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最弱パーティ、今日もちょっとだけ成長中  作者: beck2026


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18/50

第18話 「安い依頼は、だいたい安く済まない」

冒険者の仕事は、危険で、大きくて、派手なものばかりではありません。


誰にも注目されない、報酬も安い、地味で退屈に見える仕事もあります。


けれど、そういう依頼の中にこそ、自分たちの成長がはっきりと見えることがあります。


今回は、少しだけ地味で、少しだけ確かな手応えのある話です。

「……安いね」


ギルドの掲示板の前で、クレアがぽつりと呟いた。


指先でつまんでいるのは、端に残っていた薄汚れた依頼書。


「『倉庫整理。日当・安。期間・一日』……見事に安いわね」


「だから売れ残ってるんでしょ。誰が好き好んでそんな地味な仕事するのさ」


カノンが呆れたように鼻を鳴らす。


「でも、危険なしって書いてあるよ? 私たちにはこれくらいが丁度いいって!」


「その言葉、この一週間で何回裏切られたと思ってるのよ……」


カノンが顔をしかめる。


その横で、セインが依頼書を覗き込んだ。


「純粋な肉体労働ですね。戦闘の可能性も低いでしょうし、今の私たちの肩慣らしには最適かもしれません」


「よし、決まり! 安いけど平和が一番!」


クレアは勢いよく依頼書を剥がし取った。



倉庫は街の外れ、古い石造りの建物だった。


扉を開けると、ひんやりとした空気と埃の匂いが流れ出てくる。


「うわぁ……暗いし、箱だらけ」


クレアが顔をしかめる。


セインは手際よくランタンに火を灯した。


「奥から順に出してください、と依頼主の老人は言っていました。壊さないように運びましょう」


作業が始まると、ケットルの本領が発揮される。


「よっこいしょ、と……。あぁ、このくらいなら二ついっぺんにいけるねぇ」


大きな木箱を軽々と担ぎ上げ、流れるような動作で外へ運んでいく。


「……すご。ケットルさん、かっこいい」


ミルが目を輝かせる。


「これが職人の手つきだよ。見てな、重心の置き方が違うんだから」


「……ねえ、戦士の私の立場は?」


クレアがぼそりと呟くと、


「元気よく返事する係でしょ」


カノンが即座に切り捨てた。



作業開始から数時間。


倉庫の奥、一段と空気の重い場所に差し掛かった時だった。


「……ねぇ。今、あそこの箱、動かなかった?」


ミルの小さな声に、全員の動きが止まる。


「気のせいじゃない? 埃でも落ちたんじゃ――」


ガタッ、ガタガタッ!


言い終わる前に、箱の隙間から赤い目が無数に光った。


「……気のせいじゃなかったわね。出たよ、埃の魔物ダストモブ


カノンが短剣を抜く。


「やっぱり『危険なし』なんて嘘っぱちじゃない!」


「もう慣れたでしょ! ほら、来るよ!」



以前の彼女たちなら、ここで崩れていただろう。


けれど今の五人は違った。


「クレア、前! 右からくるよ!」


「わかってる! いち!」


クレアが踏み込み、迷いなく剣を振り抜く。


!」


カノンが影のように動き、横から来た魔物を仕留める。


「……小さく。ちょっとだけ……」


ミルが杖を構え、最小限の魔力を放つ。


一角だけを正確に吹き飛ばし、倉庫は傷一つつかない。


「まとめるよ!」


ケットルが空箱を盾代わりに使い、魔物の動きを封じる。


その背後で、セインが冷静に声をかけた。


「残りわずかです。焦らずいきましょう」


数分後。


倉庫には、再び静けさが戻っていた。



「……終わった?」


クレアが息を吐き、剣を収める。


「ええ。もう動くものはありません。残りの整理を終わらせましょう」


作業を再開する。


さっきよりも、明らかに手際がいい。


言葉を交わさなくても、自然と役割が噛み合っていた。


「……なんかさ」


クレアが荷車を押しながら笑う。


「普通に倒せちゃったね。私たち、強くなってない?」


「普通ではないけどね。……まあ、前よりはマシかも」


カノンがそっけなく答える。


「……怖いけど、できた。……壊さなかった」


ミルも自分の手を見つめ、小さく頷く。



作業終了後、夕焼けの中で報酬を受け取る。


「……よし。減ってないし、ちょっとおまけしてくれた!」


クレアは袋の重みを確かめた。


「ねえ。……なんか、ちゃんと冒険者してる気がする!」


「……ちょっとだけ、ね」


カノンが笑う。


ミルが微笑み、セインが静かに目を細める。


ケットルが酒袋を揺らした。


「じゃあ、この安い報酬で旨い酒でも飲みに行こうかねぇ!」



小さな仕事。小さなトラブル。


けれどそれは確実に、五人の血肉となっていく。


最弱パーティ、今日もちょっとだけ成長中。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


今回は「小さな依頼での成長」を描いた回でした。


大きな敵ではなく、大きな事件でもない。


それでも、以前なら苦戦していた相手を、落ち着いて対処できるようになった。


その変化はとても小さいですが、確実に積み重なっているものです。


派手な勝利ではありませんが、こういう積み重ねこそが、このパーティの強さになっていくのだと思います。


また少しだけ、成長しています。

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