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眠る太陽の下で月は目覚める  作者: 伝記 かんな
2/12

5分20秒

公園で出逢った青年・白夜の部屋に、心依架は立ち寄る。

なぜか自分の夢の出来事を知っている彼に、

疑問を投げかけるが・・・・・・


                  2



夜の11時頃。

心依架は、白夜と一緒に

自宅のマンションへ戻っていった。



ちらつく小雪はアスファルトに溶けて、

漆黒色と同化している。

この部屋内を彩る色合いと、変わらない。


黒を基調とした、シンプルな内装。

生活感がないといえばそれまでだが、

さり気ないインテリアの配置は、

洗練された者が成せる技のようにも思える。

そして、ほのかに漂うフレグランス。

リラックスというよりも、

慣れない香りに、そわそわする。



1003号室。

白夜の居城と、呼ぶべき部屋である。


部屋に上がるのはどうかと躊躇ったが、

このまま自宅に戻っても、面白くない。

母親が仕事から帰ってくるのは、深夜過ぎだ。

このまま眠りにつくのは、何となく寂しい。


クリスマスイブという、イベント。

少しでも、楽しく過ごしたい。


そんな願望が、この男のせいで

生まれてしまった。本当に、罪である。

万が一怪しい動きがあれば、

いつでも通報できるように

スマホを手に持っている。大丈夫。


そう考えながら心依架は、

通されたリビング内を観察していた。


マフラーを解きはしたが、

ジャケットは脱がない。と、いうより

脱ぐには頭からじゃないと難しい。

今着ているジャケット、

“後ろ前どっち?”という奇抜なデザインで、

ファスナーが後ろ側に付いている。

これ、開け閉め難しくないか?と周りに

思わせたい人にオススメらしい。

自分は背中に手が届かないので、

完全に開けず半分閉じたまま

頭から被って着用している。

通販で見つけて、面白かわいいと思って

購入したお気に入りである。

勿論、部屋着兼散歩用なのだが。



「そこにどうぞ。」


L字型のファブリックソファーへ

促すように、言葉を掛けられる。

白夜は、ロングコートのドットボタンを

開けながら、エアコンを点けた。


「すぐに暖かくなるからね。」


そう言い残して、リビングと繋がっている

奥の部屋へ姿を消す。

促された通りにソファーへ

ゆっくり腰を下ろすと、心依架は

無言の間を埋めるように尋ねた。


「・・・・・・ガチで、独り暮らしなの?」


未だに、信じられない。

その形跡がないか、部屋内を見渡す。

すぐに、ふんわりと返答が来た。


「そうだよ。誰か来た時

 泊っていけるように、部屋が欲しくてね。

 だから一部屋は、ゲスト用かな。

 心依架ちゃん、いつでも泊まりにきて

 いいからねぇ。」


「いや、自分とこで寝るし。」


そうか。

ワンナイトの為、とか。

そう考えると、一気に警戒心を強める。


まぁ自分に限っては?

それはないと思うけど?

変な気が起こらないらしいし?


思ったよりも、根に持っている。


「親とケンカして、家出したい時とかね。」


ロングコートを脱いだ彼が、現れる。


玄関先で見た、黒のカットソー姿。

着る人によって、地味に見えたり

オシャレに見えたり、するよね。


遠慮なくスマホを翳して

ぱしゃりと撮ると、心依架は遠い目をして

言葉を漏らす。


「・・・・・・ケンカすらもしない。

 みんな、バラバラだから。」


「・・・・・・」


白夜はカウンターキッチンへ歩いていくと、

スタイリッシュな冷蔵庫のドアを開ける。


「本音をぶつけて、話してみたら?

 意外と、思い込みとか先入観で

 すれ違っているだけかもしれないよ。

 まずは、話してみることだね。

 少なくとも、すっきりするから。」


真面目に、言葉を返してくれるとは

思わなかった。

キッチンに立つ姿も、収めなければ。

その欲求のままに、ぱしゃりと撮る。


「それよりも、

 聞きたいことがあるんだけど。」


自分とこの、つまらない家庭の事情よりも

さっきの、夢の出来事の話。


「何で、心依架が見た夢の事を知ってるの?」


「牛乳大丈夫?」


ビルトインIHクッキングヒーターに

片手鍋を掛けながら、彼は問い掛ける。

質問を、関係ない質問で返されて、

心依架は面食らいながらも頷いた。


「・・・・・・うん。」


「特製ミルクココア。

 知り合いに教えてもらってさぁ。

 この作り方で飲むのと、

 普通に溶かして飲むのでは、美味しさが

 格段に違ってねぇ。」


お話はココアを飲む時に、という事なのか。

そう把握して、口を噤む。



ココアを煎る、良い匂いが漂ってきた。


「心依架ちゃんって、高校何年生?」


自分の質問には答えないくせに。


「・・・・・・3年生。」


「じゃあ、受験生?」


「・・・・・・一応。」


落ちるの希望してますけど。


「追い込み期間だねぇ。

 あの制服の高校、進学校で有名だよね。

 頭良いんだなぁ。」


「下の下だけど。」


「家に帰ったら、勉強するんでしょ。」


するわけないっしょ。


「・・・・・・そんなとこ。」


「そっか。・・・今、冬休みだよね?

 明日、一緒に出掛けようって

 誘おうと思ったけど、難しいかなぁ。」


「・・・・・・え?」


「歩きたい場所があってさぁ。

 クリスマスっていうイベントが

 重なっちゃったから、人が

 多いかもだけど。」


「・・・・・・」


ウソ、つかなければ良かった。

めっちゃ、出掛けたい。

撮りまくりたい。


内心残念に思っていると、白夜が微笑みながら

マグカップを二つ、

両手に持って歩いてくる。


「ふふふ。行きたそうな顔してる。」


「・・・・・・」


ソファーテーブルも、オシャレだ。

円を描くガラス張りの上に、

マグカップが置かれるのを見届ける。


彼は、心依架が座る位置から直角に

腰を下ろした。


「息抜きも必要だよ。」


息抜き、しまくって勉強してない。


「行かない?」


・・・・・・行きたい。


「・・・・・・どうしてもって言うなら。」


「うん。どうしても行きたい。

 出来れば、心依架ちゃんと。」


「じゃあ、行く。」


「決まりだね。ふふふ。」


マグカップに口を付け、彼は一口啜る。


「んー。おいし。あったまる。」


「・・・・・・」


じっと、目の前に置かれた

白いマグカップを見つめた。


ほわほわと、白い湯気が立ち昇っている。

クリーミーさを目視出来る程、

滑らかなチョコレート色。

無意識に、スマホを

ガラステーブルの上に置いていた。

手に持つと、じんわり温かさが

指先から伝わってくる。

ほんの少し口に含むと、滑らかで

程よい甘さが、舌を通じて広がっていった。


「どう?美味しいでしょ?」


「おいしい。」


ウソついても、メリットはない。


「良かった。」


「ねぇ。質問の答え、話して。」


「あぁ。そうだよねぇ。聞きたいよねぇ。」


のんびり返すのは、彼のクセなのだろうか。


「言葉で、どこまで説明できるか

 分からないけど・・・・・・聞く?」


「聞きたい。」


「自分は、人と夢の時間を共有できる。

 同期、みたいなもんかな。」


共有。同期。

まるで、パソコンじゃないか。


「何でそんなことが出来るの?」


「それはまだ秘密。」


秘密・・・・・・って、何で?


「本業と関係があんの?」


「おぉ、正解。やるねぇ。」


「眠るのと、どう関係があるの?」


「ふふふ。ちっさい子どもに

 質問攻めされる気分。」


「子どもですから。」


「根に持ってるねぇ。」


「じゃあ、何で出来るかは置いといて、

 夢を共有して、同期して、何をするの?」


「いいねぇ。ズバズバ聞いてくるねぇ。」


明確な答えが返って来ず、イラっとする。


「答えてってば。」


「夢という浅い眠りから、

 深い眠りについて扉が開き、辿り着く場所。

 自分たちの業界では、その場所の事を

 “はざま”と呼んでいる。」


「・・・・・・“間”?」


「残念ながら、心依架ちゃんが自分と見た

 “夢”は、夢じゃない、別の世界。

 “間”という世界なんだ。」


「・・・・・・?」



―ヤバい。分かんない。



混乱して首を傾げていると、

彼は小さく笑った。


「・・・・・・ほら。言葉じゃ難しいの。」


「ちょ・・・何?夢じゃない、別の世界って。」


「死に近い場所、と

 言った方が分かりやすい?」


死。想像外な言葉が出てきた。


「“間”を通り越して、さらに深くなると

 “常世とこよ”へ入り込む。」


「“常世”・・・・・・って、つまり」


「“死”の世界。」



あ。飲まないと。

思い出したように、心依架は

ミルクココアを口に含み、ごくりと

喉を鳴らす。


「普通の人間は、“そこ”には行けない。

 自分は、それが出来るという事。 

 深い理由があるんだけど、まだ秘密。

 ただ、単独では行けなくてねぇ。

 自分は男だから、対照とされる

 女性の力を借りて、ようやく扉が開く。

 “反響”の力、というのかな。」



―これは。

 ヤバい話に、なってきた。



「・・・・・・ここまで聞いて、理解できた?」


「ごめん。無理。」


宗教。

そうか。宗教の人なのかも。勧誘、だったり。

これは、早く退散した方が・・・・・・


「そうだよねぇ・・・・・・

 言葉だと、伝わりづらいんだよねぇ。」


少し、悲しそうな表情を浮かべる。

今まで柔らかい微笑みの彼しか

目にしていなかったので、それは

衝撃的だった。

ズキンと、胸が痛む。


理解してもらえない。

受け入れてもらえない。

やっぱり、駄目か。

そんな彼の気持ちが、ダイレクトに伝わる。


「人は、疑うってことを止められない。

 立派な防衛反応だからね。

 まだ信じられない相手が何話しても、

 誤解されるのが普通。

 ・・・だけど、“その世界”には、通用しない。

 真実しか、存在しないから。

 自分は、”この世界”の事に対して

 嘘をつくつもりはない。いや、できない。」


言っている事は、哲学っぽくて

何とも難しい。

しかし。だからこそ、

聞きたいと思う事がある。


「・・・・・・それで、白夜は・・・・・・

 何をどうしようって考えて、

 心依架に話すの?」


そう問い掛けると、彼は

眼差しを向けてきた。

大きな瞳が、真っ直ぐに自分を映す。


「心依架が、貴重な存在になるって・・・・・・

 何かをしたいから、何かが出来るから、

 話すわけでしょ?

 白夜と、心依架にしか出来ない事を。」


質問が正しく伝わるか分からないが、

言おうとしている事は、伝わるはずだ。


「・・・・・・心依架ちゃん。」


ふんわりと、笑う。


「よしよし、してもいい?」


「無理。」


したら、通報する。


「嬉しいなぁ。ホント、聞き分けがいいねぇ。

 基本、頭が良い。」


とても嬉しそう。

何、その破壊力MAXな笑顔。撮るけど。


ぱしゃり。


「心依架ちゃんとならね、障害なく

 “間”に行けるんだよ。それって、

 今までにない事なんだ。」


「へー。」


ぱしゃり。


「まだ試してないから分からないけど

 無理なく、“常世”に行けるかもしれない。」


撮る手を、止める。


「・・・・・・ねぇ。それって、死ぬって事?」


「違うよ。勿論生きながら、行けるって事。」


ヤバぁい。


「よく分かんないけど。」


「心配しないで。無理強いはさせないから。」


「ガチで、ヤバいね。」


「で、心依架ちゃんにしてもらうことは・・・・・・」


ココアを、飲み干す。


「おいしかった。それじゃ。」


マフラーを手に取って、

ソファーから立ち上がった。

そんな心依架を、白夜は目で追う。


「あれ?・・・・・・帰るの?

 話はまだ、終わってないけど。」


「うん。また明日。

 帰らなきゃ。受験生だし。」


ここは、こいつの部屋。

このまま話を聞いてたら、

色々と、ヤバそうだし。


「・・・・・・ふふふ。そっか。

 確かに、言葉で話すよりも

 実践する方が、分かりやすいね。」


「・・・・・・実践?」


「あ。連絡先、交換しよ。」


「・・・・・・あー、うん。」


乗り気じゃないけど。


「心依架ちゃん。自分撮ったやつ、

 選りすぐりのを送ってほしいなぁ。

 それ、投稿するから。」


「・・・・・・じゃ、後で送っとく。」


「ありがとー。」


めっちゃ嬉しそうに笑うの、反則。


ぱしゃり。



―悪い人、ではなさそうだし。

 自分を大事にしてくれそうなのは、

 嘘じゃないみたいだし。


 距離感キープしとけば、面白いかも。



「良いクリスマスになりそうだね。」


また、いい笑顔で、そんなことを言う。


ぱしゃり。


「暇つぶしには、なるかも。」


「ふふふ。

 これからも、そうなると思うよ。」


「だといいね。」



この時。

自分は、白夜の事を

ただのヤバい奴としか思っていなかった。


明日を迎えるまでは。














                  *














夢じゃない、別の世界。“間”。

それよりもさらに深い所にある、“常世”。

それを悶々と考えていると、いつの間にか

朝を迎えていた。


心依架はベッドから出ずに

毛布と掛け布団に包まって、だらだらと

スマホを扱う。

休みの特権、である。


昨晩白夜と連絡先を交換した後、

撮った画像を幾つか送っておいた。

そしたらその中の一つが、

SNSに投稿されていた。

それは、自分が一番気に入った一枚である。

帰り際に撮った、笑顔。



―いいねの数が、ハンパない。

 リプも。

 秒で反応来るんだな。人気の人って。



《気ままなフォトグラファーが撮った

 選りすぐりの一枚!》


と、彼がコメントを付け加えていた事で、


《本カノですか?!営業じゃないっすよねw?》

《めっっっっちゃいい笑顔っ♡♡♡

 本カノちゃんできたんだぁぁ・゜・(ノД`)・゜・。》

《休業したのって、本カノが元??》


などなど、“本カノ”という言葉が

連発していた。本カノって。


今日は、クリスマス。

そんな彼と、散歩に出掛ける。

デートという言葉は、一言も出ていない。

それが偶然にも、

クリスマスという事だけだ。

場所は何と、渋谷。

真世心と遊ぶ庭みたいなものなので、

新鮮味がない。

待ち合わせの時間は、15時。

何とも中途半端な時間だ。

場所はまた、マンションの出入り口である。


イルミネーションを見る為だとしても、

まだ明るい。だから完全に、

白夜を撮る為の散歩になりそう。



コンコンコン。


「心依架ー。いい加減起きなさい。

 もう9時過ぎてるわよー。」


ドア越しから、穂香の声が掛かる。


寝坊は、休みの特権なのに。


渋々ベッドから起き上がると、

毛布と掛け布団を綺麗に畳む。



―・・・・・・何、着ていこうかな。



推しのライブなら気合い入るけど、

こういった場合は、どうしたらいいのか。

デートじゃないんだし。

よく考えたら、散歩って。

お年寄りみたい。


かわいい系か、動きやすい系か。

散歩っていうくらいだし、

動きやすい方・・・・・・かな。



心依架は、クローゼットから

思いつく服を取り出して、

デコられた姿見で比較する。


このまま迷っていると、穂香が部屋に

強行突破してくるかもしれない。

時間はまだあるし、後でゆっくり決めよう。

そう考えて、即座に部屋から

出て行った。




ダイニングテーブルに置かれた朝御飯は、

トースト1枚とポタージュスープ、

ハムエッグにレタスとトマトのサラダ。

自分の分だけである。

穂香は、先に済ませたのだろう。

寝坊ばかりしている自分に、彼女は

合わせるのを止めたらしい。


洗顔を終わらせて椅子に座ると、穂香も

コーヒーが注がれたマグカップを持って、

向かい合うように腰を下ろした。

彼女は、それを両手に持って、

少しずつ啜る。


「勉強きついと思うけど、あと

 もう少しだからね。」


その労いは、空振りだ。


「ママも、夜遅くまで

 働かなくてもいいっしょ。

 お金に困ってるわけじゃないのに。」


日頃の鬱憤も、

顔を合わせていると出てしまう。

いただきます、と軽く手を合わせて

ポタージュスープに口を付けた。


「・・・・・・働くのには、理由があるのよ。」


そう言って穂香は、コーヒーを啜る。



―“本音をぶつけて、話してみたら?

  意外と、思い込みとか先入観で

  すれ違っているだけかもしれないよ。

  まずは、話してみることだね。

  少なくとも、すっきりするから。”



ふと、白夜の言葉が頭に浮かんだ。


時間もあるし、聞いてみるか。


「パパの、浮気の仕返し?」


包み隠さず、問い掛ける。


「ストレス発散の為なんでしょ?」


「・・・・・・」


穂香の表情は、何とも言えない。

ただ、自分を見据えている。


「何で怒らないの?」


「心依架。」


「言えないなら、

 心依架が言ってやってもいいけど。」


「・・・・・・いいのよ、もう。」


小さく呟いたその言葉に、イラっとした。


「何も良くない。」


「確かめる必要もないわ。」


「そういうママが分かんない。」


「離婚を考えているから。」


“離婚”。そのキーワードが、ついに漏れた。

心依架は分かり切っていたので、

お構いなしに言葉をぶつける。


「怒りぶつけてから、離婚すればいいじゃん。

 ママは悪くないでしょ?

 言いたい事言えばいいっしょ?

 何で、黙ってんの?」


「・・・・・・」


激しく感情を出す自分に対し、彼女は

見据えるばかりで、表情を暗くしていく。


これじゃ、どちらが当事者か分からない。

イライラしながら、トーストに

苺ジャムを付けて、被りつく。


「・・・・・・離婚は、簡単じゃないのよ。」


「紙切れ一つじゃん。」


「何も分かってないのに、言わないで。」


「あ。離婚するなら?

 進学止めた方がいいっしょ。お金かかるし。

 就職して、独り暮らしする。」


「何を言ってるの。」


「自分がいない方がいいっしょ。」


「心依架っ!」


殴られると思ったが、

声を荒げるだけだった。でも、

荒げる声を、やっと聞けた。


眉間に皺を寄せる彼女を、じっと見据える。


「好きな事していいんだよ、ママ。

 自分に縛られる事、ないし。

 心依架はもう、大人だから。」


「・・・・・・」


彼女の目が、赤く充血していく。

そして、大粒の涙が零れた。


「・・・・・・悲しい事、言わないで。

 あなたがどんなに大人になっても、

 私にとっては、大切な娘なのよ。

 ・・・・・・夜働きに出たのも、

 あなたと一緒に生活する為・・・・・・

 生活力が、必要だったから・・・・・・」


吐露する言葉と、弱弱しい姿。

こんな彼女を、今まで見た事はなかった。

想像することも、なかった。


「あの人の浮気なんて、もうどうでもいいの。

 心依架さえ、元気で過ごしていければ。

 あなたが、どんなに大切か・・・・・・

 それを分かってもらえなくても、

 嫌われてもいいから、とにかく

 私だけの収入でも、生活できるようにって・・・・・・

 そればかり考えて・・・・・・」


「・・・・・・ママ。」


「お願い、心依架。

 あなたまで、離れないで。」


震える声でも、しっかりした意思が伝わる。


「昨日、反省したの。

 仕事に行くべきじゃなかったって。

 今夜は、一緒に過ごしましょう。」



反省するのは。

自分の方かもしれない。


「・・・・・・分かった。

 お昼過ぎに、出掛けるけど・・・・・・

 夜には、帰ってくる。」


ママは、寂しかったんだ。


「クリスマスじゃなくったって、心依架は

 ママの傍にいるよ。これからも。」


どんな形でも、繋ぎ止めたいんだ。

家族である、自分を。


「だから、心依架の話を

 きちんと聞いてほしい。」


それなら。

やり直す時間は、これからもある。


「自分が、勉強嫌いだって事。」















太陽が傾き、

夕日へ姿を変える準備を始める頃。


フード付きのコートを羽織り、

いつものマフラーを巻いて自宅を出た

心依架は、マンションの出入り口で

白夜と顔を合わせた。


「こんにちは。・・・あれ?

 何か、スッキリした顔してる。

 いい事あった?」


「・・・・・・別に、何も。」


この男は何で、すぐ読み取ってしまうのか。


「画像ありがとね。想像以上に

 評判良くてさぁ。今度から頼もうかなぁ。

 専属で雇ってもいい?」


「素人が撮ってるだけだし。タダでいい。」


撮りたくなる欲求が、ハンパないだけだし。


「謙虚だねぇ。心依架ちゃんは、

 自分を安売りしすぎだよ。」


「いや、買ってくれる意味が分かんないし。」


「あ、そうだ。サードニクスは、一週間後に

 届くみたいだよ。来たら、あげるね。」


「早っ!・・・って、いや、ガチで?

 渡されても、困るんだけど。」


あの時、確かに冗談には聞こえなかったが

正直、本当に貰えるとは思わなかった。


「何かの抽選で当たったーっ、て事で

 いいっしょ?」


口調マネすんな。


「後で請求とか、ナシだから。」


「しないよ。運命の出逢い記念ってことで。」


「きっも。」



相変わらず、笑顔も声も

全てが、ふわふわしている。


ストールを蝶結びして、

濃いめのブルーカラーのロングコートを

羽織る彼に、心依架は躊躇いなく

スマホを翳して、ぱしゃりと撮る。


「さぁ、お姫さま。

 渋谷散歩に出掛けましょうか。」


「うわ。ガチホストじゃん。」


「ふふふ。その通りだけど。」


「言って、恥ずかしくない?」


「自然に出るんだもん。

 何が恥ずかしいのかなぁ。」


ガチで、ヤバいヤツ。

若干彼との距離を置きながら、歩き出す。


それにお構いなしで、白夜は

並ぶように歩き出すと、心依架に視線を

送りながら、ふんわり笑った。


「心依架ちゃん、今日オシャレしてるでしょ。

 自分の為に。嬉しいなぁ。」


「ポジティブ過ぎない?」



エントランスを抜けて外に出ると、

眩しいくらいの日差しが二人に降り注ぐ。


雪は積もる程降らなかったが、早朝は

気温が氷点下を切って、

厳しい冷え込みだったようだ。



隠していた本音を穂香にぶつけ、

心依架の心は大分軽くなっていた。


彼女が、根っからの真面目人間だという事も

再認識出来た。

不器用だけど、一生懸命。

穂香が、自分のママで本当に良かった。

正直に、そう思った。


最低のクリスマスだと思っていたが、

それなりに良い時間を過ごせている。

白夜との出逢いが、良かったのかどうかは

まだ分からないが。

でも、背中を押してくれた事には

感謝している。



「白夜って、車持ってんの?」


「あぁ、一応ね。眠たくなるから、

 あまり乗らないけど。

 乗りたいなら、今度ドライブでも。」


「居眠り運転怖いから、遠慮しとく。」


「ふふふ。だよねぇ。」



他愛ない会話が、途切れない。

彼の、話しやすい雰囲気もあるが、

抱いていた不信感が薄れたのもある。


渋谷に行く間、自分の学校の話とか、

白夜の職場の裏話とか、互いに話せるものは

色々交わした気がする。

ただ、昨晩話した“間”と“常世”の話に

触れる様子はなかった。

というより、敢えて自分からは

触れないようにしていた。

その話がなければ、本当に彼とは

良い友人として、

接していけそうな気がしていたのだ。


穂香には、“友だちと出掛けてくる”としか

伝えていない。相手が、

休業中だけどホストだと知ったら、

心配すると思ったから。

遅くならない程度に、帰ろうと考えている。





日常の如く渋谷は

多くの人が行き交っているが、

クリスマスという事もあって

カップルの比率が高い気がする。

自分たちも、そう見えているのだろうか。

白夜の顔を知っている人がいたら、

自分の事を“本カノ”と

勘違いするかもしれない。

そんな事を気にしてしまい、自然と

彼との距離を置いてしまう。

間隔が、3歩ほど彼の方が先を行く形で

会話しない時間が続いた。



スクランブル交差点の信号は、赤である。

白夜が立ち止まると、心依架も

すぐ後方で立ち止まった。


ここで並ぶのは、自然だよね。

そう思って、彼の隣に並ぶ。


二人は行き交う車を眺めるだけで、

何も言葉を発さなかった。


ふと心依架は、白夜に目を向ける。


先を見据える彼の横顔。

険しい、とまではいかないが

ついさっきまでの、ふんわりした雰囲気が

消え失せている。

ぴり、とした空気を感じ、

彼の名前を呼ぼうと口を開きかけた。

すると。

信号が青になった瞬間、

自分の右手を覆うように左手で掴んで

踏み出していく。


突然の出来事に、心依架は言葉を失って

引っ張られるように歩き出す。


「ちょ、何?どうしたの?」


不意打ちすぎて、動揺する。


「はぐれないように。」


外そうと思っても、力強くて外せない。


「ち、ちっさい子どもじゃないしっ。」


「“間”に紛れ込むよ。」


紛れ込む、とは。


それぞれの方向から流れる雑踏が、

絡み合っていく。


「ふ、深い眠りに落ちないと、

 行けないとか、言ってなかった?」


ここで寝落ちする状況とは、

とても思えない。


「気配がする。“常世”の。」



その言葉を聞き入れた時には、

人の熱も雑踏の音も搔き消され、視界には

白夜の姿しか映らなかった。

焦って、辺りを見渡す。


真っ白な世界。

そう。ここは、もしかして。


白夜は足を止めて、

掴んでいた心依架の手を、ゆっくり放す。


「眠る手間が省けるケース、だね。珍しい。

 これは、君のお陰さま・・・なのかな。」


その独り言は、ふわふわしていない。


昨日見た夢の中と、同じだ。

真っ白で、何も映らない。

違っているのは、白夜の雰囲気と

きらきら降っていた光の粒ではなく

風が、どこからか吹き込んでいる事だった。


「・・・・・・眠ってないのに、どうして?」


妙な動悸がして、堪らず問い掛ける。


「誘われた。で、その誘いに乗ったんだよ。

 “常世”の住人の、ね。」



―“常世”の、住人・・・って。え?えっ??



白夜は振り返って、明らかに戸惑う心依架を

静かに見据える。


「心依架ちゃん。

 “神隠し事件”のこと、知ってる?」


それは。

学校でも、SNSでもバズってる。

このタイミングで、こんな訳の分からない所で

それを持ち掛けるということは。


合致しすぎて、身震いする。


「そ、それと・・・これが・・・・・・

 何の関係あんの?」


「まだ分からない。それを調査してる。」


「調査・・・・・・?」


「情報によると、事件の被害者は

 みんな共通して、

 ここの交差点を歩いてるらしい。」


「ま、待って。な、何でそんな事知ってんの?

 調査してんの?」


「本業だから。」


出た。本業。


「本業って、何?

 もう教えてくれてもいいっしょ?!」


「ふふふ。」


ここで、ふんわり笑うところじゃない!


「はい、落ち着いて。

 早速、使い心地を試してみよう。

 この間あげた、サードニクス出して。」


「は?あれって、夢の話じゃ・・・・・・」


「自分と君で作った、大切なものだよ。

 “この世界”で、力を発揮するもの。

 ・・・大丈夫。呼んだら出てくるよ。

 名前、付けてあげたでしょ?」


正直、パニックだ。


「さぁ。」


意味が分からない。


「ちょ、ちょ、きちんと説明してよ!

 これは、どういう状況?!」


彼は、穏やかに告げる。


「このままだと、戻れないという状況。」


「・・・・・・戻れ、ない?」


「“うつつ”に。日常に、って事だよ。」



―“間”、“常世”、“現”・・・・・・

 なに、それ、ゲームの話?



「ユーザーは君だから、指示できるのは勿論

 君自身だけど・・・・・・オーナーは自分。

 緊急事態モードで併用できるはず。

 お初だから君に譲ろうと思ったけど・・・・・・

 呼ばないなら、自分が呼んじゃうよ。」


「ま、ま、待って!何それ、

 分かんないけど?!でも、ちょ、ちょっと

 呼ぶの待ってっ!!」



―今が、緊急事態なのは、分かる。

 ホラー映画並みの超常現象ってことも。

 ここで、落ち着かないと、

 死ぬ確定フラグが立つって事でしょ?

 落ち着け、心依架。

 妙に落ち着きすぎてる、こいつを見習って。



じっと、白夜を見据えながら

心依架は深呼吸する。

彼は少し表情を緩ませて、視線を送った。


「そうそう。聞き分けがいいね。

 君の良いところ。生き延びる術だよ。」


「・・・・・・サードニクス、

 呼べばいいんだよね?」


「そう。心強い味方を、ね。」



―それで、助かるなら。呼ぶしかない。

 読み方、えっと、しん、っていうより・・・・・・

 


「・・・・・・“こころ”。」



その名前を紡いだ途端、心依架の胸元から

強い光が放たれる。

思わず目を瞑ってしまって

見えなかったが、手に馴染む感覚が生じて

それが現れた事を把握した。


《はい。心依架様。

 どんなご用件でしょうか。》


光が収まって手元を見ると、

サードニクスの画面に

文字が浮かび上がっている。


「ねぇ。音声モードに切り替えようか。

 自分も把握しておきたい。」


「操作、分かんないけど。」


「呼び掛ければいいよ。」


そうか。当たり前の事、言われた。


「・・・・・・“心”。音声モードで話して。」


《・・・・・・

 はい。音声モードに切り替えます。》


思ったよりも、自然なイントネーション。

女性を思わせる、優しい声音だった。


「ねぇ、“心”。“常世”の入り口を

 調べてほしいんだけど。出来れば、

 踏み込みたい。」


白夜が、冷静沈着に呼び掛ける。


《オーナー様、ですね。》


「白夜。」


《白夜様、ですね。

 緊急事態モードに切り替えますか?》


「同時進行で。」


《了解しました。》


ぱぁ、と、サードニクスの画面が

淡く光って、点滅し出す。


《・・・・・・検索中です・・・・・・》


心依架は、ぽかんとして行方を見守った。



―すごいな、サードニクス。

 で、何か指示出してる、この男も。

 何なの、一体。

 多分、っていうか、ゼッタイ、

 本物の使い方とは違うと思うけど・・・・・・



《前方、2時の方向に強い反応があります。》


「踏み込むのは可能?」


《レベル値は、40前後です。

 心依架様の、現時点のレベル値で算出すると

 出入り口確保の可能時間は、

 5分20秒になります。》


「調査するには十分、か。」


《実行しますか?》


「ちょっと待ってね。」


会話を呆然と聞いていた心依架に、

白夜は目を向けた。


「心依架ちゃん。自分、

 “常世”に踏み込もうと思うけど。」


「・・・・・・へ?」


想像以上に、情けない声が出た。


「心依架ちゃんは、ここで待機。

 “心”と出入り口を確保していてほしい。

 画面で、自分を見守っていて。」


「ちょ、えっ?行くの?大丈夫なの?

 し、死んだりしないよね?」


「5分20秒間は、大丈夫。

 ・・・すごいね。最初から、

 この時間を確保できるなんて。

 心依架ちゃん、何者?」


だから。

ここで、ふんわり笑う意味が分かんない。


「ただのJKだってば!白夜こそ、何なの?!」


「心依架ちゃんの膝枕ユーザー。」


「しょ、商品化すんな!」


ツッコミ入れる、状況じゃないのに。


「ふふふ。じゃ。行ってきまーす。」


軽い口調で告げて、白夜は歩いていく。

それを引き止めるべきか、見守るべきか。

どうすることも出来ず、心依架は

彼の姿が消えるのを黙って見過ごした。



「・・・・・・」


ぽつんと残された、寂しさ。

頼りにできるのは、握っている

サードニクス、“心”のみ。


5分20秒。

それが長いのか短いのか、こんなにも

分からなくなった事はない。


画面の左上には、LIVEという文字。

右上に表示されている数字は、

乱れもなくカウントダウンしていく。


タイムリミットまで、彼が戻ってくるのか。

戻ってこなかったら。

そう考えると、居ても立っても居られない。


画面に映るのは、周りを見渡しながら

歩いている白夜の後ろ姿。

風景は、先程歩いていた渋谷の交差点だ。

違和感を覚えるのは、彼以外

周りに誰もいない事。



【・・・・・・何で、男が・・・・・・】



聞き取るのがやっとの、ノイズ混じりの声。

不快感しかない耳障りに、鳥肌が立つ。

これは、白夜とは似ても似つかない、男の声。

画面に映っていない、誰か。


《清らかな女の子じゃなくて、

 残念だったねぇ。》


彼の声は、とても穏やかに聞こえる。


【呼んだのは、お前じゃない。】


《あぁ、分かってるよ。》


【命を持って償え。】


《ここで終わるわけにはいかなくてね。》



ガガガッ!!


急に大きな雑音が入って、画面が黒くなる。


「えっ、ちょ、何でっ?!」


LIVEという文字と、

カウントダウンの数字は乱れないままだが、

肝心の状況が分からない。


「大丈夫っ?!」


不安で堪らず声を掛けるが、

届いているのかも不明だ。


《通信が停滞しています。》


“心”の規則正しい声が、更に

不安を募らせてしまう。


「ね、ねぇ、“心”!何で途絶えてんの?!」


ガガガッ!!

雑音だけで、何も聞こえないし、

何も映らない。


《白夜様の意識レベルが低下しております。

 繋ぐには、アップデートを実行し、

 心依架様の反響レベルを

 向上させる必要があります。

 実行しますか?》


「えっ?意識レベル?アップデート??

 反響レベルって何っ?!」


残り3分を切った。


《今の、心依架様の呼び掛けでは、

 白夜様には届きません。

 反響レベルとは、呼び掛けに応じて

 自律神経に可動ショックを与えられる、

 度数の事です。高ければ高い程働き、

 有利な道具を生み出す事も可能に・・・・・・》


「もういい!!長くて分かんないっ!!」


説明を聞いている間に、20秒減る。


「いいからアップデートして!

 そうしないと、あいつ危ないんでしょ?!」


嫌な予感しか、しない。

この感覚は、見過ごせない。


《了解しました。実行に移ります。》



どくん。


鼓動が、痛いと思う程

強く鳴った。

普段鳴っている存在すらも感じないのに、

独自の意思を持ったかのように、打つ。

思わず胸元を掴み、しゃがみ込んだ。


《・・・・・・20%・・・・・・

 ・・・・・・50%・・・・・・》


どくん。どくん。


自分を突き破って、出そうな勢いだ。


「くぅ・・・・・・」


ぎゅっと、瞼を閉じて、耐える。



【心依架ちゃん。】


耳元で白夜の声が響いて、ビクッとする。


【無理しないで。自分は、大丈夫だから。】



それは、諭すように聞こえた。


違和感、だらけだ。

これは、きっと、自分を、心配さ、

せないように、言い聞、かせている。


心依架は、声を絞り出した。


「大丈夫に聞こえないんだけどっ!!

 イミフで、目の前で死ぬなんて、

 ゼッタイに許さないっ!!」



犠牲で成り立つ優しさは、いらない。



《100%。アップデート、完了しました。》


「しっかりしろっ!!白夜っ!!!」







叫んだ途端。

視界が急に、真っ白に染まった。

太陽の直射日光が、目に差し込んだような。

大きな立ち眩みがして、ぐらつく。


だが。

ぐいっ、と自分の右手を引っ張る力。

それによって、地面に倒れるのを回避した。



「・・・・・・?」


耳に届くのは、

ひしめき合う雑踏の音と、会話。

感じるのは、人の体温で生じる熱。

そして、回復した視界に映るのは

自分の手を握って歩く、白夜の後ろ姿。


「・・・・・・えっ・・・・・・」


状況が把握できず、周りを見渡す。


ここは確かに、日常の渋谷。

がやがやと賑わう、人の群れ。


白夜。

彼の名前を呼ぼうとしたが、口を噤む。

彼の左手は、自分の手を引いている。

その片方である右手に引いている、その先は。


自分のすぐ隣で歩く人物を

目の当たりにし、息を飲んだ。


心依架が通う、高校の制服。

そして、虚ろな目のまま歩いている

その女子高生の顔。彼女を、知っている。


「・・・・・・さ、沢渡・・・・・・さん?」


呼び掛けると、ブレーカーが落ちた

彼女の瞳に、灯りが生じる。

こちらを向き、自分と目を合わせた。


「・・・・・・」


知っているはずなのだが、何も反応がない。

心依架は再度、呼び掛ける。


「沢渡さん、だよね?何で・・・・・・」


言い掛けて、首を傾げた。



―そうだ。自分はさっきまで、“間”にいて、

 白夜がヤバくて呼び掛けてたのに・・・・・・

 戻れた、ってこと?


 しかも、何で、沢渡さんも一緒に

 手を引かれて・・・・・・



「・・・・・・

 ・・・・・・大川内、さん・・・・・・?」


彼女の表情が、驚きの色に染まる。


自分の名字を言った。

間違いない。彼女は、クラスメイトの。


「奇跡としか、言い様がないねぇ。」


状況判断に困っている二人の間に、

白夜が言葉を落とした。

そんな、自分たちの手を引く彼の後ろ姿に、

目を向けるしかなかった。


「“常世”を彷徨って無事だった子なんて、

 初めてだよ。でもって、心依架ちゃん。

 上出来。いや、期待以上。

 助けられるなんて、思わなかった。」



何が起こったのか。

何が、行われたのか。

心依架は1ミリも理解できないまま、

手を引かれて交差点を渡り切る。

女子高生―沢渡 明日葉も、口を開くことなく

一緒に歩いていった。


人の流れを妨げない所で

白夜は足を止めて二人の手を離すと、

自分たちの方に向き直った。


「ただ、あともう少し遅かったら、

 みんな助からなかったけどねぇ。」


ふんわり微笑む彼に、呆然と視線を送る。


何から聞けばいいのか分からず

言葉を詰まらせていると、明日葉が

細い声を漏らした。


「・・・・・・あの・・・・・・

 自分は・・・戻ってこれた、のですか?」


その問い掛けに、彼は満足げに頷く。


「意識も、しっかりしてるね。君は逸材だよ。

 経緯を読み取ると、自身をステルスして

 防衛機制したみたいだ。

 “常世”の住人は君を誘ったものの、

 姿を見失っていたみたい。

 気づかれないまま、ずっと彷徨っていた。」


全然、分からない。

そんな顔で聞いている心依架に対し、

明日葉は納得したように頷く。


「・・・・・・そう、なんですか。

 助かったんですね。

 戻れるとは、思いませんでした。」


今ので、分かったの?

そんな顔で彼女を見ていると、白夜が

ぽんぽん、と頭に手を乗せてきた。


「この、心依架ちゃんのお陰。」


油断した。頭ぽんぽんを許すなんて。

すかさず、彼の手を払う。

そんな自分に明日葉は目を向けると、

笑みを浮かべた。


「ありがとう、大川内さん。」


「えっ?・・・あっ、うん。別にいいよ。」


丁寧に、深々と頭を下げられて戸惑う。

感謝されるような事を、した感覚がない。


彼女は周りを見渡し、慌てることなく

言葉を紡いだ。


「・・・・・・

 とても、歩き続けていたんですね。

 このまま、自宅に戻ります。

 親が心配してると思うので・・・・・・」


「そうだね。誘われることがないように

 対策してるから、安心して帰って。

 念の為、病院で診てもらってね。」


「はい。ありがとうございます。」


白夜にも、頭を深々と下げる。


めっちゃ礼儀正しくて、美人。

自分と同じ生きものだよね?


「後日落ち着いたらでいいから、

 詳しい経緯を聞かせてもらえるかな?

 連絡先教えて。」


「はい。分かりました。」


明日葉は素直に、

背負っていたリュックを下ろして

サイドポケットからスマホを取り出す。


教えていいの?初対面だよね?


そう言いたいのを我慢して、二人が

連絡先交換する光景を見守る。

その視線に気づいた彼女は

にっこり笑って言った。


「大川内さんのも、教えてほしいな。

 お話も、お礼もしたいし・・・・・・

 良かったら、交換してください。」


そんな、かわいー笑顔で言われちゃったら。


「心依架でいいよ。

 自分も、明日葉って呼んでいい?」


「うん。」


会話も遊びもしてないけど、

こんな、不思議な経験をした仲なら。

仲良くなれそうな気がする。


「一人で帰れる?」


「うん。大丈夫。」


「じゃあ、またね。」


「うん。ありがとう。」



手を振って、颯爽と歩いていく

明日葉の後ろ姿を、心依架と白夜は

見えなくなるまで見送った。


「・・・・・・ねぇ。」


じっと、彼を見据える。


「聞きたい事あり過ぎるんだけど。」


それに対し、ふんわりと微笑んで

言葉を返された。


「ふふふ。

 言葉で説明できる範囲でいいなら。」


「何か飲みたい。」


「それじゃあ、飲みながら話そう。

 どこに入ろうか?」


「そこのお店でいい。

 生クリームとキャラメル増し増しで。」


「いいねぇ。自分も甘いやつにしよ。」



何気ない会話だったが、安堵感を覚える。


日常に、戻れた。

その実感が、生まれた瞬間だった。











“間”と“常世”。実際に触れて、

“言葉で説明するのが難しい”という

白夜の言葉は、何となく納得できた。

そして、彼が

ただのヤバい奴じゃなかったという事も。



コーヒーショップ内は、

賑わう人の熱気と程よい暖房が充満していて、

手足先まで温まっていく。


「“常世”には、“現”に強い意思を残す意念体と、

 命を落としたことも分からず

 彷徨う意念体がいる。

 今回の“常世”の住人は、前者だね。」


相変わらず理解不能に陥るが、

話の腰を折らずに耳を傾ける。


「ただ、イレギュラーなんだよねぇ・・・・・・

 強い意思を残す意念体は、

 独自の世界を持つことなく

 “現”の流れに寄り添えるはずなんだけど・・・・・・

 “常世”に居座り、生きている人間を

 引き込んでいるなんて・・・・・・

 こんな事、今までになかったんだ。」


生クリームとキャラメルたっぷりの

アメリカンコーヒーを堪能しながら、

心依架は尋ねる。


「・・・・・・思ったんだけど、

 明日葉みたいに、引き込まれた子を

 助ける事ができたりする?」


黒いマニキュアを付けた長い指で

紙カップを弄びながら、白夜は答えた。


「結論から言えば、不可能。

 今回のケースは、ホントにレア。

 “常世”に踏み入れた時点で、長時間の

 生命維持は出来ない。」


「・・・・・・白夜が“常世”に行けたのは、

 “心”のお陰って事?」


「そうだね。自分たちが作った子は、

 かなり優秀だったって事。」


それ、知らない人が聞いたら

勘違いするっしょ。


「“心”って、何なの?」


「“サードニクス”という認知、かな。

 心依架ちゃんの記憶と自分の記憶を

 繋いでる。記憶は、“常世”と

 深い関わりがあるんだよ。」


「・・・・・・意識レベルとか、反響レベルとか、

 アプデするとかって、一体何?」


「ふふふ。さぁ。」


「・・・・・・さぁ、って。」


「“心”はサードニクスが基本だから、

 使う言葉がどうしても

 専門用語になっちゃうんだろうねぇ。

 反響レベルっていうのは、多分

 心依架ちゃんの生命エネルギーと

 関係がありそう。自分の知識で言うなら、

 反響の力。こだま。

 意識レベルは、きっと生命維持の事で・・・・・・」


「じゃあ、確かな答えはないってこと?」


「手探り状態だね。」


「・・・・・・アプデは?」


「更新だから、恐らく良い方向だと思う。」


こいつ、ヤバすぎる。


「でも、何となく分かったでしょ?」


「分かるわけないっしょ。」


「使い様によっては、

 無限大だと思うんだよねぇ。

 実際、明日葉ちゃんを助けられてるから。」


「ねぇ。通信が途絶えて

 見れなかったんだけど、どうやって

 明日葉を助けたの?それに、

 “常世”の住人、声だけで映ってなかったし。」


弄んでいた紙カップに、ようやく口を付けて

彼は、ふんわり笑う。


「“常世”の住人、映ってなかったんだねぇ。

 自分、抑えつけられちゃって。

 触られると、生命エネルギーを吸い取られて

 ダメなんだよねぇ。

 そしたら、心依架ちゃんの

 ちょー元気な声が届いてさぁ。ふふふ。」



―やっぱ、危なかったんだ。



「それで、どうなったの?」


「“常世”の住人跳ね除けて、

 ダウンさせちゃった。自分、

 『浄化』できる“武器”を持ってないから、

 それで精一杯だったけど。

 でも、ダウンさせたお陰で

 明日葉ちゃんの姿を発見できたんだ。

 手を引いたら、丁度

 5分20秒経つ直前だった。」


「・・・・・・『浄化』?」


「意念体を“常世”から解放するって事、かな。」


「・・・・・・意念体って、もしかして

 幽霊って事?」


「あぁ、そんな言葉があったね。

 世間で知られているやつとは

 少し違うけど、そう言った方が

 分かりやすいかも。」


「エクソシストじゃん。」


「それとは、違うけどね。

 自分は、“常世”を調査するのが本業。

 『浄化』する案件であれば、

 その専門の人に託す。」


「・・・・・・」


心依架は、店の窓際へ視線を移す。


「“常世”の景色って、

 普通の渋谷みたいだったけど・・・・・・」


白夜も、それに応じて目を向けた。


「意念体の記憶、と言うべきかな。」


「・・・・・・幽霊って、いるんだ。」


「怖い?」


「・・・・・・何か、怖いってよりも・・・・・・」



―もっと、知りたいと思った。



彼に目を向けて、告げる。


「心依架に出来る事があるなら、協力する。」



大きな双眸が、自分を捉えて揺らめく。

微笑みを向ける表情には、とても色があった。


「その言葉、真に受けちゃうよ。いいの?」



その色に、意識とは関係なく

鼓動が波打つ。


撮らなきゃ。

思い出したようにスマホを取り出して翳し、

ぱしゃりと撮る。


「どうせ、暇だし。」


「受験生でしょ。大学行くんでしょ。」


「・・・・・・受験生、やめた。」


「ふふふ。やめたんだ。」


「ママと話し合った結果。

 就職することにした。」


「そう。話し合えたんだね。・・・でも、

 就職したら逆に忙しくなるでしょ。」


「友だちんとこで、とりあえずバイトする。

 バイトしながら、本職探す。」


「自分が雇うって言ってるのに。」


「え。あれ、冗談じゃなかったの?」


「半分本気だったんだけどねぇ。」


「・・・い、いや。無理っしょ。」


「無理じゃないっしょ。ふふふ。

 自分のこと、ぱしゃぱしゃ撮って

 何を言うのかねぇ、この子は。」


「はぁっ?え、遠慮ナシって言ったじゃん!」


「それにしても撮りすぎでしょ。」


「と、撮りたくなるんだから、

 しょうがないっしょ?!」


「あぁ、自分って罪だなぁ。

 女子高生、落としちゃった。」


「落ちてないっ!!」



思わず言い返した声が、大きかったらしい。

周りの席にいる客たちから、視線を注がれる。

かなり、恥ずかしかった。


心依架は急いでコーヒーを飲み干すと、

マフラーを手に持って席を立つ。


「帰る。」


紙カップを捨て、早足で店を出ていく。


そんな彼女を、白夜は追うことなく

静かに見送る。

すっかり冷めたコーヒーを口に含み、

小さく息をついた。


その顔には、笑みが浮かんでいる。







夕方の5時を過ぎているらしく、

いつの間にか、空が暗くなっている。


街路樹を彩るイルミネーションが、

練り歩く人々の目を留め、楽しませていた。

その中を、心依架は

突き抜けるように歩いていく。



―落ちてないし。出逢ったばかりで、

 落ちるわけないっしょ。っていうか、

 あいつ、追ってこないし。



言った彼にもイライラするし、

追ってこない彼にも、イライラする。

こんな自分、めんどくさい。


撮りたいと思う欲求が、一体

どこから来るのか。

自分でも異常だと思う。

飢えている、と言うべきか。

あの男を撮れと、脳が勝手に

指令を出しているだろうか。

撮る手を、止められない。



―・・・・・・そうだ。

 最初撮れた、変な画像のせいだ。



これだけ撮っているのに、未だに

最初撮れた不思議な画像に辿り着かない。

心依架は立ち止まり、

フォトのアイコンをタップする。


何日かだけで、沢山撮っている。

しかも、白夜ばかりだ。

これじゃ、落ちていると言われて

当然だろう。


最初に彼を撮った画像。服だけで、

中身が写っていない、不思議な絵。

この時、何が起こっていたのだろう。

“間”も“常世”も、に行くのには

女性の力を借りないとできないと言っていた。


ただ眠っていた、という感じではない。

あの時も、無意識にスマホを翳していた。

美しい。ただ、そう思って。



プルルルル・・・・・・



急に着信音が鳴って、かなり驚く。

思わずスマホを落としそうになった。

慌てて持ち直し、

誰からなのか画面を見ると、あいつだった。


出ようかどうか迷うが、

歯切れ悪い別れ方をしたので

このまま帰るのは、罪悪感が残る。


スワイプして応答すると、彼の

ふんわりした声が耳に届いた。


《あ、出てくれた。ふふふ。

 今日は、ありがとうねぇ。

 とてもとても助かったよ。

 調査も予想以上に上出来だったから、

 これから報告しに行こうと思って。

 心依架ちゃんの事も話しちゃうけど、

 いいかな?》



この時、悟る。

彼にとって、今日の散歩は

仕事の一環だったのだと。

デートだと、1ミリでも思ってしまった事が、

とても恥ずかしい。


「・・・・・・別に、いいけど。」


気を取り直して、言葉を返す。


《自分の用事もあって、明日葉ちゃんも

 事件として捜索願出されていただろうから、

 いろいろと立て込むだろうね。

 連絡は取り合えるけど、面と向かって

 会えるのは、年明けになるかなぁ。

 その時は、サードニクスも渡せると思う。》


「・・・・・・」



何て答えていいのか、言葉を詰まらせる。

きちんと挨拶出来なくてゴメンと

謝るのも、おかしいし。

ありがとうとお礼を言うのも、おかしい。


《実際の物を使ってみると、認知も変わるから

 “心”にも良い影響が出ると思うよ。

 だから、遠慮なく受け取ってほしいな。》


そうか。その為に。

ようやく、筋が通った気がする。


《自分もスマホ、

 サードニクスにしようと思って。ふふふ。

 年明けから、お揃いになるよ。》


そう。この男は、勘違いさせる天才なんだ。

言葉を真に受けるのは、危険だ。

ホストって、天職じゃないの?

これに、騙されないようにしないと。


《気をつけて帰ってね。

 これからもよろしく。》


「・・・・・・落ちないから、ゼッタイ。」


宣言する。

甘い言葉に、ゼッタイ騙されない。


《・・・・・・ふふふ。ゼッタイって言葉、

 口グセだよねぇ。残念ながら、

 絶対という事は、

 この世の中にない気がするよ。》


「これまでに、たくさんの女の人、

 泣かせてきてるでしょ。」


《確かに泣かれるのは、

 気持ちのいいものではないね。》


「否定しないんだ。」


《情ほど、不安定なものはないよ。》


「とにかく、協力はするから。

 仕事の手伝いとして。・・・・・・

 知らなった世界が見れるし、

 日常も、暇じゃなくなりそうだから。」


《有り難いねぇ。》


「でも、恋愛とか、ナシだから。」


言い聞かせ、だとしてもいい。

この男に、それを持ち込めば、破滅する。


《・・・・・・ふふふ。面白いね、君って。

 とても楽しいよ。だから、

 一緒にいたくなるのかな。気兼ねなくて。》


「白夜が、どんな良い奴でも悪い奴でも、

 どうでもいい。認めてあげる。」


自然と出た言葉だった。


「どんな時も、遠慮ナシで。」


《・・・・・・》



しばらく、間が空いた。

ビデオ通話じゃないから分からないが、

彼も外にいて、見上げている気がする。

真っ黒で、何も見えない空模様を。



《ヤバいね。心依架ちゃん、かっこよすぎ。

 自分が、落とされるかもしれないねぇ。》


「・・・・・・え?」


《君の言葉は、貫くんだよ。自分の鉄壁を。》


ふわりと、白く小さなものが

目の前を舞う。


《これから、どれだけの時間・・・・・・

 君に救われるのかなぁ。》


既に自分の白い息と、次々に降ってくる綿雪が

入り混じっていた。


《メリークリスマス。それと、良いお年を。》



自分も、言わなきゃ。

そう思ったが、声が出なかった。


彼の、“自分が落とされるかもしれない”

という言葉が、頭を真っ白にさせてしまった。



しばらくして、通話が切れる。

何も言えないまま、呆然と立ち尽くした。



―・・・・・・どういう意味・・・・・・?


 いや、これも、あいつのやり方、なのかも。

 真に受けるな。心依架。



頭を振り、はーっ、と溜め息をつく。


「・・・・・・良いお年を・・・・・・

 言えなかった・・・・・・」


メリークリスマスっていうのも。

言えたら、完璧だったのに。


「ケーキ、買って帰ろ・・・・・・」


まだ、売ってるよね?駅前のやつ。

ママと一緒に食べる、ケーキ。

ホールじゃなくてもいいっしょ。



心依架は、スマホを空に向かって翳し、

ぱしゃりと撮る。


映るのは、暗闇から降り注ぐ真っ白な結晶。



彼に、送ろうかな。

言いそびれた言葉を添えて。


そう思って、止める。



来年は、良い年を迎えられるかな。

だと、いいな。

















                  *














こんなはずでは。


男は、同じ言葉を繰り返す。


彼以外、人影一つない、渋谷の交差点。

その真ん中に立ち、頭を項垂れている。


こんなはずでは。


呪文のように、呟く。



彼の目の前に、亀裂が生じた。

空間が綺麗に裂け、そこから現れる

もう一人の男。

切れ長の目が、彼を射抜くように見据える。

裂けた空間から吹き込む風に煽られる、

黒に近い茶髪。

その右手に握る、鋭く光る一振り。


その姿と、茶髪の男が持つ刀を凝視して、

男は恐れおののく。


『・・・・・・な、んだ、お前は・・・・・・』


「話し聞きたくてさ。教えてくれたら、

 何もしないから。」


『く、来るなっ!!』


男に向かって、一歩踏み出す。


「怖がらなくてもいいって。」


『来るなと、言ってるだろうがっ!!』


「・・・・・・刀持ってる時点で、

 怖がるなっていうのも、おかしいか。」



男の形相が変わる。

茶髪の男に飛び掛かる速度は、

突風のようだった。

しかし。

それを紙一重で避け、手にする刀で

男の身体を両断する。


「これって、正当防衛だよな?」


『・・・・・・く、そっ・・・・・・』



上半身と下半身、真っ二つになって

地面に倒れるが、血潮は流れない。


『相変わらず不躾じゃのう、お前は。』


茶髪の男の背後から、しわがれた声が掛かる。

彼よりも半分程の背丈しかない、

一人の老紳士。

蓄えた白髭と目を覆う白髪のせいで、

顔色が窺えない。


「飛び掛かってきたんだから、

 切るしかないだろ。」


『これでは、話し合えぬではないか。』


「手加減したから、消えるまでの猶予は

 あると思うけどな。」


『な、何なんだ、お前らっ・・・・・・』


更に、もう一人の来訪者。

上半身だけで地面に這いつくばった男は、

恐怖で顔を歪めながら二人を見上げている。

茶髪の男は刀を肩に預けて、

しゃがみ込んだ。


「何で“ここ”に居座ってんの?

 あんたの意念は?」


聞かれて、男は小刻みに頭を振る。


『・・・・・・知らんっ・・・・・・』


「知らないわけないだろ?あんたが

 縛られずに動けるのは、

 それがあるからなんだぜ?」


『お、俺は、ただ、女が欲しくて・・・・・・

 引き込んでただけだっ・・・・・・』


「そんな理由、赦されると思うか?」


『本当に、それだけだっ!』


「思い出せ。あんたの存在理由、

 そんなんじゃないだろ。」


『存在理由なんて、分かるかっ!』


「・・・・・・んー。駄目だな・・・・・・」


話が平行線で進まず、茶髪の男は息をつく。


『お主、何か拾った物はないか?』


老紳士が、問い掛ける。

それに、男は動きを止めた。



『・・・・・・拾った、もの・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・そう、いえば・・・・・・』



身体から、さらさらと

黄金色の粒子が流れ出す。



『・・・・・・そう、だ、俺、は・・・・・・

 護り、たかった、だけ、なのに・・・・・・』



目から、涙が落ちた。


粒子は、空へと昇っていく。


完全に消失するのを、茶髪の男と和装の紳士は

静かに見守った。



地面に残った物がある。


真っ黒で、爪ほどの大きさしかない。


「・・・・・・爺さん。これ・・・・・・」


『うむ。間違いない。

 ようやく、辿り着いたのう・・・・・・』




疑念が、確信に変わった瞬間だった。




























マイペースで歩を進める物語を

お目に留めてくださり、読んで頂ける事を

心より深く感謝致しますm(__)m。・゜・・゜・。∞


これからもお時間の許す限り、

読者様が浸れる世界を紡いでいけたらと思っています。

宜しくお願い致します。





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