第39話 繋がれた掌と、誇らしい帰還
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死の光が吹き荒れた忘却の遺跡。
絶体絶命の自爆攻撃を、リトル・リンクは五人の絆で耐えきりました。
最強の「力」が通用しなかった怪物を、最弱の「知恵」と「繋がり」が沈黙させた瞬間。
それは、彼女たちがただの雑用係から、真のプロフェッショナルへと脱皮した瞬間でもありました。
エリートパーティ『蒼穹の剣』が見つめる中、ボロボロになった少女たちが手にするのは、約束の報酬と、何物にも代えがたい「自信」です。
遺跡攻略編、堂々の完結です!
1. 静寂と、差し伸べられた手
「……はぁ。……はぁ。……し、死ぬかと、思った……。本当に、死ぬかと……」
もうもうと立ち込める白煙が、冷たい風に流されていく。
静まり返った広間の中、リーダーのクレアが、刃の欠けた**『とりあえず突っ込む用の剣』**を杖代わりにして、震える足でようやく立ち上がった。
その足元には、かつて無敵を誇った古のゴーレムが、ただの動かない石くれとなって転がっている。
そして、その背後には――。
リトル・リンクが命を懸けて守り抜いた、Bランクパーティ『蒼穹の剣』の面々が、信じられないものを見るような目をして立ち尽くしていた。
「……信じられない。ありえないわ」
蒼穹の魔術師の女性が、呆然とした、けれどどこか畏敬の念の混じった声で呟く。
「あの熱量を……あんな小さな、バラバラの個別の魔法を正確に繋ぎ合わせて、完全に相殺して耐えきるなんて。……どんな精密な計算をすれば、あんな真似ができるの?」
リーダーのアリスターが、静かに歩み寄り、クレアの正面に立った。
あまりの威圧感に、クレアが思わず身構える。しかし、彼が取った行動は、攻撃でも見下す言葉でもなかった。
彼は剣を鞘に収めると、五人の少女たちに向かって、深く、恭しく頭を下げたのだ。
「……リトル・リンク。君たちに、命を救われた。……未熟だと、足手まといだと馬鹿にしていた非礼を、どうか詫びさせてくれ。君たちは、俺たちが忘れてしまった『冒険者の本質』を体現していた」
その言葉に、クレアは驚きで目を丸くし、仲間たちと顔を見合わせた。
2. 金貨120枚の重み
「謝罪なんて、柄じゃないからいいよ! ……それより、ほら。……約束、だよね?」
カノンが、煤けた顔を拭いもせずにニヤリと笑い、親指と人差し指で丸を作って見せた。
張り詰めていた緊張感が一気に抜け、アリスターも思わず苦笑いを浮かべる。彼は腰のポーチから、ずっしりと重みのある革袋を取り出し、クレアに差し出した。
「ああ。約束の金貨100枚……いや、ボーナスだ。金貨120枚受け取ってくれ。君たちの『泥臭い知恵』と『鉄の結束』には、それだけの……いや、それ以上の価値があった」
金貨120枚。
宿代や明日の食費にさえ頭を悩ませ、ドブさらいの依頼に奔走していた数日前からは、想像もつきかないような大金だ。
受け取ったクレアから袋を手渡されたセイン。その細い指先が、一瞬だけ微かに、けれど確かに震えた。
超・理論派の彼女にとっても、この重みは「論理」だけでは片付けられない感情を呼び起こしていた。
「……ありがたく、頂戴します。……パーティの装備修繕費、ミルの栄養管理費……具体的には最高級のレバーですね。そして……、全員で祝杯を挙げるための経費として、適切かつ厳密に分配しましょう」
「……やったぁぁ! お肉! 赤いお肉! お腹いっぱい食べよう!!」
ミルが、貧血で今にも倒れそうなほど真っ白な顔をしながらも、パッと花が咲いたように表情を輝かせた。
3. 格差を超えた「背中」
「……なあ、リトル・リンク」
ボロボロの装備を整え、遺跡の出口へと向かう五人の背中に、アリスターが再び声をかけた。
「君たちは自分たちを『最弱』と自嘲するが、……俺はもう、そうは思わない。個々の力が小さくても、それを鎖のように繋ぎ、巨大な力へと変換する。……その『繋がり(リンク)』こそが、君たちの真の強さだ。誇っていい」
「……ふふ。……計算外のことが起きるから、冒険者はやめられないのですよ」
セインが眼鏡をクイッと指で上げ、不敵に、そして少しだけ誇らしげに微笑んだ。
五人は、豪華な魔法銀の装備を纏ったエリートたちに、まるですご腕のベテランを見送るような敬意の籠もった眼差しを向けられながら、ゆっくりと遺跡を後にした。
4. 今日も、ちょっとだけ
帰り道。遠くに見える街の灯りと、沈みゆく夕焼けが、泥だらけで満身創痍の五人を優しく照らしていた。
「……ねえ。なんか、今日のうちら、ちょっとだけカッコよくなかった? Bランクの人たちが、うちらの背中を見てたんだよ?」
クレアが折れた剣を腰に差し、自慢げに胸を張る。
「はいはい、自画自賛だねぇ。まあ、あたしが**『核』の綻び**を見つけてなきゃ、今頃全員きれいな消し炭になって、夕焼けを見ることもできなかっただろうけどさ」
カノンが相変わらずの皮肉な口調で茶化すが、その口元は隠しきれない達成感で緩んでいる。
「ガハハ! それを言うなら、アタシの**『冷却弾』と『煙幕』**の援護があってこそだろ! これでまた新しい武器の素材が買えるねぇ!」
ドワーフの女の子、ケットルの元気な笑い声が静かな街道に響き渡る。
「……うん。……私、……みんなと一緒にこの遺跡に来て、本当に良かった。……怖かったけど、今はすごく……温かい」
ミルが**『もう壊さない(予定)の杖』**を宝物のようにぎゅっと抱きしめる。最後尾を歩くセインは、歩みを止めずに愛用の手帳を開き、今日の記録を丁寧に書き加えた。
【 記録:Bランクパーティとの共同戦線、完遂。金貨120枚獲得。……そして、私たちの『繋がり』の構造的強固さを再確認。……生存確率、および将来のランクアップの可能性を、大幅に上方修正する 】
最強には、まだ遠い。
伝説の武器を買うための金貨300枚にも、まだ届かない。
けれど、五人の心には、金貨120枚の重みよりもずっと重く輝く、「自信」という名の確かな手応えが刻まれていた。
リトル・リンク、今日もちょっとだけ成長中。
第39話「静寂と、差し伸べられた手」を最後までお読みいただき、ありがとうございました!
これにて、リトル・リンク初の本格的な長期遠征「忘却の遺跡編」は完結となります。
当初は足手まとい扱いされていた五人が、Bランクパーティの盾となり、最後には敬意と共に「金貨120枚」という破格の報酬を手にする。彼女たちにとって、これほど誇らしい瞬間はなかったはずです。
さて、手元に残ったのは、ずっしりと重い革袋。
普通の冒険者なら酒とギャンブルで使い果たしてしまうような大金ですが……そこは超・理論派僧侶のセインが黙っていません。
「いつまでも不安定な宿屋暮らしでは、資産効率が悪すぎます」
彼女が弾き出した、パーティ成長のための「次の一手」。
それは、魔物討伐でもなければ、伝説の武器の購入でもありませんでした。




