黒く始まる
主人公紹介
青年[アルマ・エンダー]色白の肌に薄いグレーの髪、爪のみが黒く、細身ながら一目で常人より明らかに筋肉が発達してることが分かる、人と違う瞳を持つ
少女[ゼリエル]外見は150センチほどの少女、透き通るような白い肌にほどけば身長程になるだろう真っ白な髪を服から伸びる帯で結んでいる。
言動と容姿は度々合わず、万能の神を自称
「さようなら 私のエンダー」
いつも夢の中で囁かれる言葉
そしてこの物語の始まりの言葉
それはこの物語の終わりの言葉でもある
この世界を構成する7つの階層の最も低い場所、縛られている事にすら気付かず自由に暮らす人々のいる場所である。
その首都「フォール」にて
少女を肩車した青年が商店街を歩いている。青年が少女に問いかける。
「特別要るものは何がある?」
「あのなぁ、町を出てサバイバルを始めるわけではないのだぞ、次の町までの生活品があればよいであろう、それにあまり荷物が多くても旅に出るのに不便だ」
「荷物の量は考える必要はないだろ、必要なら全部持ってくことだってできる」
ひとしきり買い物を終え、ベンチに二人の座り込むと少女と青年が話し込む。
青年が少女に語りかける。
「やっと始められる」
小バカにしたように少女は答える。
「今日何回そのセリフを言っておるのか思い返せ、これから何処に何しに行くのか分かっておるのか、エンダーよ」
「分かってる、ちゃんと分かってるさ、ゼリエル」
突如、二人の話を割くように町の広場から怒鳴り声が響く。
視線を向ければ一人の少年を押さえつける大柄な軍服姿があった。罰与者、神に作られた効率よく人を裁くシステム、絶対的崇拝対象、神によって作られた神定に乗っ取り否応なしに罰を与える者だ、
「なぜお前は果物を抱えて家に入ろうとしている!ここの人間が果物を口にする事は禁じられているはずだ!」
怯えきり話すことも出来なくなってしまっている少年、罰与者の腰に着けた、神鞭で打たれれば、発狂し気絶するような痛みに教われるからだろう。
「罰与者か、果物を食べることが禁じられているか、、」
全身に力が入るエンダー
「第一歩はここから始めるのか」
無邪気な笑みを浮かべるゼリエル
「そうするか」
言い放つと同時に地面につく足に力を込めた。
地面につく足に力を込める、片手を着き前を睨むエンダー。
「手助けは必要か?」
「いや、必要ない」
ゼリエルが答えに笑みを浮かべる。次の瞬間、足元のアスファルトをえぐり、目に捉えられない程の速度で先の二人のもとに飛び出した、瞬時に青年と罰与者の間に割って入り、地面に足をめり込ませその場に止まると同時に深く鋭い突きを放った、すると罰与者は声をあげるまもなく弾き飛ばされ、壁に激突し動きを止めた。
その騒ぎに周りの人々は静まり帰る、が徐々に状況を把握し、ざわつく、否、パニックといえる状況に陥る、それもそうだろう、圧倒的な権力を持ち一方的に罰を与える立場の者をあろうことか殴り飛ばしたのだから。
「ゴハッ、ゲホ」
罰与者がフラフラと起き上がる、今にも怒りで爆発しそうな様子だ。
「なんだ貴様ら!何をしているのか分かっているのか!」
怒鳴り散らす罰与者、信じられないという顔をしている。
「教えてくれ」
悪びれる様子もなく堂々と威圧的に答えるエンダー、
「我ら罰与者に攻撃をするなどあり得んことだぞ! 神々の意思の反映である我らに歯向かうことは遥か高位の神々に刃を向けるのと同意義であるのだぞ!」
今まで傍観者だったゼリエルが直ぐ後ろから恐怖を感じるほど冷めたく鋭い口調で言う。
「お前らごとき罰与者の一端に神々の意思など存在するか、神の名を背負うだけの力もない人の分際で」
「さっきの少年を含め辺り1キロの人間は移動させた、やれエンダー」
「直ぐ終わらせるさ」
罰与者は殺気を全開にしてこちらを睨む、やがて腰の神鞭を抜き仕掛けてきた、
「神の名のもとに裁きを与える!」
さすがに鞭打ち、先端の速度は音速に達する、が
バシッ、エンダーが左手でそれを受け止める、すかさず腕に巻き付け全力で引き寄せると神鞭ごと罰与者は、急激に体を引かれる、
それに合わせるようにエンダーは深く腰を落とし、渾身の一撃を胴体に叩き込んだ。罰与者はまたもや弾き飛ばされ、完全に意識を失った、
「終わったぞ、ゼリエル」
「殺したのか?」
「手は抜いてない」
「そうか」
ゼリエルが両手を広げ正面で手を叩くと、先程の人々が一瞬にして現れた、数十人の罰与者と共に、、
市民の中の一人が声をあげた。
「あの灰色の髪の男です!」
エンダーを指差して一人が叫ぶ、
「晴れて人類の悪者になった訳か」
「逃げるぞ」
「別にあれくらい倒せばいい」
「一生涯ここであいつらを相手にするか?あんな末端兵なぞいちいち相手にしてたら何も進まんぞ」
と言うと同時に走り出したエンダー、背中にしがみつくゼリエル
彼らをいくら相手したところでそれ以上上を引き出せる訳ではないらしい
「何処に向かう? 直ぐ上にか?」
「いや、やはりエンダー、せっかくの最下層なんだ、監獄に向かおう」
「監獄に人を集めに行くのはいい案だとは思う。だがついて来るようなやつはいるか? 仮にいても役に立つのか?」
「神に恨みを持ってる強き者など、あの監獄くらいしかおらんだろう、それに目当ては一人だ、私の人選だ、役に立つのは間違いない、そして恐らく力づくになるからな、得意だろう」
とても気分がいいのか、眩しい程の笑顔を向けるゼリエル
「分かった、じゃあ監獄まで飛ぶぞ」
そう言うと走りながら片手を前に出し、振り払うような動作をすると、突然前に黒い霧が現れこの中に二人は飛び込んで行った、
そこに二人の姿はもうなかった。
暗い、日が射しているはずなのだが辺り一面の生物を拒むような暗い木葉がそれを遮る。
マメルティヌス監獄の前、神が自分の世界に最初に造ったのは自分と相入れない物を自分の世界から排除するための監獄だった。
何もないただの郊外、マメルティヌス監獄の入り口前、何もないはずのそこに黒い靄が現れると、徐々にそれは広がっていき、まるで何処か別の場所に繋がっているかのようにゆっくりと少女を肩に乗せた青年が出てきた。
「とっとと用事済ませて出よう、目当ては何処にいるんだ?」
「まずこの監獄は今見えているここから下に4階層ある、その4階層目にそいつは捕らえられているのだ」
「地道に降りるのか?」
「多分暇はせんぞ、それに目当ての者以外にもお前が気に入ったのがいれば連れて行けばいいであろう」
「まだお前の目当ての名前も知らないのにな」
目の前に映る大きく無機質な建物の重厚な扉に手を触れると、またもや黒い霧が扉を覆い、瞬時にエンダーが通れる程の大きさの穴をくり貫いた、
「簡単に入れたな」
「ここは監獄、入る分には歓迎的なものだ」
「にしても不思議な造りだな」
監獄内を見回しながら歩く二人、不思議なことに牢屋のようなものはひとつも見当たらず壁と一本道が続く、しかし、壁にはなにやら名前のようなもの、罪、のようなものが書かれた板が付いている、
「出入口のない部屋か、毛頭出す気は無いってことの表れだな」
「単に自分たちの世界を守り抜く為なのか、罪は悔いるもの、償い許すものという概念ではないのか、どちらだろうな?」
(まぁ、ここに入れる時点で対応に困る代物なのだろうな)
何者にも出会うことなくひたすら前に進み続けると、気づけば地下に降りており、早三階層目である、すると背後から二人以外の声が聞こえた。
「まさか正面から監獄に入る者がこの世界にいるとは思わなかったよ、ここから出る素振りをするまでは姿を見せる気もなかったが、それより先は一人しかいないからね、あれに何の用かは知らないが合わせる訳にはいかないよ」
「ここで初めて人に会ったな、この先に誰がいるかは俺も知らないが、そいつをここから連れていかせてもらう」
「この監獄に自ら入って来た者は今まで3人いた、だが今は3人ともこの監獄の中で囚われの身だ、今度はどんな奴が来るかと思えば、、あれを外に出す?、自分の言ってる事が理解できてないのか?」
「生憎俺はこの先に誰がいるかは知らない」
「ふざけた事を、だがなんにせよここからは誰も出られない」
そういい放つと少年は二人に手を向ける。
「やる気か、、ゼリエル、離れてろ」
肩からゼリエルが飛び降り離れた所で今からまさに戦おうとする二人を楽しそうに眺めている。
気がつけば監獄の造りが変わっている、後ろに続く道は失くなり、大きなひとつの部屋になっている、
「出るのは簡単だがその前にお前の相手をしてやる、こい」
「そうか、僕と戦うのか、だが諦めろ」
少年が手をエンダーに向けたかと思うと、突如エンダーの体がとてつもない力で後ろの壁に引き付けられた、
「なんだ?」
引きのせられまいと力を込めるエンダーだが、あまりに引く力が強く足が地面からふと離れた瞬間、一瞬にして壁に引き寄せられ壁に叩きつけられた、が、壁に叩きつけられてなお、引き寄せる力は緩まず、メキメキと体が音を立て石造りの壁にひびを入れながら沈み混んでいく。
それをエンダーは驚異的な力で体を捻り、すぐに壁に手足を付け、即座に相手に体を向ける。
(さて、あいつの能力はなんだ?あいつから圧力は感じなかった、明らかに壁かそのさらに奥から引き付けられている)
突然エンダーは引き寄せられている壁の一部を叩き割った、すると無数の破片がそのまま地面に落下する。
(破片は壁に吸い寄せられない、あくまで俺が引き寄せられているのか、単純な引力ではない、か)
「どうゆう原理か能力か知らないが、これじゃ俺は一生かかっても殺せない」
「まるで早く死にたいかのような言い方だな、いいだろう今すぐ終わらせてやろう」
またもや少年が手をかざすと今度は少年の方に引き寄せられる
手をかざす少年のもとへ引き寄せられる、
(ん?自分から距離を詰めてくれるか)
「自分から近付けるなら、一発で終わらせてやる」
「バカは君だろ、もう一度壁に張り付いてろ」
引き寄せられるなか体制を整え大きく右腕を振りかぶるエンダー、しかし拳が少年に触れるあと一歩の所で今度は急に引力がまた壁に戻る、
「なに!」
(この勢いで叩きつけられるのは流石に勘弁だな)
するとエンダーは無理やり体を半回転させ側面の壁に腕を突き刺した、そしてさらに腕を軸にするように体をまた回転させ今度は引き寄せられている壁を地面のように足を下ろす
「二度も食らうもんじゃない」
空中にて体制を立て直すエンダーを見て少年は驚愕する。
(コイツ、なんて身体能力してるんだ!とても人間のできる動きじゃない)
するとエンダーが口を開く
「お前の力の仕組み、能力は磁力だな」
「なに?」
少年は怪訝な表情で聞き返す。
「いや、それらしい性質を与えることか」
「、、、対応策も思い付いたか?」
再び少年の方に引き寄せられる、ことはなかった、壁から離れ地面に足をつき平然と立っている、
「種が分かればあとは俺の能力で無力化できる、悪いな、あとお前には殺意がない、はっきり言ってその能力は俺の脅威になるほど強い、例えばナイフかなんかの武器に磁力を与えれば脅威になりえる、だがお前はあくまで拘束としての使い方だけだ」
エンダーの体からうっすらと黒い霧が出ている。
「その通りだ、、僕はここにいる全ての囚人を、制圧はできる、だが手をかけるのはとてもできそうもない、情けないだろ、だから最下層でこの監獄に縛り付けられている」
「それでよいのだ小僧」
今まで傍観者だった神が口を開いた。
「深くは語らんがな、人を殺したくない、その感情になんら間違いなどないのだからな、さてそろそろ我らは下に降りるぞ、まだ止めるか?ならば気を失ってもらうぞ」
「あれをここから出せば僕は罰を与えられるだろうな」
震える声で少年は話す
「簡単には償わせてはもらえんぞ、やつらは人ではない、人に対して道徳、良心の感情など持ち合わせていないのでな」
無慈悲な物言いのゼリエルの隣でエンダーは言う
「思い残しはあるか?」
右手を上げるエンダーのその手は黒い靄をまとっている、
「何もないよ」
濁りのないの幼い顔で笑う少年、少年の体を黒い霧が瞬く間に覆うと、エンダーは開いた手のひらを拳に握り変える、その動きに合わせるように霧が収縮する、そこに少年はもう居なかった、、
「辛いか?」
思わぬ言葉をゼリエルから聞き少し驚くエンダー、
「いや、強いやつが弱者を汲み救うもんだろ」
「そうやって世界中を救うのか?」
「当たり前だろ、最強だからな」
両腕を大きく広げ笑いかけるエンダー、それを見て安心したような表情で笑い返すゼリエル
「早くここから出よう、お前の言うやつ連れて」
「そうだな、一言言っておくが絶対驚くぞ!」
ニヤニヤと笑うゼリエル、ハイハイと流しゼリエルをまた抱え上げるエンダー、ゆっくりと進み下に向かっていく。
それとほぼ同時刻、この世界のどこよりも暗い場所にて目と耳、口をふさがれ縛り付けられた状態の男がいた、
(凄いなぁ、さっきからここが揺れるなんて初めての出来事だよ、あの男の子と戦ってる侵入者がいるんだねぇ、、、あっ、終わったみたいだ、こっちに向かって来てるね)
神、天使がこの世界に現れる前世界を統治するもの、いや武力で統治したものいわゆる支配者、がいた、今では子供の昔話になっている程有名な彼、なにをした訳でもないのに、いや何もせずただ支配者を名乗り最上階層にて挑む者と戦い続けた彼は神に負けたことにより全ての生き物が思う世界最恐となってしまった男
白き王、白帝、名を イロナシ
青年は驚きその場に立ち尽くしていた。
「お前が目をつけるやつなんて一体どんなやつかと思ってたが、これは俺の敗けだ、驚いたよ、、」
「だから言ったであろう!」
喜び跳び跳ねるゼリエルの後ろにはまるで植えてある木の説明札のように壁に刻まれている、
イロナシ、と
「世界最強の俺にいったいどんなやつを引き入れさせるかと思えば、元世界の支配者にして最初に神と戦った男か、確かに戦力としては俺を除けば世界一だな」
「つべこべ言ってないで会って見るぞ、私も見つけたときは驚いたのだからな、非常に楽しみだな」
何があってもいいようにゼリエルを自分の後ろに下げ、警戒しつつ壁を黒い靄で取り払うと、そこにはビニールシートのようなもので拘束されその上をベルトで押さえられ目耳口をふさがれた異様な拘束をされている者がいた、
エンダーが近付き口の戒めを解くと、ゆっくりと彼が口を開いた
「何年ぶりに口を動かして話すかな?ちゃんと話せているかい?」
「ああ、言葉は話せている、だが悪いな、簡潔に物事を進めたいんだ、俺たちの力になってくれ」
間髪いれずに聞き返す、
「と言うと?」
「神を天からおろす、そして世界を正しく再構築する」
「とても面白そうだけどね、それってさ、君が第二の神になるって風にも聞こえるけど?」
皮肉を込めているのか、声のトーンを落とし語りかけるイロナシ
「そうだな、だが俺は世界の底を見ている、底で生きてきた、だからー」
エンダーの言葉を遮り話し出すイロナシ
「だから神達とは違う、かい?、いいね君の最後が見てみたいよ、だから僕は協力しよう」
「話が早いな」
にこやかに笑いかけ握手を求めるように手を出す、エンダーがその手を掴むと力づよく手を掴み怪しく笑うイロナシ
「ねぇ、君は僕と戦って見たいとは思わないのかい?」
笑い返すエンダー
「いや、正直お前の強さと能力は知っておきたいと思ってたとこだ」
「決まりだ♪」
瞬時に手を離し距離を取る二人、どちらも笑顔を崩さない、負ける気は微塵もないのだろう
「先に僕の能力を教えておくよ」
「いやいい、俺は教える気はないからな」
「それでいいさ、だから僕は少し独り言を始めるね、僕の能力は染まること、一度見たことのある能力は全て使えるんだよ、まあ、最初から完全に使いこなせる訳じゃないけどね、暫く使ってるうちにより馴染むのさ」
(全ての能力が使える?それは能力としてありえるのか?)
「ほら、身に覚えが新しいのからどうぞ」
そう笑いエンダーへ手をかざすと、先の少年の能力がエンダーへとかかる、先ほど強くなく、その場にとどまれるレベルである
「マジかよ、、だが大きくオリジナルに劣るな、こんなんじゃ足止めにもならないぞ」
「そうだね、それにあの子と同じのはつまらないしね」
手のひらを下に向けゆっくりと下げる、するとエンダーの体は下が引き寄せられる、
「なるほど!コイツは厄介だ」
(体が重い、全ての動作に遅れが出るな、これであいつが近接戦闘が強ければかなりキツいな)
「さて、今のボクの限界は君に体験してもらって通りだ、重力にして約4~5倍ってとこかな?」
相変わらず笑顔を絶やさないイロナシ、やや苦しげなエンダー
「じゃあ、、死なないでね」
いい終えるや否や、
突如距離を詰めるイロナシ、
次の瞬間右手で手刀を形作りエンダーの首もと目掛け突きを繰り出す、
瞬時にイロナシの動きに合わせるように内側から腕を当て反らす、が重力の影響かわずかに首をかすめる
続けざまに弾いた腕を掴み自分に引き寄せる、体を引かれ体制を崩すイロナシ、そのまま力任せに放り投げイロナシを遠ざける、
緩やかに着地するイロナシ
「惜しかったなぁ~、にしてもよく反応したね」
「殺す気で来てくれるなら反応もしやすい」
首を抑え出血を確認するエンダー、ニヤっと笑い口を開く
「2つ同時に能力使えるのか?」
「驚いたのかい?何も一つなんて言ってないでしょ♪」
「腕を弾いた時に驚いたが、投げれなかった時に気づいた」
「タングステン、金属の中でも特に比重の大きい金属、体の構成物質を作り変えたのさ」
どこか自慢気なイロナシ
皮膚を切り裂く鋭さも手刀の重さも能力により体の構成物質を変化させ強化していたイロナシ
「要は金属に変えられる訳か」
それを聞いたイロナシは満面の笑みで答える、
「ただの金属なら溶けてしまうよ」
一瞬、エンダーは周囲の変化に気付く、僅かに室温が上がったように感じる
(まさか!流石に不味いな)
「理解が早いね!、次の能力は熱操作、自分が永久的エネルギーを生み出す事ができる」
「そんなんありかよ、、」
ふと言葉を漏らす、(やつがあの能力を使ってからまだ1分も立ってねぇ、なのにこの部屋の室温は50度はある)
後ろを振り返りゼリエルを確認する
「ゼリエル、、は大丈夫か」
涼しげな顔で笑顔を向けるゼリエル、その間もイロナシの温度はどんどん上昇していく
「このまま焼けるのを待つのかい?エンダー」
(お手上げだな、能力なしじゃどうしようもねぇな)
覚悟を決めたように一瞬表情が変わるエンダー、体からは黒い霧が溢れだす。
(さて、とうとう能力を使って来たね、この状況からどうするかな?)
エンダーの体から出た霧が地面を覆い始めると、次の瞬間、部屋を2つに分断するほどの大きさの壁が地面をからせり上がってきた、
(何の能力だ?それよりこの壁、銀色だな、床の石レンガは青、まさか、、)
気付けは分断された自分の方の部屋の壁が一面銀色に変わっている。
壁越しにエンダーの声がやや小さくなり聞こえる。
「気付いてると思うが、お前と俺の部屋を分断した、そしてお前の部屋の材質を変えさせて貰った、同じタングステンにな」
(さて、壁を壊すには自分の温度を3500度以上にしなければならない、しかしそれでは自分の体も持たない、これで壁を壊してきたらあいつの同時に使える能力は3つ以上ってことになるが、、どう来る?)
思考を巡らすエンダー、一方イロナシは
(参ったな、部屋の温度をを下げてからじゃないと能力を切り替えれないし、部屋を半分にされたおかげでかなり室温が高くなって地面が溶けてしまってる、一気に止めれば足が抜けないし、それに構成変換で体を戻したら一瞬で灰になるし、、こりゃダメだな)
「あまり時間もないみたいだなね、この壁、迫って来てるし」
ゆっくりと部屋を狭めるエンダー、壁の向こうから力なさげに声が聞こえる、
「僕の敗けだ、お手上げだよ」
満足気に笑うエンダーと後ろから飛び乗ってきたゼリエル、エンダーが手を下に下ろすような仕草をすると、部屋を分断していた壁が地面に飲み込まれるように消えていった、
「満足か、イロナシ?」
「君の勝ちだよ、僕の能力はそこそこ理解できたかい?」
「ああ、これからよろしく頼むぜ、イロナシ」
「りょーかい、エンダー」
イロナシを無事監獄から連れ出したエンダー達、次の階層へと向かうことを決め監獄を出る。この世界の階層の間をつなぐ場所、天廻階が全ての階層に存在し、そこを守る守護者が存在する、そして天廻階を目指す三人、
「この階層の天廻階の場所はもう分かってる、一気に行くぞ」
あの時のように手から霧を出すエンダー、
「その霧でどうするんだい?」
「この中を通ればいわゆる瞬間移動ってやつができる」
「君の能力は一体何なのかますます分からなくなるよ」
驚いた様子のイロナシといつも通りのゼリエルを先に通らせ、後に続くエンダー、黒い霧の中を抜けた先には、この階層の人々が空と仰ぎ見上げる、天井にして上の人々の立つ地面へとそびえ立つ塔
「さ、行くぞ」
さらりと歩みを進めるエンダー、ゼリエル
「あれ?さっきの話だとここに守護者ってのがいるんじゃないのかい?」
思った疑問を尋ねるイロナシ、ため息混じりにゼリエルが答える
「最下層には守護者はいない、万に一つも反乱する可能性がないらしいからな、能力を持って生まれる人間の割合が極端に少ないのが理由だ」
この世界では人々の中に能力、特殊な力を持つものが存在する、しかしその割合はそれほど高くなく100人に一人程の割合で生まれる、中には同じ能力を持つ者も存在し、能力の強度が人それぞれ異なる。
天廻階の中に入り上へと昇るエンダー達、天廻階は床自体が上に登って行く仕組みでできている、
「このまま一時間くらいか?」
「そうだな、それくらいはかかるだろう」
「一時間もこの狭い部屋でただ待ってるのかい、そういえば、上に着いたら予定はあるの?」
「まあ、天廻階を探すとこからだし、町かどっか人のいるとこに行くのが先だな」
「へ~、なら他にも仲間を集めないとね」
「ん、何でだ?」
目を丸くし疑問を投げ掛けるエンダー、少し驚きすぐに呆れた表情で口を開くイロナシ
「いや、何でって、僕と君とゼリエルちゃんと三人じゃ神にたどり着く前に全滅するよ」
「そうでもないだろ、少なくとも末端の神々なら相手にできる」
「確かに君はとんでもなく強いよ、でも神、天使達に強さで分けられた階級があるのは知ってるよね」
子供の説得をしてるようで飽き飽きしているような表情でイロナシは話し始める