第36話 エリートの背中と、届かない剣
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前回、Bランクパーティ『蒼穹の剣』からの破格の指名依頼を受けたリトル・リンク。
金貨100枚という夢の報酬に胸を躍らせて遺跡へ足を踏み入れましたが、そこで彼女たちを待っていたのは、想像を絶する「実力差」という名の冷たい現実でした。
エリートたちの無駄のない動き、圧倒的な魔法、そして罠さえ無視する強靭さ。
自分たちの積み上げてきたものがすべて否定されるような空間で、彼女たちは何を思うのか。
そして、超現実主義の僧侶・セインだけが見据える「勝機」とは――。
圧倒的な絶望感から始まる、遺跡攻略編の開幕です!
1. 遺跡の「静寂」を切り裂く力
「……速い。……見えないよ、あんなの」
北の『忘却の遺跡』。
石造りの冷たい廊下を進む中、クレアが呆然と呟いた。
目の前では、Bランクパーティ『蒼穹の剣』のリーダー・アリスターが、現れた石像の群れを瞬く間に切り伏せていた。
無駄な動きが一切ない。
一振りで二匹、二振りで三匹。
クレアたちが全力で連携してようやく倒せる相手を、彼はまるで作物を収穫するかのように片付けていく。
「……あれが、本物の『Bランク』。……効率が、違いすぎます」
セインが眼鏡を指で直し、冷徹に数値を弾き出す。
「私たちの全力の攻撃力が、彼らの『通常攻撃』にも及んでいません」
2. 「効率」という名の壁
「ちょっと、そこの小さいの。邪魔だから下がっててくれる?」
蒼穹の魔術師の女性が、杖を構えたミルの横を通り過ぎる。
彼女が短く呪文を唱えると、廊下全体を埋め尽くすような豪火が吹き荒れ、残ったガーゴイルを一瞬で炭に変えた。
ミルの『ブラッディ・ノヴァ』のような危うさはない。
完全に制御された、圧倒的な破壊の奔流。
「……す、すごい。……私の魔法より、ずっと……」
ミルが自分の杖を握りしめ、俯く。
自分たちの『小さな繋がり(リトル・リンク)』が、ひどくちっぽけなものに思えてくる。
「ハッハァ! こりゃ、アタシたちの出番はなさそうだねぇ」
ケットルが酒袋を煽るが、その目は笑っていない。
職人として、彼らが使っている最高級の装備と、自分が打った『変な名前の武器』の差を痛いほど感じていた。
3. 搦め手への嘲笑
「……ねえ。あそこに罠があるよ。私が解除しようか?」
カノンが廊下の床を指差すが、蒼穹の重戦士が鼻で笑ってそのまま通り抜けた。
カチッ、という音と共に矢が放たれるが、彼の重厚な鎧が火花を散らしてそれを弾き返す。
「罠? そんなもの、いちいち解除する時間がもったいない。……力で押し通れば済む話だ」
カノンが苦虫を噛み潰したような顔をする。
自分たちが必死に磨いてきた「生き残るための知恵」が、圧倒的な「力」の前では無意味な遊びのように扱われる。
4. 捨て駒の予感
「……アリスター。なぜこんな奴らを連れてきたんだ?」
蒼穹の魔術師が不機嫌そうに尋ねる。
「見ての通り、足手まといだ。金貨100枚の価値なんて、どこにもないわ」
アリスターは答えず、ただ真っ直ぐ前を見据えていた。
「……リトル・リンク。君たちはまだ、自分の役割に気づいていないようだな」
その言葉の意図を測りかねたまま、二つのパーティは遺跡の最深部、ゴーレムが眠る『王の間』へと足を踏み入れる。
「……セイン。うちら、本当にここにいていいのかな」
クレアが震える声で尋ねる。
「……今は、耐えなさい。……必ず、私たちの『論理』が必要になる瞬間が来ます。……それまでは、最弱らしく、爪を研いでおくのです」
暗闇の奥で、巨大な岩の塊がゆっくりと動き出した。
リトル・リンク、今日もちょっとだけ成長中。
圧倒的なエリートの力に、プライドを折られかける5人。
でも、セインだけは何かを見極めようとしています。
第36話をお読みいただき、ありがとうございました。
今回はあえて、リトル・リンクの面々がこれまでにないほど「プライドをへし折られる」描写を重ねました。
Bランクという壁は高く、彼らの合理的な戦い方は一見すると完璧に見えます。しかし、セインの言う「効率だけでは超えられない壁」とは一体何を指しているのか……。
古のゴーレムが目覚め、戦いはついに最終局面へ。
エリートたちが「力」で押し通せなくなった時、泥臭い「リトル・リンク」の真価が問われることになります。




