第一話『不毛な異世界生活一日目』
この物語の主人公は特殊な幼少期を歩んでおります。この物語の主人公が何をしようと、それは今をいきる私たちには真似してはいけないことです。
どうも、二度目の冴島真守です。
ちょっと落ち着きました。その落ち着くまでの間に警察を呼ばれて連行されたり、全裸の王様らしき人と街を歩くというイベントが起こったのだけれど、どうでも良いことなので書くわけ無い。
「んで? 気付いたら、ここにいて、驚いて全裸で叫び回った…という訳か?」
「イェァス…」
「しょっぴくぞ」
僕に訊問する警官さんは木製の机をババンババンバンバンと叩き僕が「ハーニャハニャハニャ」と合いの手を入れると頬を殴ってきた。こんなに横暴な人は見たことがなくて、いらっときたので顔の左右についている福耳をつねると、なんと驚くことに僕の忌まわしい金髪を引っ張ってきた。そこからは僕と警官さんの一騎討ちで、紳士的な僕は「放してくれたら赦しますよ」と提案するが、愚かな警官さんはそれを蹴る! それは英断だった。僕は少し感心した。
「どの口で言ってんだ、てめぇ」
「この紳士的な口でございます」
「かすりもしてねぇことを言うな!」
「酷い! 少なからずはかすってます!」
「黙りやがれ!」
「黙りません! むん!」
「むんじゃねーーよ! なんなんだお前、なんなんだお前!」
僕と警官さんの一歩も引かない不毛な争いはいつまでも続くかのように思えたが、防音も糞もないうっすい扉の奥で
「やだぁ、男たちってやっぱバカねぇ」
「喧嘩しか頭にないんじゃないの? それになんか臭いし」
「まぁ、かわいそうでしょー。シモンくんは違うし! シモンくんは良い匂いだし! 他の男と違って臭くないし!」
「あっ、確かにー! エレファントタシカニ! 他の男は臭いわよね! めっちゃ臭い!」
と聞こえてきた。
僕と警官さんは顔を見合わせて、受話器を取った。
「俺の奢りだよ」
「あ、あざっす」
出前で来たロコモコのような食べ物はなんだか涙の味がした。
「芳香剤」
「香水」
「「買いに行くかあ」」
◆
「…あれ?」
「あ? どうしたよ。変態」
「黙れ不細工。……そんなことより、もしかしてここってさ、異世界?」
「しょっぴくぞ。イセカイってなんだ?」
「うん、この反応は異世界だね」
平凡な男がある日の朝目が覚めると一匹の毒虫になっていたたいうのは、有名な小説な冒頭である。僕はこの状況を理解しきるのに、さほど時間を有さなかった。
僕の場合は異世界転移だ。しかしなぜ僕なのか。それはおそらくきっと僕が『聡明』で『賢者』で『紳士』だからだろう。
「なんだ? さっきから」
「ううん、何でもないよ。そんなことより、僕が無一文であるという事実が発覚したんだけど」
「マジかよ」
「大マジです」
「お前はどこから来たんだよ」
「異世界です」
「イセカイっていう国か町があるんだな?」
「あ、はいそうです」
一応、そういう風にしておこう。完全に状況が飲み込めたら、全部言おう。
「身分証は」
「無いです」
「かなりやばいな。窮地じゃねぇか」
「イェァス…」
「しょっぴくぞ。…今の世の中、偽造でもなんでも、持ってねぇ奴は居ねえんだぜ? お前本当に……」
「まあまあ、僕の詮索は一旦忘れましょうよ」
「……わかった」
「てことで、自己紹介しません? 僕の名前は……マモル・サエジマです」
「ああ。俺の名前は、クラウス・F・アタッカーズだ」
「なるほど。クラウス・F・アタッカーズですか……痛そうな名前ですね」
「しょっぴくぞ。……韋駄天全裸と共に歩くくらいだから阿呆なんだと思ってたが、お前は俺の想像の上を往く阿呆だったな」
「えへへ」
「褒めてねぇよ」
こうして僕の異世界生活一日目は不毛に幕を閉じることとなる。
米と秋。