墜ち、また昇ることを望むもの
俺はヴィラン
ただのヴィランだ、親の姓は知らない。乱暴者だとかで孤児院から追い出されてから本当の自由を知った。
運がいいのか悪いのか、似せた天国に産まれた俺は世界の見方が他と違ったらしい。
自由を知らなければ不自由のない施設の中で俺は唯一不満を持っていた、そしてその度に産まれ恵まれたこの能力で暴れていたらいよいよ追い出された訳だ。
「下に降りるのも考えるか、、」
腕っぷしが強いだけの17歳に限界を感じていた俺は下の階に降りる事も考えていた。
降りるのは自由だが二度と上には戻れない。だが俺はそんな事に悩んでいたのではなく、降りる場所の衛兵相手に勝てるのかをやや不安に感じていた。
結果は敗北
たかが能力持ちの一般兵隊は数十人は蹴散らした。
しかし、この世界の神の起源、9の神話が存在し、各神に寵愛を受けた直属の9の王を名乗ることを命じられた者が存在する。
古王 アヴァロン
起王 エデン
終王 マグメル
新王 シャングリラ
栄王 エルドラド
滅王 アトランティス
幻王 リバタリア
眠王 コロニー
始王 アルカディア
そして俺はコロニーに敗北、相手にならなかったと言ってもいい。
その後俺はまた、不運か幸運か、その能力を見たコロニーの部下の貴族に拾われる。
そこで出会ったのがイサクだった。
拾われた俺は貴族の屋敷に着くともとよりその屋敷の息子であるイサクと出会う。
それからは私の幸せな時間と読んでもいいだろう、貴族の元で教育を受け、家柄らしく強さも磨かれた。共にイサクと励んだ日々は不思議と悪くなかった。何よりも嫌うはずの強要を受けたがその全てが私の為になると理解するのが早かったのだろう。
だが同時に気づいたこともある。
イサクには話せなかった。
人一倍努力をしていたイサクは能力を持って産まれてなかった。
そして強力な能力を持つ私が拾われてきた。
確かに私も努力はしたがイサク程ではない、皮膚が傷む程にペンも握らず、剣も槍も振っていない。
そして私の思っていた通り、20歳の日、突然イサクは下に落とされた。
下の階に
能力もなく、努力するも天性の力もなく人より弱い体を持った彼は選別されたのだ。
気分が悪くなった
その後数日後で私も下に降りた。上の階が不愉快だったから
目の色が変わった彼が下には居た。優しく直向きな彼は死んで、昔の俺と似た、不愉快な物を壊そうとするイサクの目の完成
私自身気づいていたが本来私はそういった人間であり、そっちの生き方が好きだった。
共にまた並んで、今度は神を下そうと手を結んだ。
礼節を学んで自分を隠した私は、酷く争いを好む人間だ。
[黒・竜殺騎士]
辺りを舞っていた闇が消え去り、瓦礫の山を吹き飛ばしてエンダーが立ち上がる。
「とことんやってやる、かかってこい」
真っ直ぐに立ち、こちらを見据える黒い鎧に身を包む禍々しいエンダー
迎え討つように立つのは全身を液体金属の様な物に包まれた怪物の姿になったヴィラン
自分を奮い立たせるかのように咆哮を上げるとヴィランはエンダーの元に急速に詰める。
家のフローリングは砕け散り、周りの家具も残った壁の一部も発泡スチロールの様に砕いて突っ込んでくる。
「フッ!」
トントンとその場で足踏みをして勢いをつけたエンダー
向かって来るヴィランにタイミングを合わせ、上段蹴りで顔を弾く。
「グァァ!」
中から籠もったヴィランの呻き
しかし元より大きかった体躯の差が更に開き、完璧な脳を揺らす一発でもヴィランは倒れず、豪快な横殴りでエンダーを狙う。
するとエンダーはトンと足を一歩踏み出す。
[黒・身縛]
地面から吹き出した質量のある闇が一瞬でヴィランを黒い箱に閉じ込める。
ベコンッ!
内側でヴィランの拳が当たったであろう箇所が大きく外側に叩き出されるが、箱自体に致命的な損傷は与えられていない。
「煩わしいっ!」
中から叫び声が響くと、次の瞬間内側から複数の衝撃を受け、まるでハリセンボンのように箱の形が変形すると、一部が貫通し、黒い棘のような物が見える。
そしてその場所からヴィランは手を外に出し、内側から箱を引き裂いて姿を表す。
「グァァァ!」
完全に化物となったヴィランが鋭い牙を見せながら咆哮を上げる。
[黒・重突 打抜き]
それを待っていたかのようにエンダーは腕に他より多く闇を纏い、黒いガントレットをつけた腕でヴィランの顔を撃ち抜く。
完璧に頭を撃ち抜いた一発にヴィランの纏う何かは貫通し、内側から血飛沫があがる。
「ウグァァァ!」
それでもヴィランは気を失うどころか、残りの箱を突き破り、鋏のような形をした触腕がエンダーに迫る。
[黒]
咄嗟に地面に放った闇で自分の左右に壁を作り出す。
しかしヴィランの触腕は悠々とそれを破壊し、エンダーの胴体をガッチリ掴む。
「しくじった、、」
ヴィランはエンダーを掴んだ触腕を一度上には上げ、勢いをつけて地面に叩きつける。
それを阻止するようにエンダーは両手に先の分厚い闇を纏い、ヴィランの両肩を殴るがヴィランは止まらず、エンダーは地面に叩きつけられる。
「ガハッ!」
背中から全身に抜ける衝撃にエンダーは呻きを上げる。
「やはりこんなものか、、」
落胆
ヴィランの喉を通った感情
するとヴィランの本来の腕が液体に形取られ、大きな刃物に変化する。
その大きな刃物と変化した腕を思い切りエンダー目掛けて下ろす。
「黒」
一瞬にしてヴィランの背後に黒い巨像が作り上げられると、横殴りに石でできた大剣を振り抜き、エンダーに刃が届く直前にヴィランを吹き飛ばす。
「フゥー、、」
呼吸を整えながら起き上がるエンダー、その横で先の石像が砂へと戻る。
「君は期待してもよさそうだ」
同時にヴィランの方も起き上がり、刃物に変えた腕を振り回しながら歩み寄る。
方や鎧、もう片方は謎の液体に身を包み、表情はお互い微塵も見えないがどこか愉しげに会話をしてるように聞こえる。
「ヴィラン、、ギブアップは知ってるか?」
以前にエンダーが聞かれた問を今度はヴィランに投げる。
「聞いたことがないな」
殺意を溢れさせながら躙り寄るヴィラン
エンダーはヴィランの一挙一動を凝視し、右手に力を込める。
「やっぱりな」
不意にエンダーが呟く、何もしていないヴィラン、ところがヴィランは表情を隠していても分かる程に、驚きに似た感情で動きを止める
視線はエンダーの後ろ
後ろを振り返ったエンダーは振り向くと同時に自分に迫る剣を確認、それすらも知っていたかのように瞬時に剣を持つ腕を止め、斬りかかってきた相手の襟元を掴み取ると足を抑え、バランスを崩しヴィランの方に投げ飛ばす。
「イサク、、」
投げ飛ばされ、足元に転がる男をヴィランは見下ろしその名前を呼びかける。
「くっっ!、、ヴィラン、無事だったか」
「私が負ける訳ないだろう、、それより何故ここに?」
いかに派手に暴れてようと、家の外にまで影響は出ていないはず、何故家に入ってきてエンダーが居ると分かったのか?
そもそもエンダーと面識があるのか?斬りかかる理由も理解できないヴィランが問いかける。
「途中で彼にお前の家を聞かれたからな、それに神の力を感じたんだ、それで急いて来たところだ」
最もな返答、そしてイサクが再び剣を握り直すと、今度は2対1の構図が生まれる。
しかしエンダーは特に顔色を変えることも焦りもせず、待ちくたびれたと言わんばかりにため息をつく。
「ようやく話しやすくなったな」
「話? ヴィラン、この神の手先を直ぐに片付けるぞ!」
「、、、」
ヴィランに返答はなく、ただエンダーを見ている。
「ヴィラン、神の手先はそいつだよ
よく入ってこれたな、アシュベルト、、俺の仲間が目隠ししてる筈なんだがな」
不利な状況からのエンダーの驚くべき発言
しかしどう考えても不利な状況を脱するための苦し紛れの口からデマカセにしか聞こえない。
「何を言うかと思えば! 共に神を撃退し、人の街を作り上げた我々にっ!
ヴィラン!耳を貸すな、この狂言者を始末するぞ」
「、、、」
ヴィランの返答はない、エンダーをただ見つめるその視線は[続けろ]と言っているようにも見える。
「神に下った者が授かる剣を握りしめたヤツが言うセリフか?」
エンダーの投げた言葉
液体に覆われたヴィランは外からは分からないが一瞬中で視線を動かす。
見たこともないような豪華な装飾が施された剣
[少なくともこの階層では]
「っ!なっ何を言っている」
明らかな動揺
「神に逆らう人間達で創られた街
明確な反抗意識を持った連中は厄介だよな、邪魔だし、増えかねない、オマケに纏めて処分すれば他に新たな反感を生み出す」
エンダーは敵意の感じられなくなったヴィランからもはや視線を外し、イサクを真っ直ぐに見据える。
「頭を操るのが一番だろうな、反感意識を持つ連中の指導者を作り上げる、もしくは操る
お前 神にでもなるつもりか?」
呼吸が荒く、胸を苦しげに抑え、汗が流れ始めていたイサク
態度が急変する。
「ハハッ、、そうさ! そうだよっ!
俺は神に選ばれたんだ!狡猾なるロキ様に力を与えられた!」
今までと雰囲気がガラッと変わり、全身から禍々しいオーラを発し始めるイサク
不気味に笑うイサクは再度ヴィランに言い放つ
「私は神に選ばれたっ!さぁ、ヴィランっ!コイツを捻り潰すぞ!」
グサリ。
真横に立つ旧友、ヴィランを鼓舞していたイサクの喉に大きな刃物が突き刺さる。
同時に胸元にも数本、固められた液体が槍となり貫いている。
「はっ、、え?、、なん、で?!」
口から血液と共に消え入りそうな声を漏らすイサク
自分の体に起きたこと、旧友に刺されたこと、心底困惑していた。
「初めて私を悪者と読んだな、
誰が神か断定することは出来なかったのではないのか?だから私に全員を昨夜襲わせたのだろう?
この階層では見たことのない剣、、共に下に降りたときは持っていなかったな、神を、ロキを撃退してから持ち始めたな」
エンダー自身も少し驚き、事の顛末を見守る。
「お前はだれだ?
場居を奪った俺が、、何をしても才能に勝てない俺が
憎かったか?」
その問に答えは求められてなく、一瞬にして黒く淀む液体が体を覆い尽くして握りつぶした。




