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最弱パーティ、今日もちょっとだけ成長中  作者: beck2026


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第16話 「前に出る理由と、出られなかった日」

強くなりたいと思う理由は、人それぞれです。


誰かを守るため。

負けないため。

失わないため。


けれどその奥には、

「怖い」という気持ちが隠れていることが多いのかもしれません。


前に出るのが怖い。

足が止まるのが怖い。

もう一度、同じことを繰り返すのが怖い。


それでも、一歩を踏み出そうとする。


今回は、そんな一歩の話です。

街が目覚める前の早朝。冷たい空気が、肌を刺すように張りつめていた。


クレアは宿の裏庭で、一人剣を振っていた。


――スッ。


ケットルに手入れしてもらった剣は、驚くほど軽い。


けれど、振り抜くたびに、胸の奥に言葉にできない「重み」が残る。


「……足りない」


もう一度、踏み込んで振る。


けれど、理想の軌道とはどこかズレている。納得できなくて、何度も同じ動作を繰り返した。


「……はぁ、ダメだ……」


剣を下ろし、白い息を吐き出す。


その時だった。


「朝から熱心ですね。昨夜はあれだけ飲んでいたのに」


背後からの声に、クレアは肩を跳ねさせた。


振り返ると、セインがいつも通りの涼しい顔で立っていた。


「……セインか。起きてたんだ」


「ええ。あなたの剣の音が、少し焦っているように聞こえましたから」


セインがクレアの剣を静かに見つめる。


「フォームは悪くありません。……ですが、『悪くない』止まりですね」


「……わかってるよ。それ以上になれないんだ」


クレアは苦笑しながら、剣を鞘に収めた。


「ねえ、セイン」


柄を握ったまま、ぽつりと続ける。


「セインはさ……戦うのが『怖い』って思ったこと、ある?」


セインはすぐには答えなかった。


夜明け前の空を見上げる。


「……ありますよ。何度も」


静かな声。


「私は奇跡を信じない人間です。だからこそ、常に最悪を想定してしまう」


「……だよね」


クレアは小さく笑った。


「私も、ずっと怖いんだ。特に……前に出るとき」


視線を落とし、言葉を選ぶ。


「昔、一回だけあったんだ。仲間がやられそうになったのに、足がすくんで動けなかったことが」


手が、わずかに震える。


「頭では『行かなきゃ』ってわかってるのに、体が石みたいに固まって……」


風が吹き抜ける。


「その間に、全部終わっちゃった」


短く息を吐く。


「だから決めたんだ。もう迷わないって。私は前に出るって」


握る手に、力がこもる。


「でもさ……今でも思うんだ。また止まったらどうしようって」


小さな声。


「みんながいるから強がれてるけど、本当は――」


「それで十分ですよ」


セインの声が、静かに差し込んだ。


「え?」


「一人で完結する必要はありません」


セインはまっすぐに言う。


「あなたは一人で戦っているのではない。パーティがあるのですから」


「……でも、私リーダーだよ? 強くないとダメじゃん」


「自称ですよね?」


「そこ今言う!?」


クレアが思わず顔を上げる。


セインの口元がわずかに緩む。


「前に出る人が、必ずしも一番強い必要はありません」


一拍置く。


「出られない時は、出なくていい」


「それ、戦士としてどうなのよ」


「パーティとしては正解です」


迷いのない声。


「動けない時は、他の誰かが補います。あなたも、同じように誰かを支えているはずです」


クレアは言葉を失い、少しだけ俯いた。


それから、ゆっくりと息を吸う。


「……そっか」


剣を握り直す。


「一人で全部背負わなくていいんだ」


「ええ。その代わり、出られる時は――しっかり前に出てください」


「……了解」


クレアは前を見据え、もう一度剣を振る。


――シュッ。


今度は、迷いの少ない音がした。


「……ほんとに、ちょっとだけマシになった気がする」


「ええ。それで十分です」


セインが頷く。


「その『ちょっと』の積み重ねが、いずれ大きな差になります」


空が白み始める。


宿の方から、ケットルのあくびやカノンの声が聞こえてきた。


「……よし! 今日もやるか!」


「ええ、行きましょう」


まだ完成には程遠い。


強いとも言えない。


それでも――


クレアの足取りは、昨日よりほんの少しだけ、確かに地面を踏みしめていた。


最弱パーティ、今日もちょっとだけ成長中。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


今回はクレアの内面に少し踏み込んだ回でした。


強くなりたいと思いながらも、

過去の失敗が足を引っ張る。


それでも、完全に克服するのではなく、

「抱えたまま進む」という形を選んだのが今回の変化です。


一人で乗り越える必要はない。

仲間がいるから、止まってもいい。


そう思えるようになったこと自体が、

彼女にとっては大きな一歩でした。


まだ強くはありません。

でも、もう簡単には止まりません。


また少しだけ、成長しています。

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