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黒く世界  作者: Hirororo
6/28

全てを夢に押し込んで

「エンダーの方はもう終わるかな?」


荒れ果てた中庭に座る四人は会話を始めていた。


「いや、それなりに時間はかかると思うぞ」


アラの問いにゼリエルか返す。以外にもエンダーの強さを誰よりも知っている筈のゼリエルがそう言ったことに三人は少し驚いていた。


「あの仮面のやつがそんなに強いと思えなかったけど何でだい?」


イロナシは素直な疑問をぶつける、それもそのはず、共に旅をしているなかでエンダーの強さを何度か目に見せられている。そのエンダーが瞬間的に移動する程度の人間に負けるとは到底思えないのだ。


「いやな、単純に力で倒すなら何の問題もないがエンダーがそうすると思うか?」


その言葉にこの場にいる三人はそれぞれ記憶をたどると確かにエンダーならそんな手段を選ぶことはないと納得させられた。

敵であるゼノン、襲いかかってきたアラ、そのどちらも力での解決だけでなく話し合うことを目的とて相手していた。ならば今回のような狂人であろうと話し合いをするのだろうとゼリエルは言っているのだ。


「ただ今回はあまり時間をかけるのは好ましくないのだがな、、」


何か不安を感じさせるようにゼリエルは呟く、


「どうゆうことだ?力での解決なら問題ないんだろう?」


「ん~、相手が悪い、というかあの仮面が殺した神が悪い」


「ガネーシャがか?」


「まあ知らない方がいいだろう、それにもしそのときがくればな、、」


不安を残したままこれ以上は教えないとでも言うような口調で言い終わる。




(さてどうするかね、、)

アルカースの攻略法が見いだせずひたすらナイフを避け、受け止めているエンダー、

そして思考を巡らせている今もナイフが迫る。


「またかっ!」


先程からアルカースの投擲方法が大きく変わった、最初に5本のナイフを扇状に投げる。そしてその後投げたナイフのどれかに瞬間移動しそこからナイフを再び投げる。それを数回繰り返している。5本のナイフ全てを視界に捉え続けるのは人間の構造上不可能、そしてアルカースはエンダーの死角に位置するナイフから攻撃を与える。にもかかわらずエンダーは未だに傷を負っていない。それはエンダーの異常なまでの胴体視力と反射神経により常に捉えるナイフを切り替えアルカースがどこに移動したかをいち早く捉え、そこからナイフをかわしていたからだった。

しかしそれでも常に意識を張り巡らせ、動き続けているエンダーに比べてアルカースは瞬間移動を繰り返しているため能力による消耗があるのかは分からないがほとんど肉体的には動いていない。つまるところエンダーの体力に限界が訪れれば勝負がついてしまうということだ。


(ヤバいかもしれねぇ、ていうかアイツのナイフは何処から出てきてる?)


永遠とナイフを投げ続けるアルカース、そのナイフの出所を確認しようと動きながら手元を凝視するもナイフをコートの深い袖から取り出している様にしか見えない。


(となるとナイフ自体も何処からか手元に瞬間移動させてンのかな?)


とまたアルカースの能力について思考していると不意に重大なことに気づく。


(!?、まてまて、手元にナイフを瞬間移動させてるとしたらまるで能力が違うぞ!俺の見解だったら自分と物の場所を入れ換える、だが物を自分の元に移動させるとしたら、)


「気づいたみてぇだな」


突然近距離からアルカースの声が聞こえ思考を止める。そしてエンダーは初めて戦慄する。

どこまで思考に没頭していても決して攻撃を受けない様に立ち回っていたエンダー、しかし今アルカースはピッタリと背後にいるのが分かる。

だがそれでもエンダーの常人離れした反応速度で瞬時に後ろを向く。

そしてアルカースの姿を確認すると同時に手のひらに熱を感じる。まるで火をつけられたような痛みと共に時折硬く冷たい刃物を手に感じる。


「俺の勝ちみたいだな」


クスクスとアルカースは笑いながらエンダーに言い放つ。が、直ぐに手元に違和感を感じて笑いを止め手元を見る。するとアルカースの手元はナイフを貫通し血の溢れ出るエンダーの左手にナイフごとがっしりと捕まれている。


「なっ、てめえナイフを防いだのか!?」


完全に背後に回ってから振り替えるエンダーを確認して腹部に突き刺したと思っていたナイフ、それは寸前でエンダーの手に防がれていた。


「お前の能力がようやく分かった、今分からないのはこの状況だと俺も一緒に移動すんのかってことだな」


大量の流血をしながらエンダーは勝ち誇ったように言い切る。答えを分かった上で聞いているように聞こえる質問、その質問はアルカースにとっては図星だった。

アルカースは手を振りほどこうと片手にナイフを握る、しかしエンダーはそれよりも早く片腕を弓を引くように目一杯引き、アルカースの顔面に拳を打ち込んだ。

バキッとアルカースの仮面を砕く音がし、腕を捕まれたままアルカースは大きくよろめく。


「ハァハァ、おい、どうした?もう終わりか、、」


仮面が砕け散り素顔が見えるアルカース、そしてようやく仮面の理由がエンダーには分かる。かなり前にできたものだろう火傷の後が大きく残っている。額から血を滴し、息を切らしながらも挑発する。


「終わらせる気はない、、お前の事を理解した、それにお前には街を守る力がある」


「あぁ?俺に街を守れってか?だったら残念だが俺の町への支配は変わらねぇぞ」


「だから今説得している、それに小さい頃から神を憎んでるってことに俺は異常を感じてない」


(神を憎む子供ね、、コイツと俺の違いは回りの環境か、、)


「狂人を説得ってのは中々苦労しそうだな」

息を整えたアルカースは苛立ちを態度に出しながら言葉を返す。


「自分でもそう思う、ただお前と俺は同じような物だ、だからお前にこの町を頼みたい」


「断る、もういい死ね」

とアルカースは我慢の限界をきたしナイフを構えエンダーの喉に向け突き立てる。


ハァ、小さくため息を漏らす。


「じゃあ一回廻ってこい!」


とエンダーが叫ぶと右手のひらに闇を纏う。

ナイフの持ち手を肘で弾き勢いよくアルカースの頭を掴み後ろの壁に叩きつける。


[黒・夢世]





暖かい、もともと深く眠れる体質ではないが目に掛かる日の光が脳をゆっくりと起こす。


「起きろアルカース」


懐かしさ、あまりにも懐かしい声で名前を呼ばれる。しかし自分を起こすその声に優しさを感じることはない。むしろ積み重ねられた恨み、起きないことえの焦り。

そして自身の心の中には怒り


そして奇妙なことに気づく、 自分を見ている。

今目の前にいるのは間違いなく幼い自分だ。


  ベオラ・アルカース15歳 支配神ガネーシャ 富の街


「早く起きろ!ガネーシャ様が通りに来るぞ」


子供相手に苛立ち、急ぎ起こしている理由はこれだ。毎月一度、街の住人の確認をする。全ての人間が職に就いているか、そして納める金額を納めているか、その確認をしている。しかしこの行為にガネーシャは悪意などなく、むしろ住人の為といっても過言ではない。生活が困難になるような額ではなく一定の料金を納めさせている。そしてその金銭は大半はガネーシャの物になるが多少は人間の暮らしに当てられている。人間歴史で言う税金、雑ではあるもののそれに似たシステムをしていた。

一見不満を抱くことはなさげだがそれでも神の支配に変わりはなく人間の生活には多くの規則の下で営まれている。

そんな世界の中、不満を持ちそれを声にするのはアルカースだった。


ようやく体を起こすアルカース、まだぼやけている視界、突如頭を大きな手で鷲掴みにされた。


「いいか?お前は絶対に喋るなよ!黙ってたってろ!」


息子に対しての態度とは到底思えない威圧感、有無を言わせぬ気迫でアルカースを睨む父親、その姿をアルカースは瞳に写していた。

そして手を引かれて家を出ると既にほとんどの住人は家の前に並んでいた。一人一人がガネーシャの使いにチェックさせている。やがてゆったりとした歩みでガネーシャと一団がアルカースの家に近づいてくる。

体中に宝飾品をつけ、人間の体に象の頭部という人間から見れば極めて異形な姿。


「バケモンが!また殺してやろうか」


幼い自分と共に写るガネーシャの甦る記憶に苛立つ、思わず誰に聞こえる訳でもないが悪態をついてしまう。すると


「バケモンが!お前なんか俺が追い出してやる!」


幼さの残る声が通りに響く、静まり返る街、対して気に止めていないガネーシャと逆に激昂する使いとアルカースの両親。


(ハハッ、こんなもん見せられてもなぁ、、忘れるわけねぇだろ)


自分の体を見るたびに思い出す日々、何度も繰り返した憎い日々、ガネーシャに罵声を浴びせ、その場で使いに袋叩きにされる。そして家で目が覚めると両親が涙を流しながら俺を袋叩きにする。口元を縛られ押さえつけられると殴られる、時に刃物で切りつけられた、憎い日々だ。


(産まれてこなければよかった、しかし殺せば罪になる。なんて考えてんのかねお前らは)


幼い頃の自分が両親に痛めつけられるのを見ながら感傷に浸る。

しかし突然景色が変わる。まるで映画を目的のシーンまで飛ばすように一瞬で見ているものが変化した。

それは街の裏、主神ガネーシャと数人の使いに両親二人が跪いている所だった。そして次には頭を掴まれ無理やりたたされた二人は警棒のようなもので一斉に叩かれ出した。


「あん?なんだこりゃ、、」


散々自分をいたぶっていた両親がガネーシャに痛めつけられる。それは幼いアルカースが消して見ることはなかった一面、今こうしてエンダーの能力で初めて知る場面だった。


痛めつけられるなか両親は懇願するようにガネーシャに向かって吐血と共に叫んでいる。


「申し訳ございません!罰は私共が受けます。罰は私共があの子に与えます!ですからどうかあの子の命だけは、、」


長時間の間叩き続けるとガネーシャ達は玩具に飽きた子供のように両親をその場に投げ捨て去っていった。


「なんだよ、、こんなもん見せて何がしてぇんだ、、」


あまりの光景にアルカースは困惑していた、今まで両親に対しては何も考える事もなくただ憎い、そう思い続けていた。しかし目の前で今、必死になり自分を庇う両親がいた。

そしてまた景色は変わる。

外の明かりのみが部屋を照らす暗がり、壁に倒れる血に濡れた2人の大人の死体、そしてそれを見下ろすように立っている刃物を握り締めた少年。

少年は震える手で刃物を地面に落とし、血に濡れた手を顔に近づけるとひきつる顔を無理やり手で口角をあげ強引に表情を作った。

少年は夜に一人、震える声で笑う


「懐かしいねぇ、何で泣いてるのか忘れちまったけどな」


少年の方を見下ろすアルカース、すると少年の家の扉を叩く音がする。騒ぎを聞き付けて近隣の住人が心配しにきたのだろうか、アルカースは自分の顔を鏡で見る。歪んだ顔には目元を赤くし涙が溢れ出ている。

そして少年は泣き顔を隠す為、近くにあったいつ買ってもらったのかも覚えていない、祭り屋台のお面を被ると窓から部屋を抜け出した。



男はスーツを着て歩いている。ジャケットの裏には数本のナイフが仕込んである。能力に自覚を得てから数年が経った。


(考えろ、この国を変えるには先ずはアイツ【ガネーシャ】を殺す)


この国の仕組みは簡単だ。

貧民がいて富裕がいる。シンプルに納めるものを多く納めているものがガネーシャに近く力を持っている。

現在俺はどっちつかずだがガネーシャに近づくどころか城に入ることすら叶わないだろう。

だがアルカースも当然分かっているが短期間に富裕と呼ばれる程に財を成しガネーシャに近づく事は不可能である、特にこの街は頂点のガネーシャが得を独占するように、富裕も同じく優遇されている。

経済においてこの街は最悪の循環をしている。


「ともかく金か、、、」


服の上から、誰に向けるでもなく無意識にナイフをなぞる。

ガシャンと響く不快な音がアルカースを引き戻す。

ガネーシャの私兵だ、取り立てに来たが額が不足してたんだろう。


「コイツの使い方もなぁ」


自身の能力である、マークした物と入れ替われる力もあまり使い道が見当たらない。

徐ろにナイフを投げ、数歩分先に体が瞬間移動する。


(窓やなんかから忍び込むぐらいか、、、)


一瞬、考えが浮かぶ。ハッとして目を見開き顔を笑みに歪める。


「そうか、入れ替わりゃいいんだ」


ゾットする様な鋭い目と悪意に歪んだ顔は私兵に向く。


「やぁ、はじめましてこんにちは」


「何だお前?」


脈絡もなく接近してきた不審者に私兵二人は警戒する。


「いやぁ、なに、ちょいと入れ替わってほしくてね!」


喋りながら二人に更に近づき、一突き、ナイフで一人の首元を深く穿つ。


一人は恐怖の表情を浮かべて次第に力が抜けていく。もう一人は驚き、と同じく恐怖をいだきながら腰の剣に手をかける。


「ハハッ!」


高らかに笑みを浮かべるとアルカースは指に挟んた4本のナイフを放り投げる。

刃物が飛んでくれば咄嗟にとる行動は目を瞑る。体を縮める。

だが実際はアルカースが投げる刃物に言う程の勢いはなく、眼球にでも当たらなければ外傷すら怪しい。

アルカースは当てるつもりで投げていないのだから。

乱雑に放りった内の一本が大きく私兵を通り越す。その瞬間、アルカースの体はそのナイフと入れ替わり、背後から首筋を切り裂いた。




私兵の服で自分を彩り、薄汚れた路地裏から堂々と、愉しげに歩いて出てくるアルカース。


「俺はちゃんと狂っているかい?」


心を満たす開放感が罪悪とアルカース自身を追いやっていく。


【お前はいつか大きな間違いを起こす】


狂っている、そう指をさす群衆の前で踊る道化になりすましていた。

そんな中でその一言だけがハッキリと耳に聞こえる。


「大きな間違いなんて」

騒ぐ暴徒達の中心で誰にも聞こえない声で呟いた。


「もう起こしている」


アルカースの心に蘇り映るのはいったいいつのことなのか?




:::::::::::::::::::::::::




「気分はどうだ?」


頭がボーとする。聞きなれた声が上から聞こえる。


「悪くなかった」


「ならよかった」


座り込んでいたアルカースに目線を合わせる様にしゃがみこむエンダー、真っ直ぐな視線でアルカースに問いかける。


「他にも見たいなら見せられるが、必要ないな」


「お前、、いや、俺の敗けだな」


エンダーを睨みつけ何かを言おうとして途中、諦めた様に口を閉ざす。アルカースの仮面のない表情はどこか満足感をかんじさせるような気がした。


「よくできた造り話だな」


「それが必要だったんじゃないのか?」


「なんだ、気づいてたのか?」


以外そうな顔でエンダーを見るアルカース。


「気づいてるさ、お前が頭の可笑しな人間を演じてるのも、引き返せない所まで来てるのもな」


「完敗だ」


未だ意識を朦朧とさせるアルカースを背に向け、足早に部屋を出ていくエンダー


アルカースは狂ってなんかいない。ただ一時の感情で周りを手当り次第壊していた、そして壊した事で見えたものも多かった。

両親の想い、街に生きる人々の想いを知ったアルカースはもう後戻りできない所まで来ていた。ならせめてガネーシャとは違った街にしようと思っていたが、神と両親を殺した男に平和な街を収める事はできるはず無く、力による支配のため狂人を作ることにした。

改革とは現状を塗り潰し、僅かな幸せすらも壊さなければ成せないのだ。




やがてエンダーは中庭にたどり着き事の終わりを知らせる。

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