第26話 地獄の晩餐会と、消えた味覚
冒険者にとって、食事はただの休息ではありません。
体力を回復し、次の戦いに備えるための大切な時間です。
ですが――
素材の扱いを間違えれば、それは力ではなく試練にもなります。
今回は、そんな少しだけ危険な「食事」の話です。
「……よし、今夜はアタシが腕を振るってやるよ」
宿屋の共同キッチン。
ケットルは上機嫌で大鍋をかき混ぜていた。
ぐつぐつと重たい音。
鍋の中から立ち上るのは、明らかに普通ではない赤い蒸気。
昨日収穫したフレイム・ペッパー。弾に使う分を差し引いても、まだ山のように余っている。
「本当!? ケットルの料理、元気出るから好きなんだよね!」
クレアが身を乗り出す。
「……ねえ。その鍋、赤い蒸気出てるんだけど」
カノンが一歩下がる。
「食えばわかるさ。ドワーフ流の激辛シチューだよ」
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1. 運命の一口
テーブルに並ぶのは、深紅のシチュー。
表面で泡立つそれは、まるで小さな火山のようだった。
近づくだけで、鼻の奥がツンと痛む。
「いただきまーす!」
クレアが迷いなく口に運ぶ。
「…………」
静寂。
「……おいし……い……?」
(……あれ?)
次の瞬間。
喉の奥から、焼けるような熱がせり上がった。
「……あづいぃぃぃーーー!!」
ガタンッ!!
椅子を蹴り飛ばし、窓へ一直線。
「落ち着きなさい」
セインが即座に拘束する。
「……ミル、氷を」
「……は、はいっ!」
氷が口に入る。
――ジュッ。
一瞬で蒸発。
「効いてない! 全然効いてないよこれ!」
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2. 冷静な崩壊
「……確認しておきましょう」
セインがスプーンを取る。
ほんの一口。
「…………」
眼鏡が曇る。
「……結論。これは食品ではありません」
一拍。
「……内臓への直接攻撃です」
さらに一拍。
「……カノン、絶対に食べてはいけま――」
バタッ。
「セインーー!?」
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3. 理解不能な文化
「ちょっとケットル! これ毒でしょ!?」
カノンが叫ぶ。
「失礼なねぇ。ドワーフの里じゃ、風邪薬代わりに使う代物さ」
ケットルは平然と食べ続ける。
完食。
エールを一口。
「ほら、遠慮するな。身体が温まるよ」
「温まるどころか燃えるでしょ!!」
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4. 翌朝
宿の食堂。
四人、真っ白に燃え尽きていた。
「……おはよ……」
クレアの声は枯れている。
「……味、しない……。何食べても……熱い……」
カノンが遠い目をする。
「……胃が……熱い……」
ミルがふらつく。
セインは無言で胃薬を飲み、手帳に書き込む。
【記録:フレイム・ペッパーの過剰摂取は極めて危険。調理使用は禁止】
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「あはは、いい顔してるじゃないか。少しは効いたろう?」
一人だけ元気なケットル。
四人は無言で視線を交わす。
(……もう二度と食べない)
(……絶対に)
(……弾だけ)
(……それ以外は禁止)
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その日、パーティ内で一つのルールが決まった。
フレイム・ペッパーは――
武器としてのみ使用すること。
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最弱パーティ、今日もちょっとだけ成長中。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回はフレイム・ペッパーを巡る、少し騒がしい日常回でした。
強力な素材ほど扱いが難しく、
使い方ひとつで武器にも負担にもなります。
今回の経験で、
彼女たちは「使い方」の大切さを身をもって学びました。
戦い方だけでなく、
生き残るための知識もまた、少しずつ積み重なっています。
また少しだけ、成長しています。




