彼女の死後 2
去った男を見送る部屋付きの係員に、「朝、エリザベートはどうしておった?」とフレデリックは訪ねた。
「お元気でした」
「スピーチの原稿は誰に渡したのか?」
「・・・・・存じません。見ておりません」とその係員は答えた。
「そうか」とフレデリックは呟き、
「ロザモンドは部屋で泣いておるだろうから、そのまま部屋からだすな。それからスピーチの原稿を受け取った侍女を呼べ」
「侍女が参りました」の声に床のインクの染みを見ていたフレデリックが振りかえると、一人の女が平伏していた。
「お前が・・・・・・名はなんと言う?」
「ロザモン・トラウブルでございます」
「エリザベートは元気だったか?」
「・・・・はい」
「部屋は寒かったか?」その優しい口調が怖かった。
「はい・・・・」
「エリザベートは寒がっていなかったか?」
「・・・・存じません」喉か塞がったようで声がなかなか出ない。
「下がってよい」と王太子は手を振った。
「そこにある書類はお前が受け取っているのか?それとも勝手に置いて行くのか?」と部屋付きの係員にフレデリックがふいに問うた。
「は・はい・・・・色々です」
「色々か・・・・これはどうだ」と王太子の執務室にあるべき書類を取り上げて訪ねた。
「それは・・・・どうだったでしょうか・・・」
「自分の妃であるエリザベートにわたしが押し付けていた仕事だ。わたしのお飾りの妃に王太子であるわたしが押し付けていた」
次の書類を取ると係員に
「これは?黙って置いて行ったのか?お前が受け取ったのか?」
「・・・・・・そ・そ・それは」と答える係員の顔色が悪かった。
「こいつは知り合いか?」
「・・・・弟でございます」
「つまり、お前は主のエリザベートが、わたしの妃であるエリザベートが、お前の弟の仕事をしているのを知っていたな?」
「お許し・・・お許し下さい・・・そんなつもりは・・・決して・・・」
「お前のつもりを詳しく教えてくれ。後でゆっくりとな・・・・こいつの一族をすべて捕えて、牢に入れろ」
「セントクレア侯爵夫人がお見えです」の声と共に夫人が入って来た。
「あの、あ!エリザベート」の声と共にエリザベートの遺体に夫人が取りすがった。
しばらくそれを眺めていたフレデリックが、
「泣いている所悪いが質問させてくれるか?」と話しかけた。
「え?で・で・殿下」慌てて礼を取ったのをじっと見て
「エリザベートは本当にきれいに礼をとっていたな」と言うと隅の椅子を示した。
「いきなりの質問で悪いが、何故、エリザベートに侍女をつけなかったのだ?」
「・・・・・つけておりました」
「いつも、馬車から降りるわたしを見ると奥に駆け込む女がいたが・・・・あれだったのだろうか?」
「エリザベートとゆっくり過ごす侯爵家のお茶会が好きであった。エリザベートは目で話せるなと思っていたが、ある日、ロザモンドが部屋にやって来た。エリザベートが注意したが、出て行かなかった。夫人の差金だな」
「い・いえ・・・」
「咎めているのではない。事実を指摘しただけだ。その次もやって来た。エリザベートは注意した。何度かそういうことが続きわたしとエリザベートの穏やかな時間がなくなった。ロザモンドはひっきりなしにわたしに話しかけ、エリザベートはわたしによそよそしくなった。そしてついに部屋に来なくなった。わたしはエリザベートを恨んだ。
わたしが嫌いだからロザモンドを呼んでいると思ってな・・・・まさか婚約者の入れ替えを狙っていたとはな・・・贈り物もロザモンドがいつも身につけているし、最後に贈ったドレスもロザモンドが着ていた」
「ちが・違います・・・」
「見事だ。いやわたしが間抜けだな・・・・・エリザベートはわたしを見なくなるし・・・夜会でもロザモンドを振り切れなかった・・・・」
「しばらく、王宮に滞在してくれ・・・・・あっ忘れる所であった。侍女の名を教えてくれ」
「・・・ケイトです」
「王太子の婚約者につけたい優秀な侍女だったのか? それともどうでもいいエリザベートにつける最低な侍女なのか?」
「・・・・」
「夫人。わたしの質問に答えないのはなぜか?」
「ケイトは優秀な侍女です」
「侯爵家の優秀な侍女は主が死んでも付き添わぬのだな」
「そ、それは・・・」
「下がれ」冷たく言われた。
王子の側を離れる許可。その言葉を夫人は嬉しいと感じた。
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