39 貴族たち
フレデリックは、療養生活に入った。たが、ロザモンドが、フレデリックを部屋に呼びたがるので、安静を保つのが、むずかしかった。
そしてロザモンドが、フレデリックに必死に訴えた。母親に人生を狂わされたと。
当の母親は、ロザモンドが冷たいとゾーイ相手に愚痴っては、そんなに不満の対象でしかない子供が出来上がったのは、親に問題があると言われては、泣き喚き、気分転換に宝石を買いたいとフレデリックに伝えるよう繰り返すばかりになった。
ゾーイはキルメニィにいつもこう言っている。
「子供は小さい頃は可愛くて親の慰めで自慢だろ!子供は大人になったら親から離れて行くんだよ。遠くに行くんだよ。だけど振り返ると親がにこにこしている。そこで安心してまた進んでいくんだ。それを引っ張って止めてどうすんだ」
「なんだか、二人ともわたくしの子供になってしまったようね」とエリザベートが言うと、ゾーイは
「あんたさまは、苦労をしょいこむ 性質だね。わけて持ちたいと思うお人が、いるってことはご存知でございますね。その人は分けるより、全部しょってくれそうですけど・・・・・・あたしとしては、放りなげるのが一番と思いますんです」
「ゾーイ。あなたを話すといろんなことが簡単に片付くようね」とエリザベートが言うと
「むずかしくないですよ。大事な人を大事にする。これだけです」とゾーイが答えた。
「おや、フレデリック様ですね。やめといたらいいのに・・・・ロザモンド様はわざと泣き喚いてるから。はっきり、やめろ。うるさい。って言えばいいんですよ。ちょっと言ってやろうかね。おーーい」とゾーイはフレデリックに向かって行った。
「王太子様。あんた様がややこしくしてますよ。ロザモンド様は意外と図太いですよ。でなきゃぁね・・・」
とフレデリックに言っているが、
「はぁ、あなたか・・・いつも義母上とロザモンドをなだめてくれているのは」
「そうだよ。王太子様。あなたさまはあの二人に近寄らないほうがいいよ。あなたさまみたいな人は、搾り取られる。体力とか気力とか、いろんな力をね・・・・弱って来たって感じないかい?あなたさまは、離れていたほうがいいね。悪いことは言わないからね」
とゾーイに言われたフレデリックは、
「そうなのかな?」と呟くと戻って行った。
平民の間で、ギルバード人気が上がったことを貴族は歓迎しなかった。
「この国にはフレデリック様と言う、立派なお世継ぎがいます。ギルバード様には遠慮なさるよう、エリザベート様から、お話するよう、献言いたします」
エリザベートの執務室にやって来たある貴族がこう言った。後ろにはおおきくうなずく、一派が並んでいた。
「今、妃殿下がお忙しいのがわからないのですか?」とタバサが鋭く言うと、
「もっと効率よくなさればよろしい」と答えが帰ってきた。
「なるほど、了解いたしました」とエリザベートはにこやかに答えた。
「それでは、執務の続きがございますので、お引取りを」とにこにこしたエリザベートに送られた一行は、ぞろぞろと帰って行った。
翌日から、カザリンがお茶会を三回程開いた。王妃のおしばいごっこに、新しい脚本が導入された。
出演者は毎日楽しげに練習をした。練習の合間に、夫婦の間に起こった事をうちあけ合った。扇の影で交わされる忍び笑いは 共犯関係の響きをまとい楽しげに広がっていった。
「あなたは、いつからエリザベート様の執務の下働きに行けますの?」と夕食の席で妻から聞かれて、彼は戸惑った。
執務の手伝いではなく、下働きという言い方もあるが、何故?手伝いに?自分の領地のことで手一杯なのだが・・・
「いや、わたしにそんな予定はないが・・・」
「あら、エリザベート様は、一人で国を回してらっしゃるでしょ?ギルバード様が手伝えばうまく行くのに、あなたは効率的にすればいいって言ったそうじゃない。それだったら、あなたが下働きでお手伝いをすればいいでしょ。あなたに出来るのはせいぜい、指示を仰ぎに来た人に休憩をとって貰ったり、かわりに書類を運ぶくらいしかできないでしょ」
「わたしは・・・・」
「あら、あなた。あなたの無能をあげつらっているんじゃないわよ。無能だって無能なりに働けるもの。そこは使いようですわ。それこそ、効率ですわよ・・・・」
「その言い方は・・・・」
「あら、だってこの領地のことしかやってないじゃありませんか!もっと効率的にやれば、エリザベート様のお手伝いに行けますわよ。王妃殿下と話し合って、効率的にあなたがたを配置するように致しましたのよ。上位貴族に有能な方がいないのは痛手ですわね。でもなんとか・・・・効率的に話し合いましたのよ。そうじゃないと、お芝居の練習ができませんでしょ。せっかく、「あの有名な方」が脚本を書いて下さったのに・・・・・」
「 その・・・わたしは、あの時皆に付いて行っただけで・・・・」と彼は弱々しく呟いた。
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