38 母娘の愛
そして、フレデリックは自ら、前侯爵夫人を迎えに行き王宮に連れて来た。
「王宮に来るのは久しぶりだわ。ほんとに庭がきれいね。ロザモンドは元気にしているかしら」と繰り返し言うキルメニィ・セントクレアの姿に、後ろに続く護衛も侍女も、違和感を覚え、この先に待ち受ける悲劇を予想していた。
「お母様が来たの」とロザモンドが言葉を発したが、正確に聞き取れたものはいない。ただ、喜んだのはわかった。
「ロザモンド、寂しかったわ。カザリンはダメね」と言いながら入って来たキルメニィは、顔をベールで覆ったロザモンドを見て、
「聞いたわ、怪我したんですって。隠すことないわよ。お母様に見せて」と言いながら、ベールを取った。
「お母様」とロザモンドは言ったのだが、慣れていないキルメニィは聞き取れなかった。
笑顔で、ロザモンドの顔を見たキルメニィだったが、ロザモンドの口が歪んでなにやら音が出たとき、悲鳴を上げた。そして
「いやぁ、近寄らせないで」と言った。続いて
「エリザベートはなにやってるの?妹の面倒をちゃんと看ないなんて」と怒鳴った。
次の瞬間、ロザモンドがキルメニィに飛びかかった。首を締めながらなにやら言っていた。
ロザモンドはこう言っていたのだ。
「どうしていつも、お姉様なの。わたしだって・・・やれば出来たのに」
我に返ったフレデリックは、ロザモンドの手を首から離そうとしたが、出来なかった。
護衛が手伝って、二人を引き離したが、ロザモンドもキルメニィも唸り声を上げ、お互いの爪で傷つけられた所からは、血が流れていた。
母娘は、鎮静剤で眠らされ、知らせを受けたエリザベートとギルバードが駆けつけた。
二人が会った時の出来事をガーベラから聞かされて、エリザベートは予想通りだったことに驚いた。そして計画通りにことをすすめた。
「その様子なら、カザリンは大変だったでしょうね。お母様は王宮に引き取りましょう」とエリザベートが言うと
「その・・・エリザベートすまない。わたしの判断ミスだ」とフレデリックが頭を下げた。
「後は、やっておきますから、殿下は執務に戻られて下さい」とエリザベートは答え、ギルバードがフレデリックを助けて部屋から出て行った。
入れ替わりでカザリンがやって来た。
キルメニィを引き取ると聞くと、恐縮しながら、素直にお礼を言った。
「エリザベート様、わたくしの忠誠はあなた個人のものです」そっと囁かれた声は誰にも聞こえなかった。
ギルバードは、フレデリックと並んで歩いたが、前にフレデリックに感じた事を思い出した。
よく知っているこの感じ・・・・・・
なんかこう、元気がない・・・・そりゃそうだが、ちょっと違う。あっ・・・・これは・・・
『そうだ。父上が最初こうだったんだ。あぁもっと早く気づいていたら・・・・すぐに医者を手配しないと』
フレデリックの部屋で、ギルバードはフレデリックに自身の考えを告げた。
「そうか、そう思うのか?」とフレデリックは答えた。
「うん、違っていれば良いけどね」とギルバードが言うと
「おかしいと思って医者に相談したが、異常がないと言われていた」
「父上もずっと診断がつかなかった。でもちゃんと、治られた」
「そうか・・・・だといいが・・・・・ありがとうギルバード」
さて、エリザベートは、ロザモンドとキルメニィの世話をする下働きを、ガーベラとジャスミンに相談して選んだ。
ゾーイと言う名前の下働きは二人の世話をしてくれた。
彼女は、無学と言っているが、その言葉は強さと、含蓄があり二人を黙らせることが出来た。その上、その頼もしい腕で、暴れる二人に対抗できた。
「あんたさんは、不幸って言ってるけど、食べるのに不自由はないし、着るものだって綺麗だよ。娘二人はどちらもお妃様だ。確かにあんたさんはろくでもない母親だけどね」とキルメニィに言えた。
「お妃様、あんたさんがそんな顔になったのは、単純にあんたさんが悪者だからだよ。長年仕えて来た侍女を売り飛ばし、なんでも・・・・くだらない意地悪をして・・・・・災害が起きただろ。あんたさんが、悪いんだよ。
その顔程度の罰だなんて、神様も甘いよ・・・・なんて言ってるかわからないけど文句を言ってるんだろ!」
「ゾーイ、よくやってくれてるわね」とジャスミンがやって来て声をかけた。手に持っていたバスケットから、お菓子を出すと
「エリザベート様からよ。体を大事にしてくれって」と言うと
「よく出来た方だね。お菓子をくれるから言ってるんじゃないよ」と言うとジャスミンは笑いながら、
「わかるわよ。たしかにエリザベート様はいい方よね」と返した。
「いっそギルバード様がエリザベート様と結婚してくれたら二人は幸せになるんじゃないかって」と言うのを途中で、遮り
「なに言ってるの・・・そんなこと」とジャスミンがあわてて止めると、
「平民はそんな勝手なことを言って楽しんでるんですよ」とゾーイは笑って言うと、ポーズを取って
「ついにお二人が結婚するよ」と言うと相手役になって
「(その手は桑名の焼き蛤)だよ。嘘がばれてるよ」とポーズを決め
「お見通しだとは(恐れ入りやの鬼子母神)とくらーー」と答えて一人芝居を終わらせた。
そして真面目な顔になって
「エリザベート様はご自分の幸せを考えてもいいと思いますよ。ジャスミンさん、あんたさんからもお話ししてあげたらいいのに」と言った。
「ゾーイさん、ありがとう」とジャスミンは答えた。
誤字、脱字を教えていただきありがとうございます。
とても助かっております。
いつも読んでいただきありがとうございます!
楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。
それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします。




