フィンとおしごと!
「それじゃあフィン、行ってくるね」
手を振りながらお店を出ていくネナとトーマに、ぼくは大きく手を振った。
「いってらっしゃ〜い!」
ドアがパタンとしまって、二人の姿が見えなくなった。
ぼくはくるっと振り向く。
そして、腰に手を当てて
「よぉ〜し!」
「がんばるぞー!」
大きな声を出して、手を高く上げた。
——ぼくは今日一日、店員さんになる。
『フィンとおしごと!』
——おしごと1
お店に来たお客さんをお出迎えする。
「いらっしゃいませ〜!」
「お?今日はかわいい店員さんがいるな」
初めましての人。
でも、お店にはよくくるみたい。
「おにいちゃんのかわりです!」
ぼくが胸を張って言うと、お客さんは「お兄ちゃん?」と首を傾げた。
「テオの弟だよ。フィンっていうんだ」
厨房から出てきたおばちゃんがそう言うと、お客さんは「おおっ!」と声を上げた。
「テオの弟か!小さいのに兄ちゃんの代わりに手伝うなんて、大したもんだ」
ぐりぐりと頭を撫でるお客さんに、「えっへへー!」と笑って、
「!」
ハッと思い出した。
おしごとおしごと!
「おきゃくさん、お好きなせきにどーぞ!」
「おう、ありがとな〜」
よーし!
ひとつ目のおしごと、できた!
——おしごと2
メニュー表を渡す。
メニュー!メニュー!
ぼくは急いでメニュー表を取りに行った。
そして、お客さんの元に行こうとしたとき。
「ラミアさーん、いつものお願いしまー……」
「……」
お客さんと、目が合った。
メニュー表……いらない?
お客さんはぼくの抱えるメニュー表をちらりと見て、
「いつものと、他にも気になるなぁ!メニューになにがあったっけ?」
そう言った。
「!」
ぼくは急いでメニュー表を持っていった。
「おきゃくさん、メニューです!」
両手でパッと渡したメニュー表を、お客さんはニカッと笑って受け取ってくれた。
「ありがとな!」
「えへへ!」
ふたつ目のおしごともできた!
カウンターから見ていたおばちゃんがボソッと呟いた。
「売り上げにも貢献なんて、やるじゃないかフィン」
——おしごと3
お客さんをお見送りする。
「ふぅ、うまかった」
お腹をさすりながら、おばちゃんのところにきたお客さん。
お客さんが「お会計で」と言うと、おばちゃんは「あいよ」と返した。
「毎度ありがとうね」
「ごちそうさんでした〜」
お会計が終わったお客さん。
満足そうなお顔でお店を出ようとしている。
(おしごと!)
ぼくはお店のドアに急いで走って、お客さんの横にぴたっと立った。そして、
「ありがとう ございましたっ!」
大きな声でお見送り。
(ちゃんと えがおも!)
にこっ!
「おうっ。しっかり者の店員さん、ありがとな」
お客さんもニカッと笑うと、ぼくの頭をポンと撫でて、お店の外に出ていった。
パタン。 ぱたぱた!
「おばちゃーん!」
お店のドアがパタンと閉まるのと同時に、ぼくはおばちゃんの元に駆け寄った。
「ぼくっ、おしごとできたよ!」
両手をぶんぶんしながら言うぼくに、おばちゃんはパッと笑った。
「ああ!大したもんだよ」
ぼくの頭をわしゃわしゃと撫でるおばちゃんに、ぼくのお口はにんまり。
「つぎのおしごとも する!」
「そうかい。やる気いっぱいでいいじゃないか」
おばちゃんは「感心、感心」と頷いている。
ぼくもまねして、コクコク頷いた。
「次のお仕事は覚えてるかい?」
おばちゃんの言葉に、ぼくは勢いのまま頷いた。
——おしごと4
テーブルを拭く。
「それじゃあ、ここを頼んだよ」
さっきのお客さんが座っていたテーブルのお皿を持つおばちゃん。
ぼくは右手に持つふきんを高く上げた。
「はーい!」
(よぉーし!)
ぼくは上げたふきんを下ろした。
そのまま両手で持って、テーブルの上を行ったり来たりする。
「きゅっ、きゅっ! 」
「ふっきふき! 」
「ふぅ〜!」
ぼくは腕でおでこを拭いた。
どうしてかは分からないけど、前におにいちゃんがやってた。
「きれい〜!」
ぴかぴかのテーブルには汚れひとつない。
ぼくは「むふっ」と笑った。
「くすくす」
ふと、後ろから笑い声が聞こえた。
振り向くと、お客さんのお姉ちゃんふたりがぼくを見て笑ってる。
ぼくと目が合ったお姉ちゃんが、にこっとする。
「頑張ってるね」
「私たちのテーブルも、あとでよろしくね」
もうひとりのお姉ちゃんも続けた。
ぼくは大きく頷いて、
「おまかせあれ〜!」
胸をぽこんっと叩いた。
「なにそれ〜?」
「かわいい〜!」
楽しそうに笑うお姉ちゃんたちに、ぼくもにっこり。
テーブルもきれいにできて、お客さんも笑顔にできた。
(もっとがんばるぞ〜!)
「おー!」
ぼくはやる気がみなぎった。
お姉ちゃんたちはしばらく楽しそうに笑い続けた。
——おしごと……
何回かおしごとを繰り返した頃、
ふたりのお客さんがやってきた。
ぼくは今までと同じように大きな声で迎える。
「いらっしゃいませ〜!」
「…おっ?」
ひとりのおじさんが、ぼくを見て目を丸くした。そして、
「もしかして、テオの弟か?」
そう聞いてきた。
すると、もうひとりのおじさんが、ぼくに顔を近づけてまじまじと見つめる。
「あ?……本当だ。そっくりじゃねぇか」
(おじさんたち、お兄ちゃんのこと知ってるんだ!)
「おにいちゃんのおとーと フィンです!」
ぼくが元気いっぱいにあいさつをすると、おじさんたちは「そうかそうか」とニコニコしながら、ぼくの頭をくしゃっと撫でた。
「お前の兄ちゃんにはよく世話になってんだ」
「……そういえば、当のテオがいねぇな」
おじさんはきょろきょろとお店の中を見回した。
「おにいちゃんはおうち!」
「おうち?」
「おじいちゃんのところだよ……です!」
ぼくがそう言うと、おじさんたちは「カッカッカ」と大笑いした。
「楽な話し方でいいって」
ぼくの頭をぽんぽんしたおじさん。
(おじさんはそういうけど……)
「でもぼく、店員さん……」
お兄ちゃんの代わりだから、ちゃんとしないと。
「小さいのに偉いなぁ!」
おじさんたちはまた大声で笑った。
「店員さん、早速だが席に案内してくれないか?」
おじさんの言葉に、ぼくはうれしくてパッと体が跳ねた。
(おしごと! おねがいされた!)
ぼくは満面の笑顔で——
「お好きなせきにどーぞ!」
席の方に手を広げた。
(一個目のおしごとは、かんぺき!)
ふふんと自信満々におじさんたちを見上げるぼくに、ふたりは目を丸くした。
次の瞬間、
「あっはっはっ」
「ぎゃはははっ!」
お店の中に響き渡るほどの大きな声で、笑いはじめた。
(えっ?ぼく、まちがえちゃった……?)
ぼくはあたふたしながらおばちゃんを見た。
おばちゃんはにっこり笑って、親指を立ててる。
(まちがってないみたい)
ぼくがほっとしたとき、頭をくしゃくしゃと撫でられた。
「わっ!」
「ありがとな!」
「この後も頼むぞ」
おじさんたちはそう言いながら、テーブルに向かっていった。
おじさんたちがなんで笑っていたのかは分からないけど、
「んふっ」
(ぼく、おしごとできてる!)
ぼくは胸の奥がじーんとして、体を丸めるように手をぎゅっと握った。
「フィンー!そこのテーブル頼んだよ」
おばちゃんが目の前のテーブルを指差した。
「うんっ!」
ぼくはふきんを取りに厨房に駆け出した。
(もっともぉ〜っと、がんばるぞー!)
「おー!!」




