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二 落ちる影
神野学院高等部の入学式準備が終わりに近づいた頃のこと。
学校の敷地外にある高層マンションの屋上に、一つの人影があった。
「車両の侵入経路は三つ。事前の調べと変更なし。南東の一番大きい駐車場に目標は現れるはずだ。今のところ計画の支障になりそうなものは見当たらねえ。どうぞ」
『分かった。本当に他の経路はないのね、どうぞ』
「学校ってのは基本的に閉鎖されてるほうが都合のいい場所だからな。特にお金持ちのボンボンが通う進学校だ。どっからでも人が入れるような造りにはなってねえよ。どうぞ」
『それならいい。帰ってきて』
目元に双眼鏡を、そしてもう片方の手に無線機を構えていた彼は、一方的に切られた通話に鼻を鳴らした。
そして、双眼鏡をしまい、今度は自分の目で神野学院の校舎をじっと見据える。
「小綺麗な箱だねえ。敷地内は全面禁煙になっておりますってか? 気に入らねえ」
それだけを呟いた彼は、夕暮れの闇に溶けるように音もなく屋上から姿を消した。
作品紹介の部分で何が起きるか書いてしまってますからね。
この人が何なのかわかってしまうのが、心苦しいところです。