魔法使い
むかしむかし。
あるところに国じゅうからきらわれている一人の男がいました。
町外れにある男の家には猫一匹よりつきません。
というのも、男が恐ろしい魔法使いだったからです。
棚には墓から掘り出した骸骨が並べてあるとか、得体の知れない薬を作っているとか、果ては娘の生き血を吸うとか、色々な噂がありました。ただ、目の当たりにした人がいないので、嘘か本当かはわかりませんが。
ですが、時々、町に姿を見せる男の風体といったら、不気味そのものでした。
白く長い髪と髭に顔は覆われて、黒いローブを頭から被っているのです。気味悪く思わない人はいませんでした。
町から追い出してしまおうという声もあがりましたが、男は何と王様のお気に入りの魔法使いだったのです。
どこの国の王様もおかかえの魔法使いを一人は宮廷に置いていましたから珍しいことではなかったのですが、城に住まわせず町外れに住まわせていることは珍しいことでした。それに、おかかえ魔法使いには珍しく、この嫌われ魔法使いは町の人たちにも力を貸していたのです。
大雨で防波堤が決壊した時は土の魔法で泥を固めて水を食い止めましたし、火事が起こったときは水の魔法で雨を降らせました。こまごまとしたことでは、腰痛で動けなくなっていたおばあさんの腰を直す薬を作ったり、好きな人がいる人にうまく告白ができるおまじないを教えたりしていました。
そういうこともあって、町の人たちは何かしら彼の世話になっているため、追い出そうにも追い出せず、結局、町の外れに住まわせているのでした。
そんなある日のこと。
町にとんでもないお触れが出されたのです。