テオドール・シルヴァ
俺の名前はテオドール・シルヴァ。
代々、ラウハの森を管理してきた一族の次期後継者だ。
今日は出稼ぎしていたラウハの町から、一時帰省のため、森にある家に向かっていた。
家の庭先まで着くと、玄関前をきょろきょろしていた小さな影が俺を見つけて、
「おにいちゃ〜ん!」
大きな声で俺を呼んだ。
ぱたぱた、という音がしそうな足音を立てて、俺に駆け寄るこいつは、弟のフィン。
満面の笑みで俺に抱きついてきた、歳の離れた弟は正直……かわいい。
「フィン、久しぶり」
「あいたかった〜!」
顔をぐりぐりと擦り付けて甘える弟。
俺は「服が傷むからやめろ」と冷たく言うが、フィンはお構いなし。
甘やかすのは良くないと、後ろ髪引かれる思いでフィンを引っぺがした。
「テオ」
俺の愛称を呼びながら、家の中から出てきたこの人は、俺たちの祖父のモリスじいちゃん。
現在のラウハの森の管理人で光以外の五属性を扱える、自慢のじいちゃんだ。
(まあ……俺も光以外は全部使えるけど)
でも、まだじいちゃんには到底及ばない。
量、範囲、精密さ、持続性。
どれを取っても、うちのじいちゃんほどの人はそんなにいない。
……って、ラミアさんが言ってた。
「じいちゃん、わざわざ出迎えなくていいから」
俺はじいちゃんの元に駆け寄って、体を支えた。
じいちゃんは膝も腰もよくないから、あんまり無理してほしくないんだけど……。
じいちゃんは俺を見つめて、静かに微笑んだ。
「ありがとう、テオ」
俺はむず痒くなって、じいちゃんから顔を背けた。
「別に……」
「おにいちゃん、おかおあかーい!」
「フィンっ!余計なこと言うな!」
「きゃあー!」
フィンは笑いながら俺から逃げるようにして、家の中へと駆け込んで行った。
「ったく……」
「テオ」
フィンが消えていった方を眺めてぼやいていると、じいちゃんが話しかけてきた。
「何?」
「いつ戻る予定だい?」
ラミアさんたちの元に戻る日を聞かれる。
俺は「明後日」と答えた。
(あまり長居してると、稼ぎが減るからな)
「そうか……。ここにいる間は、ゆっくり過ごすといい」
「さ、中に入ろう」
俺はじいちゃんの言葉に頷いた。
とはいえ——
「あっ、フィン!」
部屋に入ると、短い足を懸命に伸ばして、ご飯が入った皿をテーブルに置こうとしているフィンの姿があった。
俺は駆け寄って、フィンから皿を受け取る。
「俺がやるから」
そう言って皿をテーブルに置き、フィンを持ち上げて椅子に座らせた。
(じっと見てるだけだと、落ち着かないんだよなぁ)
俺は体を動かすのが好きだ。
働くのも家事も、嫌いじゃない。
「これとこれも持っていけばいいんだな?」
「うん!おにいちゃん、ありがとう!」
「テオ、ありがとう」
ゆっくりはできなくても、それでいい。
俺にとっては、家族と過ごせるだけで十分だから——。




