第13話 「増えない報酬と、増える疑い」
今回の相手は、魔物でも怪異でもありません。
人間です。
森の中では「見えないもの」に苦しめられ、街に戻れば「見えているはずのもの」を奪われる。
どちらも同じくらい厄介で、どちらも油断した瞬間に足元をすくわれる相手です。
力ではどうにもならない相手に、彼女たちはどう向き合うのか。
今回は、少しだけ“戦い方”が変わる話です。
…ねえ。なんかこれ、**『軽い』**気がしない?」
街の広場。冒険終わりの、報酬確認の時間だ。
リーダーのクレア(人間)が、期待と不安が入り混じった顔で革袋を持ち上げた。
「おいおい、縁起でもないこと言わないでよ」
カノン(魔族)が、面白がるようにニヤニヤしながら覗き込む。
「ボクの直感だと、今回の苦労に見合うだけの“重み”はあるはずなんだけどね?」
「確認しましょう。私が最後に数えた時は、確かだったはずです」
セイン(ハーフエルフ)が丁寧な手つきで袋の紐を解いた。
中身を広場に広げた瞬間、全員の動きが止まる。
「……あれ?」
クレアが首を傾げた。
「どうしました、クレア」
「……少ない。っていうか、明らかに足りない!」
しんと静まり返る五人。
「はぁ!?」
カノンがひったくるように袋を奪い、逆さにして振る。
「……マジだ。これ、提示された額の七割くらいしかないよ。笑えないギャンブルになっちゃったね」
笑ってはいるが、その声にはわずかな鋭さが混じっていた。
「ちょっと待って! ちゃんと持ってたよね!? 途中で魔物に盗られたりしてないわよね!?」
慌てるクレアに、セインが静かに首を振る。
「あり得ません。森を抜けたあとも、私が三回、カノンが二回確認しています。消失の影響も、スリの形跡もありません」
「じゃあ、なんでよ!?」
その叫びの横で、ケットル(ドワーフ)が酒瓶を軽く揺らしながら鼻を鳴らした。
「……ありゃあ、あの商人の“指先”だねぇ。最初から抜いてたか、渡す瞬間にやったか。ドワーフの細工でもなきゃ気づけない手際さ」
「そんなことある!? 私たち、あんなに一生懸命守ったのに!」
「あるんだよ、クレア」
カノンが肩をすくめる。
「相手は海千山千の商人。ボクらみたいな『最弱』って言われてるパーティなら、少しくらい抜いても気づかないし、気づいても文句は言えないって舐められたのさ」
「……でも、あのおじさん。最後に『ありがとう』って、笑ってくれた……」
ミル(ヴァンパイア)が、小さく震える声で呟く。
「その笑顔が一番高い授業料だったってわけ。ムカつくねぇ」
カノンが皮肉っぽく吐き捨てた。
クレアがギリッと奥歯を噛み締める。
「……決めた。確認しに行く!」
「いいねぇ。暴動? 殴り込み? ボク、そういうの嫌いじゃないよ」
「カノン、楽しむんじゃありません」
セインがすぐに釘を刺す。
「感情的に怒鳴り込んでも『証拠は?』で終わりです。最悪、衛兵を呼ばれてこちらが不利になります」
「う……」
図星を突かれ、クレアが言葉に詰まる。
「……じゃあ、どうすればいいのよ。泣き寝入り?」
カノンが、細く目を細めて指を一本立てた。
「いいや。クレアならこう言うと思ってたよ」
「……もう一回、同じことをさせるの」
「は?」
「もう一度、あの商人の護衛依頼を受けるのよ」
クレアが、今度は迷いなく言い切った。
「今度はただの護衛じゃない。**『絶対に見逃さない目』**を持って受けるの。ズルをするその瞬間を、現行犯で押さえる!」
「なるほど、現行犯か。ボクの“盗賊の勘”の使い所だね」
カノンがニヤリと笑う。
「合理的ですね。二度目なら相手も油断するでしょう。“前回はバレなかった”と考えるはずです」
セインも、静かに頷いた。
「ハハッ、二度目の報酬に加えて、酒代もきっちり出してもらおうじゃないかねぇ」
ケットルが愉快そうに笑う。
「……やる。今度は、ミルも……ちゃんと見てる」
ミルも、小さく、けれど確かな声で頷いた。
クレアは深く息を吸い、広場の先の商館を見据える。
「今度は一枚だって減らさせない。お金も、私たちの信用も!」
「……どっちも守るのが一番難しいんだけどね。ま、付き合うよ」
カノンが軽く肩を叩き、五人は歩き出す。
向かう先は、あの強欲商人。
守るだけじゃない。見抜き、奪い返す。
最弱パーティ、今日もちょっとだけ、知恵がついてきた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回は、戦闘ではなく「人との駆け引き」が中心の回でした。
森での経験を経て、ただ守るだけでは足りないと気づいた彼女たちが、一歩踏み込んで「見抜く側」に回ろうとしています。
相手は魔物よりも厄介な存在です。嘘をつき、笑顔で奪い、しかも証拠がなければ何もできない。
それでも、やられっぱなしで終わるつもりはありません。
次はもう一度、同じ依頼へ。
今度は守るためではなく、見抜くために。
また少しだけ、成長します。




