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黒く世界  作者: Hirororo
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神と漆黒

中庭にてエンダーの帰りを待ちわびる四人の視界にようやくエンダーが写る。


「ようやく終わったのかい」


待ちくたびれたイロナシは寝せている体をゆっくりと起こしている。

戻って来たエンダーだが、その表情は誰が見ても疲労しているとわかる程だった。


「悪い、なかなか骨が折れた、、宿まで闇で移動しよう」


普段は戦いであっても能力を使うことの少ないエンダーが移動に闇を使い瞬間移動しようと右手に闇を纏う。余程疲れきっているのだろう。

しかし横からゼリエルが口を挟む


「エンダー、疲れているだろうが直ぐに街を離れるぞ」


「どうした?何かあるのか?」


ゼリエルの提案の意味が理解できず問いかける。同じくその場の全員が疑問を持っていた。


「理由は後で話す。とにかくこの街に長居するのがよくないのだ」


ますます疑問は募るがゼリエルが珍しくややアセッテイル様にも見えたエンダーは大人しく闇を街の外に繋ぐ、そして全員が闇を通し街の外に移動した。


(へぇ、初めてエンダーの瞬間移動を使ったけどホントに一瞬で外なのか)


屋敷の中にいたため気付かなかったがすっかり日は落ち、辺りは真っ暗になっていた。

改めてイロナシはエンダーの能力に驚きながら、一行は歩きながら街を離れていく。


「ゼリエル、急いでた理由を教えてくれ」


疲れきった体を休めることなく渋々街を出たエンダーは先の疑問を再び問いかけ、ゼリエルを見る。

ところがゼリエルは小さく何かを呟き、顔を手で覆い隠しかつてない程焦りを見せている。

それを見たエンダー達はただならぬ事を感じ今一度理由を聞こうと口を開く。

その瞬間、夜空全てを照らすような強い光が背後から差す。

何事かと思い、瞬時に後ろを振り返るエンダー、そこには信じがたい光景が広がっていた。



「まずはガネーシャの分」

誰かが一人呟く


それは一面の焼け野原、エンダー達の背後にはついさっき主発した富の街があるはずだった。しかし街は跡形もなく消え、そこには焼け焦げた地面と粉々になった残骸が広がっていた。


「アルカース、、ゼリエル!何が起きた?」


ほんの少し前、ようやく理解し会えたアルカースを脳裏によぎらせる。しかし見ての通りの景色はエンダーに期待はさせてくれはしない。

するとようやくゼリエルが話す。


「エンダー、よく考えろ、ガネーシャが殺されたんだぞ、普通子供が殺されたら親はどうする?」


と話すと街の上空を指差す。

ようやくゼリエルの思考を理解したエンダーは速まっていく心音を感じながら消し飛んだ街の上空を見る。



未だ昇る黒い煙のなか、煙の合間に人影のようなものが一つ浮いている。それを凝視したとたん、街から凄まじい突風が吹き、煙を散らす。そしてゆっくりと影は地面に近づきやかで地に足をつける。

落ち着こうと胸を強く押さえるエンダー、言葉にせずアラとイロナシ、ゼノンに視線を送る。そして降りた影の方へ歩みを進めていく。

初めて目にするゼリエルとエンダーの焦り、しかし三人は何も言わずエンダーについて行く。


すると焼けた街の残骸のなか、瓦礫に足を組み腰掛ける姿がある。そしてエンダー達が来るのを分かっていたかの様に見つめ声をかける。


「いや~、まさかあれを避けるとは思わなかったよ、いやほんと凄いね君たち、信じられないよ」


面白がる様に陽気に言葉をかけ、立ち上がる。

その姿は人ではなかった。

およそ三メートル程の身長に筋肉質な体つき、そして極めて異形なのは青みがかった肌、そして四本の腕。


エンダー達は口に出すまでもなく彼の正体が分かっていた、それとと同時に全員が思考をフル回転し同じ事を考えていた。


(どうすれば生き残れる?)


消して表情に出してはいないが、彼はエンダー達の考えている事を理解していた。そして再び微笑みながら話を続ける。


「まあ、君たちが何を考えていたいるのかは大体分かるけど落ち着いてよ、僕は君たちを目当てに来た訳じゃないから、

単純にガネーシャの分の仕返し?天罰的なこと、そりゃ子供が殺されたら誰だってこうするでしょ」


共感を求める様に呼び掛ける。


「ただ、ヘルメス君が最近ずっと人間の話を皆にしてるからさ、建御雷之男神を殺した人間がいるってね、そりゃ驚いたさ、あの雷神が人間に負けたなんてね、そしたら偶然ガネーシャの街に君たちがいるもんだからさ、ガネーシャのこともあったし僕が来たわけ」


依然として警戒しているエンダー達に話を続ける。


「いや~感謝してほしいくらいだよ、元々神を殺したなんて許されないしあの人間を始末しようってトール君にゼウスなんかが行こうとしてたからさ、それを止めて僕が来たんだよ。あの二人がいったらこの階層が消しとんじゃうからね」


長々と話終えると彼は手を大きくパンッと鳴らすと器用に四本の腕を伸ばし、バキバキと骨を鳴らす。


「さて、そろそろ相手しようか、破壊神シヴァが相手してあげるよ」


落ち着かせる様に大きく息を吐くエンダー、ゼリエルがエンダー達に囁く、


「分かってると思うが全力で相手しろ、生き残れば勝ちだ」


「分かってる、破壊神シヴァ、お前を殺す」


覚悟を決めたエンダー、真っ直ぐにシヴァの目を見ていい放つ


「へぇ、楽しみだ」


破壊神シヴァ、誰もが認知しているその存在、神々の中でも最高位に位置しまたその力も最強と呼ぶものもいる。


ゼリエルに言われた通り、エンダー自身もシヴァを前に余裕を見せる事の愚かさを理解し今回ばかりは能力すら全力で迎え撃つ。


[黒・城建王都]


静かにエンダーが呟くとかつてない程の闇が現れる。それは見渡す限りの地面を覆い隠し黒い大地と変貌させた。


「これが君の能力かい?この霧でなにができるのかな」


自身の足元を含めそこら一帯を覆う闇に対し何ら危機感を抱かず、むしろなにが起きるのか楽しんでいる様にすら見えるシヴァ

しかしそんな余裕も目の前の光景に掻き消される。

見渡す限りの地面を覆った闇はエンダーの合図で水面の様に動きだし、一斉に競り上がる。それは陸に立つにもかかわらず津波かと勘違いするほどに大きく、味方である三人すら不安や恐怖を感じる程のものだった。

そして高く立ち上った地面はシヴァを圧殺するかの如く上から覆い被さる。高さにしておよそ数百メートル程の山が出来上がる。


「これが、、エンダーの全力、、」


未だ正体の分からないエンダーの能力、イロナシは余りに強大な力に言葉を途切れさせる。アラやゼノンも同じく圧巻に呑まれていた。


「まだだ」


驚きのあまり硬直している三人をよそにエンダーは地面に手を着け、更にまた一帯を闇に染める。

シヴァを埋め動きを止めた山が再び黒く染まり動きだす。山になった地面がその場で渦を巻くように動き出すと至るところが動き、徐々に何かの形を形成していく、そして暫く動きを続けるとやがてそれは城のような形に収まる。

高さ数百の大きな城を更地に一瞬でエンダーは作り上げる。


[黒・落城]


しかし逸れに留まらず更に動き始める、急に城は中央に吸い込まれる様に崩れ初めると奇妙なことに更地に戻るのではなくその姿を消滅させる。


「なにが起きたんだ?」


全く状況に付いていけず疑問を呟くとゼノン、しかし答えは更に理解し難いものだった。

エンダー達の立ち位置では分からなかったが、城はその場に崩れたのではなく、穴に落ちたのだ。さっきまで城が合った場所には底の見えない程深く、城を丸々落とす程の大穴が空いていた。


「地面が無くなったのか、凄い力だなエンダー、もうアイツは死んだのか」


更地に城を建てその城を穴に落とす。改めて規模の大きさに呆然とするアラ


「はぁ、死んでくれてれば嬉しいな、ただ少なくともダメージにはなってるはずだ」


能力による疲労なのかは分からないが疲れを見せるエンダー、あれだけの事をしたにも関わらずシヴァの死に確信を抱いてはいない、それどころか希望的な言い回しになっている。

確認するように自らの作った崩落の跡に歩みより見えない底を覗く。

その瞬間、底の見えない穴から一筋、細く、しかし眩い程の光を放つ何かが放たれエンダーの肩を貫く、そしてそれは空まで貫通しやがて視認できる距離を外れる。


「エンダー!」


肩を一発貫かれただけでエンダーは完全に気を失いその場に倒れる。

急ぎ駆け寄るゼリエル、心底心配そうにエンダーを抱き寄せる。

イロナシが指をならし穴の傍からこちらに二人を瞬間移動させる。


「イロナシ、アラ、ゼノン、エンダーを診る、少しの間だけでいい、相手を頼む」


「相手ねぇ、まあやれるだけね」


三人は焦るゼリエルと倒れたエンダーの前に進み穴を覗く、するとそこには体に付いた土埃を払いながらゆっくりと浮遊しているシヴァがいた。


「驚いたよ、まさかあんな事ができるなんてね」


驚くべきことに完全に無傷のシヴァは地面に降り立ち笑顔でこちらを見る。


「無傷とはね、、シヴァ、ちょっとだけボクらの相手してもらうよ」


「もちろんそのつもりさ、誰から──」


すかさずイロナシがシヴァの声を遮り攻撃を仕掛ける。

シヴァに向かって手を向けると直径一メートル程の氷の柱がシヴァに飛んでいく。


「これはなかなか、」


自分に迫る氷に関心を抱くシヴァ、足を肩幅程に開くと四本の腕の内一本を強く握りしめ顔付近まで寄せると、振り払うような動作で迫る氷に裏拳を当てる。すると巨大な氷の柱は一瞬で微細に砕かれる。

自慢気に笑顔でイロナシを見るシヴァ、しかしイロナシはすかさず二本目の氷を撃っていた。


「おっと、二本目か!」


二本目に驚くも、シヴァは腕を真っ直ぐ伸ばし手のひらで正面から氷を受け止めるとその場で氷は静止し地面に落下し砕ける。


「潰れろぉ!」


余裕に浸り手を握りしめていると突如上から声が響く

シヴァが上を向くと視界を埋める程の大きさの槌を振り下ろすアラがいた。


「ん? 随分力が強いね。ヘパイストスの旧型か?」


笑いながら呟くと一本の腕で振り下ろされた槌を軽々受け止める。受け止められたアラは一瞬空中に静止した瞬間


「君は丈夫そうだね♪」


胸の前に腕を引き、目に捉えられない程の速度でアラの腹部に拳を打ち込む。

するとうめき声を上げるより速く、アラは地面を跳ね、削りながら吹き飛ばされていく。


「あっ、流石に強すぎたかな

回収を逃れて行方不明の一騎君かな?」


遠く地面に倒れるアラに対し、一発で終わってしまったのかと心配をする。

圧倒的、まさしくそんな言葉がイロナシの脳裏を過る。



地面に横たわり、微かに体を震わせるアラ


「おっ、まだ大丈夫そうだね」


何に対して安堵しているのか、シヴァが安心した様子を見せるとアラに向かって歩みを進めていく。


「まずいっ!」


これ以上アラに追撃を許せば確実に最悪の事態になると思い、瞬時にイロナシはシヴァの動きを止めにかかる。


[氷束縛(アイスチェイン)]


歩みを進めるシヴァの両手に突如氷の鎖が宛てられる。不思議そうに自分の手首を見つめ、鎖の先に視線を移すとそこには同じく鎖を手首に着けたイロナシが自慢気に笑っている。


「それ以上いかせないよ」


不敵な笑みでいい放つイロナシにシヴァも笑いながら言葉を返す。


「自殺行為だよ」


するとシヴァは鎖の付いた手首を前に出すと恐ろしい早さで後ろに引き戻した。

その瞬間、同じ鎖に繋がれたイロナシの手首は引きちぎれんばかりに前に引かれる。

一瞬、イロナシには何が起きているのかすら理解できぬ間、足が地面から離れ、高速で体がシヴァに向かい引き寄せられていく。

と思いきや、急に両手首が軽くなる。

何が起きたのかと思い視界を雨後かすと、鎖を掴み両断するゼノンが目に写る。


「ゼノン!」


しかしゼノンは掴んだ鎖を離さずに剣を片手に構え、凄まじい勢いでシヴァに引き寄せられていく。

人間が体験することのないであろう速度の中、感覚だけを頼りに鎖を手放し、両の手で剣を握り正面で交差させるように切りつけるゼノン

そして手元には確かな感覚

だがそれは物を切り裂いた感覚ではなく、剣を止められている感覚だった。あまりの早さに滲む視界ですぐに正面を確認すると


「いいね、君の攻撃は誰よりもよかったよ」


称賛の声を上げるその男の左右には四本の腕でゼノンの振った二本の剣が白羽取りされていた。

しかしゼノンは直ぐに剣を手放し、新たに腰にある剣を掴みシヴァの両手が塞がってる隙に瞬時に切りつける。

が、またもやそこには剣を止められている感覚があり、驚きシヴァに視線を戻す。そして深い恐怖を体は覚える。


「まぁ、鉄の剣でボクが切れればの話だけどね」


避けることも受け止めることもなく、堂々と立ち尽くすシヴァの胴体に触れ、左右の剣は筋肉にほんの僅かに食い込み止まっていた。

するとシヴァは剣を手放し、ゼノンの両肩を掴みその場に拘束する。そして手のひらをゼノンの胸に当てた。


「死なないように祈ってるよ」


ドン!という鈍い音が鳴り響くとシヴァはゼノンの肩を放す。そしてゼノンは力なくその場に倒れこんだ。

ベッタリと地面に倒れるゼノンを見てイロナシは全身に悪寒が走る。


「ゼノン!」


ゼノンの死を危惧し、今までになくイロナシは焦る。

そんなイロナシの不安を他所にシヴァは動かなくなったゼノンから苦痛に体を震わせるアラに視線を移し向かっていく。


「さてと、ようやくあの子にトドメをさせるよ」


するとイロナシは直ぐ様大気中から大量の水を作り出し、大きく槍状に形成し超速でシヴァの背に向け打ち込む。


[大気操作、水槍(アクアスピア)]


しかしシヴァは自身に迫る刃を避ける素振りすら見せずに背を向けたままアラのもとに歩みを進める。

イロナシの水の刃は見事にシヴァに直撃するも、シヴァを振り向かせることすらできず、その場で飛散し即座に蒸発していった。


「さぁ、ようやく一人脱落だ」


そう言うとシヴァは息も絶え絶えのアラを三本の腕で掴み上げ、再び体を捩らせ拳に力を込める。


「最後は痛くない様に完全に消し飛ばしてあげるよ」


更に拳を後ろに引きつけ、パチパチと謎の音がシヴァの拳から鳴り出す。


「じゃあ、さよな──!」


全力を込めた拳を背後に異様な気配を感じシヴァが初めて見せる、焦りにも似た様子で振り替える。


そこには、例え太陽だろうと飲み込む、そう感じさせる程の深く底の見えない暗い闇がシヴァの視界を覆う。

するとまるで夜を形にしたような不気味な黒い腕がシヴァの腕を掴む。


「アラを離せ」


怒鳴る訳でもなく、いたって冷静な声、しかしそれは神をも一瞬止めるような威圧感に溢れていた、


「へぇ、よく目を覚ませたね、黒い人の子」


ほんの一瞬シヴァから余裕の笑みが消えたが再びシヴァは余裕の表情でその(黒)に声をかける。


「、、、悲鳴が苦手なんだ、」


全身に滲む怒気を体現するよう激しく渦を巻いた闇を体にまとい、エンダーがシヴァを睨む


今、神はこの世に存在を確立してから数百年、初めて警戒という本能に体を支配されていた。しかしそれでも強さという一点では並ぶ者などそれこそ神ですら僅かしかいない。そしてシヴァの警戒する理由は得体の知れなさだった。

人間、それは神にとってはただの支配する対象に過ぎず、今では直接関わりを持つ神などいなく、簡単に滅ぼすことのできる存在だった。

が、今目の前に立つ人間、彼はあろうことか神に敵対の意思を持ち、神殺しを掲げて旅をしている。更にそれは人間とは思えない程の威圧感と強さを備えており、能力には神に禍々しさすら感じさせる。


「どうやって目を覚ましたのかは分からないけど、勝てるかな?」


抱えていたアラを地面に投げ、エンダーの正面に向き直る。


「勝てるさ」


荒れた息づかいで返事をするエンダー


「辛そうだねぇ、まぁ言葉通り死ぬほどの痛みを神経に叩き込んだからね」


ふとイロナシがエンダーの腕に目を向けると、最初に貫かれた肩から下の腕がはち切れそうな程血管が浮き上がり小刻みに震えている。




エンダーが気を失った後、直ぐにゼリエルはエンダーの治療に取り組んだ。その間時間を稼ぐアラ、イロナシ、ゼノン

シヴァの強さを誰よりも理解しているゼリエルにとってはその時間こそが一番の不安だった。エンダー無しではシヴァに傷を与えることすら危うい、しかし治療に時間を稼ぐことで三人が命をおとしても何ら不思議ではなかったためゼリエルは全力で治療に専念していた。


(神経に最大負荷を与える技か、、なら目を覚ますだけですむが、、頼むぞエンダー)


自称万能の神であるゼリエルはこの時ばかりはエンダーに願いをかけ、着々とエンダーの外傷を直していった。すると予想通りエンダーは直ぐに目を覚ませした。


「、、くっ、ゼリエルっ!何がどうなった!?」 


「エンダー!、よく目を覚ました、、状況は最悪だな、直ぐに助けに向かうぞ」


目を覚ますや否や直ぐに状況を問い、体を起こす。しかし、とたんに苦痛に顔を歪めるエンダー


「腕の感覚がない」


「当然だ、神経に負荷をかけられズタズタにされたんだぞ」


「確かに痛みはある、だが問題ない」


エンダーは動かない腕に闇を纏わせると驚くことに真っ黒に黒く染まった腕は普段通りに動き出し、エンダーは手を握りしめ動作を確認する。


「いける」


と急ぎシヴァの元へと駆け出そうとするエンダーをゼリエルが呼び止める。


「待てエンダー!」


「なんだ?」


「今お前が助けに行って結果は変わるか?」


「、、、どういう意味だ?俺がシヴァに殺されて終わるって言いたいのか」


呼び止めるゼリエルの質問に引っ掛かるエンダー、ゼリエルの言い回しは助けに行っても無駄、と言われている様に感じる。


「そうだ」


意外にもゼリエルは素直にエンダーの問いを肯定する。そしてエンダーに発言をする間を与えずに続けて話す。


「エンダー、信念、主義、なんだっていいが、それでごく僅かの勝利の可能性を追いかけ、共に歩んでくれると誓った仲間を殺すか、 今この時だけそれを捨てより先に皆で進むか、、選べ」


突然ゼリエルはエンダーに問いかける。今この瞬間もイロナシ達の命が危機に晒されているのを深く理解した上でエンダーを止める。

一方エンダーは含みの多いその質問の本質を理解し、何か言いたげに何故かゼリエルを睨み付ける。


「そんなに難しい選択か?エンダー」


「、、、分かってる、だが選択肢は一つじゃない」


呟きながら貫かれた肩に手を当てる。自分の全力を全て受けた上で傷一つなく、更に一発で気絶させられたことを思い苦悩する。


「ゼリエル、勝算はあるか?」


吹っ切れたような爽やかな表情、そして子供がこれからイタズラをするような笑みでゼリエルの頭に手を置く

するとゼリエルは満点の笑みで胸を張り答える。


「私は万能の神だぞ!その質問に答える意味など不要だ!」


「わかった、願うぞゼリエル、結末を選ばせてくれ!」


「願いを叶えたいのならより切に願え!」


笑顔で二人は叫ぶとゼリエルから淡く、しかし夜を照らすような強い光が放たれ姿を隠す。


その強い発光の中より声が聞こえる、それは光の中にいるゼリエルとは思えない声だった、子供のような幼さはなく、しかしどこかゼリエルと似た声質、安心感を感じるような優しく強い女性の声が響く


    「願われたなら、叶えよう、願神として」



四本の腕を遊ばせながら神は立っていた。

対して迎え撃つ様に身構える二人の人間がいた。しかしすでに一人の人間は片腕の不全という致命的なダメージを負っている。


「さぁさぁ、ようやく期待の黒い子が起きたんだ、突っ立てないで仕掛けておいでよ」


挑発的なシヴァのセリフを受けイロナシは視線をエンダーに移す。


「勝算はあるんだよね?」


密やかに不安の隠る声で問いかける。


「神には祈っておいた」


「こんな時に冗談かい?余裕綽々だね」


この場面で茶化すエンダーに不安を感じる。勝利を確信した余裕なのか、もしくは諦めを込めた言葉なのかが掴みきれずにいるイロナシ

すると背後から僅かに聞き覚えのある声が響く


「冗談ではない。神として祈られた」


不意に知らぬ声に答えられ反射的に振り替えるとそこには女性が一人立っていた。そして察しのいいイロナシは頭の片隅によぎった考えをすぐに口にする。


「ゼリ、、エル?」


自分で聞いておきながらなんとも間抜けな言葉になるが、イロナシ自身もその考えを否定気味にとらえていた。

しかし見れば見るほど知っているゼリエルとの共通点が見つかる。

今目の前の女性が着ている服は間違いなくゼリエルのものだ。普段幼い体に会わない大きな羽織のようなものだったが目の前の女性は完璧なサイズ感で着こなしている。



「正解だぞイロナシ」


イロナシの考えを読むように自分から答える。しかしこの場にいる誰よりも驚いていたのはシヴァだった。震える声でゼリエルに問いかける。


「まさか、、願神ゼリエルか、、」


「覚えていたかシヴァ、何百年ぶりだろうな?」


「あんたを忘れる神なんているはずないだろ、、まさかふたたび会う日が来るとはね」


数分前までは常に余裕を持ち、エンダー達相手に遊びの様に相手をしていたシヴァが、声を震わせひどく動揺している様子にイロナシも呆気にとられていた。


「シヴァが動揺してるのか、、エンダー、ゼリエルは何者なんだい?」


「いつも自分で言ってる通り、万能の神だ」


すると先程までの動揺を静め落ち着きを取り戻したシヴァがエンダー達に視線を当てる。


「いや~まさか願神ゼリエルに会うとはね、、で?君たちの切り札は彼女のことかい?」


「だったら不都合か?」


エンダーの煽るような言葉にシヴァがやや怒りを見せる。


「確かにゼリエルなら十分過ぎる程の驚異になるだろうね、そしてそこに居るのは間違いなく願神ゼリエルだ、だが姿だけの脱け殻のようだ。その力はかつてのゼリエルとはかけ離れている」


「そうか?」


一瞬、シヴァが言葉を切る直前に鉛色の物体が空を切り、高速で衝突する。

それはゼリエルが拾った石を鉄に変化させ全力でシヴァに投げつけたものだった。

シヴァは顔に当たる前に手の甲で受け止め、恐らく金属でできているであろう礫が轟音を鳴らし粉々に飛び散る。


しかしそれでも一切の傷を与えることが出来ず、その様子にイロナシはシヴァの言う事が真実であると同時に再び勝機を失ったことに絶望視する。


「イロナシ、勝機はあるぞ」


その様子に気づいたエンダーが耳打ちをする。


「俺たちとシヴァの力の差は絶対的だ、正直俺たちの全力を持ってしてもシヴァに攻撃だと認識させることすら出来ない。だがゼリエルの攻撃をアイツは今手で防いだ」


エンダーの言うことを理解し僅かに期待を取り戻すイロナシ


「つまり、、」


「ああ、ゼリエルの攻撃ならシヴァに通用する、アイツと戦える、だがそれでもシヴァとゼリエルも力の差は大きい、だから俺たちは全力でゼリエルの攻撃を当てる為に隙を作るぞ」


シヴァは自分の手に痛みを受けたのかパタパタと手を振る。そしてゼリエル達を見据え大きく息をはいた。


「、、、なるほどね、流石ゼリエルだ、それと黒い子、君の力の事がようやく分かった、今までに神界を去った神はゼリエルを含め二人だ、お前の能力はもう一人のあの方の力だろう」


ゼリエルの攻撃が通用していたことをシヴァ本人から確認できたがイロナシはそれ以上にシヴァのエンダーについての言葉に反応する。それは自分が謎に思っていたエンダーの能力についてシヴァがなにかを掴んだようだった。


「万物に通ずる支配、あの方には遠く及ばないがかなり近しいその力、そしてゼリエルと共に行動し神を恨む、ようやく分かった」


(あの方?あの最高神シヴァが上に見る存在なのか、口調からしてもゼリエルのことも同等か上に見ていたのか?)


「まぁ、ゼリエルの加勢も含め尚更事が大きくなった、さて、ゼリエルが相手ならもう手は抜けない」


シヴァは四本の腕を握りしめ力を込める、そしてシヴァが初めて構えをとる。


「くるぞ、イロナシ、エンダー、一瞬も気を抜くなよ」


迎え撃つ様にゼリエルを前にエンダーとイロナシは身構える。


ピリつく空気、否、実際に空気が異常な程乾いている。そして辺り一帯の気温が高まっていた。故に実際に人の肌を傷つけつける環境は出来上がっていたのだ。

その異常気象の原因はシヴァによるものだ、彼がようやく戦闘体制になり経つこと数秒、辺りは環境すら神に合わせて変化していく。


「まず一人」


誰に届けるでもなく一人で呟く。

瞬間、三人の視線は一瞬の隙もなくシヴァを捉えていた。しかし三人は同時に見失っていた。

そして一人、エンダーは何が起きたのかを認識するよりも早く、理由も分からずに体を半歩引いた。

その時、ほぼ同時のタイミングで轟音と爆風が巻き起こる。それは10メートル程先に構えていたシヴァが誰の視界に捉えられることもなくエンダーの眼前まで接近し瓦礫の地面を吹き飛ばしその強靭な腕を先程までエンダーのいた

地面に突き刺していた。


「なっ!」


何が起きたのか理解が追い付かず、ゼリエルとイロナシはすぐさま振り替える。そこには地面を叩き壊すシヴァの姿が合った。そしてそれをすんでの所で避けるエンダー、


(何も見えなかった、、今のをエンダーは避けたのか、、)


「はぁぁ!」


ゼリエルは一瞬にして地面から数メートルの拳の形状の金属を作り上げ、自身の両腕と並ぶ様に宙に浮かせると、シヴァに向かって空を殴るような素振りをする。するとその動きに合わせて金属の鎧のような巨拳がシヴァに迫る。


シヴァは軽々と地面から腕を引き抜き二本の左腕で防ぐように曲げ足を踏ん張り金属の拳を受け止める。


「絶派」


ゼリエルの一撃にズルズルと足元を滑る。そしてシヴァが呟くと突然シヴァを中心に見えない壁のようなものが広がり三人を押し戻していく。


「何をした?」


疑問の言葉を投げ掛けるのはシヴァだった。エンダーに対して何をしたのかを問いかける。


「なんの事だ?」


「どうやって僕の拳をよけた?」


「避けられた事がそんなに不思議か?」


「不思議なんじゃない、ありえないんだ」


「ありえないとは大きく出るな、確かに早かったがこうして俺はよけた」


「ありえないってのは人間ならありえないって話だ、僕があそこから君の元にたどり着き拳を振るまで、君たち人間の時間を使って現せば0,01秒だ、これは人間という種族の最大反応速度の10分の1なんだよ」


「物知りだな、流石神だな」


意地でもタネを隠そうと言葉を遊ばせるエンダー、対してシヴァは口論を諦め辺りを見回す。するともう一度エンダーに視線を合わせてニヤリと笑うと拳を握りしめる。


空気が吸い込まれる。


シヴァの握りしめた拳に吸い込まれやがて数メートル離れた距離でも肌が焼けるような熱さにエンダーといえど後退りそうになる。


そしてその手に燃え盛る炎は更に腕に吸い込まれ、シヴァの薄蒼がかった腕が真っ黒く炭の様になった。

ゆっくりとその腕を体に引き寄せ、遠目でも分かる程力を込めている。


それはまた一瞬の出来事だった。


誰もその動きを目に捉えることはできなかった。


[空壁・氷壁・水壁フルウォール]


だが捉えられないからと言って対策が出来ないわけではない。イロナシは初手のシヴァの動きを捉える事ができなかった。しかし今の様にシヴァがあからさまに攻撃の姿勢を取れば話は別だ。


読み通りシヴァは振り払うような動作で腕を全力で振り切る。驚くことにただ腕を振る、その動作一つが人の町を滅ぼす程の偉力を持っていた。すでに瓦礫と化している町の一帯を何一つ残さず更地に変えた。


何が起きたのかを誰一人理解出来ず、ただ消し飛んだ町に恐怖を感じる。

三人の前にはギリギリで持ちこたえていたのかま分かる壁が合った


「ゼリエル、、見えたか?」


「見えたのと対応できるのは別だ、、流石だイロナシ」


「あいにく僕の全力も威力負けしてるけどね」



「よく防いだ、さて黒い子、もう一度ふせげるかい?」


(まじか、もうバレんのか、、)


「あの方とは多少異なる能力なんだな、闇をバレないように超広範囲に展開した。そしてその闇と感覚共有したんだろ。目の前からボールを投げられるのと、100メートル先からボールを投げられるのとでは反応は違くて当たり前だ」


(ご丁寧に説明つきか、100点だな、さて不味いな、しばらくはあれで対応するつもりだったからな、闇なしだと、、、次の攻撃で死ぬな)


エンダーが確実かつ間近な死を予測し再び深く一瞬の思考はじめるとゼリエルがそれを遮るように声を掛ける。


「エンダー、死を連想すれば負けるぞ、人の生に二度目はない、教えたはずの常に❬最善の手を❭はどうした?それに信念と命を天秤に掛け違うような育て方はしていないはずだ」


「分かってる、、今は仲間の命も天秤にかけてるしな」


お互いにイロナシの知らない何かを共感した上での会話をしていた。


[黒・依命龍殺騎士(ドラグーン)]


エンダーが呟くと、また今までの闇とは異質な闇がエンダーを包むそれは明らかに物質的であり黒い石のような印象をもたらす。

そして闇が失せ、エンダーの姿が現れるとそこには息を飲む様な黒い細身の鎧に全身を包むエンダーが立っていた。


「イロナシ、突然だが頼む、ありったけの氷の槍をここに撃ち込んでくれ、あとアラとゼノンを見ててくれ」


イロナシの手前に闇を展開するエンダー

流石に状況を理解できていないイロナシに唐突に告げるエンダー、しかしイロナシは直ぐに考えることを放棄し了解と口にする。


「エンダー、、10分以上は敗けだ、行くぞ!」


掛け声と共になんとゼリエルとエンダーはシヴァへと駆け出す。


「へぇ、僕に肉弾戦かい、、願神ゼリエルとあの方の力を継ぐものにしては、、、失望した」


悠々とエンダーの能力を観察していたシヴァは圧倒的な身体能力差のある自分に向かってくる二人に呆れ返る。

が、直ぐにその考えを改めることになる。駆け出した二人はシヴァの大きく想定外の速度で距離を詰めてきたのだ。更に驚くのは警戒していたゼリエルよりも鎧を纏ったエンダーの速度が自身の身体能力にすら近付く速さだった。


駆け出すエンダーはシヴァの射程ギリギリで足でブレーキをかけ足を滑らす過程で腰を落とし重い一発の体制を作る。

しかしシヴァの動揺は殆ど無く、エンダーの中段の一発を軽く払う、しかしシヴァを更に驚かすのは想像の数倍重い一発だったこと、払いのけた腕に多少の痛みを伴う感覚にシヴァの対応は瞬時に変わり、エンダーの二発目よりも早くシヴァからエンダーの首を目掛け攻撃を決める。

するとエンダーは先程とは違い、その速度に反応し腕を曲げ右腕全体でシヴァの大きな拳を受け止める。

凄まじい音と衝撃に僅かにエンダーの足が地面から離れると即座にシヴァは自身の大きな体ゆえに地面に手をつき足払いの様な動作でエンダーを胴体を狙い追い討ちをかける。

すると地面から突如隆起した腕のような創造物に防がれる。


「いい連携だ、だが脆い」


ゼリエルの作り出した遮蔽物を難なく破壊し、空振った蹴りの反動で流れるような動作で元の体制に戻ると今度はゼリエルの元に距離を詰め、ゼリエルの頭上から拳を振り下ろす。

しかしシヴァは途中で瞬時に上体を反らすと背後から突如迫る数本の氷の槍を三本の腕で叩き壊す。


「なるほどね、正面から狙うより間近で戦う君が好きなタイミングで好きな場所に氷の槍を撃てるようにしてるわけか」


それは後方でエンダーの闇に向けてイロナシの撃っている氷の槍が闇を通してエンダーの作り出した出口から大量に打ち出されている。


「残念だけどその能力がなんなのか全く分からないな、闇で鎧を作ったかと思えばこの僕と戦える程まで身体が強化されている」


「悪いが時間がない」


鎧で隠れた顔から素っ気ない言葉を返すと、再びシヴァに詰め寄る。

シヴァは四本の腕を使い、決して追い込まれた様子もなくエンダーとゼリエルの猛攻を防ぎ続ける。

何かしらの能力で身体強化を施したエンダーとゼリエルの攻撃にもシヴァが防戦に徹するとまるで相手になっていなく見える。

正面からの攻防の最中突如エンダーは地面に闇を当てるとシヴァの背後から地面で形造られた槍が突出する、振り向き様に槍をうち壊すと視界に飛びかかるゼリエルが映る。


ゼリエルの動きに合わせて巨大な手甲が迫る。

シヴァは四本の腕で正面から受け止めるが想定外の威力だったのか一瞬怯む。

すかさずエンダーは後ろ膝に一撃を見舞うとシヴァが小さな呻きと共に片膝をつく。


[焔落蛍]


一気に畳み掛けようとするとシヴァを中心に地面が膨れ上がり大爆発を起こす。


「ゼリエルっ!」


寸前でエンダーはゼリエルを闇で包み爆発の威力を軽減すると同時に自分の正面に地面から壁を作り出し自身を囲んだ。

あまりの爆発に五感のいくつかが麻痺しやがて白んだ目が元に戻る頃、

未だ無傷のシヴァが立っていた。


「この最高神シヴァに殺意を持ち挑んでくるというだけでも異常だ、だがこれ以上にお前達は何を考えている?」


「言ってなかったか?、お前らへの復讐以外俺にはない」


「復讐?呆れるな、それは君たち人間の大好きな後退だろ、怨恨を活力に動くたった一つの生き物である君たちらしい、道半ば得るものが有ったとしても最後には全てを失うのが人間だ」


「それを防止するためにお前ら神の選んだ方法が前進する権利を奪い全てを平らにすることか?その場での停滞は最も無駄だ」


「無駄だと言うが、なら後退は恥ずべき愚かな行為だと思わないのか?それに人間の停滞や後退は他の種を脅かす、悪戯に怨恨から相手に火薬を放り込み命を削り減らしているだろう」


「人に後退は存在しない、その悪戯の時でさえも人の生は終わりへと秒読みを続ける。故に悠久の時を生きるお前達神以外に停滞も後退も存在しない。常に人は前に進み続けている。それが後ろを向いて進むか前を向くかの違いだ。向いた所が前になる」


(とはいえ、此処でコイツを退けなければ前進も何もないな、つっても龍殺騎士の状態であと5分あるか、、いやそもそも現状でゼリエルと二人ががりで足元って感じだしな、身体能力ならまだアラに届かないかな?)


「ゼリエル、イロナシ、無茶してでも時間稼いでくれ3分でいい」


「いやぁ~3分って言われてもね、君とゼリエルを見てるだけで震えそうだよ、ただ勝てる確信があるならやるしかないよね、、」


軽口とは裏腹にひきつり気味の笑顔で頭に手をやる、


「エンダー、私もそれしかないと思っていたところだ、この願神、願われたとあらば断れん、、ただ、加減を考えろよ」


声には出さずともゼリエルの警告ともとれる一言に目を会わせるとその場での目を閉じ胸の前に手を構えると夥しい勢いで闇が凝縮されていく


「ゼリエル、エンダーが何かしようとしてるのは分かるけどそれは現状の打開にはなりえるのかい?」


「ならないと言ったら手を抜くのか?」

ニヤニヤと笑うゼリエル


「まぁ、約束はできんが私はあれ以外打破できるものはないと思うがな」


「話はまとまったのかな、黒の子をこのシヴァから守りきれば君たちが勝つのかい?それも気になるけど僕も実はあまり余裕がなくてね、させてあげられないかな」


経緯を眺めていたシヴァがその巨体から二人を見下ろすと二人は本能的に身構える


[水操・氷操遊漂(アクアストルン)]


イロナシの回りにフワフワと氷と水の塊が漂う


刹那、イロナシの視界からシヴァが消えたと理解すると視覚で確認するよりも早く自身の右に高熱を感じる。


「まず一人」


イロナシが認識するよりも遥かに早いシヴァの蹴りが放たれる。

微かにゼリエルが視界に写すとそこにはイロナシの回りに漂っていた水、氷が右側面に全て集まり、いくつもの水と氷の層が折り重なりイロナシとあと僅かの幅でシヴァの足を止めている。


「ははっ、やっぱり反応できないね、、」


多少驚いた表情のシヴァに放つと


「そのまま止まってろ!」


イロナシが手を向けると瞬時に水がシヴァの体にまとわりついていき端から凍結していく


「大地に願う!飲み込め!」


直ぐにイロナシに合わせてゼリエルが手甲を地面に突き立てるとシヴァの体の支えとなっている片足が膝程まで地面に沈み混む


[烈火]


シヴァは凍った箇所を何の弊害もなく動かし表面の氷を砕くと炎を纏った右手を地面し突き刺し、衝撃を発生させると、地面を吹き飛ばしイロナシとゼリエルを押し退けクレーターのような後を残す。


凄まじい爆風と衝撃に飛ばさせるも、ゼリエルは受け身をとり間髪入れずシヴァの元に駆ける。

その間イロナシは空に舞い上がると上空で全身を金属に変質させ急降下を始める。


ゼリエルはシヴァの正面に立ち塞がると左右から再び手甲を生み出しシヴァを押し潰す様に動かす。


「無駄だってば」


シヴァは両腕に力を込めると裏拳でゼリエルの手甲を同時に叩き壊す。

そして顔を僅かに反らしイロナシの急降下を避けると残りの二本の腕でイロナシの足を掴み不適な笑みを浮かべる。


「硬質化したのは失敗だな、このシヴァより強靭な物質があるとでも?」


次に起こる事を想定しイロナシは焦りを見せるかと思いきや、またイロナシ自信も笑みを浮かべる。


「僕はエンダーと違ってね、切り札は取っておくタイプじゃない」


[崩壊位置(グラビレイ)]


両手を前に構えシヴァへ向けるとその手の間から異音が響き、強い光と共にプラズマとなった高熱、爆風が超至近距離で直撃する。

するとイロナシを掴んでいた手が離される。ゼリエルはその光景に驚きを隠せずにいた、対してやってやったと言わんばかりの笑みで、ドスッと音をたて地面におりると金属化した体を解いていく。

直ぐにシヴァの方を向き直ると、土煙に隠れてはいるが確かにシヴァは倒れているのが足で確認できる。

だがゼリエルは直ぐに手甲を構え直し、離れた位置から土煙の中に倒れているであろう場所に容赦なく振り下ろす。


「容赦ないね、、」


やや引き気味で呟くとイロナシ、その言葉にゼリエルは怒りを感じさせる語気で返す


「確かに今のは完璧だったが100%致命傷にはなっていない!相手は破壊神シヴァだと忘れるなよ!」


振り下ろされた手甲は土煙の中で鈍い音をたて確かに当たった感触を残す。




「今のは驚いたよ、 流石に効いた、、」


晴れてきた煙の中からゼリエルの手甲を四本腕で受け止めるシヴァがいた。腕をつかい手甲を握り潰すとゆっくりと起き上がり体の土を払う。相も変わらずダメージの蓄積を見せないシヴァだったが左右の腕と額から乾いた血の後が見える。


「今は神器もないしたいした力は使えないし、手を抜き過ぎたことは認めるよ」


すると目付きの変わったシヴァが二人を視界に捉えると、再び瞬時に距離をつめてくる。

今度はイロナシの正面に現れると腕を目一杯引き付ける。

イロナシは先と同じく水と氷の層を自動で展開し対策をとる。


「、、その強度はもう把握してるよ」


シヴァの二本の腕は悠々と突き破ると力強くイロナシの両肩を掴む。


「ちょっ!、これは、、」


肩を掴まれ旋律するイロナシ、危機を感じ全身の金属化を進めると共にもがくがシヴァの力には何の意味もなさない。

するとゼリエルがシヴァの引き付けた腕を必死に押さえるも容易く弾かれてしまう。

そしてシヴァの強靭な腕はイロナシの胴体目掛けてつき出される。



[黒・黒国従世]



その直後、エンダーの声が周囲に響くとシヴァを中心に半径100メートル程の黒い結界が広がる。


「させるかっ!」


さらにシヴァの真っ直ぐつき出された腕をエンダーが下から全力で打ち上げ、イロナシから反らすと続けてイロナシの肩を掴む腕にパチパチと火花が散り始める。やがて大きくなり何の前触れもなく小規模の爆発を繰り返し、シヴァの腕を引き剥がす。


「アッツ、なんだ?」


「待たせたな、イロナシ、ゼリエル、よく時間を稼いでくれた」


「この黒い結界が切り札かい?  また吹き飛ばして見せようか」


また拳を握り締めるとエンダーに急接近し地面に足をめり込む程踏み出し全力で振り下ろす。

それを最低限の移動で避けるエンダー、するとシヴァが一瞬目を見開き数秒硬直するとエンダーに問う。


「この結界はなんだい?何が起きている?」


(爆発もしなければ風圧、温度上昇による発火すら起きない、この闇の能力か?)



「エンダーは何をしたんだい?」


シヴァ同様疑問を思うイロナシはゼリエルに問いかける。

ほんの一瞬イロナシをみて止まるゼリエル、話すべきかどうかを悩んでいるのだろうか、だがそれも一瞬であり口を開く


「エンダーの能力、それは❬万物に通ずる支配❭だ、だがそれはおよそ人間の考える支配とはまるで規模が違う、普段見せている様に地面に闇を当てればそれは大地が武器となり盾となる」


「なら今は何を対象に能力を?」


「、、、全てだ、いった通り規模が違う、あの空間一帯の酸素から空気の温度に大気中の水分にまで至る」


「、、、まさか、、本気で言っているのか?」


「どうした?ずっと知りたかった能力の事、いざ知ったら信じれんのか?」


「いや、シヴァを下すのならそれくらいの能力は必要だろうね」



事実としてシヴァの桁外れの力による地面への衝撃や風圧は完全に起こせなくなっていた。

現状シヴァの正面には以前として細身の鎧に身を包むエンダーが立つ、しかし先程の二人とは違い一撃一撃が重く、更には反応速度までもが人の領域を遥かに超え、シヴァと攻防を繰り広げている。

しかしエンダーの攻撃を防ぎ、こちらが攻勢に出ることなど造作もないはずのシヴァが互角の闘い、否、押されているとも見れる。

なぜ一回り以上の体躯に四本の腕をもってしても攻めきれないのかは一目瞭然だった。

エンダーは自分に大幅な身体強化を施し、それの一撃には十分シヴァにダメージを与える程に。

そこまで条件が揃えば未だ大きな力の差はあれど近接戦闘技術の卓越したエンダーならかなりの脅威となりうる。

そして一番の要因は前後左右から突如として地面より作られた武器がシヴァに向かい襲ってくこと、更にはエンダーの望むタイミングで大気の自然発火、発光から氷の刃までもが全方向からシヴァに襲いかかる。


シヴァがエンダーの両腕を弾き、がら空きの胴体に拳を打ち込もうとする。しかし、寸前で拳を平にかえると力強く突飛ばし距離を取らせるとその場で一回転し背後の氷刃を打壊し、直ぐにエンダーに向き直り、次に脱力し体制を一瞬にして下げると左右からの地面より作られた槍をかわしエンダーえと詰める。

しかしエンダーの足元が急にせりあがりほんの僅かに高所になると下からのシヴァを迎え撃つ様にかかと落としを狙う。

シヴァは一本の腕でエンダーの足を受け止めるともう一本の腕で支えとなる足首を押さえつける。

するとエンダーは左右に剣を持った石像を作り出すとその2体がシヴァに斬りかかる。


「次から次へと面倒だ」


エンダーの足を手放し、地面に手をつくと、その場で足を開き逆立ち状態で回転し石像を同時に蹴り壊すと、回転の勢いで体を起こすと地面に腕を突き刺し、力ずくで地面をひっくり返しエンダーにぶつけようとするが、それは本来ならありえない程の重力でエンダーどころか全く砂煙すら起きずに地面に落ちる。



「エンダーが押している、のか?」


ふと意識を取り戻したゼノンが頭を押さえながら二人に聞く


「ゼノン!目が覚めたか、 いや、あれは押してはいないな、攻守のバランスは五分だな、だがシヴァの一撃はこの闘いの決め手になるがエンダーの場合は一発では致命傷にはなり得ない、そして、、、これ以上長引かせるのは、、危険だ」


ゼリエルの整った顔には苦悩の表情が現れている。


「ゼノン、今一度時間稼ぎを頼めるか」


先ほど死に目を見たゼノンにゼリエルが苦々しく頼む。


「もちろんだ」


しかしゼノンの答えに迷いはなかった


「だがゼリエル、俺では命を張っても数秒しか稼げないだろう」


気を失う直前の記憶、人間の剣ではシヴァにかすり傷さえつけられないことは体で覚えていた。

背に担ぐ剣を握るもシヴァと対峙するのにはためらいがある。


「心配するなゼノン、今度は私が手を貸すのだからな」


      「何があればいいのだ?」


「ん?どうゆうことだ?」


「ゼノン、何があればいいのだ?」


ようやくゼノンはゼリエルが求める答えにたどり着く


「シヴァを切れる剣が欲しい」


「ならば切に願え さすれば神は掬うだろう」


パンッと手を成らすと地面から青く輝く剣を二本作り出しゼノンに手に取るように促す。


「信じるぞゼリエル」


渡された剣を構えて直ぐにシヴァへと駆け出す。その背を眺めたていたゼリエル

この広い世界にもゼノン程に覚悟を持った人間はいないだろうとは感心する。

恐怖を感じない訳ではない、あれは自分を軽んじている危険な考えだ。


以前とは違い、言葉だけだが相手に通用する武器を握りしめたゼノンは不気味な闇の壁に躊躇なく突入するとシヴァに真っ直ぐに向かっていく。

生物として危機感を覚える事のないシヴァは悠々と辺りを包む闇を観察していたのだが、迫る殺気に気付きゼノンの方を向く。


「まさか、目が覚めたのか!」


驚きと称賛の笑顔を向けるも、直ぐにその顔は呆れたものに変わる。


「はぁ、君の動きは人間にしては中々だけどさ、そのガラクタじゃあ僕は╲╲」


危機感の無さ、と言うよりゼノンに対しての興味の無さが仇となり、本来なら相手にもならない程の実力差があるにもかかわらず、ゼノンの間合いまで接近した瞬間の神速の一閃を見逃した。


シヴァの胸に剣先が触れた瞬間、体の細胞を裂く感覚にシヴァの脳は一瞬で覚醒した。

瞬時に体を半歩引き、今までに見せた事のないような鋭い目付きでゼノンを睨むと、ゼノン目掛けて強烈な蹴りを放つ。

しかし今回はゼノンが先手を取っている、シヴァの胸元から流れる血液を確認し、今一度武器の有効性を確信すると、シヴァの見る者を燃やすような視線も意に介さず、ゼノンは狂気的な目付きに変わる。

シヴァの高速の蹴りをかわし、二太刀目を切り込む、

対してのシヴァは自分を切ることのできる剣が未だに処理できず、剣の起動を腕で防ごうとするも、一歩遅れて判断の間違いに気付き、後ろに大きく下がる。

再びシヴァの体、今度は腕に傷を付けるも距離を取られゼノンも構えを整える。


「少し軽いな」


シヴァは改めて自分の胸に手を当て、手のひらに自信の負傷を感じる。

(驚いた、、あの剣はなんだ?)


「随分と気分が良さそうだなシヴァ?どうした?その体をつたうそれは汗か?」


ニヤニヤと笑うゼリエルがシヴァの背後に立つ。


「ゼリエル、、あんたが何かしたのか、、」


背後に立つゼリエルに問い詰める。


「如何にもあの剣は私が作り上げた物だ、この私が炉に火を入れればゼウスだろうと絶ちきる名刀ができるのだかな、、今の私にはあれが限界だな、

❲シヴァを切れる剣❳を望まれたのでな」


ゼリエルによって作られたシヴァを切れる剣でゼノンが再びシヴァに斬りかかる。


「もうそれはわかったよ」


先のように油断をつけばシヴァに傷をつけることができたが今は完全にシヴァがゼノンを警戒の対象としてみていた。

凄まじい速度で斬りかかるもシヴァにとっては本来けして対処できなき速度ではない。

一太刀をかわすとシヴァは握りしめた拳をゼノン目掛けて打ち込む。


「速いっ!」


寸前で剣を止め、拳をかわすゼノン

かわしたがその風圧で体制を崩す。

追い討ちをかけようとするシヴァをすかさずゼリエルが巨拳で受け止める。そして何度も呼び慣れた名を叫ぶ


「エンダー!」


(胸が熱い、全身が重い、もう時間がないか、、)


既に限界のエンダーだが、重くなり思うように動かなくなった体を能力で酷似し、常に限界の速度と力でシヴァを相手している。


(止まるな、緩めるな、常に全力で攻め続けろ、、)


エンダーは常に攻勢に立ち続けている。それは時間という制限だけが理由ではなく、一発が致命傷となりえるため常に防戦に徹っしさせるために能力を駆使し4本の腕を全て防御に使わせ続けている。

しかし、その闘いは終わりへと向かう。


「シヴァ、、最強の神と呼ばれるお前に、俺はまだどうやっても勝つことは出来ないだろう」



「今さらどうしたんだい?何をどうしても君たちにこの後はないよ」


「いや、俺はまだ終わるつもりはない、、いつかお前を殺しに行くぞ」


この状況からみて、シヴァには意図が理解できない勝利の確信とも取れる言葉にイロナシ、ゼノンも困惑する。


[黒・万死]


シヴァとエンダーを中心に作られていた闇の層が急速に縮まりシヴァ一人を包む程のサイズにまで縮小される。

それにシヴァはエンダーの限界がきたのだと理解しエンダーに言葉を投げる。


「限界かな、黒い子」


「ゼリエルっ!エンダーがっ」


「心配するなイロナシ、、だが面倒なことにはなったな」


ゼリエルの声が聞こえるとシヴァは疑問がうまれる。

(これもエンダーの能力のひとつなのか?てっきり消耗で空間の維持ができなくなったと思ったが)

冷静に状況を飲み込んでいくシヴァはふと闇の境界に触れると現状の異変に気づく、いや、気づかなかっただけで最初からそうだったのかも知れないが今になってシヴァは気づく。


「硬い、、闇で壁を作っていたのか?」


今や自分のみを包む闇から出ようと触れたときに闇は気体のようなものではなく、固体としての強度を持つことに気付き、怖そうと力を込めるがシヴァの力をもってしてもびくともしなかった。

シヴァが闇を壊そうと何度か殴り付けるなか、うっすらと内部が見えていた闇の結界は黒く染まり、中は見えなくなっていた。

すると今度は闇の結界からバチバチと異音が鳴り響く。


「なんてこったい、これは参ったね」


すると見えない内部からシヴァの半ば諦めたような声が聞こえる。

中では今闇の暴風に触れているシヴァの体は橋から徐々に砂と変わり崩れていった。


(これは詰みだな、あ~、、どうやってあいつらに弁明するかな、まさか人間、いや半分は神かな、それにゼリエルもいたし、この状態では勝てなかったかな)


「人間達、それにゼリエルと機械人形、僕の敗けだ、それに君達の行く末にほんの少し興味が湧いた、少し時間をあげよう」


「、、、黒い子、名前はエンダー、、って言うのか?」


「アルマ・エンダーだ」


「エンダー、お前の目的が未だ曖昧だ、復讐とは神々の消滅を意味するのか?」


「そんな事の大きなもんじゃない、ただ取り返したいものがある、そして神という概念、皆の意識を変える」


「支配されてるのが気にくわないか、、だがこれは管理だ、お前達人間の滅びを防いだ結果だ」


「人間は一度も滅んじゃいない、進む過程で迷うだけだ」


「自分達の種の死体の上に立つことを進歩と呼ぶのか?」


「そうだ、自分すらも足場に皆を上にあげる」


「詭弁だな、僕ら神は犠牲をなしに高みに立っている」


「犠牲なしに進歩はない、犠牲があるから躊躇い創意工夫する、故にそれは犠牲に気づかずに登る空虚な高みだ」


「、、、なら高みで待ってるするよ、、」


いい終えた途端にシヴァを包んでいた闇は弾け飛び、辺りの焼けた臭い、砂煙を吹き飛ばして静寂の夜へと変える。


「勝ったのか?あのシヴァに、、」


半信半疑の言葉をやや震えながら口にするイロナシ、しかし、次の瞬間にエンダーの体を包む鎧は闇となって霧散すると各所から血を流すエンダーが倒れ混む。すかさずゼリエルが体を支えると小さな声でゼリエルに言葉を伝える。


「、、悪い、ゼリエル、俺の最善はこれだった、、」


「バカを言え、謝るな、今お前を責めるほど私は心無しではない」


「ゼリエル、心臓機能維持に能力をまわす、アイツの所に急いでくれ、、」


掠れながらも話しきるとエンダーは意識を失った。


「みんな、事が終わって直ぐだが急いで天廻階へ向かうぞ、事情は話ながら移動する」



有無を言わさぬ勢いで話すと、いつの間にか幼い姿に戻っているゼリエルが歩き出す。続くイロナシは地面から取り出した石、土を宙に浮かせると綿のようなものに変化させアラとエンダーを乗せた。


人の作り上げた街並みは神との数時間の激闘に消え、更地となったこの一帯をゼリエル達は進んでいった。

その隅にて、誰の目にも触れずに一輪の蓮の花が落ちていた。






同時刻、遥遠くの場所、とある宮殿の一室、異常な程に金銀で彩られ、稲穂や壁中を這う青々とした植物達の飾る部屋

一際豪華に装飾された椅子に深く腰掛け眠る姿があった、その男は突如弾かれる様に目を覚ます。そしてその男の背面にある蓮の花が咲き誇る輪から、一輪の蓮の花が落ちる。


「さて、、どうしたもんかね、、」


するとその男は体を起こしその豪華な部屋を出ると、眩しく光指す廊下にでる、雲ひとつない空が見渡せる神秘的な廊下、壁はなく合間に柱が並び開放的かつ幻想的な空間

その廊下を先程の男が髪を掻き回しながら歩いていると、交差した廊下から細身の男に声をかけられる。


「シヴァか、呼ばれるより早くオリュンポスに向かうなんて珍しいな」


シヴァと呼ばれた男は笑いながら返事を返す。


「ポセイドン、例の人間の処理が早く終わったからね、それに毎回お前に引き摺られ、いざ会議場でも白い目で歓迎されんのも飽きた」


「いい心がけだ」


二人は並んで進み、大きな扉を開ける。するとそこには人間ではない異色な外見のもの達が円卓に座していた。


「シヴァ!?、オーディンよりも早く来る日がくるとわね」


「なら今回の遅刻者はロキだけか?」


「ヘラを会議を会議に出席させるのは諦めたのか?」


神々の言葉にシヴァは大きくため息をつくと自分の席に腰掛ける。


「はぁ、とっとと終わらせようぜゼウス、こんな会議」


神々の中でも一際幼い見た目の男にいい放つ、すると横に起立する黒衣の大男がシヴァに詰め寄る。


「口を慎めよシヴァ、、相手は最高神ゼウスだ、それにこの集まりはお前の息子の問題だぞ」


怒気を顕にした黒衣の男に対しシヴァはいつも通りのヘラヘラとした態度で返事を返す。


「ゼウスと僕に上下はないけど?、それにガネーシャの事を僕に問い詰めるのはどうなのさハーデス」


「お前の責任だろう!それにその後の処理といいながら町ひとつ消し去ったそうだな」


シヴァの態度に激昂したハーデスはシヴァの首を掴みそのまま壁に叩きつけ問い詰める。



「おい、、この手放せ、」


するとシヴァがハーデスを睨み付け静かに呟くと、部屋の大気がビリビリと震え、壁や天井にヒビが入る。

すると一瞬で先程まで談笑していた神々が立ち上がり臨戦態勢へと移る。


「なんだ?お前らもか?いいぜ、やる気があるなら全員こいよ」


煽るように神々に言い放つがゆっくりと先の少年が席を立つ。


「兄上、それは会議の場でとる手段か?」


「ゼウス、、だがシヴァはーー」


今度は少年が部屋に激震を起こす。


「シヴァを放せ、これは命令だ、第一、シヴァがこの場で敵対すればこの場の全員が無事ではすまないぞ、お前一人の死なら俺は止めはしない」


「シヴァ、お前も落ち着いてくれ、俺もお前と闘うのはゴメンだ」


「ポセイドンとなら楽しめそうだったけど、残念だね」


ハーデスは不満気にシヴァを放すと元の立ち位置へと戻る。


「全員座れ、オリュンポスを始める」








場所は戻り、エンダーを運ぶゼリエル達


「なるほどね、さっきのはシヴァの分身体ってことで、そしてエンダーは能力を使いすぎたから今は生命維持に能力を回している状態か」


「そう言うことだ、そして少なくとも30時間以内に上の階層に行きあらかじめ共にいた仲間に合流しエンダーの治療をする」


「了解、っていっても次の階層に行くのにまた神が見張ってるンじゃないの?」


「いや、シヴァが来たのは幸いだった、やつ程の神が動くのは異例だろう、それに町一つ消し去ればなおのこと神々の召集ものだろうからな、この階層の神は少なくとも呼ばれるだろう」


「なるほど、なら急ごう」


全員を鉄板のような物に乗せると急加速させ突き進み早くも新たな城壁に囲まれた町へとついた。遠目からでも町の中央に天まで届く程の大きな塔が見えていた。


「よし、まだ1時間程だな、すぐに上に行くぞ」


少し前に目を覚ましたアラは既に自己修復により完全に傷は消えていた。それに簡易的な治療を施したゼノンも皆と町の中央へと真っ直ぐに向かい驚くほど簡単に上の階層へと向かった。

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