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15. 私。メンヘラだよ?

15. 私。メンヘラだよ?




 無事に牛乳となんだか気恥ずかしい『アレ』を袋に忍ばせて家に戻ると、リビングにはすでに良い匂いが漂っていた。高宮さんと怜奈が、楽しそうに何か話しながら最後の仕上げをしているようだ。そして、オレと高宮さんと怜奈の3人で食卓を囲んでカレーを食べることにする。


「あれ?」


 一口食べるとすぐに気が付いた。いつもの怜奈が作るカレーとは味が明らかに違う。どこか優しくて奥深い味わいだ。


「おにぃ。いつもと違うでしょ?今日のカレーは聖菜さんが作ってくれたんだよ」


「そうなのか」


「いやおにぃ……何か感想とかないの?」


「え?もちろん美味しいぞ。高宮さん、料理できるんだな?」


「毎日作ってるからね」


「聖菜さん、自炊してるんですか?」


「毎朝早起きして、お弁当作って、朝ごはんも作ってね」


「すごいですね!」


「今はやってないけど」


「え?」


 高宮さんはなんだかやけに上機嫌だな。そしてその視線は、ニコニコしながらオレの方へと向けられている。


「なにか?」


「見てるだけだよ。私が愛情込めて作ったカレーを、美味しそうに食べる顔を目に焼きつけてるだけ」


「懲りないねぇ。何も変わらないのに」


「変わるよ。私には分かるんだから」


 高宮さんは、自信に満ちた表情でそう言い切る。その言葉には、不思議な説得力があるような気がした。


 そんなこんなで、美味しいカレーを食べ終えると怜奈はお風呂に入ると言って、リビングを出て行った。すると、さっきまで上機嫌だった高宮さんが、急に不機嫌になり、頬を膨らませて、ジトっとした目でオレを睨んでくる。その変化にオレは思わず身構えた。


「どうした?」


「私。怒ってるから」


 高宮さんは、そう言って、プイッと顔を背ける。するとスマホを取り出し、何かメッセージを読み始めた。眉間に皺が寄っている。


「さっき、彩音ちゃんからメッセージがきたの。『ドラッグストアで神坂に会って、帰り少し話したんだけど、結構いいやつだったよ。』って」


 西城さんとそんなやり取りをしていたのか。まさか、わざわざ連絡しているとは思わなかった。


「たまたま帰り道が一緒だったんだよ」


「ふーん……」


「いや、そんなことで怒るなんて、メンヘラじゃんか」


「私。メンヘラだよ?知らなかった?」


「肯定するなよ」


 ……でも、高宮さんがこんな風に怒るのを見るのは初めてかもしれない。いつもは余裕綽々としている彼女がこんな風に感情を露わにするんだな。そう考えると、少しだけ嬉しくなってしまうのは一体どういうわけだろうか。


「こらこら。なんで笑ってるのかな?」


「いや。高宮さんは、メンヘラっぽいなって思って」


「私は感情で動くからね」


「パッション系だな」


「そして、そんなメンヘラと結婚するんだよ、神坂君は」


「そうらしいな。その時は受け入れるよ。オレは思慮深いからさ」


「本当に思慮深い人は、そんなことを言わないと思うなぁ」


 高宮さんは、いつものようにクスクスと笑う。しかしいつもよりその笑顔が柔らかい気がする。意外な一面が見れたかもしれない。


 その後、オレが先にお風呂に入り、今は高宮さんが入っている。まさか、高宮さんが家に泊まることになるとは。今のうちに、あの『アレ』をどこかに隠さなければと思い、自分の部屋に戻ったのだが、その光景を見て思わず怜奈を呼び出した。


「なんで布団が敷いてある?」


「だって聖菜さんはおにぃの部屋に泊まるでしょ?」


「いや、普通お前の部屋に決まってるだろ!」


「普通はおにぃの部屋でしょ!私と聖菜さんは、今日初めて会ったんだよ?」


「そりゃそうだが……何か起きたらどうするんだよ!」


 まさか、本当に何か起こるなんて思っていないけれど、万が一ということもある。


「そのために、アレ買ってきたんでしょ?本当にヘタレだよね、おにぃは?あんなに可愛い人が泊まりに来てるのにさ?既成事実くらい作りなよ。もう二度とないチャンスかもよ?」


 くっ……めちゃくちゃ煽ってくるじゃねぇか。このマセガキめ。そんなことを言い合っていると、お風呂から上がった高宮さんが、タオルで髪を拭きながら戻ってきた。湯気が立ち上り、高宮さんの白い肌をより一層際立たせている。


「お風呂いただいたよ?」


 オレは、右手に持っていた『アレ』を咄嗟にベッドの下に投げ捨てて、何事もなかったかのように平然を装って話し始める。心臓がドキドキしているのがバレないように、平静を装うのに必死だった。


「高宮さん、ごめんな。こいつが勝手に布団敷いただけだから。怜奈の部屋に敷き直すから」


「私は神坂君の部屋でいいよ?」


「いや、それは……」


「理性警察は出張中なのかな?」


「この前の難事件が解決したばかりだからな。今は休暇中だ」


「なら、休日出勤しないとだね」


 高宮さんは、さらに追い打ちをかけるように、楽しそうに笑う。結局、高宮さんはオレの部屋に泊まることになった。怜奈は、ニヤニヤしながら「あとはごゆっくり」とか言って、自分の部屋へと消えていく。あとで、絶対にボコそう。


 とは言っても、この前のラブホよりはマシか。空間は一緒とはいえ、寝る場所は別々だからな。大丈夫。何も考えるな。ただの同室だ。


 ただの……


 でも、隣に高宮さんが寝ているという事実だけで、心臓はバクバクと音を立てている。今夜は眠れるだろうか……

『面白い!』

『続きが気になるな』


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