第23話 刻まれた名は、覚悟の証(ということにしたい)
武器には、名前がつきます。
格好いいものもあれば、意味深なものもあり、ときには少し恥ずかしいものもあります。
けれど、その名前には必ず理由があります。
使う者の癖。戦い方。そして、今の姿。
今回は、少しだけ恥ずかしくて、でもちゃんと自分たちらしい名前の話です。
「……あ、あの。本当に書かなきゃダメかな?」
ギルドの受付カウンター。
クレアは真っさらな装備変更届を前に、震える手でペンを握っていた。
ギルドでは、保険やランク査定のために「メイン武器の名称」を登録する決まりがある。
「はい。銘がある場合は必ずご記入ください」
受付の女性が、営業用の柔らかい笑顔で促す。
クレアは隣のセインとカノンを見る。
二人とも、綺麗に視線を逸らした。
逃げ場はない。
クレアは覚悟を決めて書いた。
武器名:『とりあえず突っ込む用の剣』
「……ぷっ」
受付の女性の頬がわずかに揺れた。
「……分かりやすいお名前ですね。では次の方」
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カノンが面倒くさそうにペンを取る。
武器名:『借金回避の双牙』
「……切実さが伝わってきますね」
「ほっといて」
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ミルは震えながら書いた。
武器名:『もう壊さない(予定)の杖』
「……(予定)に慎重さを感じます」
「……うぅ……」
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最後にセイン。
淀みなく書く。
武器名:『静かになさい(物理)の槌』
「…………」
受付の女性は一瞬止まり、
静かに頷いた。
「……非常に合理的なお名前ですね。登録完了です」
わずかに笑みが漏れる。
背後から、忍びきれない笑い声。
五人は何も言わず、その場を後にした。
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「……もう、ケットルのバカぁー!」
街の外。
クレアが顔を真っ赤にして叫ぶ。
「いいじゃない。名前はともかく、性能は本物なんだから」
カノンが双剣を回す。
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その時。
茂みが揺れた。
現れたのは――ワイルドボア。
「来た……! 試すよ!」
クレアが剣を抜く。
頭に浮かぶ。
『とりあえず突っ込む用の剣』
「……だったら、やるしかないでしょ!」
迷いを捨てる。
一直線に踏み込む。
無駄のない軌道。
剣が吸い込まれる。
――ザシュッ!!
一撃で沈む。
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「……すごい」
クレアが息を吐く。
カノンが動く。
流れるような回避と斬撃。
「……なんか、ツキいいね」
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「……私も」
ミルが杖を構える。
魔力は暴れない。
整っている。
『壊さない(予定)』
その言葉が、確かに働いていた。
一点だけを撃ち抜く。
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最後の一匹。
セインが前に出る。
「静かに」
振り下ろす。
――ドゴォン!!
そして、沈黙。
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「……名前は最悪。でも、最高だね」
クレアが剣を見る。
「性能に思想が反映されていますね」
セインが頷く。
「名前は聞かれたらごまかそう」
カノンが言う。
全員、即座に頷いた。
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不器用な名前。
不格好な今。
でも――
それは間違いなく、自分たちの現在だった。
「よし! もっと強くなるよ!」
夕暮れの街道に笑い声が響く。
恥ずかしさよりも、
少しだけ自信が勝った一日。
最弱パーティ、今日もちょっとだけ成長中。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回は武器の「名前」に焦点を当てた回でした。
見た目や響きだけでなく、その人の戦い方や性格をそのまま表した名前。
最初は恥ずかしくても、使っていくうちにしっくりくる。
そんな変化も、成長の一つかもしれません。
自分の弱さや癖を受け入れること。
それが、次の一歩に繋がっていきます。
また少しだけ、成長しています。




