13. 2000円で牛乳を買う
13. 2000円で牛乳を買う
ガチャリと扉が開かれる。そこに立っていたのは制服姿の怜奈。
「おう!おかえり怜奈」
平静を装いながら、精一杯の笑顔で声をかける。心臓は、まだ少しドキドキしている。
「ただいま……あ。」
怜奈は、部屋の中を見渡し、ベッドに腰掛けている高宮さんの姿を捉える。その瞬間、怜奈の表情がほんの一瞬驚きと戸惑いに染まったように見えた。
「初めまして。私は高宮聖菜って言います。よろしくね怜奈ちゃん」
高宮さんは、まるで春の陽だまりのような、柔らかな笑顔で怜奈に自己紹介をする。
「初めまして……本当に……おにぃの彼女なの?」
怜奈は疑わしい目を細めて、オレをじっと見る。その視線が、核心を突こうとしているようで背中に冷や汗が滲む。
「おっおう!だから言っただろう!」
「私のアイスが……」
怜奈はしょんぼりとした声で呟く。そうだった。そんなこと言ってたなこいつ。あのあと間一髪、高宮さんはオレから離れてくれたので慌てて起き上がることができた。
あのままでは、妹に余計な誤解を与えてしまうところだった。でも高宮さんは、ギリギリ焦っているオレを見て内心では楽しんでいたんだろうな。あの含みのあるニヤニヤ顔は、目に焼き付いているからな。
「怜奈ちゃん。アイスってなぁに?」
「え?あの……失礼かもしれないんですけど、おにぃが身長がこのくらいで、黒髪のロングの超絶美少女の彼女を連れて来なかったら、おにぃが今年いっぱいアイス奢ることになってて……」
「ならアイスは食べれるね」
「え?」
「私と神坂君はお付き合いしてないよ」
高宮さんはきっぱりと否定する。え?今、なんて言った?まるで、さっきまでの甘い雰囲気は幻だったかのようだ。
「高宮さん!?」
突然の裏切りにオレは思わず声を上げた。すると今度は、さっきまでしょんぼりしていた怜奈が、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。なんだよその顔……
「ほう。おにぃの彼女じゃないんだ」
怜奈は勝ち誇ったように、オレを見下ろしそう言い放った。完全に立場が逆転してしまった。
「嘘はダメだなぁ神坂君」
「裏切ったな高宮さん……」
「じゃあおにぃと聖菜さんは、ただのお友達ってことですよね?」
「友達……それも違うかな?」
「え?じゃあ……なに?」
「そうだなぁ……深い関係?」
高宮さんは妖艶な笑みを浮かべる。その瞬間オレは察した。ああ、これは完全にからかわれていると。この人は、本当に人を弄ぶのが好きだな。そんなことを聞かされた中学生の怜奈は、すごく動揺しているけれど、その瞳は好奇心でいっぱいだ。このマセガキが。一体、どこまで話が発展するのか、興味津々といった様子だ。
「え?え?え?深い関係?それってつまりセ……むぐっ」
慌ててオレは、怜奈の口を塞いだ。危ない……これ以上はまずい。いくらませているとはいえ、まだ中学生の妹の口から、そんな言葉を聞きたくない。それはオレの良心が許さない。
「そんなわけないだろ!ほら!高宮さんも変なこと言わないでくれよ」
「ふふ。冗談だよ。でも私はかなり好意があるんだけどね?」
「好意!?むぐっ」
「お前は黙ってろ」
オレは怜奈を睨みつける。なんか……これ、ただ怜奈に高宮さんを紹介しただけになってないか?どっちが策士だよ。オレが高宮さんを見ると、ニコニコしている。またその顔が、信じられないくらい可愛いんだから困る。とりあえず用は済んだので怜奈は自分の部屋に戻った。
「とりあえず高宮さん、ありがとな。駅まで送っていくよ」
オレがそう言うと高宮さんは少し考えてから、とんでもない爆弾を投下してくる。
「必要なくなったら、すぐにサヨナラなんだぁ。酷いなぁ。神坂君って男は」
「え……?」
「せっかくだから、お泊まりしようかなぁ?」
「いや……高宮さんのご両親が……」
「あれ?言ってなかった?私は一人暮らしだよ」
「泊まるって、明日学校だよ?」
「それなら、一緒に登校できるね」
高宮さんは、平然とそう言う。全く、動揺しているのはオレだけのようだ。この状況に頭が全く追いつかない。
「いや……それに、着替えとかないだろ?」
「下着は買えばいいし、私、身長低いから怜奈ちゃんのパジャマでも着れると思うよ?怜奈ちゃんはきっと私に泊まってもらいたいんじゃないかな?」
高宮さんはあっさりとそう言う。そんな簡単に済む問題じゃない気がするんだけど。付き合ってもいない男の家にお泊まりとか……常識とかそういう概念はないのだろうか。
「いや、でも……」
「私、今日は神坂君の彼女だよね?」
「さっき思い切り否定してたけど。もしかしてオレ、『タイムリープ』した?」
「したことにするのも、旦那様の務めだよ神坂君」
高宮さんは楽しそうに笑う。全く。本当にこの子には勝てる気がしない。でもまぁ、確かにまだ高校生だし、夜遅い時間に女性一人で帰らせるのは確かに抵抗がある。
……それに、一応オレの未来の奥様らしいしな。そう考えると、不思議と納得してしまう自分がいる。
怜奈にも事情を説明したら、なぜかすごく喜んでいた。おそらく「深い関係」って言葉の真相を聞きたくて仕方ないんだろう。本当に思春期のマセガキは困る。
そして今、オレの目の前には、仲良く鼻歌を歌いながらカレーを作っている高宮さんと怜奈の姿がある。すっかり打ち解けてまるで姉妹みたいだ。すると、怜奈がこちらに来て、2000円を差し出す。
「おにぃ。牛乳買ってきてくれない?」
「は?牛乳なら、予備があったはずだろ」
冷蔵庫にはまだ牛乳があったはずだ。一体何なんだ?オレがそう言うと、怜奈は手招きして、オレの耳元で囁くように話す。
「空気読んでよ!おにぃ、彼女なんていたことないし、童貞だからどうせ持ってないでしょ?」
「なにが」
「コンドーム」
怜奈はそう言ってニヤニヤしている。……このマセガキ。しかも、なぜか勝ち誇ったような顔をしているのがまたムカつく。年子とは言えお前はオレの妹だぞ?変なマウント取るなよ。
「余計なお世話だ。そんなのいらないから安心しろ」
強がってオレはそう言う。そんなもの使う予定なんてないんだからな!……たぶん。
「いらない!?ヤバッ!?」
怜奈はめちゃくちゃ大きい声で、しかも生まれて初めて聞いた妹の裏返った声がリビングに響き渡る。その声を聞いて、高宮さんは不思議そうな顔をしてこちらを見ている。そういう意味じゃないんだよ!くそっ……ダメだ。もう後に引けない。
「おっおお!ちょうど買いに行こうと思ってたんだよ!それじゃ、行ってくるな!」
オレは怜奈から2000円を勢い良く奪い取り、リビングを後にする。後ろを振り返ると、怜奈がウインクしながら親指を立てていた。ウザすぎるぞ我が妹よ。
こうしてオレは、使う予定のないと思われるコンドームと牛乳を買いに、茜色に染まる夕暮れの街へと飛び出すのだった。
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