第30話 金貨30枚の使い道と、カノンの指先
いつもお読みいただきありがとうございます。
前回、ひょんなことから手に入れた**「金貨30枚」**。
最弱パーティ「リトル・リンク」にとっては、まさに空前絶後の大金です。
「これで伝説の装備が買えるかも!?」と鼻息を荒くするクレアたちですが、果たして世の中そんなに甘いのでしょうか……。
今回は、彼らが自分たちの「現在地」をちょっぴり思い知る、背伸びと日常のお話です。
黄金の輝き、欲望の香り。
「……ねえ。これ、夢じゃないわよね?」
宿屋の使い込まれた木のテーブル。その中央に、パンパンに膨らんだ革袋が鎮座している。
クレアは壊れ物に触れるような手つきで、そっとその表面を撫でた。
ジャラリ。
重く、鈍く、それでいて妙に甘い音が部屋に広がる。
「夢なもんか! 見てよ、この指! 『今すぐカジノへ全力疾走しろ』って、ビリビリ来てるんだから!」
カノンが獲物を狙うような目で袋に身を乗り出す。すでに指先は紐へと伸びていた。
パシッ。
「……静かになさい」
セインのメイスの柄が、寸分の迷いもなくカノンの手を叩き落とす。
「いたっ! 何するのさ!」
「これはパーティの共有財産です。ギャンブルに消えるなど論外。まずは今後の活動資金として――」
「……鉄分、いっぱい……。レバー、山盛り……食べたい……」
ミルは言い争いなど耳に入っていない。ただ袋を見つめ、静かに幸せな未来を想像していた。
クレアは小さく息を吐く。
「……とりあえず、使い道はちゃんと考えよう。せっかくの大金なんだからさ」
その一言で、全員の視線が袋へと戻った。
⸻
「よし! せっかくだし、“強そうな装備”見に行こうよ!」
クレアの一声で、五人は街で一番大きな高級武具店へ足を運んだ。
重厚な扉が静かに開く。中には魔法の残り香と、高価な油の匂い。
壁には伝説級の剣、棚には巨大な魔石を嵌めた杖が並び、どれも眩しく輝いている。
「……うわ、すご……」
思わず声が漏れる。
「これカッコいい! 『雷神の剣』だって! すみません、これいくらですか?」
店員は五人の装備を一瞥し、丁寧な笑みを浮かべた。
「金貨300枚でございます」
沈黙。
空気が固まる。
金貨30枚。それは確かに大金だった。
けれど――ここでは、まるで足りない。
「……こっちの杖は?」
「金貨150枚です」
「……帰りましょう」
セインの判断は早かった。
「私たちには、まだ早い場所です」
⸻
店を出た瞬間、背後から笑い声が響いた。
「ガハハ! 名前負けした装備なんざ、今のあんたらには似合わんよ」
振り返ると、ケットルが酒臭い息を吐きながら立っていた。
「その金、アタシに預けな」
「え、全部!? ダメだよ!」
「バカ言え。新しいのを買うより、“今の相棒”を強くしたほうがいい」
ケットルはクレアの剣を指差す。
「補強して、調整して、馴染ませる。それだけで見違えるさ」
クレアは少し迷ってから、金貨を差し出した。
「……任せた」
ケットルはニヤリと笑い、素材屋へと消えていった。
⸻
その夜。
食卓には、いつもより少し豪華なレバー料理が並んでいた。
「……結局さ」
クレアが研磨された剣を見つめながら呟く。
「うちら、一気に最強にはなれないんだね」
「当然でしょ。……まあ、カジノならワンチャンあったけど」
「まだ言ってるの?」
「……でも、この杖……いい。前より、ちゃんと“くる”」
ミルが満足そうに杖を撫でる。
派手な伝説の武器じゃない。
けれど、自分たちに合った“今の武器”。
それが、少しだけ誇らしかった。
「よし!」
クレアが顔を上げる。
「また地道に稼ごう。300枚、目指してさ!」
袋は少し軽くなった。
でも――
五人の足取りは、ほんの少しだけ重く、そして強くなっていた。
リトル・リンク。今日もちょっとだけ成長中。
第30話をお読みいただき、ありがとうございました!
金貨30枚で最強になれるかと思いきや、伝説の武器は桁が違いましたね……。
でも、高級店で門前払い(?)を食らっても、自分たちの使い古した武器を「好き」と言えるあたり、彼女たちらしい成長が見えた気がします。
ケットルの職人技でリフレッシュされた「変な名前の武器」たち。
少しだけ手入れの行き届いた相棒と一緒に、リトル・リンクはまた明日から地道な依頼(とレバー代稼ぎ)に励むようです。
今後とも、彼女たちの「ちょっとずつ」な歩みを見守っていただけると嬉しいです!




