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5. 存じてはいる。信じてはいない。

5. 存じてはいる。信じてはいない。




 停車駅に到着した電車は、いつもならすぐに発車するはずなのに、なぜ動かない。するとアナウンスが流れ、どうやら少し先で脱線事故が発生したらしい。復旧にはかなりの時間がかかる見込みだという。


「……マジかよ」


 思わずうんざりとした声が漏れる。明日からせっかくの週末なのに、いきなり足止めとは。


 仕方なく電車を降りホームのベンチに座る。やることがないので、とりあえずスマホを取り出し起動する。最近ハマっているゲームを立ち上げ、時間潰しを始めることにした。


 しかし、どれくらいの時間が経っただろうか。アナウンスは相変わらず復旧の見通しが立たないことを告げている。すでに2時間以上は経過しているだろう。ここは都心から離れた、どちらかといえば田舎に近い駅だ。代替となる他の電車やバスの便など、期待できそうにない。


 さらに悪いことに空模様はみるみるうちに悪化し、とうとう雨まで降り始めた。辺りもすっかり暗くなり心細さが増してくる。このままここで復旧を待つべきか、それとも何か別の手段を探して家に帰るべきか……とはいえ歩いて帰るのはなぁ……


 雨の中、途方に暮れながら考えていると、背後から聞き慣れた少しからかうような声がかけられた。


「おやおや、こんなところにいるのは、私の未来の旦那様じゃないですか?」


 振り返ると、そこに立っていたのは、昨日まであんなに近くにいたのに、今日は帰りに顔を見なかった高宮さんだった。


「高宮さん?どうしてここに……」


「そんなの、電車が止まるのを知っていたからだよ。私、『タイムリープ』してるから。ご存じない?」


「存じてはいる。信じてはいない」


「じゃあ、これで信じたね?」


 高宮さんは、いたずらっぽくクスクスと笑う。雨に濡れた髪が、彼女の白い肌に張り付き、その笑顔が、また妙に可愛く見えてドキッとしてしまう。


「……なら、電車が止まるって、昨日言っておいて欲しかったけどな?」


 言われたところで、信じたかどうかは怪しいけれど。


「言っても信じないでしょ?あとね。電車は明日まで復旧しないよ。だから、違う方法で帰らないと。でもね、神坂君は今、財布を学校に忘れてしまった。連絡したくても、スマホゲームをやりすぎてバッテリーが切れている。そして、ここは田舎の駅。一夜を過ごそうとしても、そんな場所は、あそこのラブホテルくらいしかないね。」


 彼女は、遠くに見える派手な看板の建物を指さした。


「え?」


 まさかの言葉に、オレは慌てて自分のカバンの中をまさぐる。確かに、財布が見当たらない。制服のポケットにも入っていない。完全に学校に忘れてきてしまったようだ。そして言われた通り、スマホを取り出して見てみると、バッテリーは完全に切れて画面は真っ暗だった。


 最悪だ……周りを見渡すと、本当にコンビニが一軒あるくらいで、他に店らしきものはない。高宮さんの言う通り、少し離れたところに、けばけばしいネオンのラブホテルが見えるだけだ。


 落ち着けオレ。これはただの偶然が重なっているだけだ。高宮さんの『タイムリープ』なんて、そんな非科学的なものを信じるな。ただの、本当にただの偶然だ。


 いつも駅で別れる高宮さんがたまたまここにいるのも


 電車が止まったのも


 財布を学校に忘れたのも


 スマホの電源が切れたのも


 ……近くにラブホテルしかないという状況も。全てただの偶然なんだ。そう自分に言い聞かせる。


「立ち話もなんだし、行こうか」


「どこへ?」


「ラブホテルだけど?」


「冗談キツいな、高宮さん?」


「本気なんだけど?」


 彼女は涼しい顔でそう答えた。頭の中が完全に混乱する。この子は一体何を考えているんだ?


「……いや、でも、思春期真っ只中の高校生がそういう場所に行くというのはだな?」


「別にシてもいいよ。神坂君となら?どうせあとでするんだし。早いか遅いかの違いだから」


「はい!?」


「ほら、行こう。もう断る理由ないよね?雨降ってて寒いし」


 そう言うと、高宮さんは躊躇なくオレの手を握り、そのまま歩き出した。いつもなら、こんな状況、恥ずかしさで顔が茹でダコみたいになるはずなのに、今のオレはまるで魂が抜けてしまったかのように、ただただ彼女に引かれるがまま、高宮さんの差す傘の下へと吸い寄せられていくしかなかった。


 そして、オレたちはコンビニで簡単な夕食を買い、本当に近くのラブホテルへと入っていった。受付で手続きを済ませ、部屋に入ると、高宮さんはすぐに「お風呂入ってくるね」と言って、バスルームへと消えていった。


 その間、オレはベッドに腰掛けたまま、まるで抜け殻のように、何も考えることが出来ずにいた。


「……どうしよう」


 本当に、この状況は一体どういうことなんだ?このまま本当に、そういうことになってしまうのか?オレが、生まれて初めての経験を、こんな状況で高宮聖菜という未来の奥さん(仮)と迎えることになるのか?


「ダメだ!そんなことをしたら!」


 思わず、小さな声で叫んでしまう。こんな、冴えないオレと高宮さんのような美少女がこんなことになるなんて、絶対に何か裏があるはずだ。


 そりゃ……高宮さんのような可愛い子と、そういうことをするなら、嬉しい気持ちがないと言えば嘘になるけれど……でも……でも……


「やっぱり、高宮さんはオレのことをからかっているだけなんだよな」


 少し冷静になり改めて考えてみる。やはりオレのような平凡な男子に、高宮さんのような子がこんなにも積極的に関わってくるのはどこかおかしい。


 きっと、ただの暇つぶしにオレを面白がっているだけなんだ。だから変な期待なんかしてはいけない。絶対に。


「ねぇ、神坂君。お風呂空いたよ」


 不意に、目の前で高宮さんの声が聞こえた。ハッとして顔を上げると、彼女は湯上り姿でこちらを見下ろしていた。


「お、おう!」


「私が出たのに気づかないくらい、何考えてたのかなぁ?」


「最近、瞑想にハマっててさ。有名な修行僧とかがやってるやつ」


「それ、効果ないみたいだね?煩悩が溢れてるのが見えるけどなぁ?」


 高宮さんは、オレを揶揄うようにクスクスと笑う。そんな彼女の言葉を無視して、オレは慌てて立ち上がりバスルームへと逃げ込んだ。


「くそっ……しっかりしろ……」


 冷たい水で顔を洗いながら自分に言い聞かせる。高宮さんは、きっとあくまで遊び感覚で、こんなことをしているに違いないのだ。そう自分を必死に納得させながら、服を脱ぎ、湯船に浸かった。


 色々なことがありすぎた一日だったからなのか、ここ最近の寝不足が祟っているのか、身体も心もひどく疲れきっていたようだ。今日一日の出来事を思い返すだけで、どっと疲労感が押し寄せてくる。


「……はぁ。……高宮さんは、本当に何なんだろう」


 湯船の中で、小さくそう呟いて、またオレは、あの不思議な少女のことを考えてしまうのだった。

『面白い!』

『続きが気になるな』


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