表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

59/76

59話:フィットネスクラブへ行こう4


 こうして彩姉の臨時スイミングスクールは始まった。

 俺は彩姉の指示に従ってプール脇のベンチに陣取り、泳ぎ始めた秋山とプールの縁で彼女の泳ぎを見る彩姉を見守る──訳なのだが、何も知らない人間からすれば明らかに不審者だ。


「仮に通報されてしまった場合、彩姉が何とかしてくれるのだろうか?」


 彼女が従姉妹を名乗ってフォローしてくれれば問題は無いか。ただ、日頃からこのクラブを利用している秋山に迷惑がかかるような事態は避けたいところである。

 そんな最悪な展開になった場合の対応シミュレーションを行いつつ、五十メートル自由形を披露した秋山と、プールから這い出る彼女に手を貸している彩姉の会話に耳を澄ませた。


「ど、どうでした……!?」

「全然大丈夫──って言いたいところだけど、キックがちょっと下に行き過ぎてるかな?」

「で、でも、踵を上に上げちゃうと」

「足が水から出ちゃって逆に遅くなるわね。だから、腰より少しだけ上の辺りを基本の位置にして水を蹴るイメージを持って」

「腰の少し、上……」

「こんな感じ」


 彩姉が秋山の眼前に水平にした肘を見せて、手首を微かに上下させる。


「手首がお尻の位置ね? 今はこれくらいだけど、できればこれくらいがいいと思うわ」

「あー……なるほど。中学の時はちゃんとできてた気がするんですけど……うーん……」

「楓ちゃん、今も身長伸びてる?」

「え? あ、はい。割と毎年。中学の時が一番伸びたと思います」

「成長期だからねー。ちなみに座高は何センチくらい? 楓ちゃん、足が長いからそんな高そうな感じはしないんだけど」

「……すいません、ザコウってなんですか?」

「え、ほら。座ってお尻の位置から頭までの高さまで測るヤツ。身体測定の時に測るでしょ?」

「……それ、もうやってません……」

「へ?」

「なんか意味が無いとか何だとかで……多分、彩音さんが高校を卒業されるかどうかくらいでやらなくなったはずです」


 そういえば小学校に入学した頃はやっていたような記憶があるぞ、座高測定。


「……ま、まぁいいわ。成長期って自分が思ってる以上に身体が大きくなるから、この手のフォームって崩れるもんなのよ」

「そ、そうなんですか?」

「私も覚えがあるもの。楓ちゃんは中学の時と同じ感覚で泳いでるけど、身体が自分が思っている以上に大きくなってて、結果フォームに悪影響が出ちゃって記録の更新に黄色信号が出た。そんなところだと思う」

「……ちなみに参考までにお聞きしたいんですけど。彩音さんって、高校の時から──」

「身長? ええ、このくらいだったけど?」

「あぁ、いえ。身長は高浪から聞いてるので。そっちじゃなくて……」


 秋山の眼が彩姉の胸に吸い寄せられる。その視線に気づいたのか、彩姉は慌てて胸を両手で覆い隠した。


「そ、そんなの聞いてどうすんのよ!?」

「……希望を捨てずに済むかなぁって……」

「ま……前にも、言ったけど……大きくてもいい事ホントに何も無いから、ね?」

「富める者の贅沢な悩み」

「きょ、競泳続けるなら邪魔なだけよ!?」

「で、でも……た、高浪の胸の基準が、あ、彩音さんでしょう、し……あった方がいいかな、って……」

「律!」


 絶対に泳ぐ事とは関係が無い事で呼ばれたと思いつつ、彼女達に駆け寄った。

 近くに行って分かったが、二人共顔が真っ赤だった。風呂かサウナにでも入ったような様相だ。どうやらここのプールの水温は高いらしい。いや、彩姉はプールに入っていないからこの紅潮具合は明らかにおかしいが……。


「あ、あんた。胸の大きさには、こ、拘るの……?」

「今ここで聞く事か?」


 本心だった。秋山は貴重な休日を潰して来てくれているのだから、練習に集中すべきでは?

 すると、秋山がコクンと肯いた。マジか。


「こ、今後のあたしの諸々の方針に関わる、から」


 諸々の方針ってなんだ?


「いいから、早く」


 何故尊敬する女性二人に、それもこんな公共の場で自らの性癖を暴露しなければならない? これは何の罰ゲームだ? というか二人共。ここがそこそこの利用客がいるプール場である事を忘れていないか? さっきから見られている気配が凄いというか何というか。やたら注目されている。特に彩姉が長身のモデル体型なので、地味なラッシュガードの水着だろうと目立つのだ。

 俺は頭痛を覚えつつ、声を小さくする。


「そういうのは、正直分からん」


 本音である。けれど二人は納得しないのか、鋭い目つきで凄んできた。


「本当だ。ここで嘘をついてどうする」

「じ、じゃあ……高浪は『年下スウェット』の『リオくん』みたいに……好きになった人のむ、胸がタイプになる……とかなの?」

「う゛え゛ぇ゛!?」

「……男だからそういうのは否定しないが、身体的特徴についてアレやコレやと女性を判断するのは失礼だろう」

「で、でも、でもでもあんた、わ、私の胸やたら見て来るじゃない! 楓ちゃんに言われてから気にし始めたらそうだったんだもん! ゴハンの時に絶対に一回は見てる!!!」

「だから言っただろう男なんだから否定はしないって」

「拘らないけど男のサガとして彩音さんのおっぱいを好んじゃうって事? それってただの巨乳好きじゃない!!!」

「頼むから君達は泳ぎの練習に戻ってくれないか!?」


 その後、俺達は係の人達に声をかけられて、やんわりと怒られたのだった。


お読みいただきありがとうございます。昨日ファミレスに作業しに行ったらPCのバッテリー切れてて電源ケーブルも忘れてドリンクバーだけ飲んで帰ったアホトウフです。びちゃびちゃ。

いつもご声援、ありがとうございます。お陰様で貯金を殖やしつつ更新できております。

三人の関係ににっこりできた方、面白かったーという方、よろしければブクマ、ポイント評価をお願い致します。割とガチで励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ボッチファミレスドリンクバー、呼んでくれたら行ったのに!(どうやってw)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ