第28話 バラバラな五人を繋ぐ「名前」
名前をつけるのは、ただの飾りじゃない。
呼び方が変われば、見え方が変わる。
見え方が変われば、少しだけ自分も変わる。
まだ未完成の五人が、
自分たちに「名前」を与える日。
それはきっと、小さな覚悟の話だ。
「……ねえ、これ見てよ」
宿屋のテーブル。クレアがギルドから渡された紙を広げた。
パーティ登録申請書。名前や役割は埋まっているのに、一番上だけが空白のまま残っている。
【 パーティ名:________ 】
「まだ決めてなかったね、うちらの名前」
クレアが顔を上げる。
「『最弱』のままでもいいんじゃない? 分かりやすいしさ」
カノンが肩をすくめて笑う。
「どうせ最初はナメられるんだし、看板でハードル下げとくのも手だろ?」
「やだよ!」
即座に否定。
「どうせならさ、ちょっとくらいカッコいいのにしたいじゃん! 名前負けでもいいから!」
「それはそれで問題だと思いますが……」
セインが小さくため息をつく。
「よし、じゃあ……『黄金の勝利者団』!」
「却下です」
早い。
「現実との乖離が大きすぎます。無用なトラブルの元になります」
「厳しい!」
「じゃあ『ラッキー・セブン』!」
「人数が足りません」
「ぐぬぬ……」
そこで、ケットルが低く笑った。
「名前なんざ、後からついてくるもんだがね」
酒袋を軽く揺らす。
「とはいえ、最初の看板ってのも大事だ。無理に背伸びするより、手に馴染むやつがいい」
少し考える。
「歯車みてえに、噛み合って動くってのはどうだ。『五枚の歯車』……まあ、固いか」
「……ちょっといいけどね」
カノンが頷く。
「でもさ、なんかこう……硬いんだよな。もっと“うちらっぽい”感じない?」
空気が少しだけ静まる。
その中で、ミルが小さく手を挙げた。
「……あの」
視線が集まる。
ミルは少しだけ躊躇って、それでも言葉を探した。
「……さっきの魔法の名前……『リトル・ガーネット』」
杖を抱きしめる。
「……小さいけど……ちゃんと形になってて……繋がってて」
言葉はゆっくりだけど、途切れない。
「……私たちも……バラバラで……まだ弱いけど」
少しだけ顔を上げる。
「……でも、今……一緒にいるから」
小さく息を吸って。
「……『リトル・リンク』……どうかな」
静寂。
誰もすぐには言葉を出さなかった。
最初に口を開いたのは、クレアだった。
「……いい」
ぽつり。
「めっちゃいい、それ」
顔が一気に明るくなる。
「派手じゃないけどさ、ちゃんと“うちら”って感じする!」
カノンもふっと笑う。
「まあ、大風呂敷よりはいいね。身の丈ってやつ」
「……実態にも合っていますし、意味も明確です」
セインが頷く。
「採用に異論はありません」
ケットルも肩をすくめた。
「いいじゃねえか。噛み合う前の歯車って感じでよ」
ミルは少し驚いた顔をして、それから、ほっとしたように笑った。
セインがペンを取り、申請書に書き込む。
【 パーティ名:リトル・リンク 】
「よし!」
クレアが拳を突き出す。
「これで今日から、うちらは『リトル・リンク』だ!」
自然と、五人の手が重なる。
まだ頼りない手。
でも、離れてはいない。
「さあて」
ケットルが立ち上がる。
「看板も決まったことだ。とりあえず、稼ぎに行こうじゃねえか」
「一番安いやつね」
カノンが笑う。
「現実的で助かります」
セインが淡々と返す。
笑い声が、朝の宿屋に広がる。
まだ弱い。まだ未完成。
それでも、少しだけ繋がった。
最弱パーティ――改め、
「リトル・リンク」
今日も、ほんの少しだけ前に進む
パーティ名が決まりました。
「リトル・リンク」。
強くもなく、派手でもない名前ですが、
この物語の方向性を一番よく表している名前だと思います。
この五人は、完成された仲間ではありません。
むしろ欠けていて、ズレていて、まだ噛み合っていない。
それでも「繋がろうとしている」こと自体が、
彼女たちの強さになっていきます。
ここから先、この名前がどれだけ“意味を持つか”。
ゆっくり見ていってもらえたら嬉しいです。




