不思議な邂逅
時は遡り…玄徳が益州からやってきた使者と話し合っている頃、阿斗はというと…
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「えいさぁん…」
「はいはい。何でしょう?」
「…変装完璧すぎない?」
「あはは…。だから醜女とか言われてしまうんですよね…」
「あっごめん…そういう意味でなくて…。男装の麗人っていうのかな…。兎に角綺麗で、凛々しいんだよ!」
「まぁ!あとさ…んんっ!福も口が上手だな!」
「あはは…」
不味いぞ!月英さんの男装…めっちゃ格好良くて綺麗!年齢が年齢だからいいものの…前世で出会っていたら間違いなく惚れてる自信しかない!って…これって劉禅が元々持っている性格に引っ張られてる…?まぁどちらにせよ、綺麗なのは変わらないんだけど…。
「さて…そろそろ件の古市場ですが…大丈夫ですか?ぼぉっとしていましたが」
「あっ!ごめんごめん…えっと…。あそこ。空き地があるでしょう?」
「ええ。確かに。なんとなく不自然な感じがしますが…」
「確かに…」
この間は、人波に揉まれて子龍と離れ離れになっちゃって、人を避けられて良かった。なんて思っていた場所は、店と店の間。しかも、もう一店舗入りそうな不自然な空間がそこにはあった。
「うぅん…これは、面妖ですが。私達はしばらく離れておりますね。何がありましたら、こちらを鳴らしてください」
「ありがとう」
そう言って月英さんこと、英さんから渡されたのは紐が結ばれた小さな鈴だ。なんでも、とても高い音がなるらしく、どんな喧騒の中でも響く音らしい…。でも…音って高すぎると聞き取れないんじゃないかなぁ…。まぁ聞き取れるからこそ高い音ってわかって分だろうなぁ…。
ある種の防犯ブザーを片手に、俺は件の空き地に一人で向かった。するとどうだろう…。
「おや。何時かの坊っちゃんじゃないか」
「えっ!?あれ?たしかに空間しかなかったはずなのに…」
「ほっほっほ。驚いたかね。ここは、見える人物にしか見えない店だ。人払いの結界を張っておるからね。一度迷い込んだ人か、儂が呼んだ人しか入れんのだよ」
「へえぇ…。でも、この間は真っ暗闇に感じたのに、今日は書簡やらなにやらでいっぱいだ」
本当に不思議な空間…。青空市だったはずなのに、燭台に灯された灯りが妖しく揺らめく室内に居る。ここだけ本当に別世界のようだ…。
「ここに来た。ということは、この間のものをご所望ということで良いのかな?」
「うん…山海経を売ってはもらえる?」
「勿論だとも!まぁ…後ろについている人物が怪しんだ通り、図も渡そう」
「…ありがとう」
背後にいる知恵者、孔明まで感づかれている。彼は一体…。
「ほら。これを持ってお行き。価格は…」
「はい」
「ひーふーみーよーいつ…。うむ。確かに受け取った。して…儂になにか聞きたいことでもあるのかな?」
「えっと…お名前を…」
「おぉ!そうじゃった。これは失敬!儂の名は、元放と申す。混ざり物の魂を持つ者よ」
「混ざり物の魂…か…」
「うむうむ。そなたは迷い人。本当に偶然その身体に惹かれたのであろう。これから先、多くの艱難辛苦がそなたを襲うであろう。その一助として、山海図経を用いるのだ。そこに全てが記されておる。ただし、過信はするでないぞ?そなた一人は非常に非力だ。信頼できるものと常に行動し、扶けられ、成長していくのだ。時には間違うこともあるじゃろう。しかし、全てはそなたが思う通りに行動すれば良い。迷いし時に、知りたいことがあるときにこの書物を開くのじゃ。決して悪いことにはならんじゃろう」
「うん…ありがとう」
「ただし!」
「ん?」
「決して傲慢になることなかれ。決して惑わされることなかれ。これを肝に銘じ、未来を切り拓いてゆくが良い」
「うっ…うん」
「儂は何時でもそなたを見守っておる。行き詰まった時、どうしても何か相談したきことがあれば、これを持ち、儂の名を唱えよ。さすれば駆けつけようぞ」
そう言って、元放さんから渡されたのは、白い鶴の羽根だった。
「そろそろ、戻すぞえ。また縁があれば会おうぞ。混ざり物の魂を持つ者よ。劉玄徳の息子よ…」
「あっ!まっ…戻っちゃった…」
もう一つ聞こうと思ったんだけど…煙に巻かれるってのはこういうことを言うのかなぁ…。元放が袖を振るうと一瞬で元の喧騒が聞こえる、古市場の空き地に戻された。
不思議な体験だった…。その後はというと、心配していた月英さんとお付きの兵…と言っても、私服何だけど。がやってきた。最初は問いかけにも反応しないくらい茫然自失状態だったらしいんだって。そんな記憶すら曖昧な状態だったんだけど、腕の中には確かに山海図経が抱えられていた。幻…ではなかったんだなぁ…。
しっかし…元放ってどこかで聞いたような…。