第10話 「消える理由と、消えるもの」
今回の依頼は、森の中で「荷物が消える」という不可解な現象の調査。原因不明、再現性あり、そして対処法なし。
――少なくとも、今までは。
視界にあるはずのものが、いつの間にか無くなる。それは物だけじゃないかもしれない。
そんな状況で、彼女たちが選んだのは「数を数える」という、あまりにも単純な方法だった。
けれどこの世界では、単純な行動ほど強い意味を持つことがある。
今回も、少しだけ前に進む話です。
1. 記憶を繋ぎ止める「音の鎖」
残された二つの箱を中央にまとめ、五人はそれを取り囲むように円陣を組んだ。
「ここからは隊形を完全に固定します。箱を中心に、常に全員が視界に入れるように」
セインが静かに、けれど断固とした口調で命じる。
「さっきもそれ、やってたよ。それでも消えたじゃん」
カノンが皮肉っぽく笑うが、セインは動じない。
「ですから、**『見方』**を変えるんです。ただ眺めるのではなく、意識して確認する。具体的には、順番に声を出し続けてください」
「いち、に、って数えればいいの?」
クレアの問いに、セインが深く頷く。
「ええ。言葉に出して、リズムを作る。もし誰かの声が途切れたら、すぐに全員で指摘するんです」
「……なるほどね。視覚による記憶が書き換えられても、耳に残った音までは誤魔化せないってわけか」
カノンがニヤリと口元を上げた。
「……やってみる。私、頑張るから」
ミルが杖を握りしめ、ケットルが「よっこいしょ」と箱の角を叩いた。
2. 奇妙な連鎖
クレアが深く息を吸い込み、先陣を切る。
「一!」
カノン「二!」
セイン「一!」
ミル「二……!」
ケットル「一!」
声が交互に重なり、森の静寂を塗りつぶしていく。
単調で、どこか滑稽な繰り返し。けれど、その響きが彼女たちの意識を強く現実に繋ぎ止めていた。
「……なんか、変な感じ。ずっと数えてるのって結構疲れるね」
クレアが緊張をほぐすように呟く。
「喋るのをやめたら、また何かが消えるかもしれないよ。続けなよ」
カノンに促され、再びカウントが始まる。
「一」「二」「一」「二」「一」――。
深い森の奥へと進むほど、その声はやけに大きく響き渡った。
3. 招かれざる「三」
その時だった。
「……ねえ」
ミルが、震える声で割り込んだ。
「どうしたの、ミル」
「さっきから……少し、身体が軽い気がするの」
「軽いの? 荷物じゃなくて?」
ミルは自分の胸元にそっと手を当てた。
「……わからない。でも、なにか……自分の一部が抜けてるみたいな、変な感じがするの」
カノンが眉をひそめる。
「荷物の次は、人が消えるタイプ? 冗談はやめてよ」
「カノン、縁起でもないこと言わないで!」
クレアが叫ぼうとした、その瞬間。
「――三。」
誰かが、そう言った。
全員の動きが、凍りついたように止まる。
「……今、誰? 誰が言ったの?」
クレアが周囲を見渡すが、誰も答えない。
「今の『三』って声、今の順番からしたらありえないよね」
セインが低く、冷徹な声で指摘する。
「私たちの順番は崩れていませんでした。……今の声は、この五人のものではありません」
ミルの顔が真っ青になる。「……私じゃない。絶対に」
「アタシもだよ。……今、一瞬だけ、六人いた気がしたよ」
ケットルが斧を握り直すと、空気が一気に冷え込んだ。
4. 見えない「ルール」の正体
「……カウントを、再開してください。絶対に止めないで」
セインの指示に、クレアが震える声で応じる。
「一……!」
「二」
「一」
「二」
今度は乱れない。けれど、さっきの「招かれざる声」への違和感は消えない。
「……ねえ、セイン。これ、荷物だけじゃないよね」
箱を睨みつけながら、クレアが呟く。
「ええ。消える対象は限定されていません。記憶、時間、あるいは……」
「最悪、存在そのもの、か。笑えないギャンブルだねぇ」
カノンが乾いた笑いを漏らす。
けれど、クレアは拳をギュッと握りしめた。
「でも、対処はできてる。数を数え始めてから、箱は減ってない!」
「完全じゃないけどね。さっき『三』って割り込まれたし」
「ええ。ですが、あれは重要な手がかりです」
セインが目を細めた。
「ルールがある、ということですね」
クレアが前を向く。
「仕組みがあるなら、防げる。正体がわかれば、ぶっ飛ばせる!」
根拠なんて、どこにもない。
けれど、彼女たちは止まらない。
「一」「二」「一」「二」――。
声を重ね、森の深淵へと足を踏み入れる。
なにかが近い。すぐそばに、決定的な「何か」がいる。
「……来るね」
カノンが呟き、セインが頷く。
クレアは剣の柄を握り直した。
「次で、はっきりさせてやる!」
消える理由。消えるもの。
そして、「消えないための方法」。
最弱パーティは、その正体へと一歩ずつ、確実に近づいていた。
最弱パーティ、今日もちょっとだけ成長中。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回は「ズレ」に対する初めての“対抗らしい対抗”を書いてみました。ただ怖がるだけじゃなく、「どうすれば防げるのか」を手探りで掴んでいく段階です。
とはいえ、まだ完全に解決したわけではありません。むしろ、余計に不気味なルールが見えてきた状態です。
特にあの「三」。あれが何なのか、誰なのか、そもそも“数えていい存在”なのか。
このパーティはまだ弱いですが、こういう「ちょっとした工夫」で生き延びていく連中です。
また少しだけ、成長します。




