32 この日にわたしは死んだ
エリザベートは本を広げているが、目を字を追わずに自分の考えを追っていた。
貿易交渉の草案は、宰相に渡した。交渉は成功するはずだ。ロザモンドの動きはローラから報告があるから、すぐに手を打てる。
あのいまいましい侍従は、とっくに配置を変えた。すると弟の文官と一緒になって、横領をしたらしく弁償するために実家は爵位も家も土地も売り払い、二人は鉱山に送られたらしい・・・
ろくでなしだったのねとエリザベートは思った。
そして、夜が明けた。
前回は死んでる時間ね。と思いながら庭を見ていて、思い出した。
服装の注意をすることを忘れている。ガーベラもジャスミンもしっかりしているが・・・・・・
気になったエリザベートは朝食後、ロザモンドの所へ向かった。
すると途中でローラと出会った。エリザベートに会いに来ていたのだ。
「エリザベート様、ロザモンド様がお茶会すると仰って・・・」とローラが言うのに
「ありがとう。行きましょ」と足を速めた。
「あら、お姉様久しぶり。今日のお客様にお茶をお出ししようと思いまして、スピーチも自分で考えました。もうお姉様がいなくても王太子妃として、やっていけるわ」
「あなたなら出来ると思っていたわ」とロザモンドに答えるとローラに向かって
「ガーベラたちに、今日のロザモンドの服装を教えて貰って来たら」と言った。ローラは二人と一緒に出て行った。
ローラが戻って来ると
「勉強になったでしょ」とエリザベートは話しかけた。ローラは
「裾の百合の刺繍がきれいでした」と答えた。
「百合？」と言うとエリザベートは
「なんだか素敵そうね、わたくしも拝見」とローラと一緒に見に行った。
「これは不味いわ。彼の国では百合は葬儀に使う花なのよ。一行の中に婚約者を亡くした方がいるから、避けたほうがいいわ。ロザモンドはこの衣装のことを知ってる？」
「はい。これを着たいと」
「まずいわね。わたくしから話します」とエリザベートは言うと
「ロザモンド、ちょっといい？」
「なに？お姉様、素敵な衣装でしょ」とロザモンドは得意げに言った。
「ほんとに素敵ね、だけど今日はだめだわ。彼の国は百合は葬儀に使う花なの。だから着てはだめ」
「そんなの誰も気にしないわ」とロザモンドは笑顔で言った。
「あなたが気にしないといけないわ。王太子妃として」とエリザベートは厳しく言った。
「そんなの知らないわ」と口を尖らすロザモンドに
「今、知ったわね。別の衣装になさい・・・・」とエリザベートは厳しい顔を崩さずに言った。
帰る間際にガーベラとジャスミンが
「エリザベート様ありがとうございます。わたくしたちは存じませんでした」
「それは仕方ないわ。そういう指導は受けてないでしょう。今回はわたくしがたまたま知っていたから・・・・でも良かった。なにかあるとあなたがたのせいになってしまう。すると二人は王宮から追放されるわ。そうなると困るのはロザモンドよ」とエリザベートが言うと二人は感謝の念をあらわした。
心配しながら、待っていたがお茶会は無事に済んだようだ。
その夜、ベッドに入って
「これからは本当に新しい生活ね。今回は一人じゃない」とエリザベートは思った。
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