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作者: 睦月紅葉

過去


国境があった

くだらぬことで戦争を続けているある国同士の国境だった

全く破壊力の無い兵器を用いた戦いをしている戦線だった


白い国のものは言った

「分かっているだろうに」

黒い国のものは言った

「なにも分からないのさ」


白い国のものは嘘つきだったけれども他人に善くあろうとしていた

黒い国のものは正直者だったけれども他人に迷惑ばかりかけていた


果たして両国のものはどちらもその根を同じくしていた

だからこそ互いを理解出来ず

受け入れられず争いに至ったのだ

『元はおなじはずなのに、どうして?』

この問いに迅速且つ明確な答えを両者に提示することが出来たなら

戦争なんてしていたことさえも忘れてあっという間に収まるだろう


けれどそうはならなかった

そうはならなかったので凡そ愚かと言える争いは人知れずに続いていた


白い国のものには特徴があった

それは黒い国のものと話す時だけは嘘をつかないということ


黒い国のものには特徴があった

それは白い国のものと話す時だけは嘘をついてしまうということ


白い国のものはとても人に優しかった

ときに自己犠牲を払ってしまうほどに

だからこそ白い国のものは黒い国のものに憤る

「主に背く行為だ」

全くそれは正論であって、また世の理とも合致しているものだった

「わたしたちにやられるくらいならば自ら責任を取るがいい」

とも言った


黒い国のものはとても独善的だった

ときに自身へ降りかかる火の粉すらないものとしてしまうほどに

だからこそ黒い国のものは白い国のものへ肯く

「ああ、己に背く行為だ」

全くそれは詭弁であって、また自らの行動とも乖離しているものだった

「おまえたちにならば首をも差し出そう」

とも言った


白い国のものはさも泣きそうな表情で怒った

「嘘だ」

黒い国のものはさも気楽そうな表情で笑った

「本当さ」

言葉を交わす度に

理解しようとする度に

両国の溝は深まっていく

本来はそこになかったはずの溝だ

それは国境に沿って大陸を真っ二つに割っていた


初めは子供が砂場に木の枝で引いた線のような溝だった

白い国のものが黒い国のものを拒絶しながらも語りかける度に

黒い国のものが白い国のものを理解しようと押し黙ってしまう度に

溝はなぞられていった


あんぐりと大きく開いた悪魔の口

蓋を失くして煮えたぎる魔女の釜

高みを目指す人を落とすクレバス


そういった溝が

確かに国境に沿って大陸を真っ二つに割っていた


どれだけの時間が経過したのだろうか

どれだけの資源を無駄にしただろうか

どれだけの国民を犠牲にしただろうか


今日もまた聞こえてくるのである

白い国と黒い国の

全く破壊力の無い兵器を用いた

全く殺傷力のある戦争が


その音が



大陸は今も

軋んでいる


未来

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