第18話 「安い依頼は、だいたい安く済まない」
冒険者の仕事は、危険で、大きくて、派手なものばかりではありません。
誰にも注目されない、報酬も安い、地味で退屈に見える仕事もあります。
けれど、そういう依頼の中にこそ、自分たちの成長がはっきりと見えることがあります。
今回は、少しだけ地味で、少しだけ確かな手応えのある話です。
「……安いね」
ギルドの掲示板の前で、クレアがぽつりと呟いた。
指先でつまんでいるのは、端に残っていた薄汚れた依頼書。
「『倉庫整理。日当・安。期間・一日』……見事に安いわね」
「だから売れ残ってるんでしょ。誰が好き好んでそんな地味な仕事するのさ」
カノンが呆れたように鼻を鳴らす。
「でも、危険なしって書いてあるよ? 私たちにはこれくらいが丁度いいって!」
「その言葉、この一週間で何回裏切られたと思ってるのよ……」
カノンが顔をしかめる。
その横で、セインが依頼書を覗き込んだ。
「純粋な肉体労働ですね。戦闘の可能性も低いでしょうし、今の私たちの肩慣らしには最適かもしれません」
「よし、決まり! 安いけど平和が一番!」
クレアは勢いよく依頼書を剥がし取った。
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倉庫は街の外れ、古い石造りの建物だった。
扉を開けると、ひんやりとした空気と埃の匂いが流れ出てくる。
「うわぁ……暗いし、箱だらけ」
クレアが顔をしかめる。
セインは手際よくランタンに火を灯した。
「奥から順に出してください、と依頼主の老人は言っていました。壊さないように運びましょう」
作業が始まると、ケットルの本領が発揮される。
「よっこいしょ、と……。あぁ、このくらいなら二ついっぺんにいけるねぇ」
大きな木箱を軽々と担ぎ上げ、流れるような動作で外へ運んでいく。
「……すご。ケットルさん、かっこいい」
ミルが目を輝かせる。
「これが職人の手つきだよ。見てな、重心の置き方が違うんだから」
「……ねえ、戦士の私の立場は?」
クレアがぼそりと呟くと、
「元気よく返事する係でしょ」
カノンが即座に切り捨てた。
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作業開始から数時間。
倉庫の奥、一段と空気の重い場所に差し掛かった時だった。
「……ねぇ。今、あそこの箱、動かなかった?」
ミルの小さな声に、全員の動きが止まる。
「気のせいじゃない? 埃でも落ちたんじゃ――」
ガタッ、ガタガタッ!
言い終わる前に、箱の隙間から赤い目が無数に光った。
「……気のせいじゃなかったわね。出たよ、埃の魔物」
カノンが短剣を抜く。
「やっぱり『危険なし』なんて嘘っぱちじゃない!」
「もう慣れたでしょ! ほら、来るよ!」
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以前の彼女たちなら、ここで崩れていただろう。
けれど今の五人は違った。
「クレア、前! 右からくるよ!」
「わかってる! 一!」
クレアが踏み込み、迷いなく剣を振り抜く。
「二!」
カノンが影のように動き、横から来た魔物を仕留める。
「……小さく。ちょっとだけ……」
ミルが杖を構え、最小限の魔力を放つ。
一角だけを正確に吹き飛ばし、倉庫は傷一つつかない。
「まとめるよ!」
ケットルが空箱を盾代わりに使い、魔物の動きを封じる。
その背後で、セインが冷静に声をかけた。
「残りわずかです。焦らずいきましょう」
数分後。
倉庫には、再び静けさが戻っていた。
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「……終わった?」
クレアが息を吐き、剣を収める。
「ええ。もう動くものはありません。残りの整理を終わらせましょう」
作業を再開する。
さっきよりも、明らかに手際がいい。
言葉を交わさなくても、自然と役割が噛み合っていた。
「……なんかさ」
クレアが荷車を押しながら笑う。
「普通に倒せちゃったね。私たち、強くなってない?」
「普通ではないけどね。……まあ、前よりはマシかも」
カノンがそっけなく答える。
「……怖いけど、できた。……壊さなかった」
ミルも自分の手を見つめ、小さく頷く。
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作業終了後、夕焼けの中で報酬を受け取る。
「……よし。減ってないし、ちょっとおまけしてくれた!」
クレアは袋の重みを確かめた。
「ねえ。……なんか、ちゃんと冒険者してる気がする!」
「……ちょっとだけ、ね」
カノンが笑う。
ミルが微笑み、セインが静かに目を細める。
ケットルが酒袋を揺らした。
「じゃあ、この安い報酬で旨い酒でも飲みに行こうかねぇ!」
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小さな仕事。小さなトラブル。
けれどそれは確実に、五人の血肉となっていく。
最弱パーティ、今日もちょっとだけ成長中。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回は「小さな依頼での成長」を描いた回でした。
大きな敵ではなく、大きな事件でもない。
それでも、以前なら苦戦していた相手を、落ち着いて対処できるようになった。
その変化はとても小さいですが、確実に積み重なっているものです。
派手な勝利ではありませんが、こういう積み重ねこそが、このパーティの強さになっていくのだと思います。
また少しだけ、成長しています。




