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黒く世界  作者: Hirororo
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世界の中心に人は立てない

地面が遠退き、地面に近づく、言葉にしてみれば奇妙なことだ。人々が空と仰ぐものは上の世界の地面なのだから。


天階廻の中へ入り上に移動するエンダー達、しばらくして上にたどり着く、また新たな世界に足を踏み入れると自分達を囲む景色に息を飲む。


「海、、と山か?」


今までの階層に比べ明らかに自然が多く生き物が自由に暮らしている。神造機械も見当たらず生き物がそこら中にいる。


「ああ、それとこの階層には人々、いや、神達が個人で管理する国と呼ばれるものがある、つまり大きな町に行けばそこに神がいるということだ」


「それは複数あるのかい?」


「確か6の神がこの階層には常駐しているな」


「皆が建御雷之男神みたいな強さを持っているのか」


「いや、むしろそれ以上だ、建御雷之男神は神の中ではとても強いとは言えない」


アラの質問に残酷な答えを返すゼリエル、しかし皆に動揺はない、ついさっきエンダーの圧倒的な強さを再確認したからだろう

話題を変える様にエンダーが目的を口にする。


「とりあえずはまず町探しだな、そこに神がいるなら一石二鳥だ」


「そうだな、だが心配ない、町の場所はある程度知っているからな」


胸を張り嬉々として言うゼリエル、ふわりと体を浮かせたかと思うと、気が変わったのか地面に降りエンダーの方によじ登り座る

そのままゼリエルの案内に従い言われるがまま移動する一行、その途中アラが不意にエンダーに問いかける。


「疑問だったんだかエンダーは何故神殺しなんて事をするんだ?」


確かにこの世界で神を殺すなど思う人間すらそういない、しかしエンダーは曖昧に答えを濁す、ハッキリ言いつつもそれ以上は語らないと伝わる口調で


「色々だ」


それ以上聞くことなく引き下がるアラ、そしてまた横に広がる海を眺めながら歩き続けると今までないほどの大きな町、城が見え始めた。その光景に圧倒されつつも町に入るエンダー達


「にしても、大きな街だ」


感想を漏らすエンダー、街に入ってからしばらく歩いているが未だ街の全体を見れていない、今までの階層に比べもはや別世界と言えるほど生活レベルが高く、皆不満は見てとれない。


(最下層では果物を知ってる奴がいるかってとこだが)


つい自分の生まれと比べてしまうエンダー、顔の横に闇を展開する、そして手を突っ込むとリンゴを取り出しイロナシ達に投げ渡す。特に食事の必要のないアラもシャクシャクと噛る。


街の中心部の大きな建造物を指差し話す。


「さて、見ての通り、あの城に神が居るんだろうが、いきなり殴り込むなんてことは流石にするともりはない、数日は各自自由に街を見て回っててくれ」


イロナシに宿探しを任せ別れると、アラも他を見てくると別れた


エンダーは肩にゼリエルを乗せ街を歩く、気になってる所があると言い、そこに向かって行く


「エンダーよ、此処にいる神の名前なら既に分かっている」


「教えてくれ」


「まず考えろ、この街見てからな」


気が付けば目的の場合に着いている、街の入り口、城の真後ろにあたるこの場所は大きな城に隠れ日が当たらなくやや薄暗い、町並みもどこか淋しい印象を受け、先程の場所とはかけ離れている


住む人間もどこか暗く、着ているものも汚く、時に子供が一人泣いているのを見る。


「荒れてるな、、まさに裏って感じだ」


泣いている少年に近づき話し掛けるエンダー


「何故泣いてる?」


話かけられ唖然とする少年、


「エンダーお前、もう少し優しくきけない--」


エンダーの冷たい口調に注意をするが遮られる。そして涙を浮かべる少年の瞳には白黒の反転した異様な瞳が覗き込んでいる。


「もう一度聞くぞ、何故泣いてる?」


少年は静かに答える。


「母さんと父さんが居なくなった」


「家は何処だ、帰って来ないのか?」


エンダーの問いかけに涙の量が増え、首を横に振る。


「違う、帰って来ないんじゃない、連れてかれたんだ、その時一緒に家も壊された」


「詳しく聞かせてくれ」


と言うとエンダーは横の空き地に歩き闇を展開し地面に当てる、すると地面が膨れ、変形しあっという間に簡易式の小屋を立てる


驚きに声も出ない周りの人々、同じく固まっている少年の体を持ち上げ小屋の前に立つ、すると振り替えることなく後ろに闇を展開し同じような小屋を5,6軒建てると


「家が無いやつは好きに使え、取り合うなよ」


と叫び小屋に入って行った。




乱暴というよりは不愛想な印象、変わった怖い目をした男に問い詰められ泣きそうになるのを必死に堪えて話す少年。


「この国は毎月決まった金額を納めるのが決まりなんだ、それを守れなかった者は罰を与える対象になって城に連れていかれるんだ」


「いくらだ?」


「銀貨一枚」


「そこまでの額には感じないが、、」


「確かに普通の人ならそうだね、でも貧しかった人ならとても払えない、ましてや仕事すら見つけるのに苦労するんだ」


「お前はどうする?働き口はあるのか?」


黙りこんでしまう少年、その態度からあらかた予想はついた。

(予想は出来たが、ここの連中は皆そうだろうな)


「城に連れていかれた人はどうなってる?」


「分からない、帰ってきた人は居ないから」


(最悪だな、、、あまり期待はできないな)

「お前の名前は?」


「レン」


「そうか、レン、少し目を塞げ」


言われた通り目を瞑り両手で隠す少年、エンダーは手のひらに少し闇を纏う、そしてテーブルに手を乗せそのままスライドするとそこには金貨が5枚現れる。


「目を開けろ」


少年は目を開け、目の前の金貨に驚く、少年に喋る余裕を与えず席を立ちながら一方的に言い放つ。


「お前にやる、それと両親は俺が探してみる、そんときに白硬貨一枚と交換だ、お釣りは用意できない、その金貨で白硬貨用意しといてくれ」


小屋を出る直前に少年に向かっていくらか金貨の入りそうな小袋を投げつけ、優しく乱暴な青年は少女を肩に乗せいなくなった。



「エンダー、らしくないな、あんな能力の使い方、木材から金貨を作るなんて」


「別に自分のために金貨を作った訳じゃないだろ、目の前の不幸をみすごさないで、そう言われてきた」


「母の言葉か、、」


何故か気遣う様に小さな声で話すゼリエル


「今はとにかくここの神だ、名前は?」


「そうだな、秩序と掟の神マアトだ」


神の名前を聞き、元の正面の街を歩くエンダー、城に入る方法を模索しながら思い付く、城、つまりこの国からの大きな依頼を受けて近付く事を考えた。

そしてこの街でも依頼板に目を通すことになったエンダーは依頼板を探し歩く。


依頼板が目につき、そこに近づき歩いていると一人の男とすれ違う。不意に何を思ったのか振り返り男に視線をやる、すると偶然か、その男も同じタイミングでこちらを振り返る。


両腰に二本づつ剣を差し背中にも二本、計6本もの剣を持っている


そしてやや赤くも見える髪、革で出来たボディアーマーからは一目で分かるほど鍛え上げられた筋肉が見え、エンダーよりも一回り以上体つきは大きい。


お互い目が合い彼から口を開く


「なんだ?何か用か、少なくとも知り合いではないと思うが、、」


「気に触ったか、すまない、なんでもない」


意外な返しに表情は変えぬまま言葉に詰まる彼、しかし、直ぐに無愛想に一言


「そうか」


口調を和らげ笑うエンダー、それを見てお互い少し表情を和らげその場を後にする。


別方向に別れた二人はお互いに同じ思いを感じていた。


(強い、尋常じゃない)何故か嬉しく感じ自然と笑みがこぼれるエンダー



一方の男は動悸すらしていた

(あの男何者だ?仕草、口調こそ穏やかだがあまりに強い、化け物だな、初めてだ、目を合わせただけで恐怖すら感じたのは)


すれ違った相手に異常さを感じ取った彼


「どうしたエンダー?笑ってるぞ」


「凄いのがいたんだよ、本気で鍛えたんだろうな」


「お前にそこまで言わせるのか!?私も見たいな」


楽し気なエンダーを見てゼリエルもはしゃぐ、そんな二人は依頼眺めていると同時に同じ依頼指差す、一番大きく目立つそして何故か色が違う。


その意味は危険性を示す色だった、ごく一部の依頼には受付人の厳選後の許可が必要性という内容である。


その依頼の内容は



        ❬森に存在する悪魔の処理❭



近隣に突如出現した原生林にて怪物を確認、多数の人間が既に連れていかれ行方不明になっています。


「、、、原生林って突如現れるのか?」


「それが出来るから力のある悪魔なのだろう、、」



まさに今探している様な依頼に心踊らせ二人は受付へと走る。


「悪魔の討伐なんかしたら、直接城に呼ばれてもおかしくないんじゃないか」


「そうだな!だが悪魔を侮るなよエンダー、といってもこの階層に高位な悪魔はそういないがな」


意気揚々と走るエンダーとしがみつくゼリエルは間もなくして問題に突き当たった。

依頼の許可が降りない、それもそのはず、神造機械の討伐すらその道の受注者数十人で受けるのだ、悪魔の討伐はかなり実績を積んだプロが大勢でチームを組み向かうものなのだから。一人の未経験者とも言える青年が受けることは当然許されない。


いつぞやか見た光景が繰り返されている受付所、そこで押し問答を繰り返すエンダー、


「俺は問題ない、第一人間一人の安否なんて大きな問題じゃないだろう」


「依頼経験が木材納品のみでは悪魔討伐に派遣は出来ません!」



エンダーの見聞きしてきた世界の感覚なら人間の命に価値はない、しかしここは最下層ではない、少ないが幸せに明日の心配をせずに生きている者がいる


お互いにヒートアップしている所に後ろから声が掛かる。

「その男なら大丈夫だ、私のペアだからな」


振り返るとそこにはさっきの剣をたづさえる男だった、


「あなたは、神兵隊の、、、そうですがならば許可します」


驚くほどアッサリと許可が出て腑に落ちないエンダー、しかし彼にお礼を言う


「お前か、悪いな、助かる」


「気にしないでくれ」


彼に連れられ街の出口に向かうと、彼を待っていたのか30程の兵隊が並んでいる。彼らに指示を出すように声を出す


「待たせたな、出発する」


「お前は何者だ?」


そのまんま疑問を口にするエンダー、それに苦笑いで返す彼


「それはお前に聞きたいな、、、俺は神の城で使えてる、名前はゼノン、、ゼノン・ハウルス」


神の使えと言うことをどこか後ろめたそうに話すゼノン


「そうか、俺はアルマ・エンダー、最強の人間だ」


最強と言う言葉に対して満更でもないんだろうと認めるゼノン、思いの外自信家なのかと印象を持つ


「よろしくな」


「ついたぞ、エンダー」


気が付けば目の前には明らかに不自然な原生林、平野に何故か突然原生林がつづいている。それを前にして明らかに不安がる兵隊達、気にせず雑談をしながら前に進むエンダーとゼノン。

後ろの兵隊達が噂をしている。


「流石ゼノンさんだ、しかしあの連れてきた細身の男は何だ?鎧どころか武器も持ってないぞ、、足手まといになるのが目に見えているな」


薄暗い、日があまり届かず視界が悪い、エンダー達の後ろにはガチャガチャと鎧の擦れる音が多数響く、不気味な雰囲気ではあるが何もなくとにかく森の奥へと進む。


しかし不安は直ぐに形となり訪れる、後ろの兵隊達がざわめく、


「おい、あいつは何処だ?」


「はぐれたのか?」


「そんな訳あるか!この大群からどうやったら離れるんだ!」


その会話が耳に届き振り返るエンダー


「ゼノン、なんかあったみたいだぞ」


「この森は入った者を喰う、だから元凶の悪魔を探してるんだ」


「消えたやつは悪魔の仕業だと?それはほっておくのか?」


「だから悪魔を探してるんだ、そこに連れ去られた人々がいると思うが」


ゼノンの考えと行動に納得し進むと何処から徒もなく怒気を含む声が聞こえる。


「まだ私の森を荒らすか!?いいだろう、一人残らず森の贄にしてくれる」


声が止み、顔を見合わせるエンダーとゼノン


「悪魔の声か?」


「俺に聞かれても分からん」


そんな会話をしてる内にゼリエルに言われたあることを思い出す


「そういえばゼリエルが悪魔についていってたな、此処にいるとしたらフンババ?とか言ってたな」


「他には?」


「フンババは森の番人、見た目は知らないが、森が人を襲うと聞く」


既に連れていた30の兵は7人まで減っている、音もなくどうやって誘拐しているのか?その答えを目の当たりするエンダーとゼノン


一人のやや離れた兵に突然木の蔦、枝が生き物の様に絡み付く。


「なんだ!やめろ、やめろぉぉ!」


焦りからか狙いもせず闇雲に剣を振り回す、その彼をどんどん包むように植物が巻き付き、もはや姿が見えなくなる。なんとそのまま浮き上がり今にも連れ去られそうになる。それを見てさせまいとエンダーは彼の方にかけ出す。


力の強く浮き上がる植物の塊を掴むと、その場に踏ん張る。しかし他の所から蔦や草が伸びエンダーを引きはなそうと巻き付く、


「くそっ!放せっ」


蔦を降り放すエンダー、だが手が塞がった状態では払いきれない


「頭を下げてくれ」


焦らず指示を出すとゼノンは剣を二本抜き、即座に兵を包む蔦を切り裂く。すると後ろから叫びが聞こえる。慌てて見ると他の兵隊が皆包まれている。


残りの兵隊が皆包まれているのを見て初めて二人は危険を感じる


「不味いな!」

「見れば分かる!」


エンダーは兵を諦め手を放すと地面から長い剣を作り出し、周りを切り裂く。

ゼノンは目にも止まらぬ早さで次々と自分に向かってくる植物を切り刻み、更に兵に巻き付く植物も斬りに走る。

エンダーもそれに続き剣を振るう。


「おい!ゼノン、キリがない、森の中心まで行くぞ」


「確かに、賛成だっ!」


植物を切りながら駆け抜ける二人、しかしながら突如前に奇妙な生物が出てきて足を急に止める。


「なんだこいつ!」

「切るぞ」


現れたのは2メートル程の蜂の様な怪物、ゼノンいわく怪物の名前はジェネルビー

直ぐに木に跳び移り、上から大剣を振るエンダー、しかしまるで速度が足りず、かわされると、ジェネルビルーは体を大きく回し尻尾をぶつける。空中で動きは取れず避けれないエンダー、

そこにゼノンが走り、エンダーの服を掴み連れていく、


「その剣であれを追うのは難しい」


「分かってる、だがあれの表面を見てみろ、蜂に鱗が付いてる。

あれを両断するにはこれくらいの大きさがいるだろ」


二人はジェネルビーの体当たり、鋭い爪で掴みかかってくるが、それを剣で防ぎ、避け、作戦を立てている。


「鱗で覆われていない箇所を狙う、ただ、流石に速い、止められるか?」


「6秒だ!」

「十分だ」


するとエンダーはジェネルビーの前にわざと飛び出し、来いと言わんばかりに手を広げる、そしてエンダーの意図通りにジェネルビーは六本の足で掴み掛かる、


「仕返しだ」


ニヤッと笑い付近に闇を展開する、ジェネルビーの鋭い足がエンダーの体に迫ると、周りの植物がジェネルビーに巻き付く、そして突然のことにパニックになるジェネルビーを更に植物が巻き付き、エンダーが手足を掴み押さえる。

ブチブチと植物を引きちぎりながらもがくジェネルビーがやかで完全に止まる、

その瞬間、背後にゼノン飛び上がり、羽の付け根、胴体と頭、腰の関節を一瞬で切りつける。

更に近くの木に着地すると同時にエンダーに一本剣を投げると、それをキャッチしたエンダーが頭に止めを入れる。

動かなくなったのを確認して二人は地面に着くと、エンダーは受け取った剣を差し出す。


「初めて会ったときから思ってるが、お前相当強いな」


「俺には戦うことしか出来ないからな、、、だが素直に嬉しい、それにエンダー、お前には勝てる気がしない」


「当然だろ、最強だぞ」


夜のとばりが降り、辺りはすっかり暗くなっているなか、街近くの明らかに景色から浮いている原生林、その奥深くでは二人の男が剣を振っていた。


「このままじゃジリ貧だな」


「わかってはいるがフンババの居場所は分かるのか?」


「俺の能力なら探せる」


お互いに背中合わせで剣を振るなか、圧倒的な強さを見せ森中の植物、生物相手に全く押されていない二人。今では蔦や根は捕まえることはせずに、二人の命を奪う様に迫る、


背後から鋭く尖った根が突き刺し、蔦は手足を縛り自由を奪おうとしてくる。


その結果がお互いに背後を合わせて警戒する範囲を狭める事を二人は話すことなく自然に行動に移していた。


「それは探しながら戦えるのか?」


エンダーの探せると言う言葉に状況打破の期待を寄せる。


「それは問題ない、だが俺らの場所を教えることになるかも知れない」


「今さら構わない、やってくれ」


その返事を待ってたかの様に瞬時に薄い霧の様な闇を森中に広がる程の量展開する。


その間も攻撃が止むことなく畳み掛ける、左右から3メートル程の腕が発達し鋭く長い爪の熊が襲いかかってくる、それを迎え撃つ様にゼノンが一発で一匹の首を撥ね飛ばす、返り血がゼノンの視界を奪う、


その怯んだ隙に自分の数倍大きな熊の爪がゼノンの背中に5本の深い切り傷を付ける、


「それだけか、、失せろ」


何の動揺も見せず熊を睨む、その迫力に睨まれた熊は怯えたかに見えた。それも一瞬、


まず一太刀めで腕を切りつけ、二本めで寸分違わず同じ所を当て、腕を切り落とす、更に体をその場で一回転し、その勢いを利用し深く二本の傷を与え熊の命を奪う。


そしてエンダーには木葉が降り注ぐ、それを視認し、直ぐに違和感を感じ身構える、なんと木葉がユラユラと降りるのを止め、突如その場から急降下してくる。


それをエンダーは指で挟みは落ちてきた5枚受け止めると、木葉とは思えぬ程硬く、簡単に人体を切ることができる強度だった。


「まるで刃物だな、ん?」


木葉がナイフの様になって手元にあることに恐怖を感じる。


ここは森、見渡す限りこの場所には木、そして葉がある。


「こっちに来いゼノン!!」


初めて余裕のなくなったエンダーの声に非常事態を理解し問うことなくエンダーの元に走るゼノン、背後、いや、全方位から木葉が不自然に落ちてきている。


(なんだ、まるで木葉が降ってきている)


(これは能力使うしかねぇな)


[黒]


周りに闇を展開すると地面が盛り上がり、二人を土で出来たドーム状の建物で包む。


そこに突き刺さるおびただしい量の硬い木葉


無数の刃となった木葉から逃れるため能力を使ったエンダー、今ドームの中にいる二人。


「こんなことが出来るのかエンダー、助かった」


「無事だな、それと場所が分かった、道を開けるか?」


「任せてくれ、場所が分かったなら速く終わらせよう」


ドームに出入口を開くと二人は飛び出した、

エンダーが先を行き大剣で道を切り開くと、その横と後ろをカバーしながら高速の剣技で植物をエンダーに一切寄せ付けない。

降り注ぐ木葉はエンダーの作り出す壁がピンポイントで防ぐ、

今日の朝初めて会った二人は完璧な連携で止まることなく突き進む。

すると中心部なのか、森の中とは思えない、一本も木の生えない平野に出る。しかし中央には一際大きな大木がある、その木がメキメキと音をたてながら捻れた幹をもどしながら動く、その中に合ったのか一つの空間が現れ、そこに居たのかまさに怪物がこちらを睨む、


「あいつがフンババだな」

改めて確認するようにゼノンに言う


「なんだ、猪?」


目の前には確かに猪の体を持つ5メートル程の怪物が佇む。しかし何故か全身が濡れていて水が滴っている、何より目を引くのは口元、爬虫類の様な鋭い牙が覗く


「猪があんな牙してるか?あれは明らかに肉食だろ」


すると最初に森で聞いた声が聞こえる、あの時以上に怒りを感じる。


❬お前らどれだけの植物を、生き物を、森を傷つけた!償ってもらうぞ!❭


「お前にも償ってもらうことはある」


「その通りだ、森に連れた人を返せ」


❬返す者などない!その命、此処において行け!❭


ドン、と足を鳴らすと地面が揺れ、なんと水が沸きだし足首まで浸かる、


「水?何の意味が--」


水が実態を持ち捻れた槍を形成するとエンダー目掛けて飛び出す

寸でのところで避け、フンババを睨むと既にこちらに体当たりをしてきている。

あの巨体でまともに当てられれば一溜りもないのは明白だ。

横を何がが凄い速度で通りすぎる、横にいたゼノンが飛び出す、

二本の剣を構え向かっていく。

とっ進してくるフンババをスレスレでかわし、巨体の横をすれ違い様に数十回切り裂く、

しかし硬い毛皮に防がれたのか致命傷は与えられない、怯む様子もなくフンババは振り向いた、かと思うとまた突進をしてくる。


まるでダメージが入ってないのか、再度突進をしてくるフンババにゼノンもまた迎え撃つ、


それを見たエンダーは地面がを闇で覆い、なんと一面の水を氷に変える。

エンダーの意図に気づいたのか、ゼノンは先程とは違いスライディングでフンババの足元を通り抜け、そして四肢を切る。


流石に怯むフンババは立ち止まり、こちらを見ると小さく牙をちらつかせ口を開く、そこにはチカチカと火花が見える。


(まさか、、火を吐くのか!?)


エンダーの予想通り燃え盛る火を口から吐きつける。

予想していたエンダーがギリギリで壁を自分と離れたゼノンの前に造ると


ゼノンはエンダーに助けられたのが分かり火を防ぐ様に体を屈める、そして火が弱くなったのを確認し、まだ火が消えてもないのに自ら壁を蹴り壊し、飛び出した。

フンババはまさか火の中を突っ切って来るとは思わず、たじろぐ、

その隙を見逃さずに二本の剣を同時に振り下し、フンババの顔には大きな十字傷をつける。だが、剣が耐えきれなかったのか二本とも折れてしまう。


流石のフンババも唸りを上げ、顔を振るとゼノンを更に怒りのこもった目で睨む、

そしてゼノンは腰剣を新しく抜き構える。


その姿を見て出会った時から思ってたことが府に落ちたエンダー


「なるほどね、剣が耐えられないからあんだけ持ってるのか」


今度は自分から接近し攻撃を仕掛けるゼノン、フンババの牙を避けながら、絶えず動き続け剣を振るう。


無数に体に傷を作りなお暴れるフンババ、ゼノンを相手にするのが厄介だと考えたのかターゲットを変え、エンダーに突進を仕掛ける。


狙いを変えたフンババを急ぎ、後ろから追うゼノン、


(エンダーの体格ではとてもあの突進を防げるとは思ない)


「かわせエンダー!」


その声を聞き、エンダーはゼノンに余裕を持って笑いかけると地面から今度は長い棍を作り出す。


それを体を這わせるようにくるくると回転させている、


何を考えているのか分からずゼノンは戸惑うが、よく見るとどんどん振り回す速度が上がっているのに気づく、


「さあ、やれるもんならやってみろ、フンババ」


突進するフンババがすぐそこまで迫ると、エンダーは地面に平行に棍を回し、重心を僅かに下げ、棍を腕と背中で挟む様に持ち、棍の先端で迫るフンババの顔を横から打ち付ける、


あの細身の体からは想像出来ない程の威力でぶつけ、フンババは横に倒れる。


それを見てエンダーは満足気な表情だ。


「動物も脳震盪ってするんだな」


エンダーは迫るフンババの顎を的確に捉え叩いていた。


強烈な攻撃を受け、気を失うフンババ、それを直ぐ様ゼノンが接近し下腹を複数回切りつけ、最後に首元に二本の剣を突き立てる。

流石のフンババもおびただしい出血の末絶命したようだ。

返り血で体を赤くしたゼノンは体の力を抜き、フンババの首もとから剣を引き抜きその場に座り込む、心なしか森の不気味さが消えたようにすら感じていた。


「エンダー、今回助かった、お前がいなければこの依頼の成功は難しかっただろう、ありがとう」

軽く頭を下げるゼノン、それを茶化すようにエンダーは言葉を返す。


「まだ連れ去られた人とお前の部下がいるだろ」

そう言いながら中心の大木を指差す、するとその木の上には、眠った人々が木に縛られ大勢ぶら下がっている。


「フンババは最初から殺す気なんてなかったんだろう、人間への警告のつもりだったんだろうな」


エンダーは飛ぶ様に木を登り、一人の子供の顔をゼノンに見せる、その顔には無理やり果物を食べさせられたのか、甘い香りの液が付いている。恐らく人間の生命維持のために無理やりフンババが食べさせたのだろう。


「そうだったのか、なら話せば解決したかも知れないな、、」

申し訳なさそうにフンババの死体に目をやるゼノン、それをエンダーは少し強い口調で否定する。


「無理だな、神と悪魔、その関係なんて言うまでもないだろう、、、常に悪魔は悪者だ。常に神は悪魔を裁く側だろ。自分に都合の悪い力を持つ存在を悪魔と名付け、その感覚を他の生き物に押し付け殺す。」


「否定は出来ないな」

静かに頷くゼノンを見て、意外に思い少し驚くエンダー


「お前は神に使えてんじゃねぇのか?何故否定しない?」


「好きで使えてる訳じゃない、あの街、お前にはどう見えた?」

意味深に取れる質問に、彼は自分達と同じ思いなのでは?と感じるエンダー


「綺麗に❬見える❭街だな」


エンダーの引っかかる言い方に苦笑いを浮かべるゼノン


「お前はちゃんと見てる奴なんだな、そうだな、俺には妹が居た」


不意に妹の話をするゼノン、そして何故かそれが過去形なことに気づき、街で会った両親を連れ去られた少年が浮かぶ。

神の城にに連れ去られた妹、神の城に使える兄、ゼノンの置かれる状況を把握したエンダーは静かに苛立ちを感じていた。


フンババの討伐後、大きな死体を兵隊達に担がせ、街まで帰ってきた。ゼノンとの最後の会話が引っかかり、なかなか話せず街ので別れたエンダー、宿をどこにしたのか分からず夜の街を歩いていた。余程栄えているのか、夜になっても人の数は減らず、キラキラと灯りが多い、昼とは違った景色につい足を止める。

すると何処から途もなくゼリエルが上から飛んできた。


「やっと帰ったかエンダー、随分遅くなったな」


ふわふわと停滞するとエンダーの肩に降り、いつもの定位置に座る。


「そうだな、思ったより大変だった、今日は宿に変える前に何処かで食べてから帰るか?」


森に着いてくると言ったゼリエルをイロナシ達に連絡を頼み、街に待っていてもらった御礼と御詫びを兼ねての意味だった。



二人は近くに合った高そうなレストランに入る。中のきらびやかな作りにエンダーは何故か小さなため息を漏らす。


「飲食店、、階層が変わるとここまで違うのか」

自分の居た最下層に比べてるのか、どこか不満な表情


「そうだな、階層が一つ上がるごとに文明が違うとも言えそうだ」


メニューに目を奪われながらエンダーに聞かせる

二人はそれぞれ、好きなものを頼み食した。エンダーはパチパチと音を立て、鉄板の上で油の跳ねる肉料理を、ゼリエルはテーブルいっぱいのケーキを食べながら今後を相談する。


「この街の掟、金銭を納められなかった人間が何処でどうなっているのか調べたい、だがあまり時間を賭けたくない、俺の方は直接神に攻めてみる」


あの城に一人で乗り込もうと言うエンダー、しかしゼリエルは止めることはない。エンダーの考えに合わせ話を進める。


「調べるならいい方法がある」


ゼリエルの提案を聞こうとするエンダー、が、ゼリエルはここでは話さないとエンダーに伝える。


「ここからはアラとイロナシも居るところで話すべきだ、今夜宿に戻ってしっかり話すさ」


ゼリエルの考えに納得し二人は店を後にしたのだった。



この街で城に連れていかれた者はどうなっているのか調べるため、集まり作戦を立てるべく、ゼリエルに案内され宿を目指す。

すっかり食事を終えると夜遅くなり、街の灯りは多少消え始める。その時間のせいか、建物の間、細く暗い脇道で数人の人が騒いでいる。女性が一人の、それに詰め寄っている様に見える柄の悪い男性二人。


「はぁ」


思わずそれにため息をついてしまう。それを面白がる様に肩の上から話しかけるゼリエル


「助けないのか?」


それにまたため息混じりに返事するエンダー


「助けないと思ってんのか?」


面倒そうに頭を掻きながらそちらに向かうエンダー

仕草こそ面倒な様子だが深くにある考えは呆れのような感情、世界も階層も根底の性根が変わらない人間はいるのだ、ある意味ではエンダーもそう思えるが


そして男の後ろから、穏やかに、刺激しないように声をかける。


「何かトラブルか?」


しかし男は大声で怒鳴り返す。

「なんだテメェ、死にたくなかったらとっとと失せろ!」

刺激しないよう努めたが完全に怒っている男を見てお手上げのエンダー、ところが意外なことに女性の方から助けを求め、エンダーの背後に回り隠れる。


「すいません!助けて下さい!」

それを見て男は服の内側からナイフを取り出す。


「おい!何してる、俺らはそいつに用があんだよ!」


「いや、何してるって言われても、、俺は何も、」


両手を上げ敵意はないことを表すが、

相手には伝わらず、男は両手でナイフを前に構え走ってくる。


「マジか、、、」


後ろに女性がいるので、避けれないエンダー、向かってくる男のナイフを持つ手首をガッチリと両手で抑え、まだ穏便に済ますことを諦めず語りかける。


「だから、何もしてないだろ俺は!とりあえず話を、」


もう一人の男も問答無用で腕を振りかぶる。

エンダーは掴んでいる男の足を払い、バランスを崩したところを殴ろうとしている男に投げつける。見事に衝突し転がる二人、かがんで二人に視線を合わせると、今まで以上に落ち着いた声で問いかける。


「まずは話してくれ」


やっとエンダーの敵意のなさを理解した二人は、あっさりと申し訳なさそうに話し出す。


「もう次の納める金が無いんだ、このままじゃ」


「それでこの女性から巻き上げてたのか?」


無言で頷く男二人


「あのなぁ、巻き上げられた方のこと考えろ、もし相手がお前達と同じだったらどうすんだ?」


正論をぶつけられなにも言えなくなった二人、それをエンダーは見て、懐から二枚の銀貨を出し、二人に渡す。


「二度とすんなよ」


そう言い残すと女性を連れ、その場を後にした。



先の騒動から女性を救いだし、明るい表通りに出ると待っていたゼリエルに合流する。

エンダーは後ろを歩く女性話しかける。


「家は直ぐ近くに?」


無言で頷く女性、それを聞いて少し安心した表情のエンダー、


「まだそんなに遅い時間じゃない、近くなら一人で帰れるな」


そう言うと、女性はまた頷き、お礼を言うと深く頭を下げて、離れていった。

先程のやり取りを見守ってたゼリエルは口を出す。


「なぜ最初から男達を攻撃しなかった?そうした方が早かっただろう」


「それじゃ俺が助ける意味ねぇだろ、俺は最強だぜ、やろうと思えば力で全て解決できる、逆を言えば俺相手に力で解決は出来ないってことだ、だからあの男達説得できたんだろ」


「お前らしいと言えばお前らしいな」


その答えにゼリエルは少し口角が上がった様な、、エンダーは気づかない程度に

などと話しているうちに宿に着く、そして部屋に入るとイロナシとアラが話していた。

エンダーに気づき、話をやめる。


「お帰り~、悪魔退治してたんだってね、誘ってくれれば良かったのに」


退屈に疲れたのか、飽き飽きとした態度のイロナシ

自分も戦いたかったのかいきなり愚痴を聞かされる。


「これから二人にはやってもらいたいことがあるから、それなりに危険な、」


アラとイロナシは興味を示しこちらに耳を向ける。そしてゼリエルが店での続きを話し出す。


「簡単な話だ、二人自身が連れていかれればいい」


「なるほど、確かにそれが一番の方法だな」


アラが頷きながら答えた。

ゼリエルの伝え方が悪かったのか、二人に危険性が伝わってない

その作戦は大前提として敵にわざわざ捕まると言うことだ。確かにイロナシは武器を使わないし、何かしらの能力で武器を出せるだろう、アラも武器を持ち運ぶ必要がなく、何処でも出せるし、いい人選なのだ。だがそれでも危険なことに代わりはない。


「それで二人が人の行方を突き止めてる内に、俺は神、マアトの相手をする、でどうだ?」


「確かにその方が私たちは動きやすいだろうが、神と城の兵隊を相手にするのにエンダーは問題ないのか?」


自分達に危険な役目だと伝えられたが、どう考えてもエンダーの方が断然危険だとゆうことは容易に気づく、アラはエンダーの強さには信頼できるからか、止めはせず、本人の考えを聞く。


「俺の方は大丈夫だ、マアトは任せてくれ、だから二人は連れ去られた人々の行方を頼むぞ」


お互いを信頼し合う仲だからだこそ決行できる作戦、それぞれは相手を心配ぜず信頼し、自分の役目を頭に留め、眠りに着く。


各々がやるべきことを再確認し朝を迎える。これからエンダー達は準備を始めるところだった。

まずアラとイロナシは納める対象になるために、エンダーが以前合った、両親を連れていかれた少年の元で保護監督者の立場を得る、そして次に服装を偽装する、服装についてはゼリエルが解決した。

ゼリエルは二人に向かって指を鳴らすと、二人の服は薄汚れ、上から一枚の目深のフードが付いた羽織を被せる。


「こんな感じか?」


いかにも貧しい見た目に合わせたつもりで二人に共感を求める


「服も出せるんだね、見た目は別に問題ないんじゃない?」

また新しいことをしてのけるゼリエルに興味を引かれるが、今は抑えるイロナシ


「あとは徴収を待つだけだな」

椅子に腰掛け二人はその時を待っていた。そしてゼリエルはエンダーの所に行くと言い残し飛んでいった。



城の前、久しぶりに姿を見る罰与者、城の入り口を守っている奴らは合計で20人程見える。彼らの視界に入らぬように、城の近くにの建物の屋根に座り込み、様子を見るエンダー、そこに一仕事終えたゼリエルが戻ってくる。


「お前の方はいつでも大丈夫なのか?」


内心エンダーにこんな確認は必要ないと思ってはいるが、城に乗り込むということ事態、心配しないのはなんてのは無理だろう。その思いから一言声をかけた。


「俺はいつでも大丈夫だ、それより、連れ去られた人々のことは分かり次第すぐに知らせてくれよ」


「任せておけ!」


エンダーからの頼みに大きく胸を張り、自身に満ちた表情で微笑む。その頭にそっと手を置き、優しく撫でるエンダー、余程嬉しかったのかゼリエルは、あぐらをかくエンダーの上に自分も座る


「お前もしっかりな」

最後に激励を送る、


「任せろ、俺はさーー」

エンダーはそれにいつもの決まり文句で返そうとするが言い切る前に遮られた。


「最強だろ♪」

満面の笑みで声にするゼリエル

自分の言葉を取られ、思わず笑ってしまう。よしっ!と声を出し、ゼリエルを下ろすとエンダーは立ち上がる。


「ちょっと行ってくる!」


と言い、屋根から飛び降りると、城と街を繋ぐ橋の上、大勢の神罰与達の前に立ちはだかる。

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