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04 原稿

原稿は、侍女がロザモンドの紋章が記された紙に清書した。


その時、エリザベートが無意識に署名した名前の通りに書き写したらしい。そしてロザモンドもそれをそのまま読んだようだ。


エリザベートと・・・・・



客は一瞬、ざわめいたが礼儀正しく黙っていたし表立ってうわさになることはなかった。しかし静かに確実に広まって行った。


そして式から一年程たったある日、王太子殿下が、エリザベートの部屋にやって来た。


「おまえはそんなにロザモンドが憎いのか・・・・式を欠席したお詫びに原稿を書きたいと、願ったおまえに絆されたロザモンドが原稿を書くことを許したのをいいことに、ロザモンドが間違えるようにわざと自分の名前を署名した原稿を渡したそうだな?」


「わたくしの署名?原稿?どの原稿?いつの?」


「とぼけるな!おまえの魂胆はわかっている」


「いいか。お前はお飾り。お前は執務の為に娶った。せめて役に立て」そういうと、机の上のペンやインク壺や書類を払い落とすと部屋を出て行った。


王太子の侍従は始終にやにやと笑いながらエリザベートを見ていたが


「お二人の結婚式のあとのお茶会のスピーチですよ。ばれると思わなかったんですか?」と言うと王太子を追って出て行った。


残されたエリザベートは

「一年も前のこと?自分の名前ではなくわたくしの名前を?まぁサインしたとしても読む方に問題はないの?」とエリザベートはつぶやいた。




エリザベートはのろのろと書類を拾った。ペンは壊れている。インクも全部こぼれた。


彼女は文官の事務所に行くとペンとインク壺を貰った。部屋を出るとき笑い声が部屋に広がって行った。


あなたたちの仕事もわたくしに、まわしているくせに・・・・とエリザベートは思った。


第二妃への予算をゼロに訂正してから書類に署名したのは、我ながら馬鹿だったと思いながら部屋に戻った。


予算があればインクもペンも買えたのに・・・・いじましいこととエリザベートは自分で可笑しかった。



部屋に戻るときケイトとすれ違ったが、ケイトは見向きもしないで通りすぎて行った。


インクで汚れた書類を再度貰う為に各所に頭を下げに行っていたら、夜も更けていた。


暖房もない部屋は寒いが、どうにか終わらせた。明日各所に持って行けばいいなと書類をまとめている時に


ロザモンドの侍女が明日の会の為のスピーチを書くように言って来た。


「これ書いて下さい」


「なにを書くの?」


「原稿ですよ」


「なんの原稿?」


「それくらいわからないんですか?もう、いやだ」


「どこで読むの?」


「だからお茶会よ」


「お客様はどこの方」


「もう、さっさと書いてよ」


「じゃあもう時間だから・・・」


ドアを叩きつけて出て行った。


部屋が揺れたし、視界も揺れたわ。多分貿易交渉のお相手ね。あの子を出すとうまく行くものも、うまくいかなくなりそうだけど・・・・詫び状を書くのも慣れてきたし・・・・


訪問に感謝と今後の友好でいいか。



係員は今日も暖炉に火を入れなかった。


「あなた一人だけにはもったいないですよね。早く仕事が終わっていれば問題ないですね」と帰って行った。


急に冷えてきた室内。手に息を吹きかける。凍えて体が動かなくなって来た。


やっと書き終えた。



床の絨毯のインクの染みが見える。それにダブって子供の頃の情景が浮かんだ。フレデリックとギルバードとわたくしが三人で話している・・・・あそこまで行こうねぇ・・・・


もう、疲れた。これで終わり・・・・それでいい・・・・しまった。また自分の名前を署名した・・・


エリザベートの一度目がこうして終わった。







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