記憶は形で重くなる
橋の上に立つエンダーを発見し一人の神罰与が前に出る。
「そこのお前!何をしている!?直ぐに後ろに引き返せ、さもなくば捕らえるぞ!」
一言目から敵意を剥き出しにし、高圧的な態度で言いは放つ、
その言葉にエンダーはニヤリと笑みを見せる。
予想だにしていなかった反応に神罰与達は僅かにどよめく
「俺はマアトに用事がある、お前らに用はない、ただ、向かってくるなら無視はしないな」
エンダーの口から神の名前が出たことにさらに神罰与達はざわつき、最後の挑発を聞くと一斉に武器を構え出した。最下層の時とは違い、槍、剣、斧と、鞭とは違い明らかに殺傷的な武器を構えている。
しかしエンダーは動じることなく、歩いて距離を詰めと、二人の槍と剣を持つ神罰与が前に飛び出した。同時に槍を突きだし、剣を振りかぶる。
エンダーは片方の槍が自分に届く前に柄の部分を掴み、力ずくで傾けると、もう片方の振り下ろされた剣にぶつける。
神罰与二人は何が起きたのか分からず、固まっているとエンダーは槍を掴んだまま、使い手を蹴り飛ばし、槍を奪い取ると未だ剣を構え直せていないもう一人を槍の中間を振り当て弾き飛ばす。
数秒で二人の神罰与を倒すエンダーに残りの神罰与が一層警戒を強め今度は一斉に向かってくる。
あっという間に全方位を囲まれ、攻撃がエンダーに迫る、
頭を狙う突きを屈んでかわし、相手の槍が届かないよう、限界まで槍を長く持つとそのまま大きく振り回し、回りの腹部を切り裂く、流れるように前後に突きを入れ、相手の剣を槍を横に構えて止め、弾くと頭上で槍を回し、その勢いで地面に叩きつける。
あまりの強さに神罰与達は全員下がり距離を取ると、弓を持つ者が二人の前に出る。
するとエンダーは槍に闇を纏わせ、2つの短槍を作り出すと、相手が弓を引き絞るより早く、弓兵二人に投げつけ仕留める。武器が失くなると足下で倒れる神罰与から剣を拾い二本構える。
エンダーに次々と倒されていく仲間を見て神罰与達は徐々に恐れを抱き始める、それを感じとる様にエンダーは自分から残りの神罰与達の中に向かって駆け出す。
震える手で三人の神罰与が前に出るが、一人目の切り込みをかわし、二人目の攻撃を剣で防ぎ、一本の剣でほぼ同時に二人を切り裂くと、剣を逆手に持ち変え、跳ね上げるように三人目の首を跳ねる。そして二本の剣を大きく体を反らし振りかぶると、残された三人の神罰与の内二人に投げつけ倒す。最後に震え上がり動けなくなった最後の一人を瞬時に距離を詰め、首に手を回し素手で制圧した。
「思ったより時間を取られたな、これ以上は面倒だし騒ぎに集まってくる前に城に入るとするか」
およそ20人の神罰与を息も切らすことなく、僅か数分で全滅させたエンダーは目の前の固く閉ざされた城門を見ると、闇をぶつけて通れるようにくり貫いた。
門の向こうでは神罰与達が、既に武器を構え、閉めきった門の前に並んでいた。彼らはまさか門に穴を開けてくるなどとは思ってなかった為、どよめき混乱している。
「待ち構えてたのか、、悪いが通るぞ」
神罰与達が混乱し、誰一人武器を構えていない隙に、門に手を触れるとそこから一本の長い棍を作り出し、全力で投げつける。投げつけられた棍が敵に当たり上に跳ね上がると飛び上がり空中で手元に戻すと、落下の勢いで下にたたきつける、一人が直撃を受け、そのまま地面を叩き割ると近くの数人が衝撃で吹き飛ぶ、すると自分から中央に飛び込み、先のように全方位から囲まれるエンダー、
未だ状況が飲み込めず、構えていない神罰与達、
エンダーは正面二人を突きで倒すとそのまま横に棍を打ち付け、数人をなぎ倒す。そしてまた棍を投げるような動作をするが、今度は手を離れるギリギリで握り直し、先端を相手にぶつけると直ぐにまた引き戻し持ち直すと満足そうに呟く
「やっぱり使うなら長物が一番だな」
まさに一騎当千の如く、次々と神罰与を倒し止まることなく進んでいくエンダー、やがて大きな広間に行きつくと上部から声がする。
「神の城に乗り込むなど、何を考えている人間?」
声の方を見ると黒い翼を持った美しい女性がこちらを睨んでいる
「お前がマアトだな、俺の目的はお前を殺すことだ」
冷ややかに告げるエンダーにマアトは既に怒りの表情を見せている。
「人間ごときに名前を呼ばれ、挙げ句命を奪うとは、、よもやその命一つで償えるとは思っていないだろうな!」
怒りを露にしたマアトの言葉に臆せず堂々と言葉を返すエンダー
「当然、償う気もない!」
その言葉にさらに怒りをたぎらせる、そして自分ではなく、他の誰かに殺せと命令する。
「了解しました」
すると聞き覚えのある声が答え、見覚えのある立ち姿がエンダーの前に現れ、敵意を向ける。
「アルマ・エンダー、、」
悲しみを含んでいるのか、小さくゼノンが呟き、エンダーに剣を向ける。
「2日ぶりだな、ゼノン」
睨むゼノンにエンダーは何事もなく親しげに接する。
もともとゼノンは感情を表面に出さない方だと思っていたが、今のゼノンは感情を圧し殺しているのが分かる。
「エンダー、俺は今からお前を殺す、だからお前は俺を殺す気で抵抗しても構わない」
一度エンダーと共に戦っただけだがゼノンは心のどこかでエンダーに勝てるのか不安を抱えていた。しかしエンダーに放った殺すという言葉には偽りはない様子だった。
「ゼノン、俺はお前を殺したりはしない、だから全力で殺しに来い」
何を考えているのか分からない、だがゼノンもこの言葉が嘘でないことは感じ取っていた。
そしてゼノンは両の剣に手を添え、腰を落とすと、急に飛び出しエンダーとの距離を瞬時に詰め、お互い手が届く程の距離に接近するとゼノンは逆手に剣を握り、体を捻ると抜刀と同時に交差するように切りつけようとする、それをエンダーは上体を反らしその勢いで後ろに一回転し距離を取る。
ゼノンは初撃をかわさせるが動きを止めることなく更に攻める、攻撃をかわされ剣を逆手に持ち上に切り上げた手をその状態から、片手はそのまま突き立てるように切っ先をエンダーに向かわせる、エンダーが更に避けると、その間にもう一方の手を器用に指を動かし回すように剣を通常の持ち方に変えると、今度は真っ直ぐ力強く振り下ろす。
続け様に迫る攻撃に何故か表情が緩むエンダー
(思った以上に強い!間違いなく全力で殺しに来てるな、剣を瞬時に持ち変えることで、構え直す必要を失くし、一瞬も間を開けずに切り込める、天才だな)
ゼノンの止むことのない連撃を避け続けるエンダー、突如タイミングを見計らって前に出る。
するとゼノンはまさか前に詰めてくるとは思わず意表を突かれ、僅かに剣撃が緩む、その瞬時、エンダーに両の手首を掴まれ、足の内側から足払いをされ、バランスを崩すとそのまま前方に体を投げられる。
剣を構えた状態にもかかわらず、見事に上手投げをされ、エンダーの技量に驚いたが地面に背をつけることなく拳を地面に着き受け身をとったゼノン、今一度思い返しても、素手の相手に投げられた、ということが信じられずにいる。
投げ飛ばされるが受け身をとったゼノン、直ぐにエンダーに視線を会わせると、エンダーはいつの間にか剣を持っていた。
(確かエンダーは能力で武器を作れたな)
ふと森での共闘を思いだす。それ以上は今は考えずに飛び込むようにエンダーに斬りかかる、上斜めから切りつけると、またエンダーは、剣を斜めにして受け、刀身を這わす様にゼノンの剣を流し受け流される、立て続けに剣を戻すように今度は逆から横に切りつける。
エンダーは真横に振られる剣を受け流さず、剣を縦に構え受け止める。ところが今度はゼノンが剣圧を緩め、剣を振り切ると上に構え左右の剣を同時に力強く振り下ろした。
エンダーはゼノンが二本とも上に構えた時点で受け止めることを諦め、急ぎ剣を下に構えると勢いをつけ上に凪ぎ払う様に全力で振り、ゼノンの剣を弾く。
(、、、どう考えても筋力はゼノンの方が上だな、今みたいな力任せの攻撃はキツいな)
ゼノンは今の一撃を弾かれ、あまりの衝撃に剣が一本折れ、手に痺れを残し攻撃を止める。やがて再び剣を強く握るとエンダー目掛けて前に駆け出す、そして折れた一本をエンダーに投げつける、そしてすかさず腰から二本目を抜く。
エンダーは剣を投げつけられ、予想してなかった戦法に反応が遅れ、かわさずに剣の柄で防ぐ、そしてその間に目の前まで接近していたゼノンに身構えるが、ゼノンは直前で急に止まったかと思うと、剣を体の横に構えるとそのまま強く踏み込み、二本の剣の先端で鋭い突きを繰り出す。
(相手に殺す気がないからこそ次の動きに守りを考える必要がない、だから攻めに全力を注いでくるか)
避けることも受け流すことも出来ない状況、しかしエンダーはゼノンに笑いかけると、体のやや後ろに剣を突き刺し、剣の柄頭に手のひらを乗せるとそのまま脱力し後ろに倒れ込んだかと思うと、全身に力を込め地面を蹴り上げ柄頭に乗せた手で剣の上に逆立ちをし、勢いを殺すことなく更に後ろに宙返りをし大きく距離を取ると綺麗に着地をする。
またもや信じられない動きを見せられ、驚きのあまりエンダーを見て苦笑いを浮かべるゼノン
「まるで大道芸だな、、」
一切攻撃をせずに、自分の全力を受け続けるエンダーに力の差をゼノンは感じ取っていた。
目の前に突き刺さる剣がみるみる砂になり崩れていくと、エンダーは地面からまた違う形の剣を作り出しまるで友人と遊んでいるかの様な笑顔で構えていた。
広間の中、マアトの目の前では凄まじい剣のぶつかる音が響いている。依然としてゼノンは途轍もない速度でエンダーに剣撃を浴びせるが、剣を持ったエンダーにはまるで届かない。
しかしゼノンの攻法は少し変化していた。今まで程の連撃の速度はなくなり、重い一撃の割合を増やしていた。
だが、それでも様々な方法で防ぎ続けるエンダーとの戦いを見ていたマアトは怒りの対象であるエンダーを一刻も早く始末したい。その焦れったい思いから、翼を大きく広げる。
(辛抱ならん、早々に消えろ人間)
ゼノンは挟む様に左右から剣を横に振る、それをエンダーは剣で片方を受け止め、もう片方は内側から足でゼノンの手首を止める。ゼノンは受け止められた方を逆手に持ち替えエンダーの剣を抜けるとエンダーの腕を切り落とそうと下から切り上げる。あと僅かのところでエンダーもゼノンをまねたのか、剣を逆手に持ち替え上からゼノンの剣にぶつけ勢いを殺すと、両手で剣をおしさげる。そしてその手に体重を預け体を浮かすと、ホールドするよ様な動きで片足をゼノンの剣を持つ腕に平行に乗せた次の瞬間、勢いよく体を回し足に力を賭ける。
ゼノンは右腕に超重量を掛けられ、そのまま腕から崩れ、ここで初めて地面に倒れ混む。エンダーはゼノンが倒れる間際に離れたのか、先の位置に立っている。
「悪いな、ヤバそうだったんで攻撃させてもらった、怪我はしてないだろ」
と声をかけるエンダーにマアトが羽を飛ばす。
それに気づくと急ぎマアトの方を向き、剣を横にしギリギリ羽を受け止める。すると羽が剣に突き刺さる。それだけであの羽は受ければ人の命を奪うのが見てとれる、しかし驚いたのは次の出来事だった、羽を受け止めた剣を持つエンダーが一瞬顔をしかめ、苦し気な表情で剣を見ると、剣を何故か手放しその場に落とした。そして落とした物がとても剣とは思えない轟音を立て、床にひびをいれ落ちた。
流石のエンダーも予想して無かったのか、焦りが見える。
未だ膝をついたままその光景を見ていたゼノン
(何が起きた?あの剣にそれほどの重量があるとは思えない)
などと思考を巡らすゼノンに叱責の声を浴びせるマアト
「いつまでその男を私の前に立たせている!お前が殺りきれんなら私も力を添えてやる」
最後の言葉にはなにやら楽しげに聞こえる、二人でエンダーをなぶる気なのだろうか。
そして言われたゼノンはそのやり方に汚さを感じているのか、どこか表情曇
っている、
それを理解したエンダーはゼノンに声をかける。それが自分を追い込めることであっても理解した上で、
「ゼノン、気にするなよ、今まで通り全力で殺しに来い、マアトが手を出したところで俺はお前に負けねぇから」
ゼノンに笑顔を向けると、マアトに視線をやることなく構え直すエンダー、
そんなエンダーを見てゼノンは葛藤を抱く、
この世界で戦うことに才能を持って生まれたゼノン、彼は常に誰かの為に、戦ってきた。弱小な兵を守りながら気遣いながら、しかし昨日出会ったこの男は初めて出会った自分と同等かそれ以上の強さだった。初めて自分に合わせることのできる強さに出会った。初めて全力で自由に戦ったあの時、紛れもなく楽しかったのだ。おまけにこの世界に珍しい、力を持っているのに優しさも持ち合わせていた。どうかこの男と共に戦いたい。そんな願いを抱くが自分にはそれが不可能なのが分かっていた。
激しく剣をぶつけ合う最中、更には刺さった物を重くする羽がいくつも飛来する状況、エンダーは依然としてゼノンに対してに楽し気に言葉をかける。
「何でお前はあの神を守る?お前は別に好きで神に使えてる訳じゃないだろ」
既に何故神に仕えているのかはおおよそ分かっているが、ゼノンの口から本心を確認しておきたい思いで問いかける。
「仕事だ、お前の言う通り好きで仕えている訳じゃないが、神に死なれる訳にいかない、俺は神を守らない訳にはいかないからだ」
「弱みか?」
エンダーは思いきって核心に踏み込む
「、、、、、」
やや表情を曇らせ、その問いには答えないゼノン
その反応からエンダーの予想は当たっていたようで頭を悩ませる、
(まあ妹だとは思ってたけど、ここまでは聞かなくても分かるし、当たってても問題はないが、、、この先は予想が外れてくれると嬉しんだけどな、、)
ゼノンの猛攻とマアトの邪魔を捌きながら考えを巡らすエンダー、するとまたゼノンが上から二本の剣を振り下ろし強力な一撃を狙う。
剣の横間隔が広く、一回で受け流せないとエンダーは判断し下から迎え撃つ様に剣を振り上げる、その途中剣を振る軌道上でマアトの羽をあえて一本剣に受け勢いをつけた状況で剣に重量を付ける。そしてそのままゼノンの剣を弾き飛ばす。
「ゼノン、、お前の大切な物が奪われたのはいつだ?」
あえて触れすぎないように❬妹❭を濁し物に例えて訊く
「5年前だ」
答えを聞き、当たって欲しくない予想を肯定的な数字に更にエンダーは頭を悩ませる。
(5年か、、不味いな、とりあえずはイロナシとアラ達の情報待ちだな)
エンダーが神とゼノン二人を相手に時間を作っている一方、予定通り徴収未納の対象になり連行されるイロナシとアラ、薄汚れたマントに顔を隠す程の深いフードを被り大人しく罰与者に連れていかれる。城に連行されると聞いていたが大きく周り城の裏まで歩いてきた、城の影になっている薄暗いそこには厳重な扉が待っていた。
(デカっ、人間を閉じ込めるのにこんな厳重な扉は要らないだろうし、どっちかって言うと❬入られたくない❭って感じかな?)
早速異様な雰囲気を感じとるイロナシ、その後も感じた通りの雰囲気を裏切らず、意外なことに扉の向こうには真っ暗な階段が続いていた。冷たい石材で作られたその場所にイロナシは自分の入っていた監獄を思い出す。罰与者の持つカンテラのみを頼りに付いていくと目の前のに広がる光景に二人は衝撃を受ける。
地下には途轍もなく大きな空間が広がっていた、そしてそこにはいくつかの大きな装置があり、それを連れてこられた人々だろうか?、大勢のグループが人力で動かしていた。
(発電か!大勢の人々を使って地上の人々が使う電気を作っていたのか、ただ、それにしては過度な労働をするには皆痩せている、死ぬ一歩手前の限界の人も居るな)
[空気振動、音伝]イロナシが能力を使い、アラに話さずに意思の伝達をする。
「聞こえる?今空気を振動させて君とボクにしか聞こえない様に連絡してる、君の方からは意思を伝えられないから一方的に話すけど暫く指示に従って」
意思を伝えるとイロナシはアラのフードを被った後ろ姿を見つめる。すると意思が伝わったアラは振り替えることなく無言で頷く様な素振りを見せる。
「オッケー、もう少しこの罰与者に従おう、エンダーへの連絡はボクがしてるからこの人達を助ける為に暴れるのは最後にしよう」
まるで人間が電池、弱った人々が巨大な装置を動かすのを見てそんなことを思う。命令されるまま着いていくと鉄格子で作られた部屋が並ぶ通りに案内され、ここで夜は寝る様に指示される。
(完全に独房だね、、しかも二人一部屋ね)
丁度食事の時間になり、用意された食事に唖然とする。
パンと水、この食事であの労働、いったいどれだけの時間生きていられるだろうか。
(電池どころか、これはもう使い捨て電池だな)
すると労働をしてる人々の所で騒ぎがおきている。そちらに目をやると倒れる一人の労働者を罰与者が攻め立てている。この劣悪な環境で限界に至った労働者が倒れたのを罰与者が怒鳴り立て、作業に戻らせようとしているのだろう。
(どう見てもあの人はもうダメだろ、立つことも出来てないじゃないか)
遠目から痩せ細り弱った男を見ていると、その騒ぎの中に一人、フードを被った女性がズカズカと押し入っていく、
(!?、アラ!?)
さっきまで真横にいたはずのアラがいつの間にか騒ぎの中心にいる。
回りの労働者も罰与者も驚きの表情でアラを見つめている。回りの視線を一切気にすることなくアラは倒れる男に声をかける。
「私が変わろう、お前は休んでいろ」
といい放つと腕を捲り、皆が驚くなか装置に手をかける、
勝手なことをしているアラを怒鳴ろうと罰与者が口を開くが、アラを見ると思わず声が出せなかった。
本来百人単位で動かす機械、しかし今の騒ぎにほとんどの労働者が持ち場を離れ集まっていた。
アラは装置に手をかけると全力で力を込める、アラの足は石造りの地面にひびをいれ砕きながら沈み混んでいる、そしてメキメキと音を立てゆっくりと機械が動き出した。
「もう目立たないのは無理だね」
罰与者達の警戒がアラに集中しているのを見て、イロナシは諦めた様な口調でぼやく。真横でアラに釘付けになっている神罰与を素早く攻撃し気絶させるイロナシ。
「アラ!もういいや、戦おう!」
「了解!」
返事とほぼ同時に装置から飛び退くと近くの罰与者を裏拳で弾き飛ばし、続けざまに回し蹴りを浴びせ早速二人片付けるアラ。その光景に今まで以上に驚きパニックになる人々、それに素早くイロナシが大声で指示を出す。
「落ち着いて!今日ここの神はいなくなる、だから皆で街に帰るんだ!待っている人がいるならそこへ、帰る場所があるならそこへ、、さあ皆で外に向かって!」
イロナシに続いてアラも声をあげる。
「追っ手は私達に任せろ!外にも仲間が待っている、だから安心して外に迎え!」
(外に出ればゼリエルがあとはどうにかすると言っていたが、、私達が追っ手を外に逃がさないのが絶対条件だな)
外のゼリエルのことを考えながら次々に罰与者を蹴散らしていくアラ、相手を蹴り飛ばし数人にぶつけると接近してきた罰与者の顔を掴み、側の壁が割れる程の勢いで叩き付ける。
[水性操作][流体操作]「ニードルシェイプ」
イロナシの周りに突如水が発生しフワフワと浮き漂い始めると水が渦を巻き刺の様な形になると罰与者目掛けて飛んでいき数人の胸を貫く。周りの水を全て撃ちきると横から一人の罰与者が斬りかかる。
「エンダーに連絡するから、ちょっと静かにしてて」
振り向くことなく指を向けると、罰与者の顔を水が被い息を止める、バシャバシャと暴れるが水を掴むことはできず直ぐに酸欠で倒れる。
救出を始めたことをエンダーに連絡しようと能力を使うイロナシ、しかし何故かエンダーに連絡が取れず顔をしかめる。
(あれ?エンダーに声が届かない、と言うか何処にいるんだ?)
エンダーへの連絡を早々に諦めたイロナシは外で待っているゼリエルに連絡をする。
「ゼリエル、エンダーに連絡が取れないんだけどどうしよう?」
今度はしっかりとゼリエルに届くと、城の外と、城の地下でやり取りを始める。
思案の表情のゼリエル、心当たりのありそうな雰囲気
「そうか、なら私がエンダーに連絡しよう、安心してそっちを片付けてくれ」
「りょうかい、あのさ、、質問しといてあれなんだけど、何で会話できんの?」
「ああ、私はお前の空気振動とは違って直接脳に言葉を届けているからな、一般的に言うテレキネシスだ」
(一般的じゃないでしょ)
当たり前の様に話すゼリエルに呆れながらも制圧を続けるイロナシ、依然アラは派手に罰与者を吹き飛ばしている。
既に二人はこの場所にいた罰与者を半分は片付けている。すると奥の暗がりから一つの赤い光が見える、そして一定の間隔で響く機械音と共に徐々に近付いて来ている。
「まったく、何処にいても私は機械の相手か、、」
呆れ口調でぼやくと大きな槍を出現させ重量を確かめる様に振り回すと脇に抱える様に構える。
上からアラを見て遅れて機械が迫ってることに気付くイロナシ、
「ん?、あれなんだ?」
何を思ったのか、珍しく焦りを見せ、アラを止めにかかる。
槍を構え一息つくと、いつも通り正面から突撃しようと構える。そして強く地面を踏みしめ今まさに飛び出す間際に、腕を掴まれビクッと体を強ばらせ、バランスを崩し顔から地面に倒れる。
「あっ、ごめん!」
咄嗟に手を掴んで止めたイロナシは派手に転んだアラに急ぎ謝る。
何が起きたのか理解出来ずに戸惑いの表情で後ろを見るとそこにはバツの悪い顔で両手を開き謝るイロナシがいた。もし謝罪を口にしていなければ力いっぱい殴っただろう。
「止めた理由はなんだ?」
「あの機械をよく見てごらんよ、明らかに今まで君が壊してきたのと違うだろ」
暗がりから出てきて姿を見せる機械を指差す。
「そうだな、一回り程大きいな、それに武装も増えている」
一般的な神造機械は両手に剣を付けているが、今目の前のにある機械は人間の手を模しているのか五本の指がある。そして片手には体の半分を隠せる程の大きな盾を持ち、もう一方は槍を構えている。更にハッキリとは見えないが後ろに尻尾の様に動く物も見える。
「そうだなって、どう見ても違うでしょ」
「違うな、だか、壊すことに変わりはないだろう」
と言うと口を開こうとしたイロナシを無視し、ギチギチと人工筋肉が音をたて上体を反らすと全力で槍を投げる。
すると、恐ろしい速さで飛んでいく槍をそれ以上の速さで神造機械がかわす。動いた時に目の前の神造機械の体のあちこちから火が見えた。推進力の働きをしているのか、進行方向と逆に火を吹き出すスラスターが多数確認出来る。
「なに?避けただと?」
「お願いだから話を聞いて、あれはただの神造機械じゃない、神の一人ヘパイストスが自ら造った三機の一体だ、形状的にアトリーズかな?」
「で?」
「、、、、まあ、そんなに簡単にはいかないかもって話」
面倒そうなアラの顔を見て口を閉じる。
「此方に対する攻撃行為を確認、相手の脅威を測定、、測定完了、防衛、拘束は不可と断定、排除行動に以降」
なにやら無機質な声で話すアトリーズ、すると四本の脚を曲げると体制を下げ盾を前に出し槍を添える。
「相手はやる気みたいだな、イロナシ、私が前に出る、サポートを頼む」
一方的に命令を出すアラ、特に文句も言わずに従うイロナシ
「りょーかい」
アトリーズに向け二人も臨戦態勢をとる。
お互いに構えるアトリーズとアラ達
「距離を詰めるぞ」
アトリーズの瞬間的な速さを見て、近接戦闘に持ち込もうと考える、槍を手元に戻し今度は体から矛先を遠ざけ横に構えるとそのまま走り出す。
アトリーズはアラの行動から戦法を理解したのか、自分も前に進み出す。数トンの体重の支える四本の脚で盾を前に構え突っ込む。
体格差によりアトリーズが先に間合いに捉え槍をつき出す。その動作一つにも腕のスラスターを総動員させ爆発的に加速する。
想像を大きく上回る速さの突きに驚いたが、槍を地面に突き立て棒高跳びの様に飛んでかわすと、大きなアトリーズの体を飛び越え後ろに着地し再び槍を手に戻し四本の脚の一つ目掛けて振り回す。が、最初に確認した尻尾の様な物がアラに狙いをつけ迫る。
(まずい!避けられないな、受け止められるか?)
防ぐことの出来ない状況で瞬時に思考を巡らせるアラ。ところが目の前にフワフワと水が漂う、そして次々にそれが氷に変わっていくと、アラを包むように網目状の分厚い水と氷の層でできたドームで囲まれる。そのドームは尻尾の一撃にひびが入るがしっかりと止めて防ぐ、その間に後ろに飛び退き、また距離をとるアラ。
「ちゃんと援護するから任せて」
今の氷の壁はどうやらイロナシが作った物らしい。
「助かった、そのまま頼むイロナシ」
視線をやると手で了解のサインをしている。
(流石エンダーと一緒にいる仲間だ、頼りに出来るな)
こちらを向き直ったアトリーズは今度は盾を使い押し付けてくる。
アラは槍を横に構えて受け止めるがアラの力をもアトリーズは上回り、そのままアラを壁にぶつけようと押し始める。
「くっっ!確かに私より力があるなっ!」
(流石にアラでも無理か)
イロナシは直ぐに能力を変えると、背後の壁とアトリーズがお互い引き合うよう磁力を発生させる。限界まで能力を強めるがそれでもアトリーズは止まらない。盾でアラを押しながら片手の槍を構えアラ目掛けて打ち込むアトリーズ、しかしアトリーズの腕と胴体に鎖が巻き付き動きを更に鈍らせる。その鎖はイロナシの足元の地面から伸びている。
「[鎖精製]この能力で止められるかな?」
アラはその隙に槍を地面に突き立て、アトリーズの前進を止めると大剣を出し、足元を狙う。アラの全力の一振りが脚に命中するが破壊は出来ず、脚の一本に損傷を与える。
「硬い!」
(他の機械とは違って頑丈だな)
アトリーズはイロナシの鎖を引きちぎるとまた構え直す。
「随分簡単にちぎるね、、」
構え直すアトリーズにアラは大剣を持ち走ると、アトリーズの一突きをなんとか大剣で反らし、スライディングで四本脚の間、体の下に滑り込むと、再び背後に立つ、そして今度は尻尾が真っ直ぐに硬直し突きを放つ。
「アラ!それは防ぐ、無視して攻撃して!」
イロナシの指示に従い向かってくる尻尾を無視すると、また氷の壁が空中に形成されると、ドーム状ではなく縦に五枚の壁が並ぶ。そして尻尾の一突きに三枚の壁が貫かれるがまたしっかりと尻尾を止める。
アラはその尻尾の付け根に全力の一振りを浴びせるが、切り落とすことはできず直ぐに後ろに下がる。
イロナシは防げたことに安堵し問いかける。
「あれは壊せそう?」
「いや、どの部位も最低3発は当てないと厳しいな」
(部位の細い所を狙ってこれでは、あいつを止めるのはかなり骨が折れるな)
「[熱量操作、光学集焦]テラ・レーザー」
いきなり横のイロナシが呟くとイロナシの手から目を開けられない程の光の柱ができ、アトリーズの縦に当たる。
そして驚くことに徐々に盾を溶かしている様に見える。
「いいぞ!イロナシ、そのままいけるか?」
先程から自分の渾身の攻撃でも大きなダメージが与えられず、勝機を見つけられずにいたがイロナシの攻撃がアトリーズに通用しているのを見て期待を寄せる。
「ん~、このまま30分くらいあのまま動かないでくれればね」
しかしそう簡単にはいかず、期待のない言葉が帰ってくる。
イロナシの予想通りアトリーズは盾に光を受けながら前進を始める。直ぐに距離を詰めアトリーズは槍を構え突きの形をとりながら突進してくる。
イロナシは回避行動を取るため能力を変えようとすると、横のアラがアトリーズを迎え撃つ様に飛び出す。
「私が止める、そのまま続けてくれ!」
アトリーズに向かって走り出すと、直前でブレーキをかけ、地面を削りながら減速する、そのまま大剣を後ろに構えると遠心力と体の勢いをつけまるで投球の様な動きで大剣を振るう。そしてアトリーズの槍とぶつかるが、槍を弾きそれでも勢いは緩まず、そのまま盾に剣が突き刺さる。剣を手放し盾を足場に後ろに一回転し着地すると今度は先程の大剣より重量感のある黒い槌を両手に構える。
イロナシはその動きに合わせ、能力を切り替え、アトリーズの頭に続く氷の足場をいくつか空中に作り出す。
アラはその足場を駆け上がり、勢い良くジャンプすると空中で体重を乗せアトリーズの頭目掛けて大きな槌を振りかぶる。
イロナシは勝利を確信し能力を収め息をつく。しかし次の瞬間、
アトリーズは体の半身のスラスターだけを起動しその場で高速回転し、その勢いで尻尾を振り回し、空中で身動きの取れないアラに直撃させる。
「うぐっ!」
小さく呻き声をあげると、アラの体は吹き飛ばされ壁に激突し壁に沈み混む。
「アラっ!ごめん、油断した、大丈夫!?」
直ぐに駆け寄りアラの前に立ちアトリーズと向き合う。
「大、丈夫だ、戦える」
息を切らし、ガラガラと瓦礫を落としながら体を起こすアラ。
確かに戦闘は可能だろう、しかしダメージを受けたのは間違いない、普通の人間なら即死する一撃だっただろう。しかしアラはヨロヨロと立ち上がると槍を構える。
「いくぞイロナシ、援護を頼む」
(女の子が怪我して全線に立って、僕は後ろでサポートね、、)
「僕も、、かっこつけたいな」
アラの肩に手を置き止めると、イロナシは背中に翼を生やし飛び出す。
「!?おい、イロナシ!なにして--」
「チャンスは作るから、とびきりの一撃を用意しといてね♪」
イロナシはアトリーズの前で止まると地面降り、盾に両手で触れる、すると、イロナシが立っている地面が音を立てて溶け、蒸発し始める、同じく盾も触れた所を中心にドロドロと形を崩していく。あっという間にイロナシの手が盾を貫通すると盾を持つアトリーズの腕に触れる。同じ様に腕を溶かされまいと、槍をイロナシに突き刺すアトリーズ、しかしその槍もイロナシが受け止めるように開いた手のひらに触れた所から溶け、先端は鋭さをなくしもはや槍ではなくなっている。
アトリーズもこのままでは危険だと判断し鋭い尻尾をしならせ叩きつける。それは見事にイロナシの腹部に当たるが、何故か鈍い金属音を立て、イロナシの体に傷をつけることは出来ず、同じように溶け始める。
気づけばイロナシの体はやや銀色を帯びていてまるで金属の様になっている。
いよいよアトリーズの脚まで溶け始めバランスを崩し体がぐらつく。
するとイロナシの体から出ていた淡い光が収まり熱が引いていく、さらに周りを冷やすために空中に水が精製されては周囲の熱で蒸発を繰り返している。
「アラ!今だよ」
「了解した!」
イロナシの作った隙に叫び、返事をしながら走り出す。そのまま全力で上に飛び上がる。アトリーズの頭と同じだけの高さに到達したアラは今度こそと大きな槌を振りかぶる。
アトリーズは身を守る為の武装全てをイロナシに封じられており成す術もなくアラの渾身の一撃を頭に受ける。そのあまりの威力に頭部はバラバラに砕け散り、前のめりに体を地面に叩きつけられる。ぶつかった衝撃に各部の部品が飛び散り、アトリーズは動きを止めた。
「ふうっ、終わったね」
ゆっくりと溶けた盾から腕を抜くと動きを確かめるように手を握るイロナシ。
「そうだな、お前のお陰で勝てたな、、あとはエンダーだな」
すっかり周りの労働者は逃げ終え、人の気配は既にない地下空間、二人は自分達に与えられた役目を完遂できたことに安堵し脱力しその場に座り込む。
それと同時刻、城の前、橋の上に一人の少女が腕を組み仁王立ちしている。
「おっ来たな」
イロナシ達の逃がした人々を保護する役目を受けたゼリエルは遠目に人々を見つける。
大勢の人々がこちらに走ってくるのにイロナシ達の作戦の成功を理解し、自然と笑顔が溢れる。しかし後ろからまた大勢の鎧を来た物達が音を立て走り、人々を追いかけている。
「ん!?追っ手が来てるでわないか!二人にトラブルでもあったのか?」
そんなことを考えている間に既に目の前まで人々が迫っている。ゼリエルは大きく手を振るとここに集まるように指示を出す。
集まった人々は自分達をまとめる少女に不安を感じている表情だ。神に逆らって逃げてきたがホントにこの少女に従っていいのか疑問を感じている。
「追っ手は20程か、よし!、私が相手してやろう!」
腕を組み胸を張るゼリエルを発見し罰与物達は剣を構え立ち止まる。
「エンダーには出来ない芸当を見せてやるとしようか」
両手を開きゆっくりと下から上に上げる、すると地面が盛り上がり、大きな2つの手の形が出来上がり宙に浮く。それはゼリエルの手の動きに合わせて動いており、金属音を立てながら手を握ったり開いたりしている。
信じられない光景を目の当たりにし、驚きの余り後ずさる罰与者、そしてゼリエルが腕を大きく振るとそれに連動して宙に浮く拳が罰与者を凪ぎ払う。
攻撃を仕掛けられると流石に罰与者たちも反撃に転じるが、ゼリエルの周りを動き回る拳に遮られ近付くことが出来ず、次々と弾き飛ばされていく。
ゼリエルはニコニコしながら踊るように体を動かしている。宙に浮く拳で罰与者を掴んで投げ飛ばし、また直接殴り飛ばしてまるで遊んでいる様に。
「はぁ、何の抵抗も出来ないのかお前達は、エンダーと同じ人間とは思えんな」
呆れ口調で目の前に倒れる彼らに言葉を投げる、次第にその姿に怒りを感じている様な口調に変わっていく。
「同じ地面に立っているのに自ら神の足元に頭を下げ、いつしか神を睨むことすら出来ず、同じ地面に立っていることすら忘れる、、お前達では例え何人いても大差ないわ」
少女が罰与者を圧倒する、その事実が信じられず立ちすくむ人々、ゼリエルはクルリと笑顔で振り向く。
「何をしている?早く帰るところに帰るのだ」
決して威圧感を与えず、無邪気に笑うと人々は笑顔で涙を流し、本当に自分達が解放されたと実感し、散り散りに駆けていく。
その後ろ姿を見ながらゼリエルは呟く
「293人か、少し疲れたな、さて、直ぐにエンダーに連絡せねばな!」
アラ、イロナシ、ゼリエル、三人が役目を終えた頃、エンダーは城の広間でゼノンとマアトを相手し続けていた。
凄まじい速度の剣が空を切り、剣とぶつかり合う音が絶え間なくひびいている。
「ゼノン、勢いが失くなって来てるな」
流石のゼノンも長時間剣全力で戦っているため疲労が出ている。
しかし息を切らしながらも決して動きを止めることなく攻め続けている。
対してエンダーはマアトとゼノンの二人を相手にしているがその体に目立つ傷はなく、疲労も感じさせずに笑顔を作っている。
(エンダー、聞こえるか?)
突如頭にゼリエルの声が聞こえる。しかしこの場にゼリエルの姿はないので直ぐにテレパシーだと気づくエンダー
(なんだ?なんかあったのか?)
(なんだじゃないだろ!イロナシが連絡が付かないと私に言ってきたぞ、連絡を任せておいて何でこんなことをしているのだ!)
(連絡がつかない?何故?)
(あのなぁ、イロナシは空気振動で言葉を伝える、だからここには届かないのだ!誰でもテレパシーができると思うな)
(俺が悪かった。で、頼んだ方はどうだった?)
(地下に囚われていた人々は293人、ついさっき全員の記憶をチェックし終えたところだ、何を教えればいい?)
(流石だな、まずは地下にいた期間が一番長いのは?)
(2年、23歳の男だ)
他に地下での状況、労働や生活の悲惨さを伝えるゼリエル
返ってきた答えに予想はついていたが落胆するエンダー。こちらを攻撃してくるゼノンに視線をやると深いため息をつく。
(了解した二人にも言っといてくれ、俺もそろそろ終わらせる)
(え!?それだけか?それだけの質問のためだったのか?)
(ああ、もう十分だ)
会話を終え、ゼノンにしっかりと視線をやる。
迫る二本の剣を視界に捉え、ゼノンの両手首を掴み動きを止める。
「ゼノン、お前は妹を人質に取られてるからここに居るんだよな?」
急な質問に戸惑いを見せるゼノン、が、直ぐに冷静になり、質問に沈黙で返す。
「最後に妹に会ったのはいつだ?」
更に質問をぶつけるエンダー、その質問でエンダーの意図を察したゼノンは体に力がこもる。それをしっかりと押さえ込むエンダー、そしてエンダーは直接的に質問を投げ掛ける。
「人質の妹、本当に生きてるのか?」
その一言が、耳に入ったマアトが、何故か焦りを見せる。
そしてゼノンはいままでにない程の力でエンダーの手を振りほどくと怒りを表情に見せる。
「当然だ!でなければ俺の生きる理由がない!」
「なら何故会わない?」
負けじとエンダーも声を荒げる。
しかしその質問にはマアトが、口を挟んできた。
「契約だ、妹と会わないのを条件に妹の生活を保証するとな」
マアトの言葉にエンダーは苛立ちを押さえて言葉を投げる。
「あのデカイ機械を動かすことが保証されてるって?」
エンダーの台詞にマアトは凍りつく、何故この人間は地下の様子を知っているのか、もしや地下に既に行ってきた後なのか、と思考を巡らせる。
明らかに同様を見せるマアトにゼノンは不安がよぎる。そしてエンダーの全てを知っている様な口調が更に不安を煽る。
「何故お前は地下を知っている?まさか何かしたのか?」
「俺の仲間が地下の人間を全員連れ出した」
「エンダー!それは本当か?俺の妹は!?」
弾かれるようにエンダーに詰め寄るゼノン、しかしエンダーは声を落とし返事を返す。
「ゼノン、地下の生活は最悪でな、人間は使い捨ての電池扱いだった。救出した人達の中で一番長くいた人間は約2年だ。お前の妹はとっくの前に命を落としてる」
「、、そうか」
体から力が抜け、だらりと腕を下げるゼノン
力なく立ちすくむゼノン、それに急ぎ声をかけるマアト
果たして神マアトに放心状態の人間にかける言葉をもっているのだろうか?
「ゼノン!妹なら生き返らせてやろう、私には出来ないが他の神に掛け合ってやろう。なに、人間一人生き返らせるくらい簡単だ」
焦りながら口にする言葉はどうも嘘に聞こえてしまう。しかしゼノンはそんな声に顔を上げる。
「本当か?」
「当然だ、約束しよう」
ゼノンの返事に安心感を得たのか口調にやや落ち着きが戻る。
「また約束かゼノン?よかったな、また戦う理由ができて、じゃあ生き返る時までここで剣を振っているか」
皮肉を込めた言葉でゼノンを冷たく突き放し、マアトを睨むエンダー
「神が、人間一人のために力を貸してくれるといいなマアト」
「黙れ!さあゼノン、私とこいつを殺すぞ!」
飛んでくるマアトの羽を手で掴みとると、再び斬りかかってくるゼノンに突き刺す。
三本の羽を刺されたゼノンは体の重さに耐えきれず膝をつく。
「いい加減前向けよ、立ち止まる理由に妹使ってんじゃねぇよゼノン!死んだ人間にいつまでも時間を使うな」
意外にもエンダーはゼノンを慰めずに怒りに似たような言葉をぶつける。
ゼノンは伏せていた目をエンダーに向けるとゼノンも怒りをエンダーにぶつける。
「お前に何が分かる!?大切な人を亡くしたことがあるのか?その時何も感じなかったのか?」
「大切な人はもう手元に残ってない、そんな経験誰だってあるだろ、でもそれを理由に足を止めるのはしない、みんなそうだ」
諭す様なエンダーの口調に何も言い返せないゼノン
「でも、俺はみんなと違う、いまでも大切な人を奪ったやつを許さない」
「エンダー、俺を殺さない理由はなんだ」
わかった上での質問をエンダーに問いかける
「決まってんだろ、お前に答え出させるためだ」
聞かれるのを待っていたかの様に笑顔で答えるエンダー
「何でそこまでする?他人だろ」
「訳あって神と戦いたいやつを集めてる、それにお前が欲しかったからだ」
覚悟を決めた様な表情のゼノン、大きく深呼吸をしマアトを見る
「マアト、妹のことはもういい、俺はお前を殺すぞ」
その言葉を聞くと、思い通りにならないことに苛立ちを感じているマアトは体に力を込める。
「そうか、残念だな、私もお前を殺そう!」
メキメキと体に変化がおき、翼はより大きく、体に黒い鱗が浮き出る。
「エンダー、また共闘してもらえるか?」
剣を構え直すとエンダーに笑いながら聞くゼノン
「もちろん、って言いたいとこだけど、アイツは特別大嫌いだ」
と返すと腕を大きく開きグッと力強く握る。
[黒・重突]
両腕に闇がまとわりつき黒く変色する、ゆっくりと歩いてマアトの方に歩みを進める、その姿に異様な迄の威圧感を感じ警戒するマアト、
「来るな人間!」
人の面影を失くし怪物に変貌したマアト吠える。
ゆっくりと距離を詰めているエンダーに敵対していないゼノンも恐怖を感じる程の威圧感を放つ。
とうとうマアトの前に迫り大きくなったマアトを見上げるエンダー、
次の瞬間、マアトは鋭い爪のついた大きな腕を後ろに引く、しかしマアトが、攻撃に移る前にエンダーの拳が迫る。
[黒・重突、中段、打抜き]
軽く腰を落としマアトの腹部に突きを入れる、すると拳の当たった場所から直線上に真っ直ぐ闇が打ち出され、マアトの腹部を突き抜け、後ろの壁まで突き抜けると、その箇所に綺麗に穴が空いていた。
「なん、だと、何が、起こった?」
腹部に大きな穴があき口から吐血しながら声を絞り出すマアト
[上段、激跌]
エンダーは拳を引き下げ、体をひねり、流れる様にマアトの頭に腕で大きく弧を描き二発目を当てる。横からマアトの頭に拳を打ち込むとまた闇が打ち出され、一瞬マアトの頭を隠したかと思うと、血の一滴も残さず頭は消滅していた。
「じゃあなマアト」
闇を仕舞い腕から取り除くとパタパタと腕を振り、体を伸ばしている。
「悪いなゼノン、終わらせちまった」
何事もなかったかの様に笑いながらゼノンの肩に手を乗せるエンダー
「さてと、もういいな」
体をひとしきり伸ばし終えると意味ありげな言葉を吐くエンダー、すると何処から出てきたのか、大量の闇を集まりだし、エンダーの体に吸い込まれていく。
「何をしたん-」
ゼノンが問いかけようとしたが勢いよくドアが開く音にかき消された。
いままで何をしていたのか、大勢の罰与者が広間になだれ込んできた。焦った様子で何かを伝えようとしていたが、無惨なマアトの死体が目に入り言葉を失う。さらに直接の上司に当たるゼノンがエンダーと親しげに話しているのを確認し、立ち尽くしている。
「今度こそ共闘といくか!」
「そうだな」
つい先程マアト相手の共闘を断ったのを悪く思ったのか、エンダーから罰与者相手の共闘を誘う。そしてゼノンはそれに答えると、エンダーが地面から作り出した剣を握りしめる。
大勢の罰与者相手はものの数分で終わり、全身に軽い傷を受け、疲労仕切ったゼノンを横に頭の後ろに腕を組み、愉しげなエンダーが並んで歩く。
「そうだ、もう一度聞くがあの時何をしていたんだ?」
広間での闇は何のための能力だったのかを訪ねる。
「ん?ああ、あれはあの広間自体を闇で覆って隔離してたんだ、ほら、俺が二人を相手してる間に仲間が地下の占領をしてたから罰与者がマアトに連絡出来ないようにな」
「部屋を隔離?そんなことが出来るのか」
「この闇の中には空間が広がってて、俺だけが出し入れ可能な倉庫みたいなもんなんだよ」
目の前に上と下に闇を展開すると、そこに小石を投げ入れる、すると下に入った小石が上から出てくる、それがまた下に入る。それが永遠と繰り返されている。
「便利だな」
そんな会話をしながら城のエントランスまで着く、すっかり夜になっていた外に出ると、見慣れた三人が律儀にエンダーの帰りを待っていた。
「遅い!何をダラダラしてたのだ」
空腹と睡魔に耐えていたのか、不機嫌なゼリエルがいつもの定位置、エンダーの肩によじ登る。
「終わったんだな、なら宿に帰ろう」
アラは相変わらず、感情の起伏を感じさせない落ち着いた声で話す。
「君が期待のゼノンくん?ヨロシクね、僕はイロナシ」
エンダーには目もくれずにゼノンに駆け寄ると握手をし会話を始める。
それを口切りにアラも名乗る。
「イロナシにアラか、エンダーの仲間というのは君たちなんだな、地下で苦労をかけた、礼をいう」
そしてゼノンは自宅に、エンダー達は宿に帰った。
「三人ともご苦労様、お陰で全部計画通り動けた、ホントにありがとな」
労いの言葉をかけると、明日街を出ることを伝え、皆が寝静まったのを確認するエンダー、最後まで寝付けなかったのか、窓を開けると静かに外にでて軽やかに宿の屋根に上り、腰掛け夜の街を眺める。すると起きていたのか、イロナシが窓から出てくるとふわふわと体を浮かせ屋根に来てエンダーの横に腰掛ける。
「考え事かい?」
おもむろにイロナシが問いかける。
「少しな、秩序と掟の街なんて言ってただろ、何でマアトは正しく街を統治出来なかったのか疑問に思ってた」
「何でって、神なんて立場のやつが公平でなければならない掟だのルールなんて作れるはずないだろ」
肩をすくめて笑いながらイロナシは答える
「神って皆そうなのかね」
呆れ口調で言い残すとエンダーとイロナシも部屋に戻り就寝に着く
部屋へ戻るエンダーの背中に向け、聞こえない程の声量で呟く
「他に神の納める国を知らないからそれは分からないね、でも少なくとも人は立場が違えばみる目も変わるもんだよ」
一人の幼子が夜を歩く
「引き摺り回した過去にもはや面影はない、人が振り切るには難しのだろうな
ゼノンとやら、良くやったな
お前もいつか、、、エンダー」