水に満ちた世界の底
深海に沈み、未知の怪物達が住みかとしているこの場所だが意外な程景観を保っている。
もとが世界の最先端だったとはいえ流石に違和感を感じてしまう。
「取り敢えず大きな道は通らないでこのまま建物を経由して神殿まで向かおう」
廃墟という言葉に間違いはないが綺麗すぎる。そして不思議なことに大きな人通りの多い道路にはやたらと多く何か達が歩いている。
同種どうしで争う様子もなければお互いが明らかにすれ違う時に避けている社会的生物の側面も見える。
(不思議、、いや不気味だな、神が元々納めていた街を奪われた。
なら生活していた人間はどうした?避難させたのか、それとも神は捨てたのか?)
海神達が戦ったのであれば、尚更ポセイドンなんかが戦えば街の原型すら残らないと思うが、いつ頃の話なのか聞いておけばよかったと思う。
人類を最も風化させる要因である風と日光がなければこうなるのだろうか? 長き時を掛けて運河となる水流の浸食といえどここでは存在しない。
「少し気になることがある」
とエンダーに連れられ二人は頭上を覆われた都市部から離れて落ち着きある住宅街を泳ぐ
手入れされていたであろう庭、生垣は植物であるが故に流石に朽ちており用途の分からない水瓶は今ではその身を深海に預けている。しかしやはり窓から室内の機密を隠しているカーテンは勿論、外壁、屋根の水性風化による損傷は見られない。
ガギギ
正面玄関に手を掛けるエンダー、僅に扉は此方に動く
するとアラが前に進む、そして壁に手を、ドアを掴んでベリベリと継ぎ目の錆びたドアを壁から引き剥がす。
ズシリと投げ捨てられたドアが庭に沈み混む。
警戒しながら先に中に入ろうとするアラを制してエンダーが先に脚を踏み入れる。
(ドアに鍵は掛かってなかった、だがドアは閉まってた)
もし突然自らの住む街が未知の怪物から攻撃を受け、海に沈みだしたなら普通はどうするだろう? そもそも想定に普通を考慮できる事案か分からないが恐らく住民はパニックに陥るだろう。
皆は家から逃げるときドアを閉めて行くだろうか
もしくは、、、
リビングへと繋がる長い廊下、左右には部屋へと繋がる扉、通路の途中から二階への階段
やや遠いリビングから 何か が顔を覗き込ませる。そもそも見えてる部位が彼らにとって顔か分からないが、、、そして左右の扉からも他の 何か から影響を受けたかのように{扉を開けて}姿を表す。
そして次の瞬間、全員が弾かれた様にエンダーに襲い掛かる。
水中で重い体、エンダーはゆっくりと脚を前に、腰を落として爪先で地面が叩き、踵で脳と体に合図するように、
トンッ
水中で足音が鳴る。
一瞬にしてエンダーから数mの範囲が大気となる。そして環境の変化など気付かないのか彼らは深海の水圧から大気中せと迷いなく飛び込んでくる。
真っ先に近づく一体、一瞬エンダーが先に触れられる様に前に体を弾く、首らしき場所に手刀を入れる。そしてそのまま勢いで壁まで押し倒す。上体を押され不安定な下半身、即座に顔面に渾身の一発を入れるエンダー
そして近付くもう一体に体を捻り人体の最大距離での蹴りを胴体に当てて吹き飛ばす。更に倒れた 何か の体の中心に大きく振りかぶって一発拳を入れる。床に全身を付き衝撃の逃げ場を失っていた 何か は余りの威力に四肢が僅に浮かび上がる。
そして左右から迫る二体、片方は足を側面から蹴りを入れて支えをへし折る。
もう一体の掴みかかる手をあえて迎えに行き脚払いを掛ける。
起き上がろうとする先の一体と転倒した一体の頭を各々両の手で掴み、もう一度地面に強く叩きつける。
圧巻の一言、奇襲を掛けてきた4体が瞬く間に無力化される。
(死の概念はあるのか)
倒れた 何か達は放って中の様子を観察する。
カツカツとフローリングと靴の音が響く。ギシギシと老朽化を感じさせる音は微塵も聞こえない。
リビングを見渡す。 驚くことに綺麗以外の言葉が出てこない。大きなソファーが2つ、食事用の背の高いテーブル、真っ白なキッチンには洗い終わった皿が水切りの上に立て掛けられている。
違和感が無い、という違和感
「アラ、どう思う?」
「気味が悪いな」
大きなテレビが液晶を目一杯に部屋を角から写している。
カチッ
もしやと思い電気が付くのか確かめようしたが当然付かない。
足元にリモコンが落ちている。
和室には畳まれる途中のシャツが一枚
二階の窓は空いている
ベッドの上で寝ているのはタオルケットのみ
「生活感、、商業施設も同じ感覚だった、、、街にいるのは異形の生物[だけ] 慌て騒いだ様子すらない、 街がまるごと深海に沈んでも、、」
「アラ、どうすればこの状況が作れると思う? あいつらは{なんだった}と思う?」
急に姿を表してきた答え、他者からの言葉なら頭は冴えるだろうか
「人間がああなったのか、、、」
アラも答えを手元に手に入れる。
原因は定かではないが恐らくそれは正解だろう、なら明確に外敵を狙う理由はなんなのだろうか?
とはいえ二人はアレらが元人間かもしれないと知ったところで特段変わることはない。
襲い来るなら対処していくだけだ。
すると突然不快な音が響き出す、金属が擦れる音、水中の濁った水流のぶつかる音、押し寄せる水流でガタガタと家が軋みあげる。
「なんだ?」
アラが二階の窓に手を振れる。
「やめた方がいい」
エンダーが寸前でアラを引き寄せ、家の全ての窓、扉を壁に作り替える。更に家の家具や雑貨類も闇で飲み込んで建材として壁を分厚くする。
「なにを///」
アラが問いかけた瞬間、水のぶつかる音ではなく、明らかな物体が家にぶつかる音が聞こえる。次第にそれは増えていき、気が狂いそうな程の音圧と量に家が包まれる。
「何が起きてる!?」
流石にアラも同様を見せる。落ち着き、理解しているエンダーに問いかける。
「囲まれた、、全く理由は分からないが一斉にこの家をアレらが取り囲んでいる」
「どうするんだ?」
「考え方てるところだ、取り敢えず減らせる数なのか出来るだけやってみてくれ」
ズズズッと壁が捻れていき小さな穴が開く。
「少し入れるぞ」
「了解した」
何もない立法空間、手をかざして操作するエンダーと長槍を構えるアラ
一瞬だけ作られた出入り口からは凄まじい勢いで我先にと 何か 達が雪崩れ込む。
およそ10体入ったタイミングで穴を閉じようとするエンダー、しかし絶えず身をよじり小さな穴に飛び込む何かが邪魔をする。
「アラ!入り口を処理できるか?」
「悪いがッ、手一杯だ!」
と言いつつもアラは何とかしようと押し退けて前に出ようとする。
最も遠く、正面にいる一体を槍で一突き、アラは軽々と扱っているが実際の重量は並みの人間ならまともに振れない質量の槍は 何か の体を貫通して吹き飛ばす。
掴みかかる何体かは無視して正面の一体を掴んで首を握りつぶす。
槍を長く持ち数体を薙ぎ倒して更に前に進む。顔を、首を掴む 何か が見えるがまるでアラは止まらない。しかしそれでもどんどん数が増えていく。
(流石に無理か)
壁全体を闇で覆い防御しながらもエンダーが立ち上がり前に出る。
前に駆け出すエンダーに気づいた 何か 達が一斉に向かってくる。
前に出る勢いのままに回し蹴りで二体を弾き飛ばす。さらにもう一度体を捻る、脚で 何か を引っ掻けて半分程の勢いで止まると床に一体を叩き付ける。
それでも飛び掛かる数が圧倒的に勝っている。最短の一体を肘打ちで崩す、そして胴体に強烈な蹴りを放ち盾にするように前に押し飛ばしてエンダーも進む。
横からの一体を脚払いから倒れ混む顎を殴り飛ばす、しかし、何か はダウンせずにその手を掴み取る。
(闇無しだと無理か、、アラと二人でこの状況、無茶は出来ないか無茶してみなきゃどうにもならない)
圧倒的な数に二人は飲み込まれていく。
[黒]
エンダーが更に闇を生み出し、事態を打破しようとしたその時
「結局それか、馬鹿者ども」
エンダーの渡されていた宝石が砕け散り、辺りを強い光で包んかと思うとそこにはなんとゼリエルの姿があった。
「ゼリエル!?」
アラもエンダーも全く同じ反応を見せる。
「成れもしなかった成り果てども、消えろ」
何か 達に囲まれ埋もれている二人を一瞥、まだまだ中に入り込んできている 何か 達を見据えて凛とした声で叫ぶ。
すると一瞬、一瞬にしてまるでなにもなかったかのように、夢を見ていた、幻の中に居たように 何か 達は消え去る。
「ゼリエルっお前力を、、、」
何度か言ったがゼリエルは現在、限りある力を使って神の事象を引き起こしている。つまりそう易々と万能の力は見せられない。しかしその上でゼリエルはなんのためらいもなく今力を使い目の前の 何か 達を消し去った。
「安心しろ、最初に宝石に込めた分の力しか使えない、分かるか?既に力は使って力を込めた分身体を作って置いたのだ」
「今のゼリエルは分身なのか?」
アラが疑問をぶつける。
「うむ、本体は今アシュベルト達とアテナのもとに向かっている」
「向こうは順調なのか?」
「少なくとも道中に危険はないな、それよりもこっちの解決からだろう!」
小さな姿で怒りを露にしているゼリエル、見かけの子供ゆえに余り迫力はないが心底面倒そうではある。
「いいか、私が指示を出すぞ」
「ああ、頼む」
「まずお前達は全速力であの神殿に向かえ、到達したのを確認したら私がこの海域外の海上に送る」
「敵はどうする、今のでも分かるが数が尋常じゃない、正直まともに移動できるとは思わない」
「私がありったけ引き付けよう」
「バカ言うな、危険過ぎるだろう、第一ゼリエルはどうする気なんだ?」
「だから、、もとより分身体だろう、力を使いきった段階で消滅するさ、それに引き付けるのは賢愚の隷だけではない、神殿から一番面倒なのを引っ張り出さなければ話にならん」
賢愚の隷 ゼリエルの口にしたそれは恐らく 何か の名称なのだろう。そして神殿に住む者の話、ゼリエルの口振りからも余程の存在があの神殿にいるのだろう。
文字通り神を祀る場所となればいるのは、、、ポセイドン並びの海神達を退けた怪物が眠るのだろうか?
だとすれば目的地が神殿である以上、どう考えてもエンダーとアラでは手に余る存在だっただろう。
壁に手を振れるゼリエル、背を向けたままエンダーに言葉を告げる。
「私が外に出てから5秒後に外に出ろ、そして真っ直ぐに神殿に向かえ、いいな」
触れた手に力を込める、すると壁は脈をうち、波形つとゼリエルの体を飲み込んで行く。すっぽりと背まで壁の中に溶け込んで消えたゼリエル
1秒
壁の外に出たゼリエル
「行くぞ」
呟くとゼリエルの体がキラキラと優しく輝く、そして
いつぞやか見た、大人びたあまりにも美しい一人の女性が現れる。ゆったりとした着物を着てきた幼子の姿はなかった。
2秒
背から延びている帯をほどいて髪を靡かせる。
手を伸ばす。
賢愚の隷が全方位から迫ってくる
皆が欲するように、彼女に近付いた
緩やかに目線の先に上げて 空を掴むように握ると 手首を僅かに自身の方に引き寄せる。
ドブンッ 深海の中で一瞬水が消える。慌てて水達はそれを埋める。
今、賢愚の隷達はなにをめざしていたのかを忘却する。求めていた何かは視界から消えていた。
しかし途轍もない距離の果てにそれを感じとる。並々ならぬ気配に一斉に賢愚の隷達は果てに向かっていく。
「これだけ神の気に満ちた場所なら存分に力を得て使えるな、、それにアレがいれば目立つことも避けられるだろう」
現在ゼリエルは器に入った水を少しずつ使うような状況であった、限られた力を使う局面を見据えて、
しかし今、器は海の中に落とされた。
使えど使えど満たされる海でゼリエルは姿を得る。
(とはいえ、器の絶対量がこれではな、、)
願神ゼリエル その再来に深い海はどよめき出す。
ゼリエルの視界には遠くから迫る賢愚の波が見える。なにをそこまで必死に追ってくるのか、答えは彼らの生体にある。
「賢愚の隷、人から登り人以下に堕ちた者共よ、無心で存在の差を追うか 悪いが人を愛する私にとって、人で在ったものは愛してやれん」
[消えよ]
少しずつ視界の中で近付き大きくなる集団、そっと手でなぞる。
久し振りに描こうと取り出した白紙はうっすらと埃を被っていた。そっと手で払う。
ゼリエルの視界から数にしておよそ1万程の賢愚の隷が消え去る。
彼らが世界に残したのは連れてきた水流のみ、優しくゼリエルの髪を撫でて消えていった。
するとまた遠くから何かが迫ってくる。
「ほう、繁栄を喰らう者か」
そう呼ばれているのはエンダーとアラが対峙した翼をもつ彼らだった。
賢愚の隷は自らより上の存在を喰らう、そして自身が進化を遂げる。 そして繁栄を喰らう者はそれを喰い漁る。
この海が永遠に繰り返してきた[永遠]
「あれは消えないな、、さて」
人差し指を頭より上に、ピンと立てる。
「人は空より落ちる者、逃れられぬ光に畏怖し名を授ける」
[THUNDER]
深海に閃光が走る。どこからこの海底まで落ちてきたのか、何百という距離の海水の中を散らずに走ってきた落雷が喰らう者を一掃する。
深海は今長い時間の中で初めて隅まで照らし出された。
ゴボボ
背後から乱れる水の音
ゼリエルの背には何処から現れたのか巨大な何かの影が両の手を広げて襲いかかる。
「なるほど、中には栄光を手にした者もいるのか」
水の抵抗を受けながらもその両手が迫る。簡単に人一人など擂り潰せる大きさの手が
[離れよ]
一瞥もくれず、ゼリエル背から放たれた言葉に海が震える。
ボコンッと音がなる。
後数センチだった巨影の手とゼリエルの距離、そこに空間が挟み込まれる。一つ 見えない何かで距離が出来る。
消してお互い押し合っている訳でもなく、動いてもいない、にも関わらず間に空間が次々と生まれる。
少しずつ、少しずつ巨影が下がっていく、否、その場所そのものが遠ざかって行く。まるで巨影が入ったガラスケースを押し退けるように、
果てまで、その巨影が見えなくなるまで遠ざかっていく。
しかし次の瞬間
ゴボゴボと辺りが泡に包まれたかと思うと先の巨影が360°全てから現れる。
深海にて一人、小さなゼリエルを数十体の巨影が見下ろし、見上げている。
「求めて来たのではないな、送られて来たな」
その巨影達は一斉にゼリエルの視界を掌で覆ってしまう。
しかし、やはりゼリエルに触れることが出来ない。ガラスの球体に入っているかのように皆が一定の距離で止まっている。
「人は時に畏怖した空よりその一部を受け取り、奪い取る
其は世で初めて夜を追い払った、名は」
[FLAME]
球体状の炎が水中で巻き起こる。水に触れようと、糧とする酸素が無くともそれは燃え上がる。
辺りの水を端から蒸発さて、その蒸気すらも消し去っていく。
無尽蔵の深海の水を消し去って蒼く、時に赤いその焔の球体が広がっていく。
当然、巨影達は跡形もなく消し飛んでしまう。
「悔やむ事はない、誇れ、私はプロメテウスやアグニなんぞとは比べ物にならんぞ」
依然として水中は煌々と照らし出され、ゼリエルの周囲数十メートルは完全に大気となり、もはや生き物が生息できる温度では無くなっている。
偽り無く深海の太陽となっている
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「全力で走れ!」
エンダー達はゼリエルの姿が消えてから即時に室内から飛び出した。
すると気が狂いそうな音圧で外を闊歩していた賢愚の隷達は見渡す限り、綺麗さっぱりいなくなっていた。
またエンダーが大気の層を作り出して二人は全速力で走る。街の中央、巨大な神殿へと
大きな通りを駆け抜ける二人
すると路地から数体の賢愚の隷が、空からは僅かな数だが繁栄を喰らう者が迫ってくるのが見える。
「足は止めないぞ、下は頼む!」
「了解した」
走りながらエンダーは迫る繁栄を喰らう者を睨む、
[黒・一角獣、群来]
エンダーの翳す手に会わせて闇を纏った地面から巨大な棘が現れ、空の彼らを一瞬にして串刺しにする。
その下、駆け抜ける中、アラは瞬間的に更に加速して前に飛び出す。巨大な槌を両手に持ち思い切り振り抜き目の前の賢愚の隷を薙ぎ倒す。
二人は駆け抜ける。
するとまた正面から先よりもかなり多い数の賢愚の隷が現れる。この音のない深海で騒ぎを聞き付けることはできるのか、
走りながらアラは槍を携え、一際大きな一体に狙いを付けて一投、一瞬ブレーキをかけて勢いを殺して踏ん張る。地面はそのままアラの起動に沿って削れていく。
凄まじい威力の投げ槍に大きな個体は貫通して槍はその先の深海へと消える。
[黒・導槍]
するとエンダーの背に闇で形取られた何本もの槍が現れ、一斉に他の賢愚の隷を貫いていく。
「道を作る、真っ直ぐ行くぞ!」
エンダーが闇を放ち、地面がせり上がって行く。高く高く、何の障害物もない宙に浮く道を走っていく。
神殿が視界に映る。あと数十メートル
血の気が引く
そんな感覚は二人とも知らないがハッキリと分かる。視界が暗く感じる。エンダーに至っては視覚で判断してないが、何かが自分の目を塞いでいるような、絶壁を見上げているような、不快な感覚に二人は教われる。
「アラ、、何か、以上は、感じるか?」
(人間の、いや生物の独自の感覚、不安、恐怖を煽ってるならアラは恐らく大丈夫だろう)
「なんというか、、神殿に近付くべきじゃないような、そんな感覚だ」
より鮮明に感覚は現れる、現実を欺いて見えない何かはエンダー達の足を止める。
(別に近くには何もいない、、敵もいない、、なんで足が止まる?)
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「これでも二人に向くか、、さてどうしたものか?」
謎の推進力でゼリエルは賢愚の隷と繁栄を喰らう者と付かず離れずの距離を維持して水中を高速で移動している。
「リスクはあるが手が思い付かん」
不満げな顔で一つ、出た答えを実行する。
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視界が埋まる程の装飾に溢れた一室、壁が見えないぐらいに散りばめられた宝飾品と色鮮やかな植物達がそこら中を覆っている。
豪華な椅子に腰かける一柱
大柄な体格に肘掛けに二本の腕を置いて、もう二本の腕で分厚い本をめくっている。
破壊神であり創造の神。シヴァ
{おいシヴァ!}
「あ!?」
細くなっていた目が見開き、四つ腕で肘置きを弾いて起き上がるシヴァ
「ゼリエルッ!?」
何があっても忘れることないだろう声に目に見えて動揺する。
{正解だ、あまり時間がないから要件を言う}
「おいおい!なにをっ!、あんたどういうつもりだ?」
神を殺し、世界を回っている者からまさかの最高神への連絡が来る。そして現状ゼリエルの存在を認知しているのはシヴァだけであり、それも消して他の神に
{私は今、異海にいる}
「異海!?正気か?」
{正気だ、それでこれから少し目立とうと思う、誤魔化せ}
「目立つ? 誤魔化せ、、、なにを」
シヴァの言葉が途切れる。寒気がする、この隔絶された神界ですら違和感を感じる、すべての神々がどよめく程に大きく強い神の気が世界を覆う。
「っ、、、冗談だろ、、あんたまだ、」
{誤魔化せ、ゼウスやオーディンをだぞ}
深く遠い深海からこの神界を震わせる激力を露にするゼリエル、たとえばあなたは快晴の空を雨が降っていると誤魔化せるだろうか
「こんなの誤魔化せるか、、」
{まったく、なら指示をだしてやる、今明確にこの力が私だと分かる神はどれくらいいるか考えろ、ゼウスやポセイドンですら気付くことはない
そして私は今異海にいる、いいか、異海だぞ}
府に落ちる、そして相変わらずの智略家の少女に恐れを抱く、あの姿のゼリエルがこれ程の力を持っているとは思えない、つまり彼女は力を蓄えに異海に向かったのだろう、だが流石にリスクが大きすぎる。性格上不確定かつ極めて危険な手を打つタイプではないと思うが
[最高神は直ぐに廻廊まで集まれ]
「アヌビスが召集をかけてる、まぁ、頑張ってみるよ」
(というか、今回はゼリエルの秘匿がバレれば僕もヤバいな、龍共々逃がした時からもう後には引けないか)
ため息をつきながらシヴァはアヌビスら最高神の元に向かう。
部屋の中はどよめいている。この面子が慌てる事など世界がひっくり返るレベルの事でもなければ無理だと思っていたが、
ゼウスを中心に左右に並ぶ神々、ハデス、ポセイドン、ヘラ、オーディンと今回はロキではなくトール、ヴィシュヌ
(召集をかけたアヌビスに、珍しくアッラーがいるな)
視線だけで部屋を一巡り、錚々たる面々といえる、それだけの事をゼリエルがやっているのだから
「召集の意味は各々理解できてるだろうか?」
シヴァの視界が一巡をやめて口を開いたアヌビスに向く
細身に長身、シヴァも大概だがそれ以上に背の高いアヌビス、漆黒の肌に耳をピンと立てたジャッカルの頭部を持つ、装飾の施された被り物に腰までのローブ、全体的にゆったりとした大きな服を着ている。
「今まさに感じているこの神気が何かについてだ、まず先に知ってるものはいるか?」
(怖い目だな、、)
ここで知っていると言えば現時点では何の問題もないがシヴァは皆と同じく沈黙を答えとする。
「誰も知らないか、、話を進めよう、既にオーディンが場所は特定している」
一柱の名前がでてアヌビスが視線を送る。
椅子に座る一柱、目深にかぶったフードからは整った黒髭が覗かせる。全身を包む深い藍色のローブから傷だらけの手のみが見える。年齢を感じる皺と傷だが消して老いてはいない、
北欧の最高神にして神界で3本の指に入る強大な神、悪神ロキと圧倒的な強さの雷神トールを配下に持つ、大神オーディン
「場所は四層の海の中、鋼鉄の心臓のあるあの海、その手前、異海からだ」
重い雰囲気の声が告げた報告に最高神達がどよめく
異海? ならばあの神が? どうする? 何故今になってあの神が?
「異海か」
一人の声に一斉に静寂が訪れる。
「どんな手を打つんだいゼウス?」
シヴァが問いかける。最高神にしてすべての神の上に立つ存在に
「異海なら確実にこの力を放っているのはクトゥルフになる、しかしクトゥルフであればこの程度ではないのは明確だ、どちらにせよ末端の神々、天使達に任せる事案ではないだろう」
(つまり最高神、もしくはそのクラスかいくと?
ゼリエルが避けたいのは必要以上に目立つことだろうね、自分の存在が知られればどうなるのかを理解してるからね、いくらゼリエルとあの黒い子といえど神がその気になれば足跡すりも残らない、さてどうしようか)
「僕は反対だね」
手を上げて声を上げる。
神々が一斉にシヴァを見る。ゼウスに真っ向から反対意見を声に出せるものはそう多くない。
「反対だと?」
当の本人ゼウスより先にハデスが睨み付ける。
「反対だね、何回でも言ってやるよ」
椅子にふんぞり返って足を組んでいるシヴァ、その彼が煽るような口調を使えば簡単に火をつけられる。もとよりハデスはシヴァの不真面目な振る舞いを特別嫌っているのもあるだろう。
ハデスが一歩前に出る。
「なぜ?」
ゼウスの問いにハデスが停止する。
「そりゃ、行くって誰が{行けるの}、ねぇポセイドン? もう一度戦えば勝てるの?勝てたとして世界への影響は半端なもんじゃないでしょ」
「そうだな、だが今感じている力から奴が過去程の脅威を持っているとは思えない、ならば本格的に目覚めるまでに手を打つべきだ」
「だから刺激するべきじゃないって言ってるんだ、少なくとも最高神クラスが近ずくのはやめた方がいい」
シヴァの答弁は確かに一考する勝ちのあるものである。
「本腰いれるのは少なくとも目覚めてからでいい、特にこの問題に関しては後手に回っていいと思うよ」
ゼウスに視線をやる。
変わらず変化のない表情で思考している。
「シヴァが正しく思える、しかし放置はするべきではない、現状の確認はするべきだろう、人選をしよう」




