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魔法使いの嫁  作者: ふとん
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魔法使いの秘密

 だから、何だというのだ。

 フェネルは我知らずしかめ面で一人きりの夕食を終えて廊下を歩いている。

 トールの言うとおり、魔法使いは何かしら隠し事が多いようだが、それをフェネルが知って、何の役に立つというのだろうか。

 フェネルは必要以上に魔法使いのことを知りたいと思っていない。

 確かに、魔法使いが案外、紳士的で温和だということがわかった。だが、そんなことを自ら進んで知りたいと思っていたわけではない。フェネルにだって、人並みの好奇心はあるから、何日か暮らしているうちにいくつかの疑念だって湧いてくる。

 あの魔法使いは、白い髭と長い髪に覆われていて一見、老人に見える。

 だが、その言動に老いたところが見られない。むしろ、若者のように思えるのだ。そこが魔法使い所以かもしれないが、フェネルと同じように食べて寝ているのなら、等しく老いの法則に倣うはずである。不老長寿なら、わざわざ老人の格好をする必要はない。威厳を見せるのなら、もっと相応しい紳士の姿でもしていればいいのだ。

 他の疑問も合わせれば、魔法使いは矛盾だらけだ。

 しかし、フェネルはそんなものを暴きに来たわけではない。

 迷いがない、といえば嘘になる。

 そんな心境だったからこそ、フェネルは思わず二階の自室に向かう足を止めていた。

 話し声がする。

 それも、魔法使いの書斎から。

 普段は足早に去るはずの部屋のドアが少しだけ開いている。

「全く……迷惑なだけですよ」

 バリーの声だった。

 珍しく、フェネルが起きている時間に弟子が訪問しているのか。

 フェネルはそっと息を殺してわずかに開いている隙間から除く。

 ローブが見えた。魔法使いがドア側に座っているようだ。だが、聞こえてくるのはバリーの声のみである。

「婚約者だなんて、ロータスもつくづく物好きだ」

「そう仰られますな。ロータス様はあなたの将来を憂いておいでなのです」

 応えたのは、夕方に帰ったはずのトール宰相の声だった。

「あなたの師が亡くなってもう七年が経ちました。そろそろ良い機会ではありませんか?」

 師が、亡くなった。

 フェネルは不思議な会話を理解しようと忙しく脳裏を巡らせる。

 では、ここにいるあの魔法使いは誰なのだ。

「だからと言って、あんな娘を巻き込むことはない」

 少し苛立ったバリーの声に、トールの声は相変わらずの無愛想で応える。

「整然、師は仰っておりました。自分が死んだ後、あなたがここに囚われはしないだろうか、と。そして、それは現実になってしまった」

「……それは私が決めたこと」

「そう。ロータス様があなたをここに縛りつけてしまった。それがわかってしまったからこそ、あなたには必要以上の心配をしてしまうのです」

「いい迷惑です」

 バリーの語気が荒くなり、何故か頭から被っている魔法使いのローブに白い手がかかった。

 そしてバサリと剥ぎ取られる。

 現れたのは、長い金髪。

 ランプの光を受けて月光のような淡い光を放つ。

「ロータスにお伝えください。私は何も後悔をしていないと」

 凛と言い放った横顔は、まぎれもなくバリーだった。

 訳がわからない。

 今まで魔法使いだと思っていたのがバリーだったのか。ならば、本物の魔法使いは何処に行ったのだ。

 まさかフェネルがここにいることを嫌って何処か引っ越したのか。

 ちょうどその時。

 片手が思わずドアをついた。

 小さな軋み。

 だが、それは室内の二人を振り向かせるのに充分だった。

 バリーが目を見開く。

 彼の唇が咄嗟に言葉を紡ごうとして、

「ガードウィン殿!」

 制止するトールの声。

 それと共に、ドアが弾けた。小さな火花を散らして焼け焦げる。

 辛うじて尻餅をつかなかったフェネルは、改めて正面を見据えた。

 ドアが完全に開いて、その先でバリーが言い分けを探すような困惑顔でこちらを凝視している。

 驚いているのはフェネルの方であって、バリーがまるで殴られた子供のように泣きたいのか怒りたいのかわからない顔をするのはどう考えても理屈にあわない。

 反則だ。

 そう考えると、この不条理が突然、腹立たしいものに思えてフェネルはバリーを睨みつけた。

 少し怯えたようにあとずさったバリーはなおも言い訳の糸口を探して視線をさまよわせる。

「……契約にはないわね」

 我ながら低い声だった。

 だが、それは幸か不幸か、バリーと奥のトールを気圧すのに効果があった。

「私がこの状況に説明を求めるのに、何の誓約もないはずよね?」

 静かな詰問に、バリーは明らかに顔をひきつらせて頷いた。


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