁のひびくらい、アタシが職人の技でパパッと直してやるよ!」
ドワーフの女の子、ケットルも巨大な荷物を揺らしてやる気満々だ。
カノンも「屋根裏なら借金取りからも隠れやすそう」と、独自の視点で納得している。
「……よし。……ここが、うちら『リトル・リンク』の城だね!」
クレアが拳を握り、透き通った青空を仰いだ。
かつては「最弱」と笑われ、明日のパンにも事欠いていた五人が、ついに自分たちの「城」を手に入れたのだ。
4. 引っ越しと、これからの夢
その日のうちに契約を済ませ(セインの、相手が泣き出すほどの徹底的な値切り交渉により、金貨40枚という破格で落札した)、五人は自分たちの数少ない荷物を新しい家へと運び込んだ。
「……ねえ、セイン。……なんか、不思議な気分だね」
夕暮れ時。片付けが終わったばかりの、まだ少し埃っぽいリビングで、クレアがぽつりと呟いた。窓からは、リフェルナの運河を赤く染める夕日が差し込んでいる。
「数日前までは、宿を追い出されないかヒヤヒヤして、明日のパンも怪しかったのに。……今は、自分たちの家があって、仲間がいて、次の目標がある」
「……これが『成長』という現象の物理的な結果です。……ただし、浮かれてはいけませんよ」
セインは、まだ少し残っている金貨の袋を、新しく備え付けた金庫に厳重に鍵をかけて仕舞い込んだ。
「家を持ったということは、税金と維持費が発生するということです。……明日からは、また地道に稼ぎますよ。……次は、中級以上の定期依頼を安定して受注できる体制を整えます」
「えぇー! 引っ越し祝いなんだから、今日くらいゆっくり休もうよー!」
クレアの元気な叫び声が、自分たちの城に心地よく響き渡る。
最強にはまだ遠いけれど、五人の「繋がり」を支える確かな土台が、水都の片隅にしっかりと築かれた。
リトル・リンク、今日もちょっとだけ成長中。
第40話をお読みいただき、ありがとうございました!
ついに拠点を構えたリトル・リンク!
街の名前は**『水都リフェルナ』**。運河と湖に囲まれたこの街が、彼女たちの冒険の新たなスタート地点となります。
セインの現実的(かつ容赦ない)な財務管理によって手に入れたマイホーム。
地下にはケットルの工房、二階にはそれぞれの個室。
「自分の居場所」ができたことで、彼女たちの連携はさらに強固なものになっていくはずです。
次回からは、この新しい家を舞台にした日常回や、拠点を構えたことで舞い込む「少し背伸びした依頼」などをお届けします。
引っ越し祝いのご馳走に、ミルの大好きな高級レバーは並ぶのでしょうか?
引き続き、彼女たちの賑やかな新生活を見守ってくださいね!




