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最弱パーティ、今日もちょっとだけ成長中  作者: beck2026


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第14話 「嘘と駆け引き」

森で相手にしていたのは、目に見えない「ズレ」。


けれど街に戻れば、

今度は目に見えているはずのものが、平然と奪われる。


剣も魔法も通じない相手。

力ではなく、隙と油断を狙ってくる敵。


そんな相手に必要なのは、

強さではなく「見抜く力」だった。


今回は、戦わずに勝つための準備の話です。

「もう一度、依頼を受けたいんだ」


クレアが身を乗り出して言うと、商人はほんの一瞬だけ目を細めた。


すぐに貼り付けたような笑顔を浮かべる。だが、そのわずかな**「間」**をカノンは見逃さない。


「おや、またかい? 助かるよ」


「前回、なにかおかしなことはなかった?」


「……ありました」


クレアが正直に口を開いた瞬間、カノンが横からひょいと口を押さえた。


「なーんにもなかったよ。ねっ?」


カノンはにやりと笑って、商人の顔を覗き込む。


商人の目がわずかに泳ぎ、肩の力が抜けた。


「そうか、それはよかった」


「ええ、とっても。だからもう一回。……同じ条件でいいよね?」


「ああ、もちろんだとも。準備してくるよ」


商人が背を向ける。


その瞬間、カノンの目が細くなる。**「確定」**だ。


「ちょっとカノン! なんで止めるのよ!」


商人の姿が見えなくなるなり、クレアが声を荒げる。


「今言ったら終わりだよ。“証拠は?”で押し切られる」


カノンは軽く肩をすくめた。


「だから、もう一回。今度はみんなで**『現行犯』**を押さえる」


セインが静かに頷く。


「冷静にいきましょう。今回は戦闘ではなく『観察』が最優先です」


カノンが指を三本立てる。


「ポイントは三つ。荷車、報酬の袋、それから……あの人の“指先”」


「指先? なんで?」


クレアが首を傾げる。


カノンはいたずらっぽく笑った。


「いいから見てなって。ギャンブラーの勘」


出発してからも、五人の視線は常に商人へ向けられていた。


「……普通に見えるけどなぁ」


クレアが小声で呟く。


「しー。右手、見て」


カノンが囁く。


「腰の袋、何度も触ってるでしょ?」


言われてみれば、商人は何度も袋を指先でなぞっている。


「……ほんとだ」


「気にしてるんだよ。中身か、タイミングか……どっちにしても“やる気”ってこと」


「……緊張、してる」


ミルが小さく呟く。


後方で荷を担ぐケットルが、酒瓶を揺らして笑った。


「悪いこと考えてる顔だねぇ。そういうのは、見りゃ分かるさ」


「よし……来るよ。一番分かりやすいところで」


日が傾き、休憩の時間。


商人がふいに背を向け、少しだけ距離を取った。


「……今だ」


カノンの低い声。


全員の意識が一点に集中する。


商人が袋をわずかに開き、指を滑り込ませる。


カチ、と小さな硬貨の音。


「――はい、そこまで」


カノンの声が空気を切った。


クレアが飛び出す。


「ちょっと待って! 今、何したの!?」


「な、なんだい急に」


「ごまかさないで。その手、見せて!」


カノンが横から手首を取る。


指の間から、金貨が一枚こぼれ落ちた。


「……あ」


クレアの表情が固まる。


怒りと、ほんの少しの失望。


「やっぱり……抜いてたんだ」


「……少しだけなら、バレないと思って。いつも……やってたんだ……」


商人は視線を落としたまま、かすれた声で言う。


「最低だよ。うちら、あんたを信じてたのに」


クレアの声は静かだったが、強く響いた。


ケットルが腕を組む。


「信用削って稼ぐ金なんて、酒の肴にもなりゃしないねぇ」


商人は震える手で、これまで抜いた分も含めて報酬を差し出した。


カノンがそれを受け取り、素早く数える。


「……これで全部。次はもうないよ」


五人は商人と別れ、夕暮れの道を歩き出す。


袋は、今度こそずっしりと重かった。


「……守れたね」


クレアがぽつりと言う。


カノンが肩を軽く叩いた。


「お金もそうだけど、“プライド”もね。ちょっとは冒険者っぽくなってきたんじゃない?」


「ええ、今回は及第点ですね」


セインが穏やかに微笑む。


「……爆発させなくて、よかった」


ミルが小さく息を吐く。


五人の足取りは、来た時よりもほんの少しだけ、しっかりしていた。


最弱パーティ、今日もちょっとだけ成長中。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


今回は「現行犯を押さえる」という、

シンプルだけど一番確実な方法での解決でした。


森での経験を経て、

ただ守るだけでは足りないと理解した彼女たちが、

一歩踏み込んで「見抜く側」に回った回でもあります。


相手は魔物ではなく人間。

嘘をつき、隙を突き、笑顔で奪ってくる存在です。


だからこそ、

同じように隙を見抜き、確実に押さえる必要がありました。


大きな力はまだありませんが、

確実に「負けないための知恵」は身についてきています。


また少しだけ、成長しました。

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