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18. 姉貴とチャッカマン

18. 姉貴とチャッカマン




 今日は金曜日。そして明日はこの前、聖菜さんと約束した映画を観に行く日だ。ある意味オレにとっての初デートである。


 今からでも、心臓が少しドキドキしている。まるで、明日の天気を心配するみたいに落ち着かない。でも、それと同じくらい……いや、それ以上に楽しみな気持ちで胸がいっぱいだ。


 こんな風に誰かと会うことを心待ちにするなんて、今までのオレには考えられなかった。もしかしたら、オレも少しは成長しているのかもしれない。


 そんなことを考えながら、窓の外をぼんやりと眺めていると、隣の席の聖菜さんが楽しそうな声で話しかけてきた。


「おやおや?ご機嫌だね優斗君」


「いやぁ、映画が楽しみで楽しみで仕方なくてな」


「映画に誘ったのは私だよ」


「あれ?そうだっけ?オレの記憶違いかな。聖菜さん、『タイムリープ』してるんじゃない?」


「素直じゃないね。私とのデートが楽しみって言えばいいのに」


 聖菜さんは、いつものようにクスクスと笑っている。その笑顔を見るだけでオレの心も温かくなる。


「まぁ、そんなに楽しみなら、明日のエスコートは任せますよ旦那様?」


 聖菜さんのからかうような、でもどこか期待を込めた言葉にオレは思わず背筋が伸びる。


「おっおう!任せとけ!」


「おっ、これは期待できるね?でも大丈夫かなぁ。優斗くんデートしたことないでしょ?」


「あるよ。この前のデートは服を買って、ハンバーガーショップ行ったしな」


「あの時は私がリードしたよ」


「聖菜さん。『タイムリープ』してるぞ?」


「ふむふむ。したことにするのも、奥様の役目か」


 そんないつものやり取りをし学校の1日が終わる。そして放課後。夕焼けが校舎をオレンジ色に染める中、オレは日直の仕事で教室に残っていた。


 聖菜さんに「任せとけ!」とは言ったものの、冷静になって考えると、オレは女の子とまともなデートなんてしたことがない。そもそも聖菜さんのことだってまだよく知らない。唯一分かるのは、未来でオレの奥様になるということだけ。


 一体、どうしたもんかな……不安と期待が入り混じって、胸の中は複雑な感情でいっぱいだ。


「神坂君。終わったかしら?」


 背後から、東雲さんの声が聞こえた。


「ああ。ゴメン。もう終わる」


「じゃあ、私は帰る準備をするわね」


 もう一人の日直の東雲さんが、テキパキと帰り支度を始める。ん?待てよ。東雲さんは、確か聖菜さんの親友だよな。これは相談するべきではないか?


「あのさ、東雲さん」


「なにかしら」


「聖菜さんのことなんだけど……」


 オレがそう言うと、東雲さんの身体が一瞬ピクッとなった。そして、無言でスマホを取り出し、何やらものすごい速さでメッセージを送り始める。一体、誰に連絡を取っているんだ?


「あの……」


 オレは、言葉を続けようとしたけれど、東雲さんはスマホから目を離さず、真剣な表情で画面を見つめている。


「神坂君。ちょっと付き合ってもらえるかしら?」


 突然、東雲さんがそう言った。


「はい?」


 何がなんだか分からないまま、オレは頷くしかなかった。そのまま二人で学校を出て、駅近くの、少し薄暗いカフェに入る。そして促されるままに奥の席に座ると、そこにまさかの人物がいた。


「よっ、神坂」


 ニヤリと笑って、手を挙げているのは西城さんだ。


「なんで西城さんが?」


「あたしも呼ばれたんだけど、舞子に。なんか緊急事態とかで」


 西城さんの言葉にさらに疑問が深まる。緊急事態って一体何のことだ?


「緊急事態?」


「そこに座って、神坂君」


 東雲さんに促されるままに、オレは席につく。目の前には、腕を組んでこちらを睨んでいる東雲さんと、ニヤニヤと面白そうにこちらを見ている西城さん。隣に聖菜さんこそいないけれど、この状況は、まるでこの前のハンバーガーショップの再来なんだが。


「さて、尋問を始めるわ」


 東雲さんは、低い声でそう言った。その目は獲物を狙う猛獣のように鋭い。


「尋問!?」


「そうよ。神坂君。あなたいつから高宮さんじゃなく、聖菜さんって呼ぶようになったの?詳しく説明して」


「いや……まぁ、成り行きで……」


「そんなわけないでしょ!」


 バンッ!と、テーブルに大きな音が響く。東雲さんが、勢いよくテーブルを叩いた。おいおい、穏やかじゃないよ東雲さん。カフェの他のお客さんたちが一斉にこちらを見ている。それを聞いた西城さんが、ケラケラと笑いながら話し始める。


「あはは。なら、ヤったんじゃない?この前、コンドーム買ってたもんね神坂。いやぁ聖菜にも春がきたかぁ。先越されたなぁ」


「余計なこと言わないでくれ、西城さん。ヤってないからさ」


「そうなの?ダメじゃん、神坂!ダサッ!」


「ヤってたら、今すぐ殺してたわ!」


 東雲さんの目は、全く笑っていない。本気でそう思っているようだ。ケラケラと楽しそうに笑っている西城さんと、殺意剥き出しで獰猛なオーラを放っている東雲さん。この状況、完全に地獄なんだけど……


「まぁまぁ、落ち着きなよ舞子。最近の聖菜、楽しそうじゃん?それって神坂のおかげだと思うんだよね、あたしは」


「それは……そうかもしれないけど」


「もう、あたしたちがそこまで気にしなくても、聖菜は大丈夫だよ。もちろん聖菜に何かあったら、あたしだって黙っちゃいないけどさ?」


 西城さんって、本当に全然イメージと違う。もっとギャルでカーストのトップでドライな人だと思っていたのに、すごく友達想いの、いい人なんだな。もう、姉貴って呼んでいいですか?


「それより神坂。明日、この前のお詫びに聖菜を映画デートに誘ったんだって?やるじゃん」


「え?そうだったの?確かに、あの時は私と彩音が邪魔したものね。そこまで聖菜のこと考えていたなんて……ごめんなさい、神坂君」


 ……東雲さんも、イメージと全然違う。普段はクールで何を考えているか分からないような人なのに、聖菜さんのことになると、まるでチャッカマンみたいにすぐに燃え上がるんだな。でもすぐに冷静になるし。


 二人ともタイプは全然違うけれど、聖菜さんのことを本当に心配しているのはすごく伝わってきた。まぁ、とにかくこの険悪な状況が収まって本当に良かった。


 オレはその後、二人に聖菜さんのことを色々聞いた。好きな食べ物とか、趣味とか、苦手なこととか。その時の二人は、まるで自分のことのように、とても楽しそうに聖菜さんの話をしてくれた。


「こんなもんかな。まぁ、何かあればあたしらに相談してくれれば力になるよ。だからさ……聖菜を頼んだよ?」


「ああ」


「ならよし!ほら、行くぞ舞子!」


「ちょっ、引っ張らないでよ!」


 そのまま西城さんは、東雲さんの腕を強引に引っ張って、カフェを後にしていった。親友か。いつも一人でいるぼっちのオレには少しだけ羨ましくもあるのだった。カフェに残されたオレは、夕焼けが差し込む窓の外をぼんやりと眺めていた。明日のデートうまくいくといいな。


『面白い!』

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