第38話 警告の「赤」と、五重の「鎖」
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前回、Bランクパーティ『蒼穹の剣』の猛攻すら跳ね返した『古のゴーレム』。しかし、リトル・リンクの「泥臭い嫌がらせ」によってその無敵の防御は崩されました。
……ですが、追い詰められた怪物は、最悪の「最後っ屁」を用意していました。
暴走する膨大な魔力。回避不能の自爆シークエンス。
絶望的な状況で、超・論理派の女性僧侶セインが下した決断とは?
そして、五人の乙女たちが結んだ「鎖」は、死の光を撥ね退けることができるのか。
リトル・リンク史上、最大の試練が幕を開けます。
1. 警告の「赤」
「……マズい。……みんな、今すぐ全力で離脱して!!」
カノンの、悲鳴に近い絶叫が冷たい遺跡の石壁に反響した。
膝を突き、活動を停止したかに見えたゴーレム。しかし、その全身に刻まれた紋章は、先ほどまでの静かな青を捨て、網膜を刺すような不吉な「赤」へと染まりきっていた。
体内に蓄積された、アリスターの剛剣の衝撃と魔術師の極大魔法。それら膨大なエネルギーが行き場を失い、制御を離れてオーバーヒートを起こしているのだ。
「自爆する気か……!? 間に合わん、この距離では遮蔽物すら存在しないぞ!」
蒼穹のリーダー、アリスターが苦渋に満ちた表情で盾を構える。だが、その自慢の魔法盾は先ほどの死闘でひび割れ、魔力も底を突いていた。傍らの魔術師も、使い果たした魔力による倦怠感で膝を突き、荒い息を吐いている。
「ギギ……ガガ、ガガガガガガ……!!」
ゴーレムの胸部が観音開きに展開し、その中心部にある「核」が太陽のような輝きを放ち始める。高密度の魔力が一点に収束し、周囲の空気がバリバリと静電気を帯びて震える。
放たれれば、この広間にあるすべての命が、跡形もなく消し飛ぶ。
2. 「論理」を捨てた決断
「……セイン、どうすればいい!? 逃げるの!? それとも――」
リーダーのクレアが叫びながら、背後のセインを振り返る。
セインは一瞬、愛用の手帳を握りしめた。彼女の脳内の計算盤が高速で弾き出した結果は、非情なものだった。
直撃を受けた場合の生存確率は0.003%。今から背を向けて逃げたとしても、爆風の到達範囲を抜ける前に背中を焼かれる。防御魔法で耐えるには、現在の自分の魔力残量では絶望的に足りない。
論理的に考えれば、ここは各自が最大限の自己防衛を行い、生存率の高い者だけが生き残る道を探るべき場面だ。……けれど。
彼女は眼鏡を静かに押し上げ、手帳を懐に仕舞い込んだ。その瞳には、もはや冷徹な計算ではなく、静かな、それでいて苛烈なまでの決意の灯が宿っている。
「……逃げません。私たちのパーティ名、**『リトル・リンク(小さな繋がり)』**の定義に、窮地で仲間を捨てて逃走するという項目は存在しませんから。……論理を捨ててでも、守り抜きます」
セインが、魔法銀の槌**『静かになさい(物理)の槌』**を凛とした所作で天高く掲げた。
「ケットル、ありったけの『冷却弾』を広域展開! ミル、ノヴァの出力は不要です。……精密な『ガーネット』で熱源を分散し、爆縮を誘発させて! クレア、カノン! 私の背後に、そこの動けないエリートたちを放り込んでください!」
「了解っ! 死ぬ気で守って、死ぬ気で生き残るよ!!」
リーダーのクレアが即座に応じ、驚愕に目を見開くアリスターの襟首を掴んで、強引にセインの背後へと引きずり込んだ。
3. 五重の「鎖」
「……血よ。……凍るほどの、静寂を。……『リトル・ガーネット・フリーズ』!」
ミルが、自らの腕から流れる血を極限まで魔力へと変換し、蒼白い冷却の魔力を乗せた光弾を**『もう壊さない(予定)の杖』**から連射する。
それはゴーレムの胸部、まさに爆発せんとする核の周囲を正確に狙い撃ち、わずかでも熱反応を遅らせるための精密な「嫌がらせ」だった。
「ハッハァ! アタシの虎の子、職人秘蔵のガス弾を全部持っていきな!!」
ドワーフの女の子、ケットルが**『とりあえず撃ってみる用のパチンコ』**を猛連射する。放たれた弾丸が空中で割れ、遺跡の温度を一気に氷点下まで下げる冷却ガスが広間に充満した。
そして、爆発の瞬間――。
「『構造解析・バリア』――多重並列、重層展開!!」
セインが放ったのは、一枚の巨大な盾ではなかった。
それは蜂の巣のように緻密に組み合わされた、数百、数千の小さな六角形の魔力面。
衝撃を一つ一つの面で分散し、熱を隙間から逃がし、物理法則の暴力さえも「計算」によってねじ伏せる。彼女の、意地とプライドが形になった**「論理の結晶」**だった。
4. 繋がれた命
――ドォォォォォォン!!
真っ白な光が視界を埋め尽くし、すべての音が消失した。
凄まじい衝撃波と、肌を焼くほどの熱風が五人を襲う。セインの展開した多重バリアが、一瞬で数百枚単位で砕け散っていく。
「……あ、ぐ……っ、カは……ッ!!」
先頭でバリアを支えるセインの腕が、衝撃に耐えかねて悲鳴を上げる。
そこへ、クレアが自分の身体をセインに重ね、背後からその細い腕を支えた。さらにカノンが肩を貸し、ミルとケットルが二人の腰をがっしりと抱え込む。
五人が一つの「塊」となり、五重の鎖となって、死の光に抗う。
「……っ、うちらは……ここで消えたりしない……! 世界で一番、強固に繋がってるんだからぁぁ!!」
光が収束し、再び静寂が訪れた時。
そこには、装備はボロボロになり、煤に汚れながらも、誰一人として欠けることなく立ち尽くす五人の乙女の姿があった。
背後で守られた『蒼穹の剣』のメンバーたちは、ただ呆然と、自分たちの前に立つ「最弱」と呼ばれた冒険者たちの背中を見つめるしかなかった。
自分たちが「足手まとい」と切り捨てようとした小さな背中が、今、遺跡の守護者よりも大きく、頼もしく見えていた。
「……終わった、のかな。……みんな、生きてる?」
クレアが力なく笑い、そのまま糸が切れたように膝を突いた。
巨体のゴーレムは完全に沈黙し、元の石くれへと戻っている。
遺跡の奥には、確かな勝利の静寂と、五人の荒い鼓動だけが流れていた。
リトル・リンク、今日もちょっとだけ成長中。
第38話をお読みいただき、ありがとうございました!
ゴーレムの自爆という絶体絶命の危機を、リトル・リンクは「連携」と「意地」で乗り越えました。
セインが弾き出した「生存確率ほぼゼロ」という計算を狂わせたのは、理屈を超えて彼女を支えた仲間たちの存在でした。
Bランクパーティを救い、遺跡の番人を沈黙させた彼女たち。
エリート集団である『蒼穹の剣』の面々は、自分たちを救った「最弱」たちに何を語るのでしょうか。
そして、無事にギルドへ戻った後の「金貨100枚」の使い道は……?




