19. おかげでいい夢見られたよ?
19. おかげでいい夢見られたよ?
そして土曜日。待ちに待った、聖菜さんとのデートの日がやってきた。朝から何度も鏡を見て、服装をチェックする。昨日の夜から楽しみと緊張でなかなか寝付けなかった。待ち合わせは駅前のロータリー。午前10時。
のはずなのに、オレは落ち着かない気持ちを抑えきれず、まだ9時だというのにすでに駅の改札前に立っていた。
駅前の広場には、休日を楽しむ人々がちらほらと行き交っている。青い空には白い雲がゆっくりと流れ、春の柔らかな日差しがアスファルトをじんわりと温めている。ベンチに座って時間を潰そうかとも思ったけれど、落ち着かなくてただ所在なく立っていることしかできない。
「早すぎだよな……」
誰もいない空間に、自分の呟きが虚しく響く。緊張のあまり完全に空回りしている。
「おやおや?そこにいるのは、私の愛しの旦那様じゃないですか?」
背後から聞き慣れた、でも今日はいつもより少しだけ甘い声が聞こえてオレはハッと振り返った。
「え?聖菜さん」
そこに立っていたのは、髪型やメイク、そして何よりも、オレとのデートのために選んだであろう私服も全てがいつもより気合が入っている……気がする聖菜さんだった。
ふわりと風に揺れるワンピースは、彼女の華奢な体を優しく包み込み、足元は可愛らしいフラットシューズ。いつもは制服姿しか見ていないから、改めて私服だとそのギャップにドキッとしてしまう。まるで、そこに春の妖精が舞い降りたみたいに、聖菜さんは輝いて見えた。オレは、思わず聖菜さんに見惚れていた。
そんなオレの様子を見て、聖菜さんはクスクスと楽しそうに笑う。その笑顔は太陽のように眩しい。
「優斗君。見すぎだよ」
「あ……悪い」
慌てて視線を逸らす。心臓がドキドキして、顔が熱くなるのが分かった。
「それにしても早いね」
「思い立ったらすぐ行動するのが、持論だからさ」
「なるほど。楽しみで仕方なかったんだね」
「それは聖菜さんもだろ」
「私はすごく楽しみにしてたよ?」
……それはズルい。あんな可愛い笑顔で言われたら、何も言い返せない。オレは聖菜さんの顔を見れず、視線を駅の雑踏へと向けた。すると、聖菜さんは躊躇うことなくオレの右手をそっと握ってきた。
「せ、聖菜さん?」
「手を繋ぐくらいはいいでしょ?今日はデートなんだし」
「あ、ああ……」
今日は、こうして手を繋いで歩くのか。オレ……手汗とか大丈夫か?こんなドキドキした状態でまともに歩けるだろうか?これは慣れるしかないのか?
そして、オレと聖菜さんは電車に乗り込み目的の映画館へと向かった。車窓から見える景色は、いつもと変わらないはずなのに今日はどこか特別なものに見える。
オレたちが観るのは、最近SNSでも話題になっている恋愛映画である。原作小説は読んだことはないが、以前ドラマ化もされたことがある人気作品で、なんでも幼馴染同士の甘く切ないラブストーリーらしい。
ちなみに聖菜さんが、すごく観たがっていたと昨日の西城さんと東雲さんが教えてくれた。
映画館に着き、チケットを買い、隣の売店でポップコーンのLサイズとそれぞれのドリンクを購入して指定されたシアターへと入る。座席は、スクリーンの中央あたりの見やすい真ん中辺り。もちろん隣同士で座ることになる。
「ふむふむ。優斗君の割には、センスある映画を選んだね」
聖菜さんは、座席に座ると、パンフレットをパラパラとめくりながら、楽しそうにそう言った。
「いや、オレはセンスの塊だから」
シアター内は徐々に人が埋まっていく。照明が落ち、予告編が流れ始めると、オレも聖菜さんも自然とスクリーンに視線を集中させた。
映画が始まってから数十分。物語の展開に、二人ともすっかり引き込まれていた。スクリーンの中の幼馴染たちの、もどかしいけれど温かい恋模様に、時折、聖菜さんがクスッと笑ったり、ハッとした表情をしたりするのが、隣に座っているオレにも伝わってくる。
物語が、いよいよクライマックスに差し掛かる頃、突然、聖菜さんがオレの肩に、コテンともたれかかってきた。
え?なに?どういう状況?いきなりの出来事に頭の中が真っ白になる。心臓がドクンドクンと、けたたましい音を立て始めた。
「すぅー……すぅー……」
耳元から、穏やかな寝息が聞こえてくる。寝てる!?いやいやいやいや!なんで!?なんでこんな大事な映画の、しかもこんな大事な場面で!?なんでオレの隣で!?オレの頭の中は、疑問符でいっぱいになるけれど、聖菜さんはそんなオレの戸惑いなど知らずに、そのままオレの肩を枕にしてスヤスヤと気持ち良さそうに眠っている。
どうしようか。起こすべきだろうか?でも、せっかく楽しみにしていた映画なのに……起こすにしても、どうやって?優しく声をかけるべきか、それとも少し揺さぶってみるべきか。オレは、横目でチラッと聖菜さんの寝顔を見る。綺麗な顔立ちだ。長いまつ毛が、時折ピクピクと動いている。形の良い唇は、ほんの少しだけ開いている。
この唇と二度もキスを……そんなことを考えていると、スクリーンの中の映画の主人公が、眠っているヒロインの頬にそっと触れてゆっくりと顔を近づけていく。
そのロマンチックなシーンに合わせて、オレも、まるで操られているかのように、無意識に聖菜さんの唇に向かって、自分の顔をゆっくりと寄せてしまう。そして、ほんのわずかに、柔らかい唇が触れ合った、その瞬間ハッと我に返った。
「……っ」
慌てて顔を離すと、タイミング悪く聖菜さんが目を覚ましてしまった。まだ眠そうなとろんとした瞳でこちらを見つめる聖菜さん。
その無防備な姿を見てしまったオレは、咄嗟に聖菜さんから体を離したが、聖菜さんはゆっくりと体を起こしながら優しい声で言った。
「ごめん、寝ちゃった」
「そ、そうだな」
オレは、平静を装おうとしたけれど、声が少し震えてしまった。
「……でもね。おかげで、いい夢見られたよ?」
聖菜さんは、そう言って微笑む。
「へぇ……どんな夢?」
「え?……ふふ。内緒」
そう言っていたずらっぽく、でもどこか意味深な笑みを浮かべると、聖菜さんは席を立って先にシアターを出て行ってしまう。残されたオレは、座席に深く腰掛け、両手で頭を抱えた。
「……マジかよ」
絶対にバレてる。しかも今回は、聖菜さんからでもなく、からかわれたわけでもなく、間違いなくオレの意思で聖菜さんにキスをしてしまった……
どうしよう。これから、どんな顔をして聖菜さんに会えばいいんだ。頭の中は後悔と、そしてほんの少しの期待でぐちゃぐちゃになっていた。スクリーンには、映画のエンドロールが流れ始めていたが、それすら気にならないくらい動揺しているオレがいた。
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