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最弱パーティ、今日もちょっとだけ成長中  作者: beck2026


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第12話 「消えないために、繋ぎ止める」

この森では、「あるはずのもの」が簡単に消える。


荷物。

記憶。

そして、存在そのもの。


見えない何かに削られていく世界の中で、

彼女たちはようやく一つの答えに辿り着いた。


それは特別な力でも、強力な魔法でもない。


声を重ねること。

互いを認識し続けること。


ただそれだけの行為が、

この歪んだ現実に対抗する唯一の手段だった。


そして今回、

その答えを試す時が来る。


最弱パーティが、世界そのものに手を伸ばす話です。

1. 現実が「ほころぶ」場所

いち」「」「いち」――。

途切れることのないカウントが、重苦しい空気を切り裂き続ける。

森の最深部。そこは、もはや「静か」という言葉では足りないほど、音が死に絶えていた。

「……ここだね」

カノンが足を止め、顎で前方を示す。

そこには、陽炎かげろうのようにゆらゆらと歪んだ空間があった。

景色が裏返り、色彩が混ざり合う。そこだけ現実の壁が薄くなり、得体の知れない「虚無」が口を開けているかのようだ。

「……なに、これ。生きてるの?」

クレアが剣を構えたまま、ごくりと唾を飲み込む。

近づくだけで、足元がふわふわと浮き上がり、自分が自分でなくなっていくような不気味な感覚に襲われた。

2. 「繋ぎ止める」ための無茶苦茶な理屈

「……吸い込まれそう。怖い……」

ミルが震える声で呟く。けれど、今度は逃げ出さなかった。

「壊せるかな? これ」

カノンが短剣を弄ぶが、セインが即座に首を横に振る。

「物理的な攻撃は意味をなさないでしょう。触れる実体がないのですから」

「じゃあ、放っておく? 荷車を通せば、また何かが消えるだけだよ」

クレアが歪みを見据える。形はない。けれど、そこには確実に「何か」がいる。

「……繋ぎ止めるよ」

クレアがぽつりと呟いた。

「さっき、ミルが消えかけた時にやったこと。名前を呼んで、ここにいるって言い張ったでしょ? あの時よりもっと強く、みんなでやるの!」

「空間相手に、存在の固定化を挑むっていうのかい?」

ケットルが呆れたように笑う。

「やるしかないでしょ。少しずつだけど、私たち、できるようになってるんだから!」

セインが眼鏡を押し上げ、静かに頷いた。

「……理屈は通ります。この場を『あるべき姿』として認識し続け、概念として引き止める。一人では無理ですが、五人の意識を揃えれば……!」

3. 五つの声、一つの現実

五人が歪みの前に並んだ。

引き込まれるような強烈な引力。意識がぼやけ、自分が誰なのかさえ忘れそうになる。

「……いくよ。いち!」

クレアが先陣を切った。

!」カノンが続く。

いち!」セイン。

!」ミル。

いち!」ケットル。

声が重なる。歪みが激しくのたうち、さらに強く彼女たちを飲み込もうとする。

「止めるな! 声を張って!」

クレアが叫ぶ。「いち! ここにある! 私たちはここにいる!」

「消えない!」「ここに存在している!」「今も、ここにあるわ!」

言葉が、声が、見えないくさびとなって、崩れかけた世界を繋ぎ止めていく。

ミルの瞳が強く光った。

「……消えない。私たちが、ここに、ある……!」

五つの声が一つに重なった瞬間、歪みがパリンと音を立てるように薄れ、色が戻った。

空気が軽くなり、森のざわめきが、鳥の鳴き声が、一気に戻ってきた。

4. 失ったもの、残ったもの

「……終わった、の?」

クレアが肩の力を抜く。

「ええ。空間の安定を確認しました。怪異は消滅しましたね」

セインの声にも、安堵の色が混じる。

「マジでやっちゃったね。あんなのに勝つなんて」

カノンが深く息を吐き、ケットルが「無茶が通ったねぇ。これだから若いのは面白い」と笑った。

ミルはその場にぺたんと座り込む。

「……疲れたぁ……。でも、消えなかった」

クレアも隣に座り込み、にへらと笑った。

ふと、全員の視線が荷車に向かう。

そこには、二つの木箱。

増えてはいない。けれど、もう減ってもいない。

「……全部は戻らなかったか」

カノンが少しだけ残念そうに呟く。

「ええ。失われたものは、そのままです。これが私たちの限界でしょうね」

けれど、クレアは胸を張って笑った。

「でもさ、これ以上減らさなかった! 最後まで、ちゃんと守りきったよ!」

5. 晴れやかな帰路

五人は再び歩き出す。

森を抜けると、夕暮れの柔らかな光が彼女たちを包み込んだ。

三日間にわたる不気味な依頼。

見えないものに触れ、存在そのものが消えかけ、必死に手を伸ばして引き止めた。

「帰れるねぇ、街に」

ケットルが荷車を叩く。

「うん。帰ったら、美味しいもの食べよう! 借金は……まあ、また次で返せばいいし!」

クレアの能天気な言葉に、みんなが笑った。

いつも通りの五人。でも、その背中は昨日よりも少しだけ、大きく見える。

最弱パーティ、今日もちょっとだけ成長中

ここまで読んでいただきありがとうございます。


今回は、この依頼編の一区切りとなる話でした。


「消える」という理不尽に対して、彼女たちなりのやり方で向き合い、ひとつの形として乗り越えることができました。


ただし、すべてを取り戻せたわけではありません。


消えたものは戻らない。それでも、これ以上失わなかった。


その小さな結果が、今の彼女たちにとっては確かな前進です。


強くはないけれど、無力でもない。


そんな立ち位置が、少しだけはっきりしてきた気がします。


また次の依頼でも、きっと少しだけ成長します。

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