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三國異聞~後主伝~  作者: 沙河泉
建安17年
10/23

小さな酒宴とこれから

あぁ…なれないことはするもんじゃないぜ…。普段はあれよ。気張らずに話をできるから、相手とも仲を深めるのは早い方なんだが…な。如何せん今回は、謀略というか聴取というか…。一歩間違えでもしたら、衝立の後ろの二人が煩いとも思うと、なんともなぁ…。


「んで…お二人さん。どうだったかねぇ?」


「「…」」


なんだよぉ…二人して無言で…こえぇじゃねぇかよぉ!なにか言ってくれよぉ…!


「先ずは殿。お疲れ様でございました」


「あぁ。ありがとう孔明」


「いやぁ…殿があそこまでできるなんて…驚きでしたよ。いや全く!お疲れさんでした。殿」


「おっ…おう。士元もありがとうよ」


なっなんだよ…二人して褒めやがって…怖えよ!なんか裏がありそうで…。


「しかし、殿があそこまで謀に強いなんてぇ…。今後の方針を些か修正しないとなぁ。なっ?孔明」


「そう…ですね。殿の威圧、聴取からの詰問。そして慈しみ。どれをとってもかなり良いかと。惜しむらくは、あの二人の他にもう一人いる人物の名前まで引き出してくだされば…」


「おいおいおい!孔明や士元じゃあるめぇし、そこまでできるかっての!できてあそこまでだよ!俺にしては頑張ったんだろ?あの二人の対応は、憲和に任せて俺たちは俺たちで呑もうぜ」


「憲和殿で…」「大丈夫…でしょうか…」


「あ?あぁ。あいつはだらしがない所もあるが、此処ぞというときには、やってくれる漢だ。心配はあるめぇよ。おう!誰か!」


「はっ!」


「益徳にバレねぇように酒を持ってきてくれ」


「はっ…畏まりました」


「益徳殿は…今は巡察に出ておりますから」


「そこまで心配しなくても大丈夫じゃないですかねぇ?」


「いやっ…。あいつの酒への鼻の良さを舐めちゃぁいけねぇ。孔明も士元も酔い潰れて、明日の軍議に支障が出たらかなわねぇからな。今日は程々に。だ。うっし!そうと決まれば、中庭からなんか採ってくるわ」


「では、私は漬物を」


「じゃあ、俺は干し肉でも持ってきますかねぇ…」


こうして、会談が無事に終了したことに、三人で細やかな祝杯を上げるのであった。




「ふぅ…益徳殿が買ってくるお菓子があそこまで美味しいとは…。人は見かけで判断しちゃぁいけない…ん?なんだろう?」


何やら楽しげな笑い声が、先程の二人が出てきた部屋からしてくる。父上と孔明と…士元さんかな?ちょっと覗いて見ようかな?



「…しっかし、殿の人誑しって言ったら」


「ええ。ええ!威圧感がありながらもそこから出てくる優しさったらもう!」


「俺ぁそんな大層な人間じゃないんだがねぇ…」


「っかぁ!無自覚!殿の無自覚だよ孔明!」


「ええ。この無自覚さ故に、庵に三度も足を運んでくださるのだから…」


「俺だって職務怠慢ってのを赦してもらってるしな!よっ!この人誑し!」


「…褒められてるんだか貶されているんだか…分からねぇな…ん?誰だ?」


「なんだか楽しそうな声がしたから…ごめんなさい父上」


「なんだぁ阿斗か!こっちこい!父上の膝の上に!」


「はい!」


「おぉ!お久しゅう阿斗様」


「士元さん!今晩は」


「おう!こんばんは!」


「それにしても…阿斗様は、どうしてこちらに?」


「ん?あぁ…ええっと…」


「…!なるほど。明日の軍議以降に時間を作りますね」


「ありがとう!孔明」


「ん?なんかあるのか?阿斗」


「うぅんと、変わった書を買ったから、孔明に見てもらおうと思って」


「ほぉん…っと…酔ってるなこりゃ…」


「ははは!殿が一番に酔っておいでかぁ!して、阿斗様。俺も一緒に見ていいかねぇ?」


「うん!ぜひぜひ!」


「おっ!そしたら軍議あとにでも、孔明の部屋に行くわ。嫁さんとも話をしたいしな」


「わかりました。月英さんには、伝えておきますね」


「ありがとう!それじゃ、父上。孔明に士元さん。お酒は程々にね?おやすみなさい」


「おう。おやすみ」


「「おやすみなさいませ」」


さて…部屋にっと…あぁ!


「そうだ!思わず隠れちゃったんだけど、この部屋から出てきたのって誰?」


「ん?あぁ。ちょっと遠くから来た客人だよ」


「ふぅん…。一人は孝直って人だったよね」


「あぁ。そうだな」


「もう一人の人って、子喬って人?」


「いや?違うぜ?まぁ…阿斗。もう寝とけ。明日は書を読むんだろ?」


「はっ!そうだ!お休みなさぁい!」


はぁ…。うちの息子は、どうやら武張った事よりも知恵をつけるほうが楽しいらしい。俺に似ずにいいのか悪いのか…。


「んで、お二人さん。阿斗の話を聞いて急に顔色を変えたが…どうした?」


「いえ…。阿斗様のお陰で、あの二人の他にいる人物に…」


「たどり着けたんですよぉ。これが。いやぁ…阿斗様、諜報にも向いているんじゃぁないですかねぇ…」


「ほぉ…。二人をして辿り着けなかった人物か。それは?」


「益州の別駕従事。張松。字は子喬。先達て、曹操に冷たくあしらわれたって噂があった御仁ですねぇ」


「ほぉん」


「これは…中々に大きな人物が、殿の入蜀の手引をしてくれそうですね。明日の軍議は…」


「あの二人に良い返事をして、張子喬殿にも出張ってもらいましょうかねぇ」


「…そうかい。まっ二人に任せるよ…」


「「はっ!」」


はぁ…。なんというか…。同族が治める地を盗らなきゃならなくなるとは…ねぇ…。まっ!まだ決まったわけじゃぁないだろうし、暫くは二人に任せてみるか。

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