第3話「報酬は、手元に残りません?」
命がけの「爆弾運び」を終え、ボロボロになりながらも報酬を手にした五人。
ようやく一息つける……そう思った矢先、パーティ一の自由人・カノンが報酬の袋を持って夜の街へと消えてしまいます。
追いかけた先は、熱気と欲望が渦巻く「賭場」。
最弱パーティの全財産を賭けた、カノンの大勝負が始まります。
「……で、報酬は?」
煤で顔を黒くしたクレアが、ぐいっと身を乗り出した。
爆発する袋を運びきり、髪の毛が少しチリチリになっているが、その目は期待に満ちている。
依頼主の男は、爆風を浴び続けたクレアの姿に引き気味になりながら、ずっしりと重い革袋を差し出した。
「約束通りだ。……その、災難だったな。ご苦労」
「やったぁぁ……!」
受け取った袋の重みに、クレアの顔がパッと輝く。
セインも「やれやれ」と肩の力を抜き、ミルはパチパチと小さく拍手。ケットルは「これで今夜は特上のエールが飲めるねぇ」と喉を鳴らした。
けれど、一人だけ。
カノンだけが、じっとその袋を油断のない目で見つめていた。
1. カノンの「悪い癖」
「……ねぇ、ちょっとその袋、貸して?」
「いいよ、はいっ」
何の疑いもなく渡すクレア。カノンは中身をチラリと覗くと、ニヤリと不敵に口元を上げた。
「うん、ちゃんと入ってる。……ちょっと用事を思い出だしたから、先に行ってて!」
「は? カノン、どこに――」
言い終わる前に、カノンは風のように走り出していた。
「ちょっ! カノン、待ちなさいよ!!」
嫌な予感しかしない。クレアの叫びは、夕暮れの街並みに虚しく響いた。
「……追いましょう」
セインが即断する。
「ええ、絶対ろくでもないこと考えてるわ!」
クレアを先頭に、五人はカノンの後を追った。
2. 熱気渦巻く「勝負所」
通りを抜け、人混みをかき分け、辿り着いた先。
そこは、派手な看板と、野太い歓声、そして独特の金属音が漏れ出す場所――賭場だった。
「やっぱりここか!」
クレアが勢いよく扉を開けると、中は熱気に満ちていた。
その中心で、カノンはすでに席に着き、チップに換えた硬貨を指先で軽快に弾いていた。
「何してるのよ、カノン!」
「見ての通り」
カノンは振り返りもせず、場に出されたカードを凝視している。
「増やすんだよ。さっきの『爆弾運び』の割に合わない分までね」
「やめて! 減ったらどうすんの!」
「落ち着きなって。今は……『流れ』が来てるんだから」
「その台詞、聞き飽きたわよ!」
クレアが詰め寄るが、ディーラーが静かに手を止めた。
「……お客さん、どうします? 続けるなら受けるが」
「続ける」
カノンは即答した。
「ほら、見ててよ。私の直感は、さっきの爆発を避けた時から冴え渡ってるんだから」
3. クレアの「勇気ある撤退」
カードが配られる。一瞬の静寂。
カノンの目が鋭く細まり、チップを一点に置いた。
「――ここだ」
……勝った。
一気に倍になったチップを前に、カノンは得意げに笑う。
「ほらね? 言ったでしょ」
「……すごい」
思わず本音が漏れるクレア。隣で見ていたセインも、これには驚きを隠せない。
「ですが、カノン。深追いは禁物です。今のうちに引きましょう」
「えー、もっといけるよ?」
カノンはチップを指で弄び、じっとテーブルを見つめる。
「あと一回……あと一回だけ勝てば、今までの借金が全部チャラになるかもしれない」
賭場の空気が重くなる。ミルの手が震え、ケットルが酒を飲む手も止まった。
「ダメ」
クレアが力強く言い切った。
「今ので終わり! 増えたんだから、それで十分じゃん。これ以上は絶対にダメ!」
カノンは少しだけ不満げに目を細めたが、やがてふっと息を吐いた。
「……じゃあ、リーダーのクレアが決めてよ」
「えっ、私!?」
「今やめて帰るか、もう一回賭けるか。……あんたに任せるわ」
視線がクレアに集まる。
今やめれば、確実にプラス。でも、もう一回勝てば……。
クレアの頭の中で、天秤が激しく揺れる。
けれど、彼女は煤だらけの拳をギュッと握りしめた。
「……やめる! 今日はもう、おしまい!」
4. 「一人じゃない」から
「了解。リーダーの指示なら、従わなきゃね」
カノンは意外にもあっさりと引き下がり、チップをまとめて席を立った。
ディーラーが「惜しいねぇ、お嬢さん」と肩をすくめるが、カノンは振り返らない。
賭場を出ると、夜の風が心地よく、火照った顔を冷やしてくれた。
「……よかったぁ。本当に心臓に悪いわよ、あんた」
「つまんないの。あと一回いけたのにさ」
カノンがぼそっと呟くと、クレアは笑って彼女の肩を叩いた。
「でも、減らなかった。それどころか、増えたじゃん! 大金星だよ!」
「ふん。まあ、あんたが止めたからね」
カノンは袋をケットルに預けると、空を見上げた。
「……ありがと、カノン」
「なにがさ」
「ちゃんと、私の言うこと聞いて戻ってきてくれて」
カノンは一瞬だけ黙り、ふいっと視線を逸らした。
「……当たり前でしょ。一人の稼ぎじゃないんだから。……それに、一人で負けるより、みんなで笑ってる方がマシだしね」
「そうだね!」
クレアはにやっと笑い、再び歩き出した。
爆発したり、賭けをしたり、相変わらず危なっかしい五人。
けれど、報酬はちゃんと手元にある。
そして、その絆も――昨日よりほんの少しだけ、重くなっていた。
最弱パーティ、今日もちょっとだけ成長中。
カノンの危うい勝負師魂を、クレアが「リーダー」として見事に制御した回でした。
「もっと稼げるかも」という欲に勝つのは、ある意味で魔物を倒すより難しいことかもしれません。
確実に利益を持ち帰った彼らが、次はこのお金を何に使うのか……。
少しずつチームらしくなってきた五人の明日にご注目ください!




