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最弱パーティ、今日もちょっとだけ成長中  作者: beck2026


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第1話 「宿代が払えません」

世界を救う勇者には、きっと輝かしい「第一歩」があるのでしょう。

でも、世の中に溢れる有象無象の冒険者たちにとっての第一歩は、もっと泥臭くて、もっと切実なものです。

伝説の剣を手に入れる前に、まず今日のパンを。

魔王を倒す旅に出る前に、まず壊した壁の修理代を。

これは、ギルドの隅っこで「最弱」と笑われる、どこか欠けた5人の男女が、生きるために手を取り合ったばかりの頃のお話。

かっこいい英雄譚を期待されると困ってしまいますが、「こいつら、バカだなぁ」と笑いながら見守っていただけるなら、これほど嬉しいことはありません。

「……あの、もう一回だけ言わせてもらっていいですか?」

 私、クレアは床に額を押しつけたまま、震える声で言った。

 宿屋の木の床はひんやりとしていて、染み付いた安酒の匂いが鼻をくすぐる。本来なら、こんなところで土下座なんてしている時間じゃない。今日は記念すべき、新しい街での初仕事のはずだったんだから。

「ダメです」

 宿屋の主人の即答だった。

 声に迷いは一切ない。むしろ、これ以上何を言うんだという呆れすら混じっている。

 窓から差し込む朝の光はやけに爽やかで、小鳥のさえずりまで聞こえてくる。本来なら気持ちのいい一日の始まりのはずだった。だが、目の前の現実は、底が抜けたバケツのように最悪だ。

「いやでも! 昨日のは事故というか、不可抗力というか、ちょっとした運命のいたずらというか……!」

 私は顔を上げて必死に食い下がる。だが、主人の視線は冷たく、私の背後にある「それ」に向けられていた。

「壁を豪快に吹き飛ばしておいて、事故は通らん」

「……そうですね。不可抗力で建物の構造に大穴が開くことは、この世界の物理法則ではあり得ません」

 横から入ってきたのは、冷静すぎる知恵袋のセインだ。

 眼鏡の奥の瞳は一点の曇りもなく、私を突き放している。味方がいない。いや、味方なんだけど、正論という名の凶器で私を殴ってくる。

「ねぇクレア、まだ粘ってるの? 往き際が悪いよ」

 背後から軽い声が響く。振り返ると、カノンが欠けた壁の縁にもたれ、なけなしの硬貨を指でくるくると回していた。

「やってるの! というか、リーダーとしてやらされてるの!」

「諦めたら? かっこ悪いよ」

「諦めたら今夜から野宿なの! というか、追い出されるの!」

「もうほぼ追い出されてると思うけど。ほら、あっちから通行人がこっちを見て笑ってるよ」

「やめて! 残酷な現実を言葉にしないで!」

 私は立ち上がり、仲間たちを見渡した。

 まずはカノン。彼女が昨日、カジノで「今日は流れが来てる!」とか言って、パーティの全財産をスッカラカンにしたのがすべての元凶だ。

「だいたい誰のせいでこうなってるの!? カノン、あんたのギャンブル癖のせいでしょ!」

「さぁ? あれは投資に失敗しただけっていうか……。でも、負けた時点でもう過去の話だよ? 前を向こうよ、クレア」

「全部負けてる時点で投資じゃないの! ただの散財なの!」

「……ご、ごめんなさいぃぃ……」

 震える声が、部屋の隅っこから聞こえてきた。

 椅子の上で膝を抱え、今にも消えてしまいそうなほど小さくなっているのは、魔導師のミルだ。

 全員の視線が、主人が指差す先――「元・壁」へ向く。

 そこには見事な、、本当に見事なまでの円形の穴が開き、朝の光と風が容赦なく入り込んでいた。一羽の鳥が、その穴をのんびりと通り抜けていく。

「……ミル。ちょっと威力を出しすぎた、ってやつかな?」

 カノンが気まずそうにフォローを入れるが、ミルはさらに縮こまった。

「……ス、スイッチが入っちゃって……。『ここ、ちょっと掃除してくれる?』って言われたから、汚れを根こそぎ……消そうと思ったら……」

「壁ごと消してどうするのよ!」

 私の叫びが虚しく響く。ミルの魔法は強力だが、とにかく「加減」という言葉を知らない。

「……弁償、および修理費の全額負担ですね」

 セインが静かに、そして残酷な事実を口にした。

「当然だ。今すぐ払えないなら、衛兵を呼ぶ」

 主人の言葉に、セインが一歩前に出た。

「逃げません。責任は取ります」

「え、取れるの? 私たち、さっきの硬貨が最後の一枚だよ?」

 カノンが呑気に聞くが、セインの答えは早かった。

「取れません。現時点での支払能力はゼロです。……ですが、働いて必ず返します」

 その時、地下からひょっこりと、煤けた顔のケットルが顔を出した。

 彼女の手には、ギルドで拾ってきたらしいボロボロの依頼用紙が握られている。

「ガハハ! 湿っぽい顔してどうしたんだい? 仕事ならあるよ。『荷物運び。危険なし。日当は……パンの耳が買える程度』だってさ!」

「安い……安すぎる……」

 私はガックリと肩を落とした。

 でも。今の私たちに、これ以上の選択肢なんて存在しない。

「……よし。やろう。みんな」

「何を?」

「ちゃんと働くの! もう一度、一からやり直し!」

「それ、前の街でも聞いた気がするけど」

 カノンが肩をすくめる。

「今回は違うの! 私の気持ちが、もうメラメラ燃えてるんだから!」

「一番信用できない感情ですね」

 セインがじっと私を見つめる。私は一瞬言葉に詰まったが、それでも精一杯の笑顔を作った。

「……ちょっとは、ちゃんとやるから。信じて」

 完璧じゃない。

 お金もない、信用もない、壁さえ壊しちゃう未熟なパーティ。

 でも、ここで諦めたら、本当にそれでおしまいだ。

「……それでいいです。今はその言葉を信じましょう」

 セインが小さく微笑み、ミルも震える手を挙げた。

「わ、私も……次は、……壁を残す。……頑張る」

「それは絶対条件よ!」

 外に出ると、朝の空気は少し肌寒かった。

 財布は空っぽ、借金は山盛り。

 

「……でもさ」

 私は前を向き、力強く一歩を踏み出した。

「ゼロじゃないよね。私たち、まだやり直せるチャンスはあるでしょ?」

「そうだね。パンの耳からスタートだ!」

 カノンが笑い、五人は歩き出す。

 問題だらけで、どうしようもなくて、それでもどこか憎めない最弱パーティ。

 昨日の失敗を抱えたまま、私たちはほんの少しだけ、前へ。

 リトル・リンク、今日も(どん底から)ちょっとだけ成長中。

第1話をお読みいただき、ありがとうございました。

クレアたちのダメダメっぷりと、それでも捨てきれないチームワーク。

これから彼女たちがどうやって借金を返し、成長していくのか。

ゆるい空気感で綴っていきますので、お付き合いいただければ幸いです!

もし「このパーティ、先が心配だけど応援したい!」「ミルの加減のなさが面白い!」と思っていただけましたら、下の**【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】**にして応援いただけると、執筆の大きな力になります!

評価やブックマーク、いつも励みにしています。

次回、第2話。

「危険なし」のはずの荷物運び。

けれど、彼女たちの行く手に平穏な道などあるはずもなく……。

引き続き、応援よろしくお願いいたします!

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