20. 聖菜さんだけが知るオレ
20. 聖菜さんだけが知るオレ
オレは、心臓がドキドキしたまま、足早にシアターを出た。ロビーの喧騒が、さっきまでの静けさとは対照的に耳に飛び込んでくる。すると聖菜さんは、もうすでに売店の前に立って、なにやら飲み物を購入しているところだった。焦る気持ちを抑えながらオレは聖菜さんの元へ駆け寄った。
「あの、聖菜さん……」
声をかけると聖菜さんは、手に持っていたペットボトルを少し傾げながら、こちらを振り返った。
「ん?優斗君も飲む?」
聖菜さんは、そう言ってもう一本のジュースを差し出してくれた。オレは反射的にそれを受け取り、冷たいジュースを一口飲んで喉の渇きを潤す。でも、心臓のドキドキはなかなか収まらない。
「さっきのことだけどさ……」
「さっきのことって、なにかな?」
聖菜さんは、可愛らしく首を傾げる。その仕草はドキッとするほど可愛い。でも、その無邪気な表情の奥には、きっと全てを見透かしているようなそんな余裕が感じられる。
やっぱり絶対にバレてる。そして、オレの狼狽ぶりを見て楽しんでいるんだ。そんなことを思っていると、聖菜さんがふいに真剣な表情で謝ってきた。
「ごめんね、寝ちゃって」
「え?ああ、それは別にいいよ」
「こう見えても私、結構楽しみで緊張してたんだよ?昨日あまり寝れなくてさ」
「オレもだよ」
「優斗君はいつもじゃん」
「全部、聖菜さんが悪いんだけどな」
冗談めかしてそう言うと、聖菜さんは少しだけオレに近づいて囁くようにこう言った。
「もしかして……さっきのことも私が悪いのかな?」
「さっきのことって、なんだろ?」
「認めないと罪は軽くならないよ?」
「裁判で会おうか」
「ふふ。敏腕弁護士に依頼しといてね?楽しみにしてる」
……本当にずるいな。オレたちは、そんな軽口を叩き合いながら、映画館を後にした。外に出ると強い日差しが目に飛び込んでくる。
そして、遅めの昼食をとるために、近くのレストランに向かうことにする。もちろん手は繋いだままだ。繋いだ手の温かさが、じんわりとオレの手に伝わってくる。
隣を歩く聖菜さんは、終始ニコニコしている。その幸せそうな笑顔を眺めているだけで、オレの心も温かくなり満たされた気持ちになれる。
レストランに入ると、ちょうど昼時ということもあり、多くの客で賑わっていた。店員さんに案内され、オレと聖菜さんは明るい日差しが差し込む窓際の席に、向かい合って座った。
「優斗君は何食べる?」
「オレはオムライスにするよ」
「え?」
聖菜さんは、目を丸くして驚いた表情を浮かべた。
「え?どうかしたか?」
「オムライス……好きなんだね」
「ああ、好きだぞ。美味しいし」
「私の作ったオムライスも、良く好んで食べてくれてたなぁ」
聖菜さんの少し遠い目をしたような、懐かしむような表情にオレはドキッとした。
「そうなのか」
「うん。優斗君は、鶏肉と玉ねぎだけのシンプルなオムライスが好きなんだよね。だから、葵も愛梨も、それが好きになっちゃってさ」
葵と愛梨。未来の子供たちの名前。聖菜さんだけが覚えている未来の記憶を語る彼女は、少しだけ寂しそうにも見える。もしかしたら、自分だけが記憶を持っているのは少し心細いのかもしれない。
「あのさ、今度作ってくれない?」
「え?」
「聖菜さんの作るオムライス、食べたくなった」
「ほう。この三ツ星シェフに頼むとは。高くつくよ?」
「料金は、未来の旦那様価格でお願いするよ」
「ふふ。仕方ないなぁ」
嬉しそうに笑う聖菜さんを見ると、オレまで自然と笑顔になる。やっぱり、聖菜さんは笑った顔が一番可愛いと思う。それに……そんな聖菜さんのことを、少しでも理解してあげられるのは今のオレだけなのかもしれない。
それからオレと聖菜さんは、運ばれてきた料理を美味しくいただきながら、他愛のない会話をして、楽しい時間を過ごした。まるで普通のカップルみたいに。
そして、駅までの帰り道、夕焼けが空をオレンジ色に染める中、オレと聖菜さんは、繋いだ手をゆっくりと揺らしながら歩いていた。すると、聖菜さんが突然立ち止まった。どうしたのだろう?と思い、聖菜さんの方を向くと、聖菜さんは夕陽を背景にオレの顔をじっと見つめてくる。
「ありがとね、優斗君」
「どうした?急に?」
「ふふ。実は、私と優斗君の初めてのデートは、今日と同じ映画館だったの」
「そうなの?」
「でも、優斗君が遅刻してさ、結局映画は観れなかったんだ」
「おかしいな。こんなにも早く集合するオレが」
「……お花を選んでくれてたんだ。私にプレゼントするために」
「え?」
「私さ。一回だけ、高校生の時に、優斗君と好きなお花について話したことあってさ。それを覚えていてくれたの。それがすごく嬉しかった。だから思ったの。きっとこの人なら……って」
それは聖菜さんだけが知っている未来のオレ。今のオレとは違う。それでも、それを嬉しそうに語る聖菜さんは本当に幸せそうな顔をしていた。オレと聖菜さんは『運命的な何か』。確かにそうなのかもしれない。だからこそオレは今できることを……
「聖菜さん」
「なにかな?」
オレは、聖菜さんの瞳をまっすぐ見つめて言った。
「これからは……聖菜さんの知らないオレがたくさん出てくるよ」
「エンターテイナーだね?」
「特別に、未来の奥様価格で楽しませてあげよう。だから、これからも『運命的な何か』で、よろしく」
「こちらこそ。よろしくお願いします」
そう言ってオレと聖菜さんは顔を見合わせて笑い合った。そしてオレは、今度は少しの恥ずかしさとそれ以上の大きな覚悟を持って聖菜さんの手を強く握り、夕焼け空の下、二人で家路へと帰ることにする。繋いだ手の温かさが、オレの決意を後押ししてくれるようだった。
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