41話:女子二人でお出かけ3
秋葉原には有名なカラオケチェーン店の他、客層をオタクに絞った店舗も少なくない。
物珍しさも手伝ってその手の店に入ったら、コスプレ衣装まで貸し出していて彩音は度肝を抜いた。
「着ます?」
「着る訳ないでしょ……!」
「ちなみに高浪は学生服が好みらしいです」
「なんでそんなオッサンみたいな性癖してんのよあいつ! つかどうして楓ちゃんが知ってるの!?」
「あ、いや。ご存知かと思いますが、高浪って嘘つけないタイプじゃないですか。誤魔化すのもヘタクソですし。だから好きなモノとか聞くと素直に答えてくれるんですよね」
「あぁ、そういう事──って納得はするけど三十代後半のオッサンの性癖してるのが、なんというか! こ、困る……! で、でもあいつが好きなら──」
「ふふ~ん♪ 今着る訳ないって怒りましたよね?」
「あああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「ごめんなさいごめんなさい調子に乗りました謝りますから店員さんの前で奇声上げないで下さい!」
そんなこんなで高校生の制服のコスプレをしながらカラオケをするハメになった。
紺色のブレザーとYシャツとリボンタイ、そしてプリーツスカートとニーソックス。さらにパンプスまでレンタルできた。ニコニコしている店員さんの接客態度にプロの矜持を見た。
更衣室で着替えて楓が待つ個室に行くと、謎の歓声を上げられた挙句、スマホのカメラで超連写された。
「やめて! やめなさいコラ! と、撮るなぁっ! そもそも撮って何するつもりよっ!?」
「高浪と共有します!」
「死ぬ!!!!!」
「あああああああああごめんなさいごめんなさいまた調子に乗りましたしません共有しませんからやめてください! でもメチャクチャ似合ってますよそれ! あたしと登校しても誰も気付きません!」
顔面を真っ青にした楓がしがみついてくる。
ぶっちゃけそう言われると悪い気はしない。しないが、壁に設置された鏡に浮かぶ自分を見ると素直に喜べなくなる。
「二十五歳の女が女子高生の制服着るとか痛いの通り越えてる! 風俗よ風俗! イメクラとかそういう次元!」
「えー可愛いからなんだっていいじゃないですかー。ほらほらスカートから覗く眩い太もも!」
「おい十六歳!? こら十六歳!? スカートをめくるなぁ! そもそもどうして楓ちゃんはそのままなのよ不公平じゃない!?」
「あたしが制服着ても普通ですよ? 何が面白いんですか?」
「他にも色々あったでしょうがぁ! チャイナ服とか看護士とか女医さんとかそういうの!」
「あたし、彩音さんみたいにおっぱい大きくないんで面白味ないですよー。ちなみに彩音さん、胸のサイズは?」
楓が意地の悪い笑みを浮かべる。その視線は彩音の胸に吸い込まれていた。
そこには当然二つの山があった。世の男性の意識を簒奪する魅惑の肉の丘。
彩音のそれはこれまた見事なサイズで、さらに形も整っており、ブレザーやYシャツの布地を窮屈そうに押し上げていた。
「じ、Gカップ」
「…………」
「なんで、『うわっ……』って顔すんのよ!?」
「……高浪がこの前お昼ゴハンの時にぼそっと言ったんですよ。彩音さんと晩ゴハン食べる時、正直眼のやり場に困る時があるって」
「は? え。どういう事?」
「その暴力をテーブルの上に置かれるから」
胡乱な眼の楓に胸を指差された彩音は、年下の友達から隠すように胸を抱きかかえる。
「し、仕方ないでしょ!? 置くと楽なんだから! むしろ置かないと重くて肩も背中もバキバキに凝るのよコレェ!?」
「富める者の贅沢な悩み」
「くっ……! こ、こんなのつけて水泳やってた身になりなさい! ハンデ以外の何物でもなかったわ!」
「え。学生の頃からその乳?」
「ち、乳とか言うな! い、今よりまだ小さかったけど、まぁ……大きかったわね」
「この乳で競泳水着なんてスケベすぎる……! 律の性癖を歪めたのは彩音さんですよ!? ほら小さい時に競泳水着盗んだとか言ってたじゃないですか! こんな乳で競泳水着とか凶器すぎる!!!」
「知るかスケベオヤジ!!!」
そんな風にギャーギャー騒ぎながら歌っていたら、あっという間に二時間が経ってしまった。
足りなかったので一時間延長した。ちなみに彩音はずっと制服姿のままだった。
「はぁ~歌った歌った~♪ 彩音さん、そのまま帰ります? ちなみにコスプレショップもあるそうですよ?」
「帰らないし行かない!」
でも律がこういうの好きなら一着持っててもいいかも? と一瞬でも思ってしまった彩音は、自分がまた少し嫌になってしまった。
競泳水着…




